ダイアの苦悩
ざわざわ ざわざわ
訓練場の中は先ほどまでの活気を失い冒険者たちのひそひそ声だけが場にあふれていた
その場にいた冒険者、ほぼ全員の視線は訓練場の中央に向けられていた
おい、まじかよ。あの新人。なにをやらかしたらアメリアさんの指導を受けさせられるんだよ
そんなことよりも回復魔法を使えるやつを用意したほうがよくないか、前に指導を受けたやつがどうなったか忘れたわけじゃないだろ
おい!ゴールド以下の冒険者はこの線よりも後ろに下がれ!
などなど、さまざまな言葉が訓練場内を飛び交っていた
「アハハ!みんな大げさだねぇ。私はただ普通に指導するだけなのにね」
そう言いながら俺を見てくる
「はは、お願いします」
そう言いながら俺は無意識のうちに爽やか笑顔をだしていた
内心俺は
この人は何をやったんだよ。回復魔法が必要になるって相当だぞ
珍しくビビっていた。おそらく笑顔を出したのも少しでも心象を良くしておこうという俺の気持ちが行動として現れたものだと思う
「顔がいいからって私は手を抜かないから安心して。私が満足するまで指導してあげる。知ってるかもしれないけど私の得物はこれなんだ」
そう言って笑いながら腰につけたポーチから人の背丈ほどある両手剣を取り出す
「ハハハハハ…美人な人に顔がいいって言われると照れますね」
え?俺殺されるの?
「え…美人」
「そうですよ。アメリアさんほど美人な人は見たことありませんよ」
助けて!ダイア!
「…もう!年上をからかうもんじゃありません」
そういうとアメリアは片手で両手剣を一振りする
ブヲヲォン
周囲に強い風が吹く
あばばばば
おいまじか。あの新人、あんな状況でアメリアさんを口説きだしたぞ
きっと恐怖で頭がおかしくなっちまったんだ。俺だったら既にちびってる自信があるぜ
なに言ってんだ。おめぇはしょっちゅう魔物にビビッて漏らしてるだろうが
なんだと!
がハハハハハ!!!
誰か助けて!
その時、俺は気づいてなかった
アメリアさんの顔が赤くなっていたことに
そして、同時刻
王城のパーティー会場にて
王国の要人の相手をしていたダイアは唐突に脳裏にあるイメージが浮かんできた。それは
「クロスが女の人を口説いている気がする」
だった
残念ながらクロスの助けを求める声はダイアに届かなかったようだ
クロスは今日冒険者ギルドに行くって言ってたけど、まさかね
そう考えながらもダイアの脳裏にはあらかじめ把握しておいた美人またはかわいい冒険者の顔が浮かんでいた
「クロスって誰だい?」
「いえ、なんでもありません」
そんな思考を目の前にいる貴族によって現実に戻される
コイツはこの国の宰相を務めている男
クロスには言ってないから知らないだろうけど、私の両親は商人をしていて、国の食糧事情を左右できるほどには成功している
そんな存在を国が無視できるわけがなくたびたび王国主催のパーティーなどに招待されるのだ
私はそんなのに興味がないのでいつもは不参加なのだが、両親からどうしてもと言われたときだけ参加している
「いやぁ、それにしてもダイア君、君はあいかわらず美しいな。君の前では私がつけている宝石たちの輝きもかすんでしまうよ」
はぁ、またこれだ
「それにしても、君もそろそろ結婚を考える年頃だはないかね?」
これが私が来たくない理由の一つとなっている
「私の息子がなんだが、今は魔法騎士団の副団長を務めていてね。将来は王宮騎士団にはいるのも確実って言われてるんだよ。それで、一度私の息子とあってみないかね」
コイツは私に会うたびに息子との見合いをさせようとしてくる
私が美しすぎるのは知っているが、それでもこうなんども言われると煩わしい
父が言うには、ほかの貴族からも縁談の話がでているらしい
はぁ、はやく帰ってクロスに会いたいよ