最後の願い…………叶わず
俺は根拠地になっているヘリポートがある高層ビルに向けて走っている。
左の道から奴が2体現れた。
素早く左手に持つサイガ12の引き金を2度引く、ドン!ドン! 散弾が2発発射され奴を2体水に変える。
俺はゴリラ、本名では無いがゴリラ似のゴツい顔に筋肉隆々の身体だが悲しい程の短足で、子供の頃からゴリラと言われ続け本名のようになっていた。
仕事は傭兵、これでも1流の凄腕傭兵として業界ではそれなりに知られている。
それで今俺は何をしているかって言うと、沢山の奴と命懸けの鬼ごっこをしている真っ最中さ。
右の道から沢山の奴が現れたのを見て右手に持つRPKの引き金を引く、小気味良い発射音を響かせ発射された十数発の弾丸が沢山の奴を薙ぎ倒す。
奴とはこいつだよ。
ことの発端は一昨日の晩だった。
雇い主が借りたホテルの1室で仲間達と寛いでいたら、血相を変えた雇い主、この国の諜報機関の諜報員が部屋の中に飛び込んできて叫ぶ。
「直ぐ装備を整えロビーに集合しろ!」
雇い主の顔色を見て俺達はただ事じゃ無いと感じ文句を言わずに装備を整えロビーに向かう。
エレベーターから降りた俺達の耳を打ったのは、激しい銃声。
諜報員やホテルに宿泊していた軍人、偶々居合わせた民兵や警察官がホテルの出入り口から外に向けて銃を乱射していた。
相手は奴。
諜報員に話を聞くと、近くの研究所がバイオハザードを起こし奴が解き放たれたらしい。
多分だが俺達がこの街に連れて来られたのは、その研究所に先に突入して研究員諸とも奴を排除する作戦に投入する為だったのだと思う。
しかし事態は諜報機関が思っていたより悪化していて、バイオハザードが先に起きてしまったのだ。
根拠地として使っている役所や警察署が入っている高層ビルに近づくにつれ違和感に気がつく。
高層ビルの屋上や出入り口に陣取って根拠地を防衛している兵士達の、近寄って来る奴を撃ち殺している銃声が聞こえて来ない。
チクショー! やっぱりだ。
高層ビルの出入り口は開け放たれ沢山の奴が出入りしている。
俺に気がついた沢山の奴が俺に掴みかかって来た。
そいつらに両手に持つサイガ12とRPKの弾丸を撃ち込む。
高層ビルの中に入る前に、サイガ12とRPKのそれぞれ30発と75発のドラムマガジンを交換。
銃を撃ちまくりながらエレベーターホール脇の階段を屋上へ向けて駆け上がる。
奴に触られると奴になるんだ。
老若男女の区別なく触られると数分後にポンという音と共に奴になる。
映画の中のゾンビのように奴になると仲間を増やそうと動き出し人間を追い回す。
ただ頭を撃ち抜かなければ倒せないゾンビと違い、頭以外の腹でも胸でも撃てば倒せる。
もっとも腕や足だと行動を制限するだけだけどな。
そして倒した奴は水に変わる。
理由なんて知らんよ。
理由を知りたければ其処らの医者か研究者に聞きな、もっとも奴になっていなければの話だけどな。
階段を駆け上がりながら前に立ち塞がり襲い掛かって来る奴を撃ち、背後から追いすがる沢山の奴にはM67破片手榴弾やRGD―5手榴弾をお見舞いする。
屋上まであと半分を過ぎた辺りで俺の鼻を刺激臭が襲う。
可燃性の液体の臭い。
屋上か上の方の階にいた誰かが奴の侵入に気がつき階段に可燃性の液体をぶちまけたのだろう。
火がつけられていないって事は、ぶちまけた誰かも奴になってしまったのだろうな。
こんな可燃性の液体がぶちまけられているところで発砲したら引火してしまう。
だから弾切れになったサイガ12を捨て、同じように弾切れになったRPKを逆さに持ち棍棒のように振り回し奴を倒す。
屋上の扉が見えた。
扉の脇に蓋が開けられたヘリコプター用の燃料が入っていたドラム缶が転がっている。
だから階段の最後の段に足を掛ける寸前、背後にM14焼夷手榴弾を投げた。
扉から転がり出た俺を追うように引火したヘリコプター用燃料の業火が襲う。
業火に吹き飛ばされた俺は奴に触られた。
数分後に奴になってしまう。
嫌だ!
俺は屋上に転がっていたM249ミニミを拾い上げ右手で抱え、左手にホルスターから抜いたFNファイブセブンを握り、眼下に見える此方を見上げ腕を伸ばす沢山の奴を撃ちまくりながら屋上から身を投げた。
そして叫ぶ。
「奴にはなりたく無い!
俺は、ナイスボディの女の子になりたいんだぁーー!」
その願いは叶わなかった。
落下する途中ポンと言う音と共に男は奴になり男を見上げていた沢山の奴の頭上に叩きつけられ、十数体の奴を巻き添えにして水になる。
ゴリラと言われていた男が奴に変わり水となった数十分後、ヘリポートのある高層ビルの上空に核弾頭を搭載した巡航ミサイルが現れ炸裂し、
街とその周辺を火の海に変えるのだった。