アレン
「おい、ちょっと待て」
「なんだ」
「今の話を整理すると、お前は<契約>の力で無理やりオーバーロードの最終段階にまで到達して、その上で使った能力は覚醒者としての力だったってことか?」
「そうだな。お前と戦っていた時も、剣が命中した瞬間に<終の剣>を発動してお前が斬られたという事実を刻みつけた。だから防御しようとも関係なく触れた瞬間に俺の攻撃が命中した判定になり、ルナの持つ効果で消滅していた」
「?ルナの効果だと?」
「あぁ、俺の持っているこの剣<月光の吸血姫>は元の遠距離攻撃完全反射に加えて、<血液吸収><血液貯蓄>そして、<真実の鏡>という、俺の持っている力を完全に引き出す能力がある」
「なるほど つまり?」
「俺はルナの能力を使用している間だけ、契約した時の力を使うことができる。もちろん、リスクはある。一瞬でも発動しようものなら俺の肉体は即座に爆裂して俺は死ぬ。だから、極限の一瞬でしか使うことはできないし、使ってから10秒は間隔を開けないと発動すらできない」
「いや、10秒待てばいいのなら強いだろ」
「いや、これでも足りないんだ。俺が、魔死領域の悪魔たちを殺すにはこの程度じゃ足りない」
「! そうか、そういえばお前は魔死領域の魔物たちを狩ってるんだったな。…どこまで行けたんだ?」
「中層までだ。中層の悪魔たちと戦って生きて帰ってくるのがやっとだった」
「そうか、それが」
お前の絶望か
「数百人が犠牲になって残りの数万人が救われるのなら、俺はその道を選ぶ。それが、絶望に勝てなかった俺にできる最善の手段だから」
「だからお前はこの道を選んだのか…」
そうか、アレを見たのなら、無理はない…よな…
「なぁ、一つ疑問なんだが、そもそもの話、アレンはどうやって蘇ったんだ?<契約>の強制力によって死んだのなら蘇生の儀式を行っても蘇生した瞬間に死ぬはずだろ?」
「あぁ、それには、俺の今の身体の状態を説明する必要がある。何度も言っている通り、俺の肉体はもはやただの人間のものではない。俺の身体は、吸血鬼の特性を引き継いでいる」
「なに、吸血鬼の特性ということは、血液に興奮して理性の制御が難しくなる代わりに身体能力の大きな向上をもたらす血の渇望、を持ってるってことか?」
「あぁ、といっても、俺はその特性を使ったことはないし、むしろ苦しめられてきた」
「どういうことだ?」
「普通の吸血鬼だったらしようと考えることすらしないだろうが、俺は、人からの血液の吸収は一度も行わなかった。もちろん、今までに粛清した害虫どもからもな。粛清対象から血液を奪ったらそれは、粛清ではなく吸血行為に成り下がってしまう。この血の渇望ってやつは厄介で、本能に直接語り掛けてくる。日常生活の中で何度も気が狂いそうになった。一度、暴走してしまったこともあったしな」
それは、囚人の更正施設でのことだよな
「長い年月がたったある日のことだ。俺は、いつものように修行のために剣を振っていて、気づいた。俺の剣が、鈍くなっていると。あまりにも緩やかに変化していたから気づかなかった。吸血鬼の身体は、長期間血液の摂取をしないと身体の機能が弱っていくことにな。今の俺は、全盛期の十分の一の実力もないだろう」
十分の一だと、あれでか
「だが、お前はまだ疑問に思うだろう。緩やかに身体能力が落ちていくのなら、どうして急激に俺が弱くなっているのかと」
「あぁ、それは思ったが」
「前に話したよな。俺の<願う者>と<断裁>について。<断裁>は俺の強い正義の願いに応じて<願う者>よりも遥かに大きな何十倍もの力を俺に与えてくれる能力だ。だが、決して揺らいではいけない」
「……なるほどね。納得したよ」
「分かったか」
「正義の心が揺らぐなんてことはあってはいけない。迷いながら正義を執行するなんてあってはいけない。お前は枷をつけようとしたんだ。もし自分が道に迷ってしまった時、無理矢理力を奪うことで自分が何もできなくするために。まぁ、それはお前が強すぎて意味を成さなかったということか」
「そうなるな」
まったく
「つくづく、お前は化け物だな」
「それでも、俺にはどうすることもできなかったがな。もうすぐ世界は終焉を迎える。それを知っているのは俺と、オーバーロードの力を持ったやつらのみ。このままだと世界は滅びる。もはや、俺の正義を貫いていられる次元にない。というのに、」
「<断裁>に縛られるのか」
「……」
アレン、お前になら
「なぁ、アレン。もしもだ、もしも世界を救う手段があるっていったらどうする」
「なに?」
話してもいいかもな
「こんなに大勢を犠牲にすることなく、魔死領域の悪魔を殲滅し、その中心にいる絶望の悪魔まで全部を消し去る確実な方法があるっていったら、どうする?」
「……あるのか?そんな希望が」
「いいか、聞いてくれ」
それから俺は、俺が考えているすべてのことを話した。俺が知っていること、なにが必要なのか、最終的にどういう結末を迎えるのか
すべてを話し終えた時、アレンは
「なんだ、それは、それじゃあお前は」
涙を流しながらクロスのことを見ていた
「分かってる。でも、それでいいんだよ。俺が始めた物語だ。俺がすべてを終わらせる」