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オオイカクス

「ケイ、手筈通り先頭を頼む。ミラージュ・ガード・ドーム・ブラインドモード!」

「あいよ、アラヤさん任せてくれ。球コロの部屋に入るまで俺がきっちり誘導する。」



俺のミラージュ・ガード・ドームを切り離し皆を球コロの部屋に先行させる。

扉に突撃して部屋に飛び込んで来たが俺達以外の生存者はいなかった。


球コロの部屋は無人のようで安全だ。


(この様な状況になることすら思い付かなかいほど愚かな者共とはな。この星の為政者共は無駄な技術を持った事が災いしたの。)


俺はミラージュ・ガード・ドームを解除し言葉に言い露らせない惨状を目にしていた。


この国の為政者共は自分たちの行いによって惹き起こされた厄災の餌食となっていた。


城の各部屋に逃げ込んだ隷属のアクセサリーの着用者を追いかけていったようだ。


「この状況を招いたお前達には同情心の欠片もわかない。他の国々では妃や王子、王女には救いの声がノエル達からもあったのだけどな。お国柄と言われればそこまでなんだが。好き勝手に命を弄んで来た者の報いだ。お前達は一瞬で滅ぼされたんだろう。…楽に行きやがって。あの子達の為にもこの部屋の掃除はさせて貰う。あの子達にはこれはキツイ光景だからな。お前達は世界の養分になることも生ぬるい。輪廻と言うものがこの世界にもあるのであれば貴様達の魂は輪廻から外れる事を俺は個人的に願う。貴様達の転生など赦せるものか。」


俺はズボンの左右の前ポケットに積め込んでいた向日葵の種を両掌に握り両腕を左右に大きく開きたっぷりと魔法力を込めて次々に床に乱射して弾き飛ばす。

壁や床に着弾した向日葵の種は炸裂弾のように弾け大穴を開けて行く。


「穴はこれで良いか。洗い流せ!『如雨露旋毛風(リトルストーム)』!」


俺はこの部屋の洗浄(クリーニング)を始めた。

洗浄魔法をかけてもいいのだがのちの事も考えて魔法で物理的に洗浄をしている。

小さな竜巻も洗濯の要領で思い通りに移動させられる。

壁面や床を抉ること無くスムーズに洗浄出来ている。

日頃、ベヒモス達の洗車をやっていたことが役にたった。


この国に長居をするつもりはない。

せめて俺達が居る間だけ見るに耐え難い光景を見ない様にと考えた。

それに隷属のアクセサリーに反応して到来者達が集まっても面倒だ。

(救いようの無い国だったのう。彼の意識が戻るまでリュートとやらの国にある程度の医療道具と医療関係者が居たことは救いだったの。しかしこの国の文明の偏り加減は…はてさてどういう事やら。妾にはどうも解せぬのじゃがな。まぁ、良い。この国のあとの事は勇者達に任せておけば良いじゃろうて。あとは不意に開く予定外の通路(ゲート)に気を配れば良いじゃろうて。アラヤよ、気を抜くでないぞ?)


洗浄をしながら俺は気を引き締め直す。

召喚の間に行くまでこの大きな部屋の洗浄をしっかりとしていく。

丁寧に血の一滴も残さない様に。

染みの一つ残さない様に。


『到来者諸君!私の声が聴こえる様になったのなら過剰な暴力を振るうのを止め諸君の側に現れるワイルド・ベヒモスに速やかに搭乗して欲しい。ワイルド・ベヒモス達が進む場所に集いリュートと言う名の青年の元で所持品ストレージの操作方法を学び各々の今後を考え行動して欲しい。諸君の身に起きた境遇に関して誘拐を企てた者共とそうでは無い人達とが居ることを理解して欲しい。この国に奪われた所持品などもストレージが使用出来る様になれば取り返せる。諸君は理性的に行動が出来る者達だと私は願う。諸君が理性を取り戻しストレージが使用可能になれば食糧も私達が届けると確約する。必要の無い食糧の略奪などは行わないで欲しい。私の声が届いたのならば帝都の外壁へ向かって欲しい。諸君に幸あらんこと。グローリーノエル!』



8階から下層に気配が少しずつ移動していく。

怒りの矛先を探している様に気配が動いていく。

虐げられていた者達。

そう簡単には怒りを抑える事がいかないだろう。

俺も抑えきれてはいない。

俺だって人間だもの。

召喚の間に向かい歩きながら俺はそう思っていた。

あれを直接目にした時理性的で居られる自信は俺にも無い。

ケイ達が向かった扉の反対側の扉のノブを回すが鍵が掛かっている。

俺は大きな頑丈そうな金属製の扉を蹴破り中に入る。

勢いよく両開きの扉が大きな音を響かせ吹き飛ぶ。

頭の地図に召喚の間が詳しくマッピングされた。

外壁に近い壁に向日葵の種を弾き飛ばし幾つもの穴を開け光を通す。


幾状の光を浴びて照らし出されたそこにいた。

ノエルの友達の記憶の中に微かに写っていたモノ。


あの日のあとにどれだけ探しても見付からなかった。


倒壊した実家の瓦礫の下から家族達の中で唯一見付からなかった俺の半身。


俺はそれの側に近寄りきちんと見た。


胡座で座ったままミイラと成って尚、愛刀『霧雪』を胸に抱きしっかりと左掌で握りしめている間違い無く俺の双子の弟の昌也だった。


昌也の正面に座り顔を覗き込む。

眼窩に今も尚昌也の強い意思を感じ取れる。

昌也の背後に目を向けると魔方陣を切り裂き破壊したあとも見て取れる。

誰よりも優しかった昌也。

無駄な殺生はしなかったのだろう。

振るう刃で敵を寄せ付けなかったのだろう。

威嚇の為だろう半月状の切れ目が床に幾つも刻まれていた。

魔方陣近くの床を触れる。

誘拐召喚魔方陣の魔法力経路を見事に破壊していた。


昌也はこの場を死守したようだ。

昌也より新しい骸は一つも無い。


「良く守ったな昌也。『霧雪』ありがとう。昌也を護ってくれていたんだな。昌也、もう暫く俺のストレージの中で待っていてくれ。昌也には頼みがあるんだ。暫く昌也の身体を俺に預けてくれ。わがままな兄貴ですまない。昌也にしか頼めないんだ。もう少しだけ俺に付き合ってくれ。」



俺は溢れ流れ続ける涙を拭いもせずに昌也の身体ごと『霧雪』を十数枚の蓙で丁寧に包みミラージュ・ガード・ドームに納めストレージに仕舞い込み保護ロックを掛ける。


召喚の間には役に立ちそうなモノは転がってはいない様だ。

数人の古い骸と衣服らしいモノ。

用途の判らないモノはこの世界の他のモノが触れない方が良いだろう。

武器類と衣類はミラージュ・ガード・ドームに一纏めに入れ俺以外取り戻せ無い様にロックを掛けストレージに仕舞う。

微生物でも居るのなら多少は風化したのだろうが骸と成っているモノ達はほぼミイラと成っている。

彼らのミイラを蓙で丁寧に包み一体づつミラージュ・ガード・ドームに入れ俺のスマホのストレージにナンバーを振り分け仕舞う。


そしてノエル達に昌也と到来者達の魂の送還を願った。

ノエル達は快く了承してくれた。

俺はストレージから取り出したタオルで顔を拭う。

涙や鼻水を拭いさり新しいタオルに水をたっぷりと振り掛けもう一度顔を綺麗に拭き今は俺の心は覆い隠す。


俺が壁に開けた穴に風が吹き込み風なりの音が召喚儀式の間に響く。

まるで怨嗟の声の様に。

解き放たれた歓喜の声の様に。

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