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いずれ最強伝説  作者: piccle
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絶望のキメラ病 漆黒の過去

 チュンチュンチュン


「今日もいい天気だな」


 暖かい太陽の光で目を覚ました僕は、身体を起こすと洗面所へ行き顔を洗い、いつも通り自分で朝食を作って食べ終わると


「おはようございます」


 父の職場へと向かった


「おはよう。今日も朝早くから熱心だね」

「まぁね。はやく父さんのように立派な医師になりたいからね」


 僕の名前はアイク・ホープ・ドリーマー。今は父さんのもとで医師になるための下積みをしている


「やぁ、アイク。今日もよろしく頼むよ」

「任せてください」


 患者さんをベッドに寝かせると、いつも通り<診断>で症状の確認をしてから今日の治療を考える。


「なるほど。ずいぶんと良くなりましたね。このままいけばあと数か月で完全に治りますよ」

「本当かい?」

「はい。本当ですとも。神経魔法<無痛>生体魔法<切除>神聖魔法<浄化>空間魔法<固定>生体魔法<治癒>……はい、終わりましたよ」

「相変わらず速いな。アイク君の超高速手術は」


 これは僕自身もそう思う。昔から父さんの手伝いになればと人体の構造、薬学、魔法、と役に立ちそうなものを片っ端から独学で勉強した結果、独自の魔法を生み出せるレベルにまで到達した

 おそらく、今の僕ならケガの類はすべて治せる

 だから、あとは


「ゴホゴホ、今日も頼むよ。クライスさん」


 僕も父さんのように感染症などの病気に対して適切な処方をできるようになりたい

 疫病に関する本はたくさん読んだ。特に、僕が生まれたこの国、帝国は魔法の技術では王国や、精霊国家エルフーンに負けるけど、それ以外の、化学や医療と言った魔力に依存しない技術が発展している

 探そうと思えばいくらでも病気の治療法に関する本や正しい処方箋、薬の構成成分が書かれた本は見つけることができる

 ただ、化学技術が大きく発展したのは数十年前ぐらいからで解明されていない病気は多い。だから、父さんは定期的に世界中の病気の資料を集めるために二か月ほど出かける

 そのかいあってか、父さんは地方の医師の中では名が知られている

 父さんに教えを請いに来る医師だって何人もいる

 それほどに凄い父なのだ


「アイク、そろそろ昼休憩にしよう」


 僕は父を尊敬している




「今日は中央に行くよ。アイク、ついてきなさい」


 僕らは月一程度のペースで帝国の中央、つまりは都心部まで患者さんを見に行く。単純に中央での治療の仕方を学ぶというのもある

 だが、


「ようこそお越しくださいましたクライスさん。手紙でお伝えした患者さんはこちらです。さぁ、はやく」


 基本的には中央の医師でも分からなかった病気の患者さんを見ることがほとんどだ


「父さん、この方たちの病名は」

「彼らはキメラ病の患者だよ」

「!キメラ病ですか?こんなに小さい子供たちが」

「そうだね。最近新しく判明した病気で急激に感染者数が増加しているとは聞いてたけど、まさか帝国中央病院の病室が埋まるほどとは」

「感染経路も未だ不明ですからね」


 キメラ病 その名が示す通り、体内に取り込んだものを本来とは異なった形で吸収してしまう。それがたとえ石や金属などであろうとも

 そしてそれらは、栄養素となるわけではなく身体の表面に目に見える形となって現れる

 症状じたいが今までに例のない特殊なものであり、この病気に罹ってしまった者は常時激痛に苛まれる


 病気の回復も大事だが、せめて痛みだけでも取ってあげられたらいいんだけど


 ここで僕が<無痛>を使わないのには理由がある。一つは単純な話、そんなに大勢の患者に<無痛>を常時かけられるほど僕に魔力はないし、並列で使えるのも4個程度が限界だ

 そしてもう一つ、痛みを感じられない状態でいるとケガを負っても気付くことが出来なくなり、知らぬ間に大きなケガとなってしまう可能性がある

 この二点から、僕は<無痛>を患者にかけることができない

 それに<無痛>は僕の完全オリジナル。まだ発覚していないだけで長時間の使用は身体に何かしらの影響が出るかもしれない。だから父からも<無痛>の使用は短時間だけにするよう言われてる




「ぐっ、い、痛い……だれか、ワシを殺してくれ」

「そんなこと言わないでください。この病気の治し方が見つかるまで一緒に頑張りましょう」


 それから一か月も立たないうちに国からある要請が来た。それは、キメラ病の解決に向けて協力してほしいというものだが、実際のところは中央の最先端にいる医師たちにキメラ病の研究をさせるため、また、キメラ病に感染させないために地方の医師を使うというものだ

 手紙を読んですぐにそのことを理解した。だけど僕と父さんはその要請を受けてすぐさま中央に向かって移動した。苦しんでいる患者さんが大勢いるというのに見過ごすわけにはいかない。それに、地方にいる人間でキメラ病にかかっている人間はいない。

 しばらく僕たちがいなくとも問題ないだろう。一応数か月分の治療薬と、服用の仕方を書いた手紙が患者さんの家に届くようにしておいたし


「ふんっ、もともと生い先短いワシが病気から解放されたとしてもその先には何も残ってないわい。だったらこれ以上苦しむ前に死にたい。そんなワシの願いを聞き届けてはくれんのか」

「……」


 悲しいことだが、最近、こういう患者さんが増えた。キメラ病の闘病生活は僕が考えていた以上に辛く苦しいものだ。食べても大丈夫なものなど一切なく、食事をする際はずっと気が抜けない。無事に食事を終えたとしても常に体中を襲う苦痛。

 それは生物の三大欲求すらも退けるほどで、ほとんどの患者さんは身体の痛みで目を覚まし満足に寝ることすらできない。当然のことながら、睡眠の不足は患者さんの精神と肉体を蝕んでいく

 すでに闘病生活を苦に自殺してしまった患者さんも何人もいる。それを止めさせようと患者さんの見張りを強化すれば、患者さんや、患者さんの遺族が闘病生活の辛さを題材にした本を出版し、そういうのに目ざとい新聞社などからのインタビューを通じて”死を選ぶ権利”を主張してくる


「一緒に頑張りましょう」


 それでも僕は患者さんを生かすための治療をし続ける。キメラ病の解決法が見つかるのを信じて




 半年後


「い、痛い」

「うぅ、だれか」


 キメラ病に救いはない


 病室には患者のうめき声だけが響き、それ以外の声は聞こえてこない。前まではいた患者の家族も感染を恐れてもはや誰も来ない

 ここに残っている医師も随分と数が減ってしまった。僕が派遣されているこの病院には全部で千人近い病人を抱えているが、医師は僕を含めてももう十人に満たない


「アイクさん、私、もう辛いです」


 はぁ、この子もか


「君も、やめてしまうんだね」


 キメラ病の大流行を受けて他国で勉強をしていたところを急いで帰ってきてくれたとてもいい子だ。それでも、


「これ以上、患者さんが苦しんでいる姿を見ることに、私、耐えられません!」


 涙ながらにそう訴える彼女の叫びを、


「そっか、なら仕方ないね」


 僕は無感情に流す

 また優秀な医師が減ってしまった。数か月前から他の病院に医師の派遣を要請していてもこないことから、医師の増員も見込めない

 はっきり言ってこの国だけでどうにかできる問題じゃない。どうしてそうしないのか僕には分からないけど、他国に助けを求めるべきだ


「はぁ、今日もまともに寝れないな」


 そう考えながら僕は患者のもとへ行く




「完成した。この魔法があれば、この魔法ならば」


 興奮冷めぬまま僕は急ぎ足で患者が大勢いる病室へと走る


「みなさん!ついにできましたよ!みなさんが眠ることができる魔法が!」


 そう大きな声で叫んだ僕の声に、誰も答えることはない。キメラ病の患者はもはや声を発することもなく、ほとんどの人はただ虚空を見つめたまま呼吸だけをしている

 まぁ、こんなのは今に始まったことじゃない。声を発さなくとも死ぬことはない。別に問題ないだろう


「行きますよマルセルさん」

「……」

「<苦痛なき夢の世界>」


 僕がそう唱えると同時に、患者は深い眠りへと落ちていった


「成功した!やった」


 成功するかどうか分からなかったけど上手くいって良かった。僕が作った<無痛>をもとにして一から魔法術式を組みなおしてできたのが<苦痛なき夢の世界>

 これは、魔法を受けた者自身の魔力を消費することで持続的に発動できる魔法で、身体から痛みをなくし、強制的に睡眠状態にする魔法だ

 これなら患者の状態も少しは回復に向かうだろう


 これで今日からは自分の時間を少しは取れるだろう。久しぶりに父さんや、故郷にいる彼女に手紙を書くか



 キメラ病に…救いはない


「……は?嘘だろ」


 父さんは数か月前に原因不明の病気で、仕事中に倒れそのまま死亡

 彼女はキメラ病に感染し、


「どうして、こんなことに……」


 今も僕の前で病気と闘っている


「そんな顔しないで。私は大丈夫だから。それに、私よりもアイクさんの方がつらいでしょ?私のためにずっと<無痛>を使い続けているんですもの。少しはお休みなさって」

「それはできないよ。それに、僕が休んでしまったら、君は」

「私眠くなってしまいましたわ。アイクさんも寝ないと身体に悪いですわよ」

「…そうだね」


<苦痛なき夢の世界>


 僕は無詠唱で魔法を発動させると


「どうすればいいんだ……」


 その場に頭を抱えてしゃがみこんだ


 あの手紙を読み終わった僕は患者のことなど考えずに全速力でこっちまで来た。移動速度を上げるために魔法を連発したから魔力は消耗したが、一日とかからずに故郷まで帰ってくることができた

 向こうに大量の患者を置き去りにしてきてしまったな

 ……もう、どうでもいいか


 ……もう……僕には、患者のためになにかをしようという気持ちはない




 キメラ病が流行りだしてから、もう、一年になる


「アイクー!こっちにいらっしゃい!」

「ああ!今行くよ!」


 僕は、考えることを止めた


「今日は暖かくて気持ちがいいね。きっと身体にもいいと思うよ」

「もう!口を開けばいつもそれなんだから」

「仕方ないだろ?君のことが大切なんだ」


 僕はキメラ病を治す方法が見つかる可能性を諦めた

 今彼女が元気に草原で走っていられるのも、僕が常時<無痛>を発動しているからで、解除してしまえば意識を保っていられないほどの痛みが彼女を襲うだろう

 だが、そのことを彼女はもう知らない


「ねぇ、アイク。もし私が死んでしまっても、アイクは私のことを一生愛してくれる?」

「最近そればかりだね。どうしたの?」


 知らないはずなのだ


「私最近ね、夢を見るの」

「夢?」

「そう、夢。恐ろしい闇が世界を覆いつくす、そんな夢」

「何それ?変な夢だね」

「それでね、その闇はどういうわけか私たちの国の中心から発せられてるの。私もその闇に身体を汚染されてしまってあなたが泣きながら私の遺体を抱えている。そんな夢なの」

「…ははっ、何を言ってるの。そんなわけないじゃないか。君は死なないよ。僕が守るから」


 僕が、守るから




 それから数日後


「アイク、今日は私が寝るまで一緒にいてくれる?」

「もちろんいいよ」


 僕は彼女が眠りにつくまでたわいもない話をした

 彼女は


 二度と目を覚ますことがなかった


「あああああああああああ」


 僕は彼女の亡骸を抱えながら大きな声で泣いた

 だが、それはただ単純に悲しみから来るものではない


 ふざけるな!どうしてこんな目に合わなければならないんだ!


 心の底から溢れ出す激しい怒りから来ているものだ。


 どうして彼女が死ななければならない!どうして僕らがこんな目に合わなければならない!僕らが何をしたっていうんだ!


 未だ治療法が見つからず、病気によってわけもわからないまま理不尽に殺されていくことへの激しい怒りが、心の底から溢れ出し涙という形となって現れていた


 こんなことが現実に起こっていいはずがない!そうだ!これが現実であるはずがない!これは夢だ!僕はずっと悪い夢を見ていたんだ!


 あまりに辛い出来事に現実逃避をしようとするも


 あれだけ症状が進行していたというのによくこれだけの期間生存できたものだ。本来だったら僕と合った時に死んでいてもおかしくなかったというのに。ここに彼女と他の患者共の違いがあるとするなら、それは僕がずっと魔法を使ってケアし続けたというところかな

 毎日しっかりとした睡眠をとることができたから。もしかしたら他の要因もあるかもしれないが、僕の魔法が有要なのは間違い無いだろう


 己の性分がそれを許さない


 やめろ。彼女の死をそんなふうに扱うな

 彼女を今日まで毎日観察したカルテもある。これを資料として僕が研究すればキメラ病解決への糸口ぐらいは見つけられるんじゃないか?

 やめろ!彼女の死を観察するな!彼女の死を、他の患者どもが死んだ時みたいに扱うな!


 僕の中で大事な何かが音を立てて崩れていくのを感じる。同時に、頭の中で何かが急速に組み立てられていくのも


 これは(現実)だ!これは(現実)だ!これは!


 ガチャ


 僕の中でバラバラになっていた全てのパーツが一つになった




 チュンチュンチュン


「うっ、今は…6時か。僕は泣き疲れて寝てしまったのか」


 立ち上がって部屋の中を見るも、そこには寝る前と変わらない光景があった

 いつも通りの彼女の部屋で、いつもどおり彼女が寝ている

 いや、


「昨日死んだんだったな。この家を使う人間は…もう誰もいないか。なら問題ないか<火葬>」


 僕は


「さて、それじゃあ中央に行くか」


 ゴウゴウと音を立てて燃える家を振り返ることすらせず歩き出していた


「俺が全員、治してやる」


 たとえその過程で何人死んだとしても

今まで書いてきた遊び回とか過去回もちゃんとメインの方に絡んでくる

ということだけ

来週は二つあげると思う

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