最善の選択とは
「ダイア」
俺はその場で足を止める
それを見てダイアも足を止めた
俺の想像通りなら、あまり時間はかけられない
<鉱石形成><魔法付与><偽りの声>
「ダイア、これを持って行ってくれ」
そう言いながら俺は、中心に押すボタンのついた球を渡す
「クロス、これは」
「そのボタンを押せば全部分かる。とにかく全力で冒険者ギルドに向かってくれ」
「分かった」
それだけ言うとダイアは先ほどよりも速く走っていく
ダイアがなんの疑問も持たずに俺を信じてくれてよかった
だから俺も、ダイアの信頼に答えないとな
そう考えながら俺の足はあのゴブリンの方向へ向かっていた
改めてそのゴブリンを見る
近づいてくる俺には目もくれず無我夢中で仲間の死体を食い続けている
俺の考えが正しいなら、コイツは、今、ここで
殺さなければならない
俺の考えでは、コイツは普通のゴブリンが持っていない能力を複数持っている異常種だ
・喰うことでエネルギーを貯蓄する能力
・エネルギーを消費してケガを回復する能力
・エネルギーを消費して肉体を成長させる能力
こんな能力をもったコイツを放置しておくわけにはいかない
まずはコイツがこれ以上喰うのを止めないと。自然への配慮なんてしてられないな
<業火球>
高温を放つ炎の球が異常種の食糧、俺たちが積み上げたゴブリンの死体に向かっていく
「グギャアアア!」
それを見て異常種が叫ぶ
すると、
「「「グギャァオ!」」」
周囲にいたゴブリンたちが<業火球>に突っ込んで、ゴブリンの死体の山を目掛けて飛んでいた<業火球>はその手前で消えてしまう
!コイツ!まさか、同種を従える能力まで持っているのか!
…ますますコイツを殺さなきゃいけなくなったな
他の冒険者たちの手に負えなくなる前に
ただ、遠距離からだとコイツを殺すどころか食糧を処分することすらできないだろう
「やるしかないか」
俺は<灼熱付与>を使用しながら異常種たちに突っ込んでいった
意味わかんない
ダイアは森の中を全速力で走りながら考えていた
さっきのクロスは少し様子が変だった
でも、クロスの表情がいつになく真剣だったから何も言わず私は走った
たぶん私には分からないことがクロスには分かったんだろう
ダイアはクロスから渡された球を見る
クロスはこのボタンを押せば全部分かるって言ってたけど、それは走りながら聞けって意味じゃない
冒険者ギルドの人に聞かせろって意味だと思う
だから、私にできるのはただ全力で走ることだけ
ダイアは胸の内に嫌な予感を抱えながらもギルドまで走り続けた
ギルド
”だから、すぐに高ランクの冒険者を送ってください”
クロスの声で語られたのは恐るべき事実だった
「なんてこったい。クロス、あの子はまさか…」
これ以上被害が拡大しないために、そして、確実に異常種を殺すために残ったんだ。自分がやられた時のことも考えて
”もう一度聞きたい場合はボタンを押せば聞けます”
「アンタ達!今すぐギルドにいるプラチナ以上の冒険者を集めな!緊急会議だよ!」
そこからのギルドの動きは迅速だった
「ダイアが現場まで先導する!対象を視界に納めたらすぐにぶち殺すんだよ!ただし、最優先事項はクロスの救出!いいね!」
クロスなら大丈夫だよね?本当に危険になったら逃げるよね?
「ダイア」
アメリアが話しかけてくる
「大丈夫、心配ないよ。クロスは私たちがちゃんと助けるから。それよりも、もう一回走ることになるけど大丈夫そう?」
「大丈夫です」
「それはよかった。にしても凄いね。クロスってこんなのも作れちゃうんだね。なんどでも音声を聞ける魔道具なんて初めて見たよ。もう一回私に聞かせてくれる?」
「いいですよ」
これでこの音声を聞くのは三回目か
ダイアはボタンを押す
「うん。さっき聞いた通りだね。クロスのためにも急いで行かないとね」
今はまだ待機中だ。出動する冒険者全員の装備が整ってから移動することになっているのだ
”もう一度聞きたい場合はボタンを押せば聞けます”
これで音声は終わり
”最後に”
「えっ?」
”音声を聞き終わったらボタンを引っ張って破壊してください”
「なにこれ。さっきまでこんな音声はなかったのに」
ダイアは困惑する。確かにさっきまではこんな音声流れてなかったのだ
「条件発動型だね。これは魔力消費を抑えるために使う技術だけど」
ダイアは思い返す
そういえばクロスは朝からずっとゴブリンと戦っていた
相手が弱いとはいえさすがに少しは疲れているはずだ
それに、その時いろんな魔法を使っていた
もしかして、もう魔力はほとんど残ってないんじゃ
そこで初めて、ダイアはクロスの状態を正確に理解し、顔が青ざめる
「どうしよう」
その時ダイアは想像してしまっていた
最悪の結末を
「ダイア」
「アメリアさん」
「私だけ先行していくこと、ギルド長とおばあちゃんに言ってくる」
「お願いします」
クロス、無事でいてね
そう願いながらダイアは球を破壊した




