消された記憶
翌日
水の都ウィンディーネに来て2日目にして俺は、単独行動をしていた
ダイアたちからは、地元の人に面白そうな場所の話を聞いたから行こう、と言われたが、俺にはそれ以上に気になる事があった
「まずはここだな」
手始めに俺は、冒険者ギルドへと来ていた
そもそも俺が何を気にしているのか、それは
「冒険者アレンについての情報はありますか?」
粛清騎士の過去についてだ
昨日話して、というよりは昨日も含め何度も話したことで俺の中の粛清騎士のイメージは完全に優しいやつになった
人の罪を憎みまじめに生きる人の幸福を願う、そんなあいつが粛清なんてのに手を出すようになったキッカケはなんなのか。昨日は詮索しないなんて言ったが正直気になっていた
まぁ、本人に知られなかったら別に問題ないだろう
それでなぜ冒険者ギルドに来るのかと言えば、まぁ、冒険者のことは冒険者ギルドで聞くのが早いんじゃないかと考えたからだ
しかし、それは
「申し訳ございません。英雄アレンさんの情報は最重要機密事項の情報なのでお伝えすることができません」
どうやら甘かったようだ
「まさか全部の情報が機密なんてことはないだろ?教えられるのだけでいい。教えてくれ」
「…それでしたら」
それから受付嬢は話せる範囲ではなしてくれたようだが、
「無駄足だったな」
結局は、俺が元々知ってるような有名な話しばかりだった
なんでアイツの情報が機密扱いになってるんだ。特に冒険者として活動してた後半のあたりはほぼ分からない
なぜだ?
そう考えながらも、俺は次の場所へと向かっていた
冒険者ギルドから大聖堂の方へと移動すること20分。俺は、聖王国第一蔵書保管庫、要するに図書館へと来ていた
この図書館は聖勇者教会が管理しているようで中には修道服を来た人が大半を占めており、また、警備も厳重なため王族や貴族が利用することもあるそうだ
そして、この聖王国で最も情報が集まる場所である
「さすがにここまで来れば何か情報は出てくるだろう」
そう思い数時間かけて情報を探した結果
「嘘だろ。ここまで徹底してるのか」
驚くほどに何も出てこなかった。出てきたとしても、それは受付嬢が語った内容を別の言い回しで表現したものばかり
「どうなってんだよ…」
俺は昨日と同じ噴水のところで腰をかけてそう呟いた
ありえないだろ、なんで図書館にすらアレンの情報がないんだよ。明らかに国と聖勇者教会の両方がアレンに関する情報を世界から消そうとしている
なぜだ?
いくら考えても答えはでない
ここまで情報がないと考察することすらできないぞ。…直接聞くしかないのか?でも、それは詮索しないって言った手前しずらいしな。諦めるか…
そう考え始めていた時
「そこの方、どうなさったんですか?」
昨日と同様に話しかけてくる存在がいた。今度は女性だけど
どうせ話しても…いや、昨日みたいに話したら何か分かるかもな。分からなくても少しは気が晴れるだろう
「英雄アレンですか?」
「あぁ、彼のことについて知りたいんだけど、情報が少なくてね。何か知ってる?」
「そうですね、私が覚えていることでよければお話しできますよ」
「!」
まさか知ってるのか?いや、そうか、そもそもアレンがクロードの事を討伐したのが10年ほど前、知ってる人間の方がほとんどだ。
なぜこんな簡単な事を思いつかなかったんだ。なんでか、普通の人は分からないみたいな先入観があった
「…そんなことがあったのか…」
聞いた話を要約すると
昔の粛清騎士は誰にでも明るく気さくに話しかけるような人物だったらしい。
加えて目の前で困っている人がいれば手を差し伸べずにはいられない性格だったらしく、過去にさまざまな問題に巻き込まれるもそのどれもを実力で解決していたのだという
そんな彼にはある信条があって、それはどんなに大きな罪を犯した人間でも、罪を償い更生することができるというものだ
彼はその信条をもとに犯罪者が更生できるような施設、カリキュラムの作成、出所後の職を手にできるよう援助するなどのことをしていたらしい
今のアイツからはとても考えられないな
そんなアレンがどうして粛清騎士と成り果ててしまったのか
そこには、ある事件が関係している
それは、アレンが冒険を終え、帰ってきた時、
いつものように家の扉を開くと、
妻が殺害された状態で発見されたのだ
アレンには当時、妻がいた。結婚してから半年も経っておらず、冒険者の活動がひと段落してから結婚式を挙げようと誓った妻がいたのだ
そして、残念なことに犯人は
アレンが作った更生施設を出所した元犯罪者だったのだ
その後は、何があったかは不明だが、この一件以来アレンが作った施設は封鎖され、今も誰も入れない状態になっているらしい
「どうですか?お力になれましたか?」
「あぁ、ありがとう。おかげで謎が解けたよ。ちなみに、施設ってどこにあるか分かる?」
…
「ここが、例の施設かっ、うっ」
施設の方角を教えてもらった俺は、女性と別れた後、アレンが作ったという封鎖された施設まで来ていた
しかし、
「こりゃあ封鎖されるわ」
俺は中に入ることが出来ずにいた
なんだここの雰囲気は、俺の感知能力関係なしにこの施設が見えた瞬間、
いやだ、一瞬たりともここにいたくない
そんな思いが思考に混じり始め
絶対にそれ以上進むな
本能が俺に語りかけてくるのを感じた
ドクンドクンドクンドクン
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
気づけば無意識のうちに呼吸が荒くなり、心臓は久方ぶりに高速で運動していた
「この先に何があるっていうんだ。一度引くか?…いや、ここで引いたら俺はおそらく一生ここへは来ないだろう。断定できる。」
…進んでみるか、何が待ち受けているかは分からないけど、何かあったら引き返せばいい
この時、ここで引き返す判断をしてれば俺はアレンという人間の本質に触れることはできなかっただろう
だが俺は、ここで引き返しておけば良かったと後悔をせざるをえなかった




