理不尽の押し付け合い
昨日の短かっ
マリカ、アイク、アークの3人が見守る中、アレンとクロスの戦いは加速していった
それは文字通り、戦闘の速度が上昇していくという意味で、2人は今、光すら置き去りにする速度で剣を交えていた
それはオーバーロードの身体能力をもってしても捉えることが不可能なもので、3人ともに能力を使用して感知していた
そんな超高速の世界で
なぁ、アレン。それがお前の能力なのか?
クロスはアレンのことを考えていた
もしこれが、俺の考えている通りの能力なのだとすれば、これはあまりに酷すぎる
能力を使うために大きな犠牲を払わなければならない能力。だが、だとしたら少しおかしい
クロスはアレンに対して違和感を感じていた
「なぁ、アレン」
「…」
2人はもはや光を置き去りにして動いている存在、そんな存在に対して声が届いているのか分からないが、クロスは
「お前、前よりも弱くなってないか」
そんな言葉をアレンに対して言っていた
初めて会った時からクロスはずいぶんと強くなった。それは単純に戦闘力だけを指すのではなく、精神的に、人として成長したということ
そんなクロスだから分かる
アレンが初めて会った時よりも遥かに弱くなっていると
かつてアレンから感じた、内に秘めた強い意志と力を感じないのだ
ケガをしてるとか、呪いの影響を受けているとか、そういう感じではない。もしそうだとしたらオーラで理解できる。つまりこれは、邪悪なもの以外の理由で弱くなっているということだ
本来だったらありえない
とはいえ、
「!!! クッソ!また能力を使わされた!」
それでもアレンは圧倒的に強いままだった
これで二回目、これで二回俺はアレンに殺された
アレンの持っている剣は、<世界を照らす希望の光>と対をなす存在である<闇すら照らす希望の光>、それが原因は分からないが変異したものだ
<サン>とは違い、<ルナ>にはすべての攻撃を完全に反射する能力がある
だから、俺が持っている<世界を覆う絶望の闇>によって超強化して放出した<無為と化す絶望の闇>をことごとく無効化されている
そもそもなぜ俺が闇で直接攻撃しているのかというと、アレンが纏っている鎧には俺の魔法による攻撃が無効化されるからだ
魔法の攻撃が効かないのではなく無効化される。こればっかりはどうしようもない
そして、当然のことながら剣による物理攻撃は一切通用しない
だからこそ俺は闇で攻撃しているわけだが
「っ! クソ!またか!」
どういうわけかアレンは光を使ってこない。もしかしたら<ルナ>自体に俺が纏っている闇を貫通する性質でもあるのかもしれないが、それでも何も纏わずに剣で攻撃すれば俺に剣が到達する前に闇の出力だけで止められるはずなのに、剣が闇に触れたと認識した瞬間には俺は殺されている
認識した瞬間には俺の魂ごと世界から消されるのだ
一体どういう能力だ?
そう思いながらアレンに対して再び近づいていくが
!
「どういうつもりだ」
アレンが急にその場で立ち止まったことで、クロスもその場で足を止めた
「クロス、お前の能力は一体なんなんだ」
「教えろと?」
「代わりにお前の謎を解消してやる」
「なに……」
唐突な提案、普通なら理解できない行動、アレンのそのすべてに困惑したクロスだったが
「<2÷2=2>世界線を自由に変更する能力。そして、<世界の絶望を背負う者>これは世界中にあふれる絶望のエネルギーを自由自在に操る能力」
迷うことなく答えるという選択をした
「世界線の変更。俺が無に帰したはずなのにお前が無傷だったのはそれが原因か」
「そうだよ。それで、そっちはどうなんだ。」
「……話すと長くなるが」
「それは困るな。なら、世界の時を止めよう」
そう言いながらクロスは運命を変えるキッカケになった魔法へと絶望のエネルギーを込めていく
「絶対暴君 改め <世界の支配者>」
クロスの魔法が発動した瞬間、アレンとクロスを除いた、宇宙を含むすべての存在が時の歩みを止めた
「これは」
「一度見せたことがあっただろ?<絶対暴君>あれを神格化した奇跡だ。前のは魔法の領域内だけで無敵だったが今はこの世に存在するすべてが俺の魔法の対象だ。それこそ、現在進行形で膨張し続ける宇宙の果てだろうが俺は一瞬で移動できる」
「…最初からこれを使えば俺を倒すことはできたんじゃないのか?」
「それが無理なんだな。奇跡というわりには不便でな、この奇跡が発動している場合には世界中の絶望のエネルギーを使用できない。つまりは俺の中にある闇だけしか使えないんだ。そしてそれは」
「俺のこの鎧を貫通できるほどのエネルギーがないのか」
「そういうこと。たっく、お前はどんだけ化け物なんだよ。世界の時を止めてるのに攻撃が通用しないとか理不尽すぎるだろ」
「そうか?俺はお前の方がよっぽど化け物だと思うぞ。魂が消滅してるのに、そうなった瞬間に俺の攻撃が当たらなかった世界線に変更するなんてズルすぎるだろ」
「ふっ、ははは」
「ふっ、」
静止したときの中で二人は笑いあっていた。先ほどまで行われていた死闘がなかったかのように、二人は心の底から笑いあっていた
「それじゃあ話せよ。お前になにがあったのか」
「?俺の能力じゃなくてか?」
「なに言ってんだ。お前が言ったんだろう。俺の謎を解消してやるって」
「いやそれは、いや、別に話してもいいか。クロス、お前になら話してもいいかもな」
次回はアレンの過去、弱体化の理由