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いずれ最強伝説  作者: piccle
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明かされるアレンの過去

「この話をする前に、クロス、俺はお前に確認する事がある」

「おう、なんだ」

「お前のその姿はなんなんだ?オーバーロードは魂が覚醒し生物の理から外れた存在であり、その最終段階は希望を力に変換して世界の絶望と戦う希望という概念そのもの。だが、お前が纏っているその力は」

「絶望そのもの、だろ?」

「…そうか、やっぱりそうだったのか」

「俺は魂が覚醒したわけじゃない。この世に創られた時から力を持っていた。その力の本質を忘れていただけでな。完全にこの力に目覚める前に使っていたのは、俺の中に残っていた光の残りカスみたいなもんだ。俺の中にもう光はない」

「そうか…なら今度は俺が話す番だな。まずはじめに、お前たち全員がしている勘違いをなおそう」

「勘違い?」

「ああ、そうだ。お前たちは皆、勘違いをしている。お前も、アイクも、アークも、勘違いをしている。そもそもの話しだが、俺は()()()()()()()じゃない」


 オーバーロードじゃない。そうアレンの口から軽く放たれた言葉に


「……なんだって」


 クロスは動揺していた。開いた方が塞がらないとはまさに今のクロスの事を言うのだろう


 アレンが、オーバーロードじゃない?


「そんなわけあるかよ」


 信じられるわけがなかった。信じられるはずがなかった。もしそうなら、もしアレンが言ってる事が本当なのだとしたら、それは


「じゃあお前は、ただの覚醒者で、ただの人間のままで神を超えた存在である俺を何度も殺したっていうのか」


 生身の人間のままで神殺しにまで至ったということだ


「ただの人間、というのは少し、いや、かなり違うな。今の俺は、人間というには些かかけ離れ過ぎている」

「些かではないだろ」

「クロス、お前は知ってるよな。俺が10年ほど前に事を」

「10年前…それって、クロードを討伐したことか?それとも、」

「吸血鬼を討伐したことであってる」

「それなら知ってるよ。といっても、お前がクロと水の都 ウィンディーネで10分程度戦って、最後にはお前がクロの肉体を粒子レベルにまで切り刻んで勝利したってことだけだけどな」

「よくそんなに細かく知ってるな。当時の新聞でもそんなに細かくは載ってなかったはずだが、まるで見てきたみたいに」

「あぁ、そうか。アレンは知らなかったな。お前がかつて殺したと思っている吸血鬼の神、クロードだが、あいつは死んでなんかないぞ」

「…そうか、俺が終わることを覚悟してすべてを振り絞ったってのに、アイツあれで生きてたのか。昔のこととはいえ、悔しいな。…なぜそのことをお前が知ってるんだ」

「闇のスライムを覚えているか?」

「覚えている…そうか、そういうことか。やつもお前と同じオーバーロードだったのか。そうか、これで全部、()()がいった」

「オーバーロードではないけどな。俺の力は<世界の絶望を背負う者(ブラック・メシア)>希望とは正反対の、絶望の力だ。これは、俺にしか扱えない。闇は、俺だけの力なんだ。クロも一時的に正気を取り戻しているが、じきに、無に帰るだろう」

「…詳しくは話してくれないのか。いいだろう、今は俺が話す番だったな。話を戻そう。俺はかつて、水の都 ウィンディーネにてクロードと命を賭して戦った。文字通り、命を賭してだ。己の才能も、運命も、未来も、愛する人も、すべてを捨てて最後の一瞬を過ごした。今でも鮮明に覚えだせる」




 血の記憶



 これは、俺が人間としての最後の記憶だ


「フハハハハハ!どうした!小僧!それだけか!もっと抵抗してみせろ!」


 高笑いをあげ、鋭い剣戟を次から次へと繰り出してくる吸血鬼の神だという化け物、クロード

 そして、そんな存在と一騎打ちをしている俺の周りには


「アレン!アレン!!アレン!!!」

「行っちゃだめよ!クライス!あなたもアリシアを止めて!」

「むりだ!俺はやつの魔法を防ぐのに全力でそんな余裕がない!」

「情けないわね!それでも神童と呼ばれた賢者なの!」

「無茶いうな!」

「アレンー!!!」


 俺の仲間たちがいた

 今俺は、いわゆる死の危機というやつにさらされている

 仲間たちが俺の名を叫んでいる。俺の愛する人たちが、勝て、と叫んでいる

 だが、それは


「どうしたどうした!先ほどまでの威勢はどこに行ったのだ?もっと抵抗してみせよ!」

「ぐぅっ ぐぁぁぁ」


 あまりにも、無力なものだ

 おとぎ話で、仲間や守るべき存在からの声援で力がみなぎり悪を倒すという話はよくあるが、そんなものは実際には起こりえない。結局それは物語の中でしかないのだ

 現実にそんなことはありえない


 俺が今まで磨き上げてきた剣も、身体能力も、感覚も、そのすべてが意味を成さない

 英雄の中でも最強クラスだと言われている俺ですら、目の前の存在には矮小な1生物にしか映らないだろう

 俺は、


「お前を倒して!みんなを守る!」


 こいつには勝てない


「ほう、まだそんなことを言う気力があるのか。先ほどから我の攻撃を凌ぐばかりで反撃すらできていないお前がか?」

「諦めなければ必ずチャンスがやってくる。そのチャンスが来るのを待っているだけだ。チャンスが来るよりも前に倒れては意味がないからな」


 今のままじゃ、コイツには勝てない


「いいだろう!ならば我ももう少しだけ本気を出してやろうではないか!」


 そういうと、クロードの俺に対する攻撃はより、苛烈を極めた


 吸血鬼の牙 触れれば即座に血液を吸収され、かすっただけでも貧血の症状を引き起こす

 吸血鬼の爪 俺が持っている<世界を照らす希望の光(サン)><闇すら照らす希望の光(ルナ)>以外のすべての物質を切り裂く

 吸血鬼の尻尾 クロードの重量を支え機動力を与えるとともに、超感覚を兼ね備えており背後からの奇襲はもちろん1キロメートル先からの狙撃も探知する

 吸血鬼の大翼 空中滑空能力を与え、その翼がもたらす暴風は石壁をたやすく吹き飛ばす


 これはすべて、この街を護るため、愛する人々を護るために戦い、そして命を落とした者たちから俺に託された情報だ。

 聞いただけでもぞっとするだろう。どんなものだろうと攻撃を防御することができず、正攻法以外では倒すことができないのに元の身体能力ですら人間を遥かに超越している


「フハハハハハ!愉快愉快!数千年という時を生きてきたが、お前ほどの実力者にあったのは初めてだ!ここまでの力を我に使わせたことを誇るがいいぞ!」


 そう言いながら、クロードの攻撃はより一層加速していく


 ふざけるなよ。なにが誇るがいいぞだ。俺の<願う者>はコイツに会ったときから発動し続けている。俺が願った通りに、俺がこいつを倒すことができるよう身体能力を限界まで引き上げ、それでも足りないから一瞬で全身の筋線維が断絶するほどまで強化し、それを無理やり<願う者>の効果で修復し続ける

 それでも俺は


「まだ耐えるか!いいぞ!もしかしたら我は、お前に会うために今日まで生きていたのかもしれないな!」

「ぐっ、ぐぉぉぉぉおおおお!」


 コイツには勝てない。俺は今、いまだかつてないほどの速度で成長しているだろう。人が一生をかけて到達するような境地に一瞬でたどり着くほどの速度で俺は成長している。だが、それでも


「どうした?もう限界などというつまらないことをいうのではないだろうな」


 圧倒的な実力差に、身体だけでなく心まで軋んでいた

 だが、俺は誰にも助けを求めることができない


「くっそ!何が起こっているのか見えない!アリシア!カレン!見えるか!」

「……悔しいけど、何もみえないわ」

「私もです」

「ちくしょお、俺たちは、仲間のアレンが戦っているって時に、無力なのかよ」


 もはや俺たちがいるのは、人間がたやすく踏み入れるような領域ではないのだから

 と言っても、俺はその世界にたった今入門したばかりなのだ

 そんな俺が


「ふむ、人間にしてはよくやったというべきか。殺すのがおしいな」

「アレン!そんなっ!」


 いつまでも攻撃に耐えていられるわけがなかった

 別にクロードの攻撃を喰らったわけではない。俺自身に限界が訪れたのだ

<願う者>の効果は俺の願いの強さに比例して俺が願ったことのすべてを叶えるという超常的な能力だ。

 決して俺の願いが弱かったなんて言わせない。俺が今日まで生きてきた中で、一番効果を実感したし、助けてくれた。それでも、コイツには手も足もでなかった

 俺が願ったのは、人々を護りたいなんて、そんなに大きなものじゃない

 仲間たちと笑って過ごせる明日が欲しい、ただそれだけしか望んでないのに

 俺の願いは聞き届けられなかった


「立ち上がることはできるか?」

「……」

「そうか。そこまでしたのか」


 もはや俺は、声を出すことすらできなかった


「ふむ、お楽しみの時間はもう終わりか。ならば、お前を殺すよりも先にお前の仲間たちを殺すか」

「!!」

「ほれ、ちょうどいいのが来た」


 クロードが指を指した先に、なんとか首を傾けて目をやるとそこには


「アレンー!」


 こっちに向かって走ってくるアリシアの姿があった


 おい、よせ


「っっっ!!!ぐぅぅぅぅ」


 全身に力を込めて立ち上がろうとするも、アレンの身体はピクリとも動かない

 どれだけ立ち上がろうと思っても叶わない。<願う者>が発動していたとしても


「まずは一人目だ」


 待て!やめろー!


 アレンの必死な叫びは、世界には届かなかった

 唯一動かせる瞳だけが、


「ア、レン」


 ゆっくりと、クロードの尻尾によって身体を貫かれるアリシアの姿を映していた

 その時のことは、いつまでも忘れないだろう。俺の心を深く傷つけ、そして、

 俺が覚悟を決める最後の一押しになったのだから


「!なんだ、その姿は。なんなのだ。その力は」


 俺は、<契約>に俺の持っているものすべてをかけた。俺の命、俺の能力、俺の運命、みんなとの明日、それらすべてをこの瞬間だけにかけた。


「<希望を導くもの(オーバーロード)至高領域(オーバー・ザ・ヘブン) 希望を叶えるもの(ホープ)> これが、最期の俺の姿だ」


<契約>の内容は至ってシンプル。この戦いの結果がどうなろうとこの戦いが終わった瞬間、俺は死ぬ。その代わり、<契約>は俺に神にも等しい力を与える。ただそれだけだ

 俺は今


「終わりにしよう」

「いいぞ!己のすべてをなげうって我に挑むか!」


 オーバーロードの最終段階に到達していた

 全身に漲る希望のエネルギー。それは俺の存在ごと消し去るほどに強烈だったが、俺にはほんの一瞬で十分だった。

 俺には、すべてが理解できた。今までの人類史の中で誰ひとりたどり着くことができなかった剣の究極地点に俺が到達したということを


「お前はもう、俺の剣から逃れることはできない」


 この時すでに、俺は勝利していた。この力に名前を付けるなら、


「<終の剣>」


 これがふさわしい


「その見た目の変化もそうだが、内包するエネルギーが変わったな。ようやく我に対して本当の意味での全力を使う気になったのか」

「あぁ、これで終わりだよ。()()()

「では、決着をつけるとしよう」


 俺とクロードは少しでも動けば相手に触れる距離までお互いに歩いて近づいて行った

 どちらかが動き出した瞬間、すべてが決まる。それは互いに理解していた

 先に行動を起こしたのは


「最強の神である我が死を恐れて動かないというのは最強であるという矜持に反する!我から行くぞ!」


 クロードだった。

 クロードの動きは光を超えた。それは、反応してガードするなど不可能な、確実にアレンを死に至らしめる一撃だった

 一瞬にも満たない時間の後、


「俺の攻撃をは、すでに終了している」

「!グヲォォォォ!


 ダメージを負ったのはクロードの方だった。アレンに到達したと思われた腕は自らの身体の遥か後方に吹き飛ばされていた

 だが、ここでもさすがというべきか


「ほう、我にダメージを与えるか」


 クロードには少しも焦った様子がなかった

 それどころか


「今の一撃、我には感知できなかった。我が攻撃を仕掛けた時点ではお前は動いていなかった。それは紛れもない真実だ。そして今の我の一撃、あれは世界の法則に縛られた状態で繰り出すことのできる最大の速度だった。後から動いたのでは確実に間に合わないはずだ。だが、実際にダメージを負ったのは我の方だ。つまりは、お前は我よりも後に動いたうえで我よりも先に攻撃を当てたということになる。…それがお前の能力というわけか」


 アレンが今したことを冷静に考える余裕まであった


「だが、それがなんだというのだ!」


 クロードが叫んだ瞬間、クロードの腕の周りに紅い瘴気が集まっていき気づけば吹き飛ばしたはずの腕が再生していた


「我には特殊な能力があってな。<紅蓮の狂気(ブラッド・カーニバル)>今まで奪ったすべての生命のエネルギーを自由自在に操ることができる。ようは、我は今数万人分のエネルギーが集約した存在なのだ。言いたいことは分かるな?」

「……」

「我は理解している。我がお前に勝利する方法、それは、我が完全に死ぬ前にお前を殺すことだ。さぁ!最後の時を楽しもう!」


 正真正銘、紛うことのない決着

 クロードは先ほどのようにアレンに対して攻撃をしかけた

 アレンに対して攻撃しようと身体を動かした、その瞬間にはすでに粒子よりもさらに細かく切り刻まれて完全に肉体が消滅していた。地面にはクロードの血だけが残っていた


「これで終わった。これで全部終わったんだ。<終の剣>これは、剣の究極地点に到達した俺だからこそできる技術だ。俺の剣は時すらも超えて必ず命中する。どんなに素早く動こうとも、俺の剣が命中したという事実からは何人たりとも逃れることはできない。時の流れすらも断ち切る俺の剣は、一撃で無限と化す。クロード、あんたが何万人いようが関係なかったようだな。……これで、みんなの明日は守れたかな」


 しばらくして、アレンの肉体も爆裂四散して死亡した


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