今の俺の全力
「それじゃいくよ!」
そういうと、アメリアはいきなり両手剣を大きく振りかぶり、勢いよく振り下ろす
え?
刃が俺の身体すれすれのところをとおりすぎる
!#$%$%$!??!
「さすがにこれじゃびびらないね。それでこそ指導のしがいがあるよ」
油断していたとはいえ、俺が目で剣を追いきれなかった
これは、気合をいれないと本気で死にかねないぞ
俺は<身体能力強化>を発動する
「私に一撃いれたら君の勝ちだよ!」
そういうと再びアメリアが両手剣を構える
この剣の間合いに居続けるマズイ!
そう考えた俺は全力で後ろに飛びのく
その直後、アメリアの両手剣はさきほどまで俺が立っていた場所を勢いよくとおりすぎる
これで当てるつもりがなかったなんていったら嘘になるだろう
「私の一撃を躱すなんてやるね。おばあちゃんが言っていた通りだ」
ババア!なにを言いやがった!
俺はイメルダをにらみつける
イメルダは他の高ランク冒険者と談笑していて気づかない
「それじゃこれはどうかな」
そういいながらアメリアは思い切り距離を詰めてくる
どうする?!
俺は一瞬で周囲を見渡す
これは俺が一撃いれるまで終わらない。今みたいに後ろに避け続けてもすぐに対策されてしまうだろう
なら、俺がとるべき選択肢は一つ
俺はアメリアを迎え撃つために前に詰める
アメリアの両手剣の攻撃力は確かに驚異的だ。だが、あんな大きな大剣を持ってたらすぐに体力はなくなるし、動きは鈍くなるはず
俺は<鉱石形成>で両手に漆黒のダガーを作り出す
「!!」
俺の最速の動きで翻弄しながら隙を作り出して一撃を入れる!それが今の俺にできる最善の行動
「はああぁぁ!」
アメリアが剣を構えるよりもはやく身体能力任せの一撃を繰り出す
が、
「お、いい一撃。でも、それじゃあダメだね」
アメリアに大きく弾かれる
嘘だろ!タイミングは悪くなかった!アメリアの体勢だって完璧じゃなかった!なのに俺が力負けするのか!?俺は身体能力強化を使ってるんだぞ!
「今度はこっちの番だよ!」
そういうとアメリアは両手剣を先ほどよりも早く、鋭く、正確に振り続ける
一体いつまで耐え続ければいいんだ!
さすがに素早さまでは負けてないようだが、それでも俺のほうがわずかに速い程度のものだ
基本的には斬撃を躱し、躱しきれないものはダガーでうまくそらし続けるがいつまでたってもチャンスが巡ってくるようには思えない
アメリアは息が荒くなってすらいない
それに対して俺は
「はぁ、はぁ、」
すでに呼吸が乱れている
このままじゃジリ貧だ。このままいけばいつか致命的な一撃を受けるだろう。もはや考えながら戦える領域にない
「出すしかない。俺の!全力を!」
「意外だね!まだ、全力を出してないなんてね!」
<身体能力強化>はあくまで魔法使用者の身体能力を最大限引き出す魔法で限界を超えた能力を引き出すことができない
「その英雄の拳は天地を砕き
「!詠唱?今まで無詠唱で魔法を使ってきた君が?」
だから、今その限界を超える!
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「でも、さっきよりもきつそうだよ!その選択は間違いだったんじゃないかな?」
詠唱のせいで呼吸がより荒くなるが関係ない。ここでこの魔法を発動できなかったら俺は、絶対に勝てない!
「その果てには神にすらその拳をとどかせた!」
「!」
俺の周りを膨大な魔力が覆い始める
「今!その英雄に憧れる少年に!偽りの英雄の力を体現せん!」
これは、自分が思い浮かべる理想に、自身の魔力を消費した分だけ近づける魔法
この時、俺が思い描いたイメージは、俺に多くのことを教えてくれた世界最強の師匠
「<偽・英雄化>」
この魔法を使うためにほとんどの魔力を消費した。あと、数回しか魔法を使えない。それに、この魔法は限界を超えて力を無理やり出しているわけだから、身体への負担もでかい
「速攻で決める!」
両手にもったダガーを分解し、ハルバートを再生成する
「うおおお!」
俺が選んだのは正面からのぶつかり合い。自身の全力の力でもって押し切ることだった
だが、
「<身体能力強化>!」
アメリアも<身体能力強化>を発動して迎撃する
「!」
ガキィィィン!
金属同士がぶつかる音が周囲に鳴り響く
<身体能力強化>まで使えるのかよ!ただの力ごり押しマンだったらどんなに楽だったか!しかも、ここまでやって力はようやく同等なのか!
「「はぁぁぁあああああ!」」
そこから何度も正面から打ち合う
だが、
「これでもダメなのか!」
二人にある圧倒的な技量の差、そして、迫る身体の限界のタイムリミットが少しずつ俺を追い詰めていた
そして、ついに
「ぐっ!」
ハルバートが大きく弾かれて俺は大きく体勢を崩す
「これで終わりだよ!」
アメリアの両手剣が迫ってくる
「まだだぁ!」
俺は残った魔力すべてを使って魔法をできる限り多く発動する
俺の前に壁が形成されると同時に煙幕が周囲を包む
「次が最後の一撃だね!いいよ!私も全力で迎え撃つよ!」
俺からアメリアはあまり見えてないが、おそらくどっしりと構えているんだろう
だから、残った全部の力をこの一撃にのせる!
「はぁぁぁああああああああああ!」
煙幕を突き破ってアメリアの背後からハルバート大きく掲げて突っ込む
「背後をとるのはいい判断だけど!声を出しちゃ奇襲の意味がないよ!」
そういって、アメリアは全力で両手剣をふるう
その刃は
「!」
ハルバートごとクロスの身体をすり抜けた
剣がすり抜けるとは思っていなかったアメリアの顔が驚愕に染まり、自身の剣の勢いのせいで体勢を崩してしまう
そんな隙を逃さずアメリアの真下から迫るものがいた
今が最後のチャンス!これで決める!
「嘘!」
俺の拳の軌道は確実にアメリアの顔面をとらえていた
当たる!
そう確信した瞬間
”クロス”
脳裏に師匠の声が浮かんだ
”いいか、クロス。これは俺の思想だからお前がそのとおりにする必要はないんだがなぁ。いいか、女の顔を傷つけるやつはクズだ。だから、そんなことをしちゃいけないし、したやつを絶対に許しちゃならねぇ”
師匠、なんでこのタイミングなんだよ……
アメリアの顔に当たる直前、俺はその拳を止める
ボォォォォン!
拳の威力によって強い風圧がアメリアを襲うがそれでもアメリアは吹き飛ぶことなくその場に立っていた
アメリアは慌てて体勢を戻すが、俺にはもう一撃を入れる余力なんて残っていなかった
「もう…無理…」
俺はその場で倒れこむ
「おっと」
それをアメリアに受け止めてもらう
「あざっす」
「どうして…」
「はい?」
「どうして最後の一撃を止めたんですか?やめなければクロス君の勝ちだったのに」
しんどい。数年ぶりにこの魔法を使ったけどもう疲労と眠気がひどすぎる
ここまでして、不意打ちまでしないと一撃を入れれないとはな
この人を、いつか俺の仲間にしたいんぁ
だめだ、頭が回らなくなってきた
そんな状態の中、俺が出した答えは
「未来の…」
「え?」
すでに呂律が回っていない
「俺の……の顔に、傷をつけるわけには…」
そこまで言って俺は意識を失ってしまった