イメルダの苦悩
その日、時間にして九時頃、その二人組は突然現れた
片方は社交性の高い綺麗な女の子、もう片方は話を聞かなそうなタイプの美形の男の子
アタシはとにかく驚いた。美形の仲良しカップルが現れたことにじゃないよ
二人の持つ才能の輝きに驚いたのさ
アタシは世界の中で祝福を受けた数少ない人間の一人で、生物の持つ性格、実力、才能、運命力の強さを可視化する能力を持っている
だから、国から直々に依頼されてこんな年になってもギルドの受付をしているわけだけど
あらためて二人を見る
基本的に光が強いほど、大きいほど、動いているほど強いことになるのだが
やばいねぇ、こりゃ。二人ともそこらにいる冒険者よりも圧倒的な才能を持ってるよ。しかも、片方は実力がすでに高い領域にあるよ。こんな新人冒険者、アタシが受付をするようになってから初めて見るよ
その後、いくらか話をしてみて分かったことがある。
二人はまだ付き合ってないということだ。そんなに仲いいならもう付き合ってしまえよと思ったのだが、どうやらクロスは相当に鈍感のようだ。こりゃダイアかなり頑張んないといけないね
ってなんでアタシはあの子の恋を応援してんだ。そうじゃないだろ
いろいろちょっかいかけてみたけどあの子たちがあんまりにも普通の反応をするからなんだか警戒したのがバカに思えてくるよ
あの子たちは未来の英雄になる。そうアタシは確信した。
「この中から好きなのを選びな」
そういった瞬間、アタシはドキリとしたね。
渡した依頼書は一枚だけ。一番危険度が低いかわりに依頼報酬も少なく人気もあまりない薬草採集
ほんとは他にも二つほど魔物の討伐依頼があったけどそれは隠した。本来受付が冒険者を見て依頼を勝手に隠したりするのは良くないんだが、この二人に対しては例外だろう
万が一があってこの二人を死なすわけにはいかないからね
クロスが怪訝そうな顔をしてたのが一番焦ったよ。まったく、何年も受付をしてると定型文みたいのが無意識に出ちまって困るよ
さて、二人はもういったかね?それじゃアタシも仕事をするとしますか。国から任されている仕事を
そこまで考えると、イメルダはギルド長室へと歩いて行った
それから三時間ほどで二人が帰ってきた
ずいぶん早く帰ってきたねぇ。あんまり薬草は取らず遊んだのかね?
ダイアを見てみると、誰が見ても明らかに分かるほど上機嫌だった
ほほえましいねぇ~。
この時のアタシは予想すらしていなかった
「ああ、はい」
そんな適当な返事とともにクロスが魔法を無詠唱で使った
てっきり背負っている袋から取り出すものだと考えていたアタシは余計に驚かされた
う、嘘だろう?この年で?しかもこの魔法
装着した魔道具(鑑定眼鏡)の効果を発動し、魔法を鑑定してみる
・無限の空間
時空間を引き裂き、魔法の使用者が保存したいと考えたものを任意で保存することができる
保存したものは時間の経過の影響を受けない
魔法には属性があり、難易度が高い属性、性能が高い属性は上位属性、両方とも持つものは最上位属性と分類される。
また、魔法は複数の属性を同時に使うと難易度は掛け算のように跳ね上がる
アタシが分かる限りこの魔法には少なくとも二つ、最上位属性である(時間)(空間)の二つの属性が使われている
怪物
そんな言葉がイメルダの脳裏に浮かんだ
その後の会話は正直あんまり覚えていない。ただ、いつもどおり仕事はできていたと思う
「ほう、あれがイメルダの言っていた未来の英雄たちか…これは副ギルマスには任せられないな。しかたねぇ。俺がでるか」