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地下の留まり木  作者: 石筍
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思い出 / 終章

 九月のある日、成実はいつもの通り聡が夕食の用意をするのを手伝っていた。今では成実一人でもそれなりの食事を作れるくらいには料理の腕が上達しているので、聡一人で作るよりも大分早く調理を終えられるようになっている。作った夕食を食べ終えて聡がゆっくりしているところに成実は声を掛けた。

「聡さんって、今年もお祭りに行くんですか?」

「ああ、そのつもりだが」

「…その、ここから少し離れたところですけど、再来週の日曜日に花火大会があるみたいで、それで、もしよかったら、一緒に花火見に行きませんか?」

「ほう、花火か、夏って感じでいいな。いいよ、見に行こうか」

「…ありがとうございます。」


 それから一週間ほど経った日の夕方過ぎ頃、聡の携帯の着信音が鳴りはじめ、確認すると翔吾からの電話だった。

「もしもし」

『聡か? 久しぶりだな! 元気にしてるか?』

「ああ。翔吾も相変わらず元気そうだな」

『当り前だろ? 俺は年中、体調は万全だからな。それで、今日電話掛けたのは確認したいことがあってさ。来週の日曜日の夕方以降って予定空いてるか?』

「悪いけど、その時間は予定あるな」

『えっ⁉ 俺から聞いといてなんだけど、聡に予定あんのか⁉ マジかっ! いやっ、ちょっと待ってくれ。予定ってひょっとしたら花火大会見に行くことだったりしないか?』

「よくわかったな。…翔吾が電話掛けてきた用件もそれだったのか?」

『そうなんだよ。己奈が皆で花火意味に行かないかっていう話を持ち掛けてきて、俺がいいなって言ったら他のメンバーへの連絡を任されてさ。でも元から花火行く予定だったんならちょうどよかったよ。成実も誘って、向こうで集合しようぜ。…あれ、そもそもお前ひとりで行くつもりだったのか?』

「いや、成実と行く予定だったが」

『…なあ、もしかして俺ら邪魔になるか?』

「邪魔?」

『いや、違うなら別にいいんだ。それで、向こうで集合するのでいいのか?』

「成実がいいなら俺は構わんけどな。成実に聞いてくれ」

『わかった。じゃあまたな!』

聡が電話を切ると、同じ部屋にいた成実が何かを聞こうとしたように見えたが、すぐに成実の携帯からも着信音が鳴り始め、何かを話す間もなく成実はその電話に出た。

「はい、もしもし」

『~』

「はい。高山さんもお元気そうでよかったです」

『~~~~~~』

「…はい、大丈夫ですよ」

『~~』

「はい、また来週」

成実が通話を切るとすぐに、今度はまた聡の携帯が鳴り始めた

「もしもし」

『よう、聡。成実は俺らと一緒でいいってさ。てことで、後で集合場所と集合時間送るからまた見といてくれよな』

「おう。じゃあまたな」

『ああ、また来週な!』


 九月の花火大会当日、空が茜色に色づいているくらいの時間に、成実は聡と集合場所に向かっていた。そこには今回も翔吾と享が先に着いて待っていて、成実たちが着いたすぐ後に己奈もやってきて、そこから皆で花火大会の会場へ向かった。会場にはかなり人が多く、屋台もたくさん並んでおり、花火が打ち上げられる時間までは五人で、落ち着ける場所を探しながら屋台を回ることになった。一番お祭りらしい騒ぎ方をしているのは翔吾で、財布の紐もいくらか緩んでいるようで色んな屋台で遊んだり何かを買ったりしていた。享は浮かれているような様子はないが楽しんでいないわけではないらしく、主に翔吾や己奈に付き合って屋台で一緒にお金を使ったりもしている。聡はいつも通りのペースを崩してはいないが、祭り好きだと言っていただけあって前回このメンバーで集まっていた時よりもさらに楽しそうにしている様子に見えた。しばらくみんなで屋台を回っていると、己奈が隣にやってきて話しかけてきた。

「成実ちゃん、楽しんでる?」

「はい、楽しいですよ」

「よかった。でも、翔吾君から聞いたんだけど、もともと今日は聡君と二人で来る予定だったんでしょ?」

「ええ、そうですけど」

「それって、成実ちゃんが聡君を誘ったんじゃないの?」

「何で、そう思うんですか?」

「聡君って、自分が普段行くところに誰かを誘ったり、誰かに誘われて普段行かないようなところに行ったりなんかは割とするけど、普段自分が行かないようなところに誰かを誘って行ったりはあんまりしないんじゃないかなって思って。聡君はお祭り好きだけど、そのために一人で遠くまで出向いたりはしなさそうだし、だったら今回ここに来ようって言ったのは成実ちゃんなんじゃないかなって」

「…そうですね、ここに誘ったのは私の方です」

「だから、もしかしたら成実ちゃんは聡君と二人で来たかったのに、私たちが邪魔しちゃったんじゃないかなって思ったりしてたんだけれど、どうなのかなって思って」

「別に、気にしなくても大丈夫ですよ」

「本当に? 二人で来たかったっていうわけじゃないの?」

「…そういうのが全くないというと嘘になるかもしれませんけど、でも、どっちの方が楽しいかで言うと多分こっちのほうが楽しいと思いますし、それに、私は皆さんのことも好きですから、今日皆さんと会えて嬉しいです」

「…ふふっ、そっか。成実ちゃんはいい子ね~。じゃあ、いっぱい楽しまなくちゃね。今日の成実ちゃんの分のお金は私が出すから、たくさん楽しんでね」

「え? いえ、そういうわけには…」

「遠慮しないの。それに、私も成実ちゃんのこと好きだから、ちゃんと楽しんでほしいもん」

「…ありがとう、ございます」

「だけど、もし本当に迷惑だったら止めるから、その時はそう言ってね」

「迷惑だなんて思いません。今みたいに言って貰えて、凄く嬉しいです」

「よかった。じゃあ、今日はみんなと一緒に、思う存分楽しみましょう」

「はい」

その後、花火が打ちあがる時間には聡と享とで見つけてきた場所で、みんなで花火を見ながら喋ったりしながら過ごし、すべての花火が打ちあがり終えた後は最初の集合場所まで五人で一緒に歩いて向かってそこで解散した。結局聡といつも以上に喋ることはなかったが、聡も成実も十分に楽しむことができたので、成実も満足した気持ちで聡と一緒に彼の家に戻り、その日を終えた。



終章『巣立ち』


 年末年始をまたいだ二月末、実家に帰っていた成実が聡の家に戻ってきて、いつもより真剣な表情で聡に話しをしてきた。話の内容は、成実は今年の四月から実家に帰って暮らすことにして、大学にも復学するつもりだというものだった。聡も、成実が考えて決めたことならそこまで心配する必要もないだろうと思って了承し、成実も特に反対されるとは思っていなかったようで、その話はそのまますんなり終わった。そこから一月が経ち、成実が実家に帰る日。成実が持ち帰る荷物を確認し終えて、聡の家を出る前に、彼女は聡に声を掛けた。

「聡さん、これ、お返しします」

そういって成実が差し出してきたのは聡の家の合鍵だった

「…いや、休憩所の鍵だとでも思って成実が持っとけばいいんじゃねえか? 要らないって言うなら返してもらうが」

「…だったら、まだ貰っておきます。ありがとうございます。それと、今後も、月に一回くらい会いに来てもいいですか?」

「ああ」

「それじゃあ、二年間もお世話してくれて、ありがとうございました。…いってきます

「…いってらっしゃい。ほどほどに頑張れよ」

「はい。」


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