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地下の留まり木  作者: 石筍
7/10

交流

「あの、小野さん」

「どうしたの?」

「皆さんって部活でボードゲームをなさってたんですよね?」

「ええ、そうよ」

「なのに、なぜ公園で缶蹴りしてるんですか?」

成実たちは今、駅からしばらく歩いたとことにある公園にいる。公園と言ってもかなり広い敷地を持ち、ちょっとした林なども含まれているくらいなので範囲を決めて遊んでいた。今は翔吾が鬼をしており、成実は己奈と同じ場所に隠れている。

「みんなで外で遊ぶのも楽しいじゃない」

「楽しいですけど…。小野さんがこういうことしようって言い出したんですか?」

「あら、よく分かったわね」

(やっぱり)

恐らく己奈が言い出した後、翔吾が乗り気になり、聡も割と面白がって参加し、享は意見する間もなく参加させられることが決まったという感じの流れで始まったことのような気がする。

「…小野さんから見て、他の三人はどういう方なんですか?」

「そうねぇ。享君は責任感の強い真面目な頑張り屋さんで、翔吾君も軽そうに見えるかもしれないけど意外と真面目でもあって友達思いで、聡君はどちらかというと自分から人と関わろうとはしないタイプなのに人の事を気に掛けちゃうような人、かな」

「そうなんですね」

「成実ちゃんから見た聡君はどんな人?」

「そう、ですね。今小野さんが仰ったみたいに優しいし、色んなこともできるすごい人、だと思います」

「へぇ~」

「…どうかしましたか?」

「ううん。ほら、聡君ってごろごろしてる怠け者っていう風にもよく思われるから、そんな風に思ってくれてるのがなんだか嬉しくて」

「…そうですね。高校時代の皆さんはどういう感じだったんですか?」

「人柄とかはその時からあんまり変わってないように思うな~。まず享君は、高校生の間は試験もずっと一位をとり続けて、宿題とか授業態度とか、礼儀作法とかも完璧な、模範的な優等生って感じだったの。だから先生たちからもすごく良く思われてたし、他の生徒たちからも尊敬を集めてて、何かあったら頼りにされるし、教室ではいつも周りに数人の人が集まってたわ。翔吾君は一見したらチャラチャラ~ってした感じだったから、初対面の人とか、規律を重んじる人とかからはそこまで良く思われないこともあったけど、友達思いだったし、宿題もちゃんとやってたり、試験でも大体上位二割くらいには入ってたから、問題児っていうような扱いを受けたりもそれほどなかったし、友達もかなりたくさんいたみたいよ。むしろ問題児扱いされてたのは聡君で、と言っても素行が悪かったりしたわけじゃ全然ないんだけど、宿題とかを平然と忘れてきちゃってたりとか、自分が正しいと思ったことは相手が先生だったとしてもお構いなしに対立しちゃったりとか、それなのに試験では毎回上位一割には入ってたりしたから、先生たちからしたら扱いづらかったのかもしれないけど、あまり良くは思われてなくて。それに加えて他の生徒との交流もあまりなかったから、周りからちょっと浮いてたかもしれないわね。そんな感じだったから、優等生の享君が私たち、特に聡君とよく一緒にいたことは、先生たちからも、他の生徒たちからも不思議がられてたような気がするし、享君の事を尊敬してた生徒の一部からもあまり良くは思われてなかった気もするわ。ただ、聡君は気にしてなかったみたいだし、一部の先生とは友達みたいに仲良くしてたり、聡君に助けになってもらったことがある子たちからは良く思われてたりもしてて、学校で聡君絡みの問題が起こったりしたことはなかったね。」

「皆さんってすごく仲がいいですけど、その時からずっとそうなんですか?」

「そうね。はっきりした理由は分からないけど、なんとなくずっと仲良くいられてると思うな~」

「さっき、駅前の集合場所で聡さんと七瀬さんが軽く言い合いしてた感じでしたけど、以前からああいう感じなんですか?」

「うん、高校の時からね。でもお互いにそんなに重く考えてないみたいだし、それは翔吾君も私もそう感じてるから特段気にしてないわ。せっかくだから、後で享君とお話しするついでにそのことを聞いてみたら、多分わかるんじゃないかな」

「そうなんですね。じゃあ、後で聞いてみます。」

 公園で一時間ほど缶蹴りや増え鬼などをした後、翔吾の提案でカラオケに行くことになったが、享は辺りで休んでおくと言って一旦別れることになった。成実も、享とも話してみようと思っていたのもあったので、聡たちと別れて享についていくことにした。翔吾は享に対して軽口をたたいていたが、みんな特段気に留めてはいない様子だったのでこれもよくあることなのだろう。

「君は一緒に行かなくてよかったのか? 俺は本当にただ休むだけで、面白いことはないと思うが」

「ええ。さっきの公園ので疲れたとか、カラオケに行ったことがないというのもありますけど、もしお邪魔じゃなかったら七瀬さんともお話しできないかと思ったので」

「それなら俺は構わない。喫茶店にでも行こうかと思っていたんだが、それでいいか?」

「はい。ありがとうございます」

それを聞いて歩きだした享についていくと、駅の周辺から少し離れた、住宅地に近い場所に一軒の喫茶店が営業していた。中に入ると一昔前の落ち着いた喫茶店といった雰囲気が漂っており、店主らしき年配の男性が迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。またご来店いただき誠にありがとうございます。本日はお連れ様もご一緒なのですね」

「お久しぶりです。二人用の席をお願いできますか?」

「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」

店内には数人の客がいたが、成実たちは店の奥側にある、他の席から少し離れた席に案内される。そこは元々一人用の席だったが、店主がイスとテーブルを持ってきて二人席にしてくれた。

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。どうぞごゆっくり」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

享と成実は席に着き、それぞれ、享がおすすめだというロールケーキとコーヒーのセットを頼んだ。

「七瀬さんってよくここに来られるんですか?」

「今は年に一度くらいだが、高校の頃は一人でゆっくりしたい時なんかによく利用させてもらっていたよ」

「毎年、この集まりのときに来るんですか?」

「ああ。俺は元々静かな環境の方が好きだからな。さっきみたいにカラオケとかボウリングとかに行くことになったら、休憩をはさむのにちょうどいいから一旦別れてこの店に来るんだ。」

「それだと私がついてきたのは迷惑じゃありませんでしたか?」

「気にする必要はないさ。高山みたいな騒がしい相手じゃなければ問題ない」

そういった話をしていると、先ほどの店主が注文したものを持ってきてテーブルに並べてくれた。コーヒーのいい香りがする。成実はコーヒーとロールケーキを、それぞれ一口ずつ味を見てみた。

「美味しいですね」

「そうだろう? この店の雰囲気も品質も、当時から気に入っているんだ」

「それで、皆さんって今でもこうして集まるくらい仲がいいですよね。高校の頃からずっとそうなんですか?」

「まあ、そうなるな」

「今日、集合場所で聡さんと軽く言い合いをしていた感じでしたけど、あれもその時からずっとなんですよね?」

「ああ。藤山から聞いたのか?」

「いえ、公園で遊んでいた時に、小野さんから昔のお話とかを聞かせてもらいました。聡さんとは気が合わなかったんですか?」

「…気が合わないと言えば、そうなるのかもしれないな。俺たちの高校の頃の話も小野から聞いているんだよな?」

「はい」

「それなら話が早い。まず客観的な事実として、俺は平均的な人間に比べて様々な面においてかなり才能に恵まれていると言えるだろう。努力家であるとも自負してはいるが、才能の存在を無視するほど現実が見えていないわけではないからな。俺がこういうことを言うのはもしかしたら意外に思うかもしれないが」

「…確かに、少し意外ですね」

「俺には中学の頃からの友人がいるんだ。そいつは俺に劣らないほどの努力家で、よく一緒に勉強をしたりもしていた。それなのに、試験では、俺は学年で常に上位の点数をとることができていた一方、そいつは平均的な点数、教科によってはもう少し取れていたが、それくらいしか取ることができなかった。俺は、こんなに努力家な奴が報われないはずがない、いつか開花する日が来るはずだと信じて、そいつにもそう言って励ましていた。だが、結局そいつの成績が目に見えてよくなることはなく、俺と同じ高校を一緒に目指してもいたが最終的には平均的な偏差値の高校へ行くことになった。あとでそいつの話を聞く限りでは、高校でも大学でも同じような感じだったらしい。それでも、俺はそいつの努力が無駄だったとは思っていない。いずれはあいつの努力を認めて、目をかけてくれる人物が現れるはずだと信じている。…そうでなければ、理不尽だというものだろう。ただ、もし万が一この先あいつが助けを必要とするようなことがあったとして、他に手を差し伸べる人間がいなかったとしても、俺にできる支援は全力でするつもりだ。…話が逸れたが、それで、そいつの成績が思うように伸びないまま高校受験を迎え、別々の高校へ行くことになった時、俺はようやく才能の差というものを痛感することになったんだ。さっき、駅近くの集合場所では、藤山に対して、怠け者は努力を怠らないものに追い抜かれると言ったが、それで追い抜くことができたら結局、そいつらの間には努力で追い抜ける程度の才能の差しかなかったということになるんだろうな。だが、だからこそ俺は才能に恵まれた者として、それに相応しい人間であろうと高校ではより一層の努力を重ねることを決心していた。そんな時に、高山に半ば無理やり誘われた部活で藤山と出会って、そこで俺はあいつに完敗した。たかがボードゲームと思うかもしれないが、思考力にも自信があった俺にとってはかなり衝撃を受ける出来事だったんだ。それも、まぐれなどではなく、そのあと数回対戦を挑んでも同じだった。お前も知っているかもしれないが、藤山の凄さはそれだけじゃなく、平然と課題を忘れてくるような奴で、他の生徒と比べても勉強に励んでいる様子など見られなかったにもかかわらず、試験では毎回上位の成績をとり、今でもあいつは大企業に就くでもなく、また特段努力に励むでもなく投資で生計を立て、収入はおそらく中央値を優に超えているんだろう。だから俺は当時から、その気になれば俺を追い抜くことなどそう難しくはないだろうと思えるほど才能に恵まれていながら、それに見合った努力をするでもなくだらだらと日々を過ごすあいつにはよく突っかかっていて、言い合いになることもそれなりによくあった。だが、もちろん俺は自分が間違っているとは思わないが、藤山の言い分も理屈だけで考えれば一理あることも確かで、ただ俺の心情としてそれを全面的に認めることができないというだけだ。だから俺は藤山とは気が合わないと言えるのかもしれないが、別に藤山の事が気に食わないなどとは考えていないから、それは君が心配する必要はない。」

「…」

「さて、長話になってしまったが、退屈な話ではなかったか?」

「いえ。面白いというのは合わないかもしれませんが、つまらないなんてことはなかったです」

「そうか、それならよかった。普段誰かにこんな話をすることもあまりないからな。藤山には間違ってもこんな話はしないし、高山に話すというのも考えにくい。小野はそもそも人の話を聞かない、いや、聞きはするが気に留めないと言った方が正しいか。だから俺としても、人に話して多少は気が晴れたかもしれない。礼を言う」

「私は別に、何もしていません」

「…まぁ、それでもいいさ。それより、そろそろ戻るのにいい頃合いだろう。支払いは俺が済ませておくよ」

「え? いえ、大丈夫ですよ?」

「君は俺に付き合ってここに来たんだし、話も聞いてくれた礼にこのくらいなら出すさ」

「…そう、ですか。ありがとうございます」

そのまま享は二人分の会計を済ませて店を後にしたので、成実も享について店を出た。店を出る際には店主がにこやかな表情で見送ってくれて、享と成実も彼にお辞儀を返して聡たちのもとへ移動し始めた。


 カラオケ組と休憩組が合流した後、フリースペースで午後五時ごろまでボードゲームで遊んだ。成実は聡に、カラオケで何か歌ったのかを聞いてみたが、想像していた通り、特に何も歌わず翔吾と己奈が歌うのを聞いていたらしい。遊び終えたボードゲームを片付けると夕食をとる運びになり、はじめは翔吾が焼肉に行きたがっていたが、己奈がしゃぶしゃぶに行きたいと言うと翔吾は諦めたようにあっさり引き下がった。そのまま五人で店に向かい、店内の六人用のテーブルに案内される。

「あ、俺成実の隣がいいな。せっかく聡が連れてきてくれたのに、俺はまだ全然話せてねーもん。いいよな? 成実」

「あ、はい。構いません」

「じゃあ、成実ちゃんには私と翔吾君の間に座ってもらって、聡君と享君は向かいに座ってね」

「おう」

「それで、今日来てみてどうだった? 楽しんでるか?」

「はい」

「おお! 本当か? じゃあ来年も来てくれるのか?」

「いいんですか?」

「当たり前だろ。なあ?」

「うん。成実ちゃんがまた来てくれたら嬉しいな~」

「別に、拒否する理由もないからな」

「…ありがとうございます。では、来年もきっと来ます」

「そう来なくちゃな! じゃあ、ついでに連絡先も交換しとこうぜ」

「そうね、そうしましょう。ほら、享君も携帯貸して?」

「…」

「これで、用があったらいつでも連絡してくれよ? 用がなくても連絡してくれて構わねーからな」

「はい」

「それじゃあ、あとは、他になんか俺について気になることとか聞いてくれよ」

「えっと、そうですね…。七瀬さんと仲が良くなったのはきっかけとかがあったんですか?」

「いい質問だねぇ! 高校に入ってからの方が凄かったんだけど、享は中学の頃から結構優等生って感じで知られててさ、試験ではいつもクラス内ではトップを争ってて、学年でもトップクラスの成績だったんだよ。だけどそれに驕らずに、勉強も手を抜かないし、人のことを見下したり高圧的な態度をとったりとかもしてなくて、こいつ凄い奴だなって思ってて、中二の時にクラスが同じになったから声を掛けたんだ。でも最初の方は享の奴、何か若干困惑してるような態度だったんだけどな。なあ? 享」

「お前みたいな派手で騒がしいやつに絡まれたらそうなるのはおかしくないと思うが?」

「でも、翔吾君って見た目とか印象からは意外だけど、結構真面目な所もあるし、享君も割とすぐ打ち解けられたんじゃないかな」

「意外とっていうのはあんまり気に入らないけど、でもまあ確かに、ちょっとしたら普通に接してくれるようになったし、一緒にいることも増えていったな。それで、高校も同じところに通うことになったんだけど、そこからさらに享の勉強時間も増えて、成績も学年でトップをとり続けるほどになって、おまけに品行方正な優等生っていうので違うクラスの人でも享の事を知ってるぐらいだったんだ。凄い奴だろ? まあ、俺と享の話はこれくらいかな」

「…お前、よく本人の前で平然とそんなことが言えるな」

「何だよ、照れてんのか?」

「でも、目の前の人を素直にそんなに褒めるのってあまり簡単なことじゃないと思います」

「おっ⁉ 俺の事見直したか?」

「ふふ、別に、悪い印象があったりしたわけじゃないですよ」

「だってよー、己奈とは普通に話してたっぽいし、享と俺らが一旦別れたときはわざわざあいつについて行ったぐらいだったっていうのに、俺とはそんなに話してくれてなかったじゃんか。」

「すいません。少しタイミングが合わなかっただけなので、あまり気にしないでください」

「そうか? じゃあ気を取り直して、今後もよろしくな!」

「はい」

その後、にぎやかな夕食を済ませた後、午後七時前頃にこの日の集まりは解散となり、成実は聡と共に家路についた。


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