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泉の女神は戦がお好き  作者: 久能 柑子
3/3

はじまりの都

「では調査の方を、よろしくお願い申し上げます。殿下」



クエストの受付を済ませ、ギルドを後にする。

薄暗い入口から出ると(わたくし)をお日様が迎える。



「おぉ!聖騎士様!また行かれるのですか」



街行く人々は私と分かると平伏し、歓声を上げる。




当然ね。




私、マリー・ランカスター。

この世界最強の魔導国、

アメリア皇国の第一皇女にして神に選ばれし聖騎士。


ただ強いだけじゃありませんわ。

他人が羨むほどの美貌も兼ね備え、女性としても格が上。

髪をなびかせ息をするだけで男たちは求婚をせびる。


これ以上ない程、完璧な存在なのですから。



フフ。

街を歩くのが気持ちいい。

皆が讃えてくれている。跪いている人もいる。

何より。


私を見てくれている。

私に見惚れている。


ああ。最高。一生こうしていたいわっ!



日の下で恍惚としながら歩いていると

突然肩を掴まれる。

おもわず歩みを止め、肩を落とす。


この空気の読めなさとガサツさはもう予想がつきます。


振り返ると見知った顔がいる。



「まったく。いつまで待たせんのさ。また帝都を2周も3周もする気じゃないだろうね?」



あんなのはもうコリゴリだと言わんばかりに、

心底嫌そうに彼女は尋ねる。


ここは帝都ランカスターですわ。

私の庭に等しいのに。全然好きにさせてくれない嫌な女。



この方はナタリー・フルフロンタル。

私とコンビを組んでる冒険者。

聖騎士ではなく魔導士。S級スキルをあらかた備えていて大変優秀ですわね。


まあ中身は上々。ですけれど。


若作りをしているから私と同い年、20くらいに見えますが、実は36。

アラフォーに片足持っていかれた私の引き立て役ですわね。



でも何故その美貌を生かして男共を従えないのかって?



従えていましたわ。

当然。

醜い有様でしたけれど。


最初に組んだパーティは私、紅一点でしたわ。

まあ紅一点になりたかったからそうしたのですけど。


それはそれはもう可愛がられましたわ。


若くて活力に溢れたイケメン。

ダンディでハンサムなイケオジ。

童顔で涙の似合う22歳の合法ショタ。


見た目は最高に整ったパーティでしたわね。

見た目は。


けれど、どいつもこいつも私の身体と財産目当ての連中で。


やたらと一緒のテントで寝ようとしてくるし、やたらとローアングルで後ろを歩く。

常に装備品をねだり、クエスト報酬の受領書に真っ先にサインする。

酒臭いしタバコ臭い。

下劣な精神の持ち主だったのか、イケオジの方は私に触れると指先から燃え出していましたわね。

おまけに戦いにおいては死にたくないからとすぐさま逃げ出す腰抜けで。



その後の男共も話にならないというか、

足を引っ張る連中しか寄ってこなかったので仕方なくこの方と組むように。



もう女性冒険者でも構わないとパーティに誘いましたが、大抵ほかのパーティに所属。

それでもいいと思い、パーティに所属したことも何回もありました。


けど

けど


今のところ10割。


パーティメンバーとデキてやがる始末。


テントは当然、男と一緒で。

私が見えてないところで好き放題ちゅっちゅくしやがり、

気づいてないと思って岩陰で休憩し、

食事中もテーブルの下でいちゃつきやがる。


殺してやりたい。

粉砕してやりたい。

岩陰という岩陰を。


そう妬み、恨みながらヴィクトリア神殿で呪詛を生成していたところを、



「ねえ、一緒に呪わない?」



と声をかけてくださったのが始まりでしたわね。



ふと思いふけっていると、乱暴に手を引かれる。



「ほら、どうせすぐ出発でしょ?ならちゃっちゃと行こうよ」


ガッ!グイッ!と力強く私の手を引く。

いや、ひねられる。


イッッッッッッッタ!!!

こいつっ!力加減が分からないのかしら!!



「分かりましたから!分かりましたから!手を放しなさい!」



たまらずブンブンと腕を振る。


すると----------。




ゴキ。




鈍い音が聞こえたかと思うと、



突然ナタリーがおとなしくなり、膝を折った。




もしかして。




「あの~肩ですか?」


恐る恐る尋ねる。



「なんでもないわ!」

と屈託のない笑顔を浮かべて返事する。


けどその表情にはシワの歪みが所々見え始め、汗がフツフツと浮かび化粧が崩れていく。


ヤバいですわ。




え、アラフォー間近だとは存じておりましたけれど。

四十肩ですの?この人。




「ま、まずは教会に行きましょう?」



無事な方の肩を担いでそう尋ねる。


事情を知っている人からしたら、私ただのヘルパーさんですわねこれ。



「ええ!神への祈りは欠かせないからね!」


と元気に答えるナタリー。さん。



仲間を引きずってズルズルと教会へ歩く。


そ~と顔を見ようとすると、




「前見て歩け」




バッと前を向きなす。



少し間を置いて、




「覚えてろよ」




年季の入った声が、私の背筋を伸ばした。

酒臭くて、タバコ臭くてすみません。

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