未来へ
融解する夢と現の境界線
その能力の効果は、誰から見ても分かるほどに、現実の世界へと視覚的に現れた
そして、それ以上に感覚的に分かった
「これは、夢?でも、なんだかさっきとは、少し違う感じがする。なんていうか、妙に現実っぽい」
「そうだ。これは、夢。ここは夢の世界。それで間違いないが、ここは現実の世界でもある」
「やっぱりそうなんだ」
ここでダイアは、深く考えることはしなかった。ダイアは理解していた。自らが第一フェーズの能力に目覚めた瞬間に理解した
オーバーロードの能力はひどく曖昧で、それでいてどうしようもないほどに理不尽であることを
効果が発揮できる範囲も自分では理解できない。自分の意思では完全にコントロールすることはできない。感覚に任せて扱うしかない
という事を理解した
だから、アイクの能力がなんとなく分りさえすればいいと考えた
本人ですら理解できない超常の力なのだ。どうせ理解しようとしてもできない
「なら私も宣言するよ。私の能力<無限すらも無へ>これは、この世に存在する全てのものを零へと至らせる能力。それがたとえ概念であろうとも関係なくzeroにする。私のはそういう能力」
「素晴らしく強力だな。クロスの能力よりも遥かに容赦がない、君らしい能力だ。だが、」
「僕の能力の方が遥かに強い」
そうアイクが言い切った瞬間には
「これで詰みだ」
「!」
アイクの手はダイアの身体に触れていた。アイクの身体がダイアの真後ろに来ていた
コイツ!いつの間に!いや、それよりも回避しなくては
そうダイアが考えるよりも早く、ダイアの身体は粉微塵になって弾け飛んだ
血と肉片の区別なく宙へと、まるで水風船が割れた時のように弾け飛んだ
と、その場にいた全員が錯覚した
「俺の魔法が効かない。それも<希望>の効果か?それとも光を全身に纏った副次的な効果か。なんにせよ、俺の能力以外ではダメージは入れられなさそうだな」
それほどまでに鮮明で絶対的な死へのデザイン。アイクの纏っていた雰囲気だけで殺されたと錯覚させられるほどの死への鮮明なvision
たった一瞬の攻防でダイアは
これが、アイクの本当の力。これが、アイク
アイクの実力を改めて突きつけられた
それにしても、今のアイクの動き、私は一切見えなかった。また速すぎたってこと?さっきよりもさらに加速したって事?…いや、それはない。この人の能力は夢と現実を繋げるというもの。ならこれは、
明晰夢
そんな言葉がダイアの頭に浮かび上がってくる。同時に
「理不尽すぎるでしょ」
理不尽、そんな言葉が頭に浮かんできた
「そうか?君のも相当だと思うが。正直僕には君に負けるという未来は一切見えない。けど、今ので君に勝つという未来も見えにくくなった。僕は第三フェーズの力、光の行使も問題なくできるが、どっちかというと魔法の方が得意だ。だが、その魔法は君の身体に触れた瞬間に消滅する。さらに言えば君の方が光の扱い方に長けている。攻撃という面では決定打を僕は持たない。つまり僕は、君に勝つ為に不利な択を無理やり押し付けられている。これは、まさしく理不尽だと言える。ここから先は完全な能力と想像力の戦いだ」
そう語るアイクの言葉を、ダイアは聞いていなかった
魔法が効かない。もしこれが永久的なものなら、私は
「あと、君の忍耐力か。君の限界は、あとどれくらいなんだ?」
「勝つ」
そう言ってダイアは
「…笑うか。なるほど、良く分かってきたぞダイアという人間のことが。こっち側に来るべくしてきたのか。お前、イカレてるな」
大量の血を口からダラダラと溢しながら満面の笑みで笑った
「狂気に笑って踏み込める人間は自由だ。己の行動を縛るものは己の心以外何一つ存在しない」
そう言うとアイクは、先ほどと同様に世界から自らの存在を消した
だが、それを見てもダイアが驚くことなどない。むしろ先ほどよりも冷静に、剣を構え、剣先へと自身の身体中を迸る無限の光を収束させていく
止まる事なく光を注ぎ込まれていくダイアの剣、普通だったら壊れてもおかしくないものだが、剣はむしろ光を注ぎ込む事で、まるで、本来の姿へと戻るかのように姿を変えていき、ただの無骨でデカい剣から王族のような気品を感じさせる純白の剣へと目覚めた
それは、
「!その剣は!<世界を照らす希望の光>!なぜそれをお前が持っている!それは歴史の中で紛失した闇の王の三大死宝。闇を持つものにしか扱えないのではなかったのか!?」
「……見つけた」
「!僕が攻撃してくる方角がばれて」
「<消滅する希望の光>」
何もない空間から突然現れたアイクのことが初めから分かっていたかのように、希望の光が無へと導いた
当然、ホワイトブレスが通過した場所は何も残らず更地となる
ただ、一つ
「ふぅ、驚いたぞ。僕の行動の先読み?をしたのか。どういう理屈か分からないが、僕が姿を現す前から君は俺の方を向いて、すでに攻撃は僕を捉えていた」
アイクの肉体を除いて
「…確実に命中したのに、どういうこと」
「さっき言っただろ。ここは夢の世界だ。ここではすべてが自由。それこそ、生死ですらな。たとえオーバーロードを殺せる一撃でも無効化できる」
「ああ、そういうこと」
私が今やったこともかなり理不尽だと思うけど、夢の世界、私が思っていたよりも厄介
でもまぁ、
「あなたの能力の範囲ごとすべてを消滅させればいいのか」
「君、自分が何言ってるか分かってる?」
「?」
「…なるほど、本気か。さすが、正規のオーバーロードは僕とは違う。…さて、僕の行動が読まれてるとなると、うん、そうだな、戦うことすら不毛だな……なら」
「未来へ送るか」
そうアイクが言った瞬間、
「!なにこれ…嘘!身体が動かない!」
ダイアの身体が希望の力とは別ものの光に包まれた
「君には今から未来へ行ってもらう。どれくらい遠くかは分からないが、とにかく未来へだ。どういうわけか僕は未来へいくことができない。まぁ、それが未来の僕がどうなっているのか表しているわけだけど、君はどうやら違うようだ。僕は絶望を消し去る使命の途中で命を落とすが、君は違う。それに、未来に君を飛ばせば、その間は君が僕の邪魔をすることはない。君を僕の仲間にできないのは残念だけど、君には殺さずに生かしておく価値がある。君には、人類を守護する力がある。おそらく、魔死領域の中層、いや、深淵領域ですら君一人で踏破できるだろう。……そうだな、未来に行く前にちゃんと伝えておくか。僕たちの最終目的、それは魔死領域の最も奥、魔死領域の中心にいる絶望の悪魔を殺すこと。彼は、世界に絶望を振りまく存在。魔死領域の魔物は彼から溢れ出した魔力が具現化したものだ。だから、魔死領域の外にいる魔物よりはるかに強く、そして、闇の力を纏っているからオーバーロード以外には殺すことができない」
「え、なに、急になんの話」
未来はまだいいとして、絶望の悪魔?なにそれ、そんなの、聞いたことがない
「そうか、君は目覚めたばかりだから闇と光の感知が分からないんだな。それなら、俺と感覚を共有しよう」
「!なに、これ」
光と闇の感知、理屈は分からないが、そのどちらかを持つものは自らが持っている力の相反する力、ダイアやアイクで言えば闇の力を持った存在を感知できるようになる
感知できる範囲は個人の実力に依存するが、
「これが、絶望の悪魔なの?」
ソレは、誰であろうとも、どれほど感知範囲が狭かろうと感知できるほど
強大な闇の力を放っていた
そして、それは
「なんで、クロスからも絶望の悪魔と同じ力を感じるの、それも」
現在進行形で急激に強まり続けている
クロスも同様であった
「…バランス理論って知ってるか?この世界における、唯一絶対の真理。互いを補完し合う関係というのがこの世界には存在し、常に均衡が保たれるというこの世の確かな法則。陰陽道とかで言う陰と陽のような関係だ」
「それは、ずっと前にクロスから聞いたことがあるけど、もしかしてクロスが」
「まぁ、僕にはその判別はできないが、おそらくそういうことだろう。ダイアとクロスは互いの力を補完し合う関係。クロスの中にあった闇の力が急激に強まっているのもダイアの希望の力に反応してるからだろう。とはいえ、今はそんなこと関係ない。それは未来でクロスと話し合うといい。それよりもだ、君にはよく考えて欲しい。僕と感覚を共有したことで知った絶望の悪魔の存在、彼をこのまま生かしておくことは人類の、いや、世界の破滅を意味する。…僕たちはただ、天秤にかけただけなんだ。未来をつくる大事な子供たちの未来と、そのために必要になる犠牲の子供たちの命を。秤にかけてはいけないものをかけたんだ。すべてが終わった後に殺されようと僕は構わない。ただ、それでも僕はただ、未来が欲しいだけなんだ」
「……アイクさん」
「急にこんな話をされてもすぐには決められないよね。それに、たぶんだけど君は僕たちを止めようとするだろう。君たちは、僕たちと違って世界に絶望していない。きっと、全員が希望に包まれる未来を望むだろう。だが、僕はそれを望まない。君には僕たちの邪魔はさせない。そろそろ時間だ」
「!身体が!」
気づけばダイアを包み込む光の強さが大きくなっており、そして、いつの間にかダイアの身体は半透明になって消え始めていた
「また、未来で会おう。その時には、世界がいい方向に進んでいることを信じて」
「なっ、ちょっと待って、それまでクロス達は」
どうなるの?
そうダイアが言い切るよりも前に、ダイアは虚空へと消えていった
「…ふぅ、さて、アーク。これでお前が言っていた未来にダイアは繋いだぞ。アッシュは、まぁ、この程度の実力だったらいらないか。それよりも、クロス、問題はお前だ。ダイアにはさっきああいったが、クロス、お前の中にあるソレはなんだ。ダイアが言っていた通りクロス、お前の身体の中には同じ力がある。それは闇を持っているとかそういう話じゃなくて、闇の力が全く同じ力を放っているという意味で。お前は誰なんだ。それに…やっぱり無理だ。<融解する夢と現の境界線>の効果の影響は受けているのに、未来へ送ることはできない。それだけじゃない、直接クロスに作用する能力のほとんどが無効化される。唯一できるのは、過去に送ることだけ。なんでなんだ」
???
「…ここは、どこ」
眩い光と共に突然現れた少女、彼女が見たものは
大量の瓦礫と死体の山、それも異常なぐらいに肉体が破壊されたものばかり
「なるほど、理解した」
しかし、それを見ても少女は怯えるどころか、少しも動揺しない
ただ、地面に転がるそれらをゴミのように眺めると
「やったのは、アナタなのね。前に見た時とずいぶんと姿が違うじゃない。これもアナタの求める正しい未来のための粛清なの?ねぇ、粛清騎士」
「お前は…そうか、アイツは死んだのか」
次の瞬間には、この惨劇を引き起こした犯人であろう粛清騎士のもとへと来ていた
「…アナタ、前よりも弱くなったんじゃない?感じる威圧感っていうか、力が」
「…かもな、今の俺が正しいことをしているのか、俺には分からない。本当は、粛清をしている時からずっとそうだったんだ。あの日からずっと、俺は悩み続けて、後悔し続けて、それでも俺の中ではっきりとした答えがでない。…俺の、俺のしていることは正しいことなのか。粛清なんて方法で本当に世界は良くなるのか。絶望を消し去るために多くの子供たちを犠牲にすることは正しいことなのか。…決意が、定まらない」
「知らないよ、そんなこと。それよりもクロスはどこ?私の感知に引っかからないんだけど」
「お前、クロスに会いに来たのか。なら、」
「お前も殺すか」
そう粛清騎士が言った瞬間、先ほどまでの雰囲気とは一変して
「はぁ?逆に殺すが?」
それが、開戦のゴングとなった




