闇との対面
「これがさっきの話に出てきた、闇のスライムか…」
俺は目の前でぴょこぴょこ動く漆黒のスライムを眺めながらそう呟く
スライムは流動性の肉体と、内部に生物でいう心臓の役割を果たしているコアの二つのみで構成されている魔物だ
その動きはのろく、攻撃も肉体による緩やかな捕食以外にないため人々からは最弱の魔物と呼ばれ愛玩動物として認識されている
のだが
「なっ、なにこの子…」
「なんか変です」
「二人もそう思うか?」
漆黒のスライムを見たダイアとアッシュは、スライムが放っている異様な雰囲気に気圧され、先ほどから一歩も近づこうとはしない
「これが今回の依頼にあったスライムで合ってるんだよな?」
「うん、合ってるよ」
なるほど、これはなんとも
「厄介そうだな」
「それで、依頼のスライムってどんなのなんだ?」
俺は依頼書を読んだ時から気になっていたことを訊いてみた
マリカがこの依頼に関係しているって分かった瞬間、俺の中でその疑問は大きく膨れ上がった
多くの依頼失敗者が出ている時点でそのスライムがなにかをもっているとは思っていたが、マリカがこの依頼を出しているって言うことはすなわち
マリカがスライムのテイムに失敗したということだ
しかしそれは、俺にとってどうしようもなく信じられないことだった。たとえ異常種であろうとも,
それこそ魔王種であってもマリカならスライムをテイムすることができる
そう自信をもって言えるぐらい俺はマリカの能力を信頼していた
「それはワシから説明しよう」
そう言いながらマジク教授が書類の束をクロス達に渡す
「じゃが、その前に契約を結んでもらう必要がある」
「あぁ、イメルダが言ってたやつか。このスライムは機密保持の契約を結ばないといけないほどのやつなのか?契約を結ぶのだってタダじゃないだろうに」
「それはお主であろうとも契約を結んでもらわんと言えんな」
「はいはい」
俺はその場に<契約>の魔法陣を浮かび上がらせる
「内容は俺たちがスライムに関する情報を一切外部に漏らさないことでいいか?」
「いや、契約が万が一解除されたことも考慮して、契約が破棄された際、記憶を自動的に消去するようにしてくれ」
「なに?そこまでするのか?」
「そうだ。そこまでしてもらわないとお互いに困ったことになる。クロスだけだったらまだよかったんじゃが」
「あぁ、そういうことか」
俺はすぐさま<契約>の魔法陣を書き換え、俺たちは契約を結んだ
「ふむ、皆契約を結んだことだし話すとするかの」
そうして俺たちは、今回の問題となったスライムの話を聞かされるのであった
「これ、触っても大丈夫なのか?」
そう言いながら俺はその漆黒のスライムに手を伸ばす
魔物をテイムする際、最も重要とされるのは魔物との直接的なスキンシップだ。魔物の自身に対する敵意を解き、徐々に自分を受け入れさせるのがなによりも大事
なのだが
「ダメ」
そういいながらマリカがクロスの腕をつかみ伸ばした手を止める
「さっき言ったでしょ。このスライムは闇と同じ性質を持っているうえに、本来の能力も大幅に強化されてるの。素手で触ったら骨まで溶かされちゃよ」
「おお、そういえばそうだった」
でもな、スキンシップができないとなるとテイムするのが一気に難しくなるぞ
「こいつってなんか好物とかある?」
「ないよ。あと、こいつって言わないで。ちゃんとクロって名前があるんだから」
「ちゃんとって言う割には適当すぎる名前だなぁ」
うー--ん、クロをどうにかテイムしたい。できることならテイムして家に持ち帰りたい、のだが
「無理くね?」
「クロスでもやっぱ無理?」
「いや、そもそもマリカがテイムできてないんだし俺にできるわけがないだろ。マリカも触れないからむりだったんだろ?」
「いや、私の場合」
そういいながらマリカがクロに近づくと
「!プイィィィィィイイ!」
突然クロが飛び上がりマリカに対して威嚇し始める
「ね?」
「こりゃ驚いたな」
マリカが魔物に威嚇されてんの初めて見たな
「これだからテイムするどころじゃないんだよね。でも私、クロスならクロのことテイムできると思うんだよね」
「なんで?」
「それは他の人を見てれば分かるよ。ほら」
そういいながらマリカが指さしたほうを見ると、クロに近づこうとしたダイアとアッシュの、二人ともがクロから威嚇されていた
「あれ?俺だけ威嚇されてなくね?」
「そうなんだよ。正直クロス以外の冒険者たちは近づくことすらできなかったからクロスだけが頼りなんだ。お願い。週に一回来るだけでもいいからしばらくこの依頼を受けてくれないかな?」
うー-ん、俺は別に構わないし、むしろクロに興味がわいたからこの依頼を受けたいんだが…
どうしようか
「クロスがやりたいならいいよ」
「ダイア」
「そうですよ。私たち相手に我慢なんてしなくていいんですよ」
「アッシュ」
「二人ともありがとう」
備考
・闇にはいかなるものも干渉することができない
同様に、光にはいかなるものも干渉することができない




