異次元の怪物
「うぅっ」
異常種のこん棒をもろにくらった俺は大きく弾き飛ばされ、森の地面に転がっていた
俺は今、どうなっているんだ
重い頭で考える
とっさに発動した<防御力強化>のおかげでどうにか死なずに済んだようだが、それでも大きなダメージを受けたことには違いない
実際
俺は身体を動かそうとしてみるが、動く気配どころか手足の感覚すらない
そんな俺の耳に
ドスン!
ドスン!
ドスン!
大きな音が一定の間隔で聞こえてくる
おそらくあの異常種がこっちに向かってきてるんだろう
俺にとどめをさして確実に殺すために
はぁ、これ詰んだな。俺、確実に死んだわ
”そうやってあきらめるのか?”
また、これだ。俺は追い込まれると必ず師匠との記憶を思い出す
”魔力がなくなったからってそうやって戦うことをあきらめるのか?”
なんだよ、今の状況にぜんぜん関係ないじゃねぇか。俺は魔力がなくなってもちゃんと戦ったぜ?
”じゃあ師匠は魔力がなくなったらどうすんだよ!”
”俺?俺は魔力がなくなったことがないからわかんねぇな”
しかも、なんの参考にもなりやしない
”まぁ、その時はその場にあるものなんでも使って勝つんじゃないのか?”
なんでも使ってねぇ。無茶言うなぁ、俺は回復魔法を使わないと起き上がれない状態なのに
ドスン!
先ほどよりも音が大きく聞こえる。異常種がここにたどり着くまでもう時間もないだろう
俺はもう一度身体を動かそうとする。この時、すでに意識のほとんどは途切れかけていた
”それこそ、世界は多くのものであふれている。魔力なんて特にそうだ。俺たち動物だけじゃなく、植物、もっと言えばこの石ですら持ってる”
「あああぁぁぁぁ」
”クロス、お前はもっと視界を広く持ったほうがいい。それこそ俺が今あげたやつらから魔力を
吸い上げるみたいにな”
ドスン!
俺の真横から音が聞こえる
「俺は世界から奪うもの」
それはもはや無意識の領域だった
自分でも自分が何をしているのかよくわかっていなかった
ただ、
俺と世界が一体化したような感覚だけは覚えている
「俺を除くすべてから、そのすべてを奪い去る」
異常種がこん棒を振り上げる
「拒むことは許さない!この搾取は絶対だ!」
この時、俺は、気づいてなかった
異常種が俺を見て後ずさりしていたことを
そして、俺の周囲の植物が急速に枯れていき、そこらへんに落ちていたゴブリンの死体がボロボロとくずれていったことを
「<絶対暴君>」
この瞬間だけ俺は、神を超えていたと思う
「はぁ、はぁ、はぁ」
「大丈夫?背負って走ろうか?」
「大丈夫です」
ダイアとアメリアはもうすぐでクロスのところへ着くというところまで来ていた
「ダイア、これははっきりいって異常だよ」
アメリアはここまでずっと<探知>を発動し続けており、魔物の位置を探っていた
それなのに
一回も<探知>に引っかからない
ゴブリンどころかこの森にいるはずのスライムや魔ウサギが一匹もいない
しかも、
アメリアはダイアが走っているその先をもう一度<探知>で深く探る
やっぱり何も映らない
これは本来ありえないことだった
<探知>は魔力の反射を利用して位置を探る魔法だ。この世に存在するものすべてが魔力を持っているからこそ有効な魔法
それなのに何も映らない
これはアメリアの常識を超越する出来事であり、アメリアの警戒度を引き上げるには十分だった
「死んでる」
足を止めたダイアの口からそんな言葉がこぼれる
それに対して、アメリアも同じことを思っていた
探知可能なエリアを超えた瞬間、アメリアの目に映りこんだのは
なにもない、砂漠のような大地だった
こんなことを引き起こした魔物がこの先にいる
思ったよりも事態は深刻なのかもしれない
「ダイア、行こう」
私がここで止まるわけにはいかない。今度は私が、あとから来る冒険者たちに可能性を繋げる番だ
「何これ」
思わずアメリアはつぶやいた
探知不可になったあともアメリアは<探知>を発動し続けていた
いつ異常種が現れてもすぐ気づけるように
その結果、<探知>に引っかかったものがあったのだ
何もないところにポツンと立ち尽くす、化け物のような魔力を放つ存在が
これは勝てない。一度引き返して、総戦力を結集して戦うしか勝つ道はない
「ダイア」
「分かっています。この先にいるんですよね」
「分かっているなら良かった。ここは一度帰ってから…」
「それでも、私は行かなくちゃ!クロスが待ってる!」
「!待って!」
アメリアは叫んでダイアを呼び止めるが、ダイアはそれには欠片も反応せず走って行ってしまう
ダメだ。ダイアは分かってない。こんな化け物相手に一人じゃ何もできないことも、何より、クロスはもう死んでいるということも
「私が止めなきゃ」
アメリアはイメルダに言われた言葉を思い出していた
”アメリア、聞いておくれよ。なんと今日、うちのギルドに凄い才能を持った子たちが入ってきたんだよ”
”そんなに凄いの?”
”もう、凄いなんてもんじゃないよ。あの子たちが成長したらきっと、一人で国の危機を救えるような存在になるよ”
そういってイメルダが笑っていたのだ
そんな才能を持った子をこれ以上死なせるわけにはいかない
アメリアはダイアを追いかける
意外なことにダイアは少し行ったところで立ち止まっていた
「よかった。ダイア、行かないでくれて」
「……」
アメリアが話しかけるがダイアからの反応がない
「ダイア?」
ダイアは視線が一か所に固定されたまま固まっていた
何を見ているの?
アメリアもつられてその方向を見る
そして、絶句した
そこにいたのは
血だまりの真上で両腕を開いた状態で浮かんでいるクロスだった




