俺が帰ってきたぞ!!!
あれからどれほどの時間が経ったのだろうか
俺は、今、すべてを取り戻した。深く暗い闇の海から俺自身を完結させるすべてを取り戻した
「…長い、とても長い夢だったな」
「そうだな。本当に長い夢だったよ」
「もう、満足しただろ?」
「あぁ、俺はもう、大事なものを手に入れていたんだな」
「現実世界は凄いことになってるぞ」
「あぁ、たっぷりと感じてるよ」
「やるべき事は理解してるな」
「あぁ、たっぷりとな」
「なら、こんなところにいないではやく行け。もう、俺は必要ないだろ?」
「悲しいな。もうお前には会えないのか」
「ずっとお前の中にいるさ。俺はお前だからな。大事なものを守るためにはこの世で最も罪深いものにならなくてはならない。闇を」
「受け入れた。もうお前は俺と一つだ」
「そうか」
「んじゃ、俺もう行くわ」
「おう。 世界、救ってこいよ」
「任せろ。それが俺がこの世に生まれた意味だ」
パチ
…何か、夢を見ていた気がする。記憶を全部取り戻したはずなのに、なにか足りないような気がする
なんだろうなこの気持ち。いや、いまはそんな事いいか
「ふぅ…スゥー 俺が帰ってきたぞ!!!」
クロスの目覚めの叫びは森中に響き渡り、至る所から鳥たちがバサバサと飛び立ち、動物たちだけでなく魔物たちまでもが一斉に動き出した
本能で理解しているのか、今目覚めたものが何者なのかを。この世に帰ってきたこの男が何者なのか理解できているのか
理性なき生物は一斉に動き出した
「俺が眠っちまってからあんまり時間は経ってないようだが、おかしいな。ダイアとアッシュがいない。あの二人が負けた可能性は…十分にあり得るか。アイクは普通のオーバーロードじゃないからな。だが、だとしても二人の肉体がここにないのはおかしい。どこかに連れ去られたのか?何のために。それに、マリカをこの場に残していくのもおかしい。…とりあえず起こすか」
身体を少し揺さぶると、マリカはあっさりと起きた
「ん? クロス?………クロス?」
「そうだ。目が覚めたか?」
「え!あなたクロスなの!?」
「何言ってんだ。俺はどっからどう見てもクロスだろ?」
「そうだけど、髪が」
「え?」
言われて確認すると、夜のように漆黒だったクロスの髪は、流れ星がたくさん散りばめられたような、黒と白の入り混じった髪になっていた
「なるほど、陰と陽が合わさった結果こうなったのか」
「ねぇ、クロス。これからどうするの?」
「もちろんダイアとアッシュを救出しに行く」
「行き先はもう分かってるんだ」
「ああ。向かう先は帝国ヨルムンガンドの首都。でたぶん合ってる。前に転移門を調べた時に入手した座標とアッシュの現在地がそこそこ近いからな」
だが、これはよく考えるとかなりおかしいことだ。転移門を使わなければならないほど離れている精霊国家エルフーンから帝国ヨルムンガンドまでを、俺がちょっと寝てる間にアッシュたちを連れて行ったことになる
転移門は魔力さえあれば動くがそれでも起動には時間がかかるし、発動したら俺が転移門にした細工で強制的に俺の前に飛ばされるようにしたんだがここに来てない。つまり、
敵は転移門を使わずに超長距離を一瞬で移動する能力を持っているという事だ
これで転移門から離れた場所まで逃げられたら面倒だ
「<転移門>を使ってすぐに追いかける」
俺の敵は絶対に逃さない。どこだろうと必ず追い詰めてダイアたちを取り戻す
「帰ってきたのか…大体一ヶ月ぶりだな」
能力によって帝国に帰っていたアイクは、一度孤児院に帰ったり、身体を休めたりすることなく
「よぉ、アイク。おかえり。急に帰ってきてどうしたんだ?」
アークの元へと向かっていた
その真意とは
「おい、アーク。お前、僕に隠してることがあるだろ」
「…なんのことだい?」
「今から15年前、僕たちの国、帝国では最悪の疫病 キメラ病 が大流行した。死者は全人口の10%以上にまで到達した。それほどまでに超凶悪な病気が帝国では蔓延した」
「それがどうしたんだい?それは誰もが知ってることだし、それに、その病気の治療法を見つけ帝国を救済したのは君自身だろ?それがいまさらどうしたっていうんだい?」
「じゃあ、今から僕が聞くことについて教えてくれよ。お前なんだろ?15年前、キメラ病の蔓延と同時に起こった悲劇」
「…」
「特級危険カルト組織<絶望を飲み込むもの>がしたことの全てを」
「…」
そうアイクが言うと、アークは黙り込んでしまった
この沈黙の中で、2人はお互いに理解していた。アイクはその沈黙を咎めることはしなかったし、アークは沈黙を守ることをよしとはしてなかった。だが、
なんと言えばいいのか分からない
それゆえの沈黙だとアイクは理解していた
「なぁ、」
しばらくして、十分に考え終わったアークは、重そうに口を開いた
「俺が、全ての真実を話して、お前が考えている通りの事をしていたとしたら、お前はどうする」
「そうだな…」
今度はアイクが黙る番だったが、長い時は必要とはしなかった。結論はすぐに出たからだ
「全てが終わった後で、この世界から絶望を消し去り幸福だけしか残らない世界にした上で」
「あぁ…」
「お前と一緒に行ってやるよ」
「…え?行くってどこに?」
「さあな、どこなんだろうな。僕たちはもう、どこかに行き着くことが許されてないのかもしれない。もしかしたら永遠に闇を彷徨うことになるかもしれない。だけどよ、一緒に行ってやるよ。どこへだろうと。全てが終わったら、一緒に死んでやるよ」
その言葉を聞いた時、
「…」
アークは何かを口にしようとするも、何と言っていいか分からず、ただ静かに涙を流していた
「僕とお前、今まで犯してきた罪は2人のものだ。一緒に死んでやるよ」
「…なんでだ」
「あ?」
「俺は人類の未来を望んで行動した。お前は子供たちの未来を望んで行動した。俺と一緒に死んだら、子供たちの未来を見ることはできないんだぞ」
「そうだな。何十年、何百年後、あの子たちがどう生きて、その子孫がどう生きていくのか、永遠の寿命で見てみたいってのはあるけど」
「だったら」
「でも、お前を置いていくことはしねぇよ」
「だからなんでっ!」
「親友だからだ」
「っ! ふっ、くぅぅ」
アイクの言葉を聞いたアークは、今度は大きな声を出して泣き出した
「必要なものはもう全部揃った。魔族の肉体も魔王級のものが手に入った。僕たちは今さら止まれない場所まで来てるし、なにより、こんなところで止まるつもりはない。僕たちが世界を救う。そうだろ?」
「ああ!そうだな!」
「作業を急ごう。たぶんだけど、クロスがこっちまで飛んでくる。俺の<誘う夢の世界>が解除された。それに、力が急激に増してる。時間はない」
「分かった。アレンに協力するよう言おう。儀式は部下たちに全て行わせる。俺たちはクロスを迎え撃つぞ!」
「ああ、僕の<誘う夢の世界>とお前の<私はあなた・あなたは私>ならクロスに負けない。絶対に勝つぞ」
「ああ!戦いに勝利し世界を救うのは俺たちだ!」
今、世界は歴史的な瞬間に立ち会おうとしているのかもしれない
生物を超越したすべてのオーバーロードたちが一ヶ所に集まって戦おうとしている
この物語がどうなるのかは、誰にも分からない
この物語の結末がどうなるのか、たとえ全てを見通す神であろうとも予測不可能だろう
世界の命運はとっくに神の手から離れている
未来を創り上げるのは オーバーロードたちなのだから
「聖戦の幕上げだ!」
聖戦の決着をもって 犠牲の幸福編は終結します
この後 聖女編 を経て
最終決着の 世界幸福編 となります
いつも読んでいただきありがとうございます
完結まで読んでいただけたら幸いです
もし質問があればおっしゃってください。本編では使わないと思いますが、能力でできることなどにも答えようとは思います。
イマイチはっきりしていないことでも答えるつもりです