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001

「ん、んー」

 ベットから身体を起こし、よく寝たと腕を伸した。程よくほぐれていく感覚が心地いい。


「んー?んんっ?」

 しかし、その声は頭が冴えていくほど疑問に変わる。  

 先ほど起き上がったベットは普段使っているぼろぼろの物ではなく、目が飛び出そうなほど高級なものだった。見た目もそうだし、座り心地が一段と違う。ここで寝たら毎日いい夢が見れそうだ。

 そして、シャンデリアが輝く天井。普段なら、シャンデリアはもちろんのこと、電気もなくろうそくまたは、焚き火で暮らしているというのに。なんと贅沢な天井なんだ。また、天井の周りもきらきらしてて恐ろしく豪華だ。普段見ている木の板でできた物とは、大違い。

 壁、床、ドア、ソファ、机、椅子、置物、絵画、装飾品。視線を一周させ、優美で上品そうな部屋に感嘆を漏らす。


 まるで2年前まで住んでいた実家のようだ。いや、それよりも煌びやかで壮観な気がする。






 ふぅ。と一呼吸し、目を閉じ、そして開く。もちろん、この光景も驚きしかない。


 しかし、それよりも気になるのが、そして、いっそ無かったことにしようと思ったが、やはり、目に入った。



 このベットの側の椅子に腰掛ける人物。こくこくと、船を漕ぎながら、目を閉じていた。この人物には覚えがある。というか、忘れることなんてこの先も一生ないだろう。

 私の元婚約者。シン・クロイスケールング。しかし、彼と次会う時は、私の死を意味するはずだ。だって、彼は私を殺そうとしていたのだから。


 状況が、わからない。さっぱりと、わからない。

 でも、近くに彼がいる。逃げなければと、混乱した中でも脳は働き、警報を鳴らした。


 まず、ベッドから降りよう。手に体重をかけた時、彼の目がゆっくりと開かれた。

 



 あっ、しまった。

 思わず、息を呑む。どうする。どうする。私はどうすればいい。走る緊張感に回らない頭で動けないでいると彼の方が先にアクションを取った。

 


 彼は、目を見開き驚きを現した。そして、切実な声色で呼ぶ。

「っ、リリー」

 さらに、彼はこぼれ落ちそうなほど涙を溜めながらも、「良かった…」と心底安心したように相手が愛おし存在であるようにこぼした。


 いえ、あっ、まあ、私の愛称はリリーと言いますけど…、えっと?誰か、別のリリーさんと間違えているのではないですか?

 心に浮かんだ混乱とその言葉を伝えられる雰囲気ではなかった。


 彼はまるで、愛おしい恋人が長年の眠りから覚ました様な雰囲気を放っているのだ。


 

 いやいやいや、おかしいって!?

 まず、その恋人を見る様な熱のこもった瞳はなんなんだ。確かに彼と私は以前婚約者の関係にあった。

 しかし、それは決して甘いものではなく、最後には彼は私を無実の罪で殺そうとしたはずだ。私の妹と手を組んで。

 その顔で、その声で、私に残酷に冷酷に処刑を言い渡したのを覚えている。

 幸い実行日は後日だったので、私はそこから逃げ出したのだ。死にたくなかった。裏切られて終わる人生なんてごめんだ。ここで死んでやるもんか、泥水啜りながらでも生きてやる…!と決心したのだ。

 まあ、私の決意は置いといて、彼から敵意や殺意は向けられたとしても、好意やはたまたま愛情が向くなんて、ありえない。


 次にここは、どこだ。

 本来なら森の奥にある一軒家にいるはずだ。直前の記憶を辿ってもいつも通り普通に過ごして、いつも通り普通に家で寝た記憶しかない。

 何も変わったことはない日常の中で寝て起きたら、この状況…、


 考え込んでいると、彼から声がかかった。声色が記憶の何倍もいや、何十倍も優しい。

「リリー…?さっき黙ってどうしたの?まさか、声が出ないとか、」

 それから、みるみるうちに顔を青くしていき、医師を呼んでくると言って立ち上がった。


 しまった、ただでさえよくわからない状況なのだ。あまり大事にしたくない。勢いよく、彼を呼び止めた。

「まっ、待ってください!

 少し混乱していて…、お話を無視する形になってしまいました。申し訳ありませんでした」


 そして、そのまま深くお辞儀をした。彼は再び、椅子に腰掛け、心配そうに眉を下げて尋ねてくる。


「謝らなけていいよ。話せるようで安心したよ、と言いたいところだけど、随分と混乱しているようだね……、俺のことわかる?」


 彼のことを忘れるはずがない。

 彼はクロイスケールング公爵家の次男、シン・クロイスケールング。

 私が3歳、彼が5歳の時に親によって決められた婚約者だ。

 と言っても、実際会ったことは少なかったが、初めて会った際のクールでかっこいい印象の彼に幼い私はぞっこんだった。年に数回しか会わない彼と結ばれるのが今か今かと待ち遠しかったのだ。

 そう、彼はクールでかっこいい印象だった。しかし、目の前の彼は別人レベルで私に優しく接している。口調だって、私の知ってる彼と目の前の彼とは大きく違う。

 また、決定的に違うのは、リリーという愛称を口にしたことだ。私の知ってる彼はリリーなんて頼んでも呼んでくれなかった。愛称のリリーどころか、本名のリリアーナすら呼んでもらったことはない。呼ばれる機会なんて滅多にないし、良くて、おい、か、お前だ。

 

 しかし、見た目の特徴をいえば、記憶の彼と全く同じなのだ。漆黒の髪に同じ色の瞳を持っている。


 シン様であり、シン様ではなさそうな彼に確認も含めて先ほどの問いに答える。


「シン様、ですよね…?」


「うん、そうだよ」

 少し緊張した様子から安心した様子に変わった。「良かった。貴方誰?とか言われたら、ショックで寝込んじゃうところだったよ」と告げる彼に、私が衝撃を受けた。

 え、シン様冗談なんて言うの?彼の冗談なんて想像がつかない。いやいやいや、聞き間違いだよね?そうだよね?1人で聞き間違いということに結論づけた。


 しかし、その後、更なる衝撃の言葉を言い放った。

「それにしても、敬語も様もいらないって言ってるのに…。だって、俺は、君の旦那さんなんだから」


 …………?……??…………???

 だん、な、さん?だんな、さん?旦那さんってなんだっけ?食べ物?美味しいの??


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 いやいやいや、ありえないんだけど。

 婚約者と言っても元婚約者!!愛していたと言っても昔の話!!貴方は私のこと殺そうとしたじゃない!?


「嘘でしょ……」

 頭の理解が追いつかない言葉に、ため息混じりにつぶやいた。

 


 

 

 

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