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百舌の歌声 …フォッケウルフFw190戦闘機

フォッケウルフ Fw190

最大速度:690km/h

武装:20mm機銃×2、13mm機銃×2

乗員:1名


メッサーシュミットBf109と双璧をなす、ドイツ空軍の主力戦闘機。

液冷エンジンが主となっていた欧州において空冷エンジンを採用したのは、Bf109へのエンジン供給を滞らせないようにするためだったが、それにより整備性は向上した。

加えて設計者クルト・タンク博士による洗練された空力設計により、優れた速度性能と加速力を持つ傑作機となった。

操縦性や不整地での離着陸性能も高く、総合的にBf109より優れた戦闘機と言えるだろう。

愛称はドイツ語で「百舌モズ」を意味する「ヴュルガー」。




………




……









「各機、深追いはするなよ! 我らの任務はシュトゥーカ隊の護衛だということを忘れるな!」


私はFw190のコクピットから、群を為すソ連軍機を確認した。

距離はまだ遠い。

続いて、下方を飛ぶユンカースJu87Gの編隊を眺め、通信を入れる。


「攻撃隊、我らが道を開く。存分に敵戦車を狩れ」


《了解した! 宜しく頼む!》


Ju87は高度を下げていく。

我らドイツ空軍を代表する対地攻撃機だが、基本設計が古いため速度は遅く、敵戦闘機に狙われればいい的だ。

故に、その護衛は大変に骨が折れる仕事だ。


「戦闘開始だ! 散開!」


散開と言っても、四機編隊が二機ずつ分かれるだけ。

我がドイツ空軍では二機編隊を『ロッテ』と呼び最小単位とし、リーダー機は僚機の援護を受けながら戦うのが常識だ。


私は部下のヨハンと共に上昇する。

敵は戦車部隊を守ろうと、下方に気を配っているだろう。

上から被さるようにして、奇襲をかけてやる。


「La−5か……」


ソ連軍のラボチキンLa−5は、低空でならこのFw190とも互角に戦える強敵だ。

しかし最後に物を言うのは、パイロットの腕だ。


「いつもの手でいくぞ。背中は任せる」


《了解です、デーニッツ大尉!》


敵編隊の斜め上から反航して接近。

タイミングを見計らって機体を横転降下させ、引き起こす。

私は『C』型の機動を描いて敵機の斜め後方についたが、まだ相手の機影が蟻に見える距離。

相手はまだ気づいていない。

増速しながら降下、機銃の射程内まで接近していく。

この角度では敵機に直接照準を合わせても当たらないので、敵機の未来位置を予測して撃ち込まなくてはならない。

自機と敵機、そして弾丸の速度を計算し、正確に、尚かつ素早く狙いを付ける。


……射程内に突入……捕捉!


私はトリガーを引いた。

20mm機銃が火を噴き、私は直後に離脱。

上手く命中したようで、La−5は胴体に描かれた赤い星の辺りで真っ二つに折れ、墜ちていった。

他の敵機はようやく俺の存在に気づき、大慌てで散開した。

左右に逃げる機、横転降下する機が殆どだが、そのうち一機が私に向かってきた。


「よし、ついてこい、ついてこい……」


私はスロットルを開き、急激に速度を上げる。

フォッケウルフFw190最大の武器は、この瞬発力だ。

そして私を追ってくるLa−5の背後に、我が僚機……ヨハン=ノイマン少尉が食らいついていた。

私が機を90度バンクさせ、垂直旋回で離脱すると、ヨハン機の撃った20mm弾によって粉々に爆散するLa−5が見えた。


《大尉、三時方向でシュトゥーカが狙われています!》


自らの戦果に浮かれることなく、ヨハンが叫ぶ。


「よし、まずは私が仕掛ける。お前が撃墜しろ!」


緩やかに右旋回し、機首をそちらに向ける。

ソ連軍のヤコブレフYak−3戦闘機が、Ju87を追っていた。

Ju87も後部機銃手が懸命に弾をばらまき、曳光弾の帯が乱舞しているが、後部機銃というのはあくまでも牽制のための武装であり、敵機を撃墜できることは滅多にない。

だがパイロットは熟練者のようで、鈍重な機体で巧みに照準をかわしている。


Yak−3の後ろについたが、Yak−3の小柄な機体に確実に命中させるにはまだ遠い。

しかし味方が狙われている以上、一刻も早く助けなくてはならない。

ならば当たろうが当たるまいが、撃ってやればよいのだ。

我らの目的はJu87の護衛。敵機も『自分が狙われている』ことを知れば、ヨハンから逃れるためにJu87の追撃を中断せざるをえない。


概ね照準を合わせ、撃つ。

私の存在に気づいたYak−3は、目論み通り左に逃れた。


「やれ、ヨハン! 流れ弾に気をつけろ!」


《お任せを!》


ヨハンが接敵、後ろをとる。

次の瞬間、ヨハン機の機銃が火を噴き、Yak-3の左翼をもぎ取った。

錐揉み墜落していくYak-3を確認し、私はさらに周囲を見回す。


下方でJu87Gの37mm砲が吼え、土煙と爆炎を上げている。

T34戦車も、あれで上面装甲を撃ち抜かれてはひとたまりもないだろう。

問題は鈍重なJu87Gで対空砲火をかわせるかだが……こればかりは、パイロットの腕と運を信じるしかない。

我らの任務は彼らの傘となり、敵戦闘機から守ることだ。


「近い敵を片っ端から追い払うぞ!」


《了解!》


護衛任務は敵機をただ撃墜するのでなく、引っ掻き回してやるのがいい。

敵の隙を突き、連携を崩し、標的を狙うことに集中できなくさせる。

それが、私の仕事なのだ……





……その後数回に渡って反復攻撃を行い、この日のJu87Gの損害は被撃墜四機、小破三機。

いずれも地上砲火によるものだった。

我ら護衛機の任務は果たしたと言って良いだろう。


基地に帰った後、私は必ず愛機の手入れをする。

整備兵だけに任せきりでいると、不測の事態に対処できなくなるからだ。

そして何よりも、このフォッケウルフFw190を私は愛している。

Bf109も優れた戦闘機だが、私には骨太なFw190の方が合っているのだ。

例えて言うなら、Bf109は走ることのみに特化したレース用の馬。

Fw190は主を乗せて猛々しく嘶き、逆境を物ともしない軍馬、といったところか。


「デーニッツ大尉、今日もお疲れ様です」


ヨハンが私に言った。


「ところで、聞きましたか? シュトゥーカ隊の話」


「ん? いや、何のことだ?」


私が問い返すと、ヨハンは興奮した様子で話し始める。


「Ju87Gのパイロットで、被弾して不時着した味方を助けるため、自分も戦場に強行着陸した豪傑がいたんですがね……」


「ほう」


「仲間を回収して再離陸して、自分も被弾しながらなんとか基地まで戻ってきたんですが、着陸した後パイロットは操縦桿握ったまま死んでいたと……」


何とも壮絶な死に様だ。

ヨハンが感動するのも無理はない……が。


「ヨハン、お前は私が戦場で不時着しても、助けに降りたりするなよ」


「いいえ。俺が大尉の背中を守りますので、そのような心配はいりません」


「よく言ってくれた。お前はもう一流の戦闘機乗りだ」


私の言葉に、ヨハンは首を横に振る。


「いえ、俺の目標はあくまでも大尉殿です。卓越した編隊空戦術、敵機の未来位置予測……俺は大尉には全く及びません」


「止せ、照れくさい」


どうにも私は、人に褒められるというのは慣れていない。

元が劣等生だったせいか……。


「私だって最初に敵と合ったときは遙か遠くから撃ちまくったり、仲間を敵と間違えて逃げ回ったり……散々だったさ」


「大尉が初めて墜とした敵機は何ですか?」


「P−39だ。苦労したよ」


「宜しければ、そのときの話をお聞かせください!」


再び興奮した口調で、ヨハンは言う。

今まであまり思い出したくない記憶だったが、この辺りで誰かに話しておくのもいいかもしれない。


「……百舌ヴュルガー


「は……?」


「Fw190の愛称だ。百舌は小さい癖に獰猛な肉食鳥……そして獲物を木の枝に突き刺しておく『早贄』という習性を持つ。我々ドイツ人は『絞め殺す天使』と呼び、イギリス人は『屠殺人の鳥』などと呼ぶらしい」


「は、はあ……」


私の蘊蓄に、彼は意味が分からないといった顔をする。


「私の三回目の出撃の時、露助イワンのP−39と遭遇した」


P−39『エアコブラ』はアメリカ製の機体で、ソ連へ大量に輸出されていた。

性能は大したことないが装甲が厚く、プロペラスピナーの中央部に37mm機関砲一門が搭載されている。


「それまで戦果が無かったため、周りの仲間に後れをとるまいと必死で追い回した。そして相手の後ろをとり、20mm弾を喰らわせた」


「墜としたのですね」


「ああ。だがその直前に、敵機のパイロットは負けを察して脱出していたのだ。……そのパイロット、どうなったと思う?」


「えっ……」


「串刺しになったんだよ。私の機体の……20mm機関砲の砲身にな」


ヨハンは驚愕の表情を浮かべた。

私は続ける。


「まるで百舌の早贄にされた虫のように……。それから敵機を撃とうとする度に、そのソ連兵の目を思い出してしまった。振りほどくのにはかなりの時間がかかったよ」


……話し終え、私はふと溜め息をついた。


「いいか、ヨハン。例え戦争でも、人を撃つ痛みを忘れるな。そうでなくては我々は、戦闘機という兵器のパーツになってしまう」


「……肝に銘じておきます」


ヨハンは敬礼をする。

我々は痛みを忘れてはならない……いつか平和な時代が来たとき、その世界で暮らしていけるように。

『早贄』となって果てたソ連兵の目を通して、私はそれを学んだ。


「さて……お前の機体も、しっかりと手入れをしておけよ」


「はい、デーニッツ大尉!」





………

ドイツ空軍エースの優れた戦果は、単純に個々の技量が優れていただけでなく、その卓越した集団戦法に寄るところも大きかった。

僚機が常に互いを援護する戦法あってこそ、この優れた結果を残せたと言える。

しかし彼らの奮闘だけでは、東西から迫り来る敵軍を撃退することはできなかった。

……






私はメッサーシュミットより、このFw190の方が好きです。

随所からクルト・タンク博士の開発者魂を感じます。

前回同様、「機能美」的なデザインにも魅かれます。


次回は、Bf110夜間戦闘機型を計画しております。

お楽しみに。

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