還す価値のない魂
勇者がこちらを見ている。どうしますか?
どげざをしてあやまる
どげざをとりあえずする
あたまをさげてあやまるふりをする
あたまをふまれる
かおをずらしてみあげる
じょうおうさまがふんでいる
すごくうれしくなる
つよくふまれる
ますますうれしくなる
かおをずらしてみあげる
だれかがふんでいる
むひょうじょうになる
ようすをみる←
残虐なグロテスクシーンがあります。御注意下さい。
俺はミラージュ・ガード・ドームを解除する。
リザメル皇帝も少し立ち疲れしたようだ。
リュート大佐も座ったまま背伸びと両脚を床から浮かせ軽く動かし軽いストレッチをしている。
そして俺に微かに頷いて見せる。
俺はケイのドームに近付きノックを五回する。
するとケイはドームを解除して出て来る。
ドームから出て来たケイも背伸びをする。
「んーアー、アラヤさんまだあれやってんの?」
ガメル将軍が槍をグリグリと捻ってジケメダを苦しませている。
それも茶番だとリュート大佐と俺は知っている。
「好きにやらしていたいがリザメル皇帝はあれを抜いて欲しいらしくてな謁見の間だから。」
「成る程な。謁見の間にあれは似合わねぇからな。で、リュートは?」
「歩くのはかなり歩ける少しなら走れるそうだ。」
「それを聞いて何よりだな。じゃあそろそろ球コロのとこに行くか?アラヤさん。」
「そうだな。リュート君も来てくれ。」
「はい、お手伝いします。」
俺達は玉座の低い階段を昇るとリュート大佐の椅子に座っているリザメル皇帝から声がかかる。
「なっ!リュート、そちに少し話がある。よいか?」
「陛下、直ぐ戻りますので。では参りましょう。」
「ああ、行こうか。」
「し、使徒様!それでは先にジケメダを抜いてはくれませんか?」
俺は感情無く応える。
「あとでな。」
俺は玉座の後ろの垂れ幕を捲らずに下に無理矢理引き垂れ幕を引き破る。
その後ろのには連結されたミラージュカードドームが展開されている。
俺はドームに手を振るとドームを解除しユージとユカとユリアが出て来る。
「おじさんやっぱりドームが開いた。」
「そうか。想定通りだから仕方無い。取り敢えず、球コロお前はほいっ!」
俺は球コロが安置されている台座も丸ごとストレージに放り込む。
球コロの台座の下には魔方陣が描かれていた。
破れた垂れ幕にも魔方陣が描かれていた。
「なっ!使徒様!!何をなさったのですか!」
リザメル皇帝はリュート大佐の椅子から立ち上がり叫ぶ。
「ああ、勇者選定球を返すのさ。その前に俺が預かる。」
「返す!?帝国の至宝を一体誰に返すと言うのだ!答えよ!使徒様!!」
リザメル皇帝の口調が素に戻りだす。
リュート大佐がクックと吹き出している。
『我は何度も我は伝えているぞ。支配者気取りの愚か者め!!』
俺は声に魔法力を込めて言葉を紡いだ。
すると地震の様に謁見の間が激しく揺れる。
古の石材を使用して築城された城の強度で持ちこたえた様だ。
「ひっ!」
悲鳴をあげリュート大佐の椅子に座り込むリザメル皇帝。
とうとう堪えきれなくなったリュート大佐は笑い声をだす。
「アッハハハハ。ひっ!てアハハハハ。」
「リュート大佐ぁ!貴様、陛下を愚弄するか!」
ジケメダをグリグリするのを止めてリュート大佐に詰め寄るガメル将軍。
「シッ!」
リュート大佐の襟首を掴もうとしたガメル将軍の腕をケイが軽く拳で撃ち払う。
「ググッ!貴様!」
思いの外痛かったかったのか撃ち払われた右手首を左手で押さえているガメル。
そうだ。
今のケイは○ビルファイターだった。
生身のガメルには痛いと言うより強い衝撃だったのかも知れない。
「ガメル将軍。やはり貴方はそちら側でしたか。残念ですね。同じ日に連れ去られ来た者の縁で仲良くさせて貰っていたのですが残念ですね。ガメルおじさん。」
リュート大佐は哀しそうに最後にガメルおじさんと言った。
彼にとって掛け替えの無い拠り所だったのかもしれない。
「僕達を〘敵〙と見なす者は留まれ。」
リュート大佐は俯いて能力を放つ。
謁見の間で動ける者は俺達とリュート大佐あとは隷属されている到来者達だけだった。
「僕達を〘敵〙と見なさず自意識で行動出来ぬ者は速やかに城から遠ざかれ。」
隷属された勇者達は次々と謁見の間から出て行く。
「何故だ!何故扉があやつらに開けられる!」
リザメル皇帝は謁見の間に施錠されていた筈なのに扉が開く事か不思議でしょうがない様だ。
「さて、何故でしょう?陛下。これで動けない者達は全て〘敵〙です。」
「ありがとう。リュート君。あとは俺が引き受ける。発動したまま彼達と外まで行けるか?」
「ええ。行けます。距離は関係なく使えますから。多少疲れますが妻達も待ってくれてますので気合いで走ります!」
「「「「「妻達?」」」」」
「ええ、六人いますよ。妻達。色々大変ですけどね。楽しいですよ。」
ニッコリのリュート大佐。
(フッなかなかやるではないか!)
「じゃあ皆、あとでな。さぁ行け!リュート君、謁見の間の施錠を頼む。」
「はい、引き受けました。必ずあとで会いましょう。待っていますよ!」
「ああ、必ず行く!」
「おっさん!稽古楽しみしてんだからな!」
「ああ、ユージ俺から一本とれるか楽しみにしてる!」
「取ってやんよ!」
「アラヤさん!!必ず戻って来て下さい!!プール皆で入りましょ!!」
「勿論!!ユリア皆で遊ぶぞ!リンメルのプールでな!!」
「おじさん!!待ってるよ!皆で美味しいご飯食べよーね!」
「ああ、皆で旨い飯を食おう!ユカ!」
「アラヤさん。わりぃ俺は残るわ。」
「ケイ!」
「アイツら喰い過ぎだ。あんただけじゃ後ろがお留守になっちまう。」
「それほどか?ケイ」
「ああ、それほどだ。だからユリア!俺も残るわ!あとでな!」
「ケイ君!!なら私も!!」
「駄目だ!ユリア!!行け!必ず戻る!フラグおっ立てるぞ!アラヤさんよ!」
「立てろ、ケイ!!俺がいる!おっ立てろ!」
「ユリア!!リンメルに帰ったら、リンメルに帰ったら結婚すんぞ!あの二人とも一緒に!!ユリアのいう通りにな!!」
「ケイ君!!愛してる!」
「おお!俺もユリアを愛してる!初めて逢った時から好きだ!!ユリア!!だから行け!!」
「うん!私も好きだよ!初めて逢ったバスから!アラヤさん!!ケイ君を、ケイ君を必ず連れて帰って来て下さい!!」
「ああ、任せろ!キリッ」
「///はい!お任せします!アラヤさん!!♥///」
「えっ?ユリア?なんでアラヤさんの返事に顔紅いの?えっ?なんで?」
「大丈夫だ。ケイ。心配するな。キリッ」
「「心配するな!ケイ!キリッ」」
ユージとユカの声のあと皆が謁見の間から出ると小さな施錠音が微かに響いた。
「なっ!何故リュートが施錠出来る!」
リザメル皇帝がリュート大佐の椅子に座ったまま叫ぶ。
「お前馬鹿だろ?」
「何を!!」
「到来者の中に建築士が幾らでも居ただろう。」
「何にー!裏切り者が居たというのか!!」
「幾らでもな。お前もだろう?リュート君を裏切り地方軍部への食糧配給量を減らしていたようだな。」
「なっ!何故それを!!」
「「お前馬鹿だろ?」」
俺とケイは声を揃えた。
「はぁ、アラヤさんよマジでこんな間抜けいんだな。」
「ああ、いるぞあそこに。」
「己!!勇者ごときが余を愚弄しおって!!」
「いい声だと思っていたが地の声は駄目だな。ケイ?」
「あー、駄目だな。あれじゃユリアも喜ばねぇ。」
「何故食糧配給量に気付いた!」
「やはりお前は馬鹿だろう。国境での小競合いの理由を発表しただろう。それにリュート君の体型を見れば一目瞭然だ間抜けめ。リュート君がガメルや貴様達兄弟の体型の異常性に気付かないと思っていたのか馬鹿め。ケイも気付いたよな。」
「ああ、痩せたリュートとゴリゴリマッチョのガメルとお前ら皇帝兄弟を見れば一目瞭然だわな。それにガメルとお前らが喰らっていたもんは考えたくねぇがな。どうしても答えはそこに行き着いちまうからな。」
「ガメルのストレージの中の持ち物にも多分あるがもしそれを見ても動揺するな。ここはそういう事をするモノも引き寄せられた異世界だと割り切れそして今は心を強く持てケイ。」
ストレージを持つ者が死ぬとストレージの中身が出て来る。
中身が何かを想定していれば心を強く保てる。
ケイは覚悟を決めてここに残った一人前の〘漢〙だ。
「わかったあんたにガメルは任せた。」
「ああ、任せろ!」
「グヌヌヌッ!そなたらが威勢がよいのもあと少しなのだぞ!」
「知っているとも。だからお前との会話を楽しんでいるんだ。そんな事も解らないのか?馬鹿め!」
「なっ!」
「但しお前の時間が無くなるんだがな。リザメル。」
「何?」
「見てみろ回りを。」
ジケメダ一派の大臣達が倒れてピクリともしない。
「こ、これは一体…」
「リュート君のスキルだ。リュート君は留まれと言い放っただろう?」
「だから何故大臣達が倒れておるのだ!」
「はぁ、だから留まったんだ。心臓の鼓動がな。」
「何!」
「お前は何度も大臣達がリュート君のスキルを受けていたのは知っているだろ?何度もリュート君のスキルを受けると体の中も心臓も留まり心臓が止まれば脳が死ぬ。」
「なっ!」
「まぁ、お前はかなり喰っているみたいだからもう少し生きていられるだろう。」
「余も、余も死ぬと言うのか!」
「ああ、お前も大臣達と同じ回数はスキルを浴びているからな。気が付かなかったのか?」
「何を!座したまま皇帝の余が死んでたまるかぁ!!」
「フンッ喰らうかその程度。」
リザメルは無理矢理リュート大佐のスキルを破り立ち上がるとリュート大佐の椅子をケイに投げ付けるがケイは右腕でガードして椅子は砕け散る。
「余の真の姿を拝ませてやろう。心得て見るが良い!」
リザメルは豪華な衣装と長いマントを引きちぎる様に脱ぎ捨てると到来者達の鎧などの防具を素肌の上に着込んでいた。
股間には隠すモノを着けていると信じたい。
男の股間のイチモツなど見たくない。
(フッ着けていなければ奴の股間は向日葵の種の餌食となるがな!)
「フハハハハ!余のこの姿を見た者で生きているのはガメルとジケメダの二人だけだ!そなた達は余らの晩餐だ。オーラスーツの貴様。余がこの手で息の根を止めてくれる。光栄に思うが良い!」
「さて、アラヤさん皇帝の指名してきたのは俺みたいだ。貰うぞ?」
「ケイ、気を抜くなよ?」
「オオよ!いつでも来い化け物!」
ケイは皇帝に正面に仁王立ちをし拳を握り肘を曲げ腰に付けて陽炎に魔法力を注ぎケイがフェイスシールドを装着すると謁見の間に何処からともなく声とゴング音が響いた。
「ファイトォォオオ!!レディィィイゴォォオオ!!」
〘カーン!〙
リザメルはこの世界の人間とは思えない力で床がひび割れを起こす程踏み込み体重を乗せた右拳をガードをしているケイの左腕に叩き込みケイが身体ごと後ろに押し込まれケイの足場の床が抉れる。
「おいおい!テメェ!一体何人の到来者達を喰らって来た!!」
「フハハハハ!!糧など数えぬ!ソナタは食したモノの数を数えながら食しているのか?フハハハハ!悠長な食事であるな!勇者ァァァア!そちも余の糧となれぇぇえ!」
「この化け物め!俺が退治してやんよ!オオォォオ!燃えろ俺の魂!奴を叩き潰す!ユリア俺に力を!おおおぉぉぉおっ!!バァァァアニングゥゥウハイパァアモォドォオ!!」
ある程度の魔法力を解放したケイの全身が目も眩む光りに包まれ黄金に輝く。
ケイの両肩のアーマーが展開し胸の中央のアーマーが開き紋章が浮かび上がり両脚のアーマーも展開し背中のウィング六枚も展開して丸い円形の後光が浮かび上がる。
ケイの姿を見たリザメルが叫ぶ。
「フンッ虚仮威しを!」
「人を喰らう化け物は俺が倒す!俺の拳が真っ赤に燃えている!貴様を滅すると輝き燃える!貴様を倒す!来い!リザメル!!」
「貴様ァァァア!!陛下を化け物などと愚弄した貴様らは許さん!!我が許さん!!貴様の相手は我だ!これでも喰らえ!!スナイプランス!」
リュート大佐からの呪縛から解き放たれたガメル将軍が槍をケイに向かって投げ放つ。
咄嗟に俺は投擲進路に立ち塞がる。
あの槍は夕べの部隊が所持していたモノと同じモノだ。
「ふん!」
俺の胸で受け止めただけで槍は粉々に砕けた。
「何!強化オミエルコン製の槍がオーラスーツも纏えない者に掠り傷も付けられぬとは!」
ガメルの鎧兜をよく見ると到来者の鎧ではなくオミエルコン製の鎧を着ている。
「今の槍とその鎧…お前もやはり順応している様だな。」
「鎧などただの飾りよ。攻撃を喰らわぬ我にはな!今の槍も小手調べだ!この槍は受け止められるか?」
ガメルが右腕を肩の辺りに触れストレージから三股の槍を出して演舞の如く両手で器用に振り回す。床がガリガリと音を立てて削り取られて行く。
到来者の所持していた槍の様だ。
ガメルの全身に紅い陽炎が纏わり付き鎧兜のような形に見える様になって行く。
「それがお前の陽炎か。」
俺は右手で左肩の長く太めの木剣を握り抜刀体勢に入る。
「陽炎?違うな!これは神からの贈り物の闘神の鎧だ!貴様のその木剣が強かろうが我はには通じぬ!我はこれを纏う事により闘神ガメルとなった!我は神となったのだ!」
「その台詞は気安く吐いて良いモノじゃあないぞ?ガメル。神の存在するこの世界ではな。」
するとガメルに紅い雷が降り注ぐ。
「アバババ!グガァー!!グゴガー!」
雷に射抜かれ膝から崩れ落ちるガメル。
「ググッ!グァ!ググッ!アアア、グァ!ガグっ…我の闘神の鎧が…消え失せ…た…何故…だ」
自分の身体を見ても信じられない様だ。
槍を床に落とし膝立ちの姿勢のまま両手で身体や顔を触れている。
ガメルのストレージに入っていたと思われたモノがガメルの回りに散乱して出現する。
武具や衣服の他にはおぞましいモノもあった。
何人もの男女の下半身らしき肉の塊に大量の人の腕が積み重なりあっていた。
記憶映像の初期の肉体に戻ったガメルからは魔法力も感じられなくなった。
「やはり喰らっていたのか到来者達を。」
「ち、力を…獲る為だ。…何が…悪い…神に…」
「お前も馬鹿だろう。神々が存在している世界で人間風情が神を語るとは。神の怒りを買えば神の加護は消え失せる。」
「何!神の…加護…闘気の鎧を…失ったのか…我は…」
「ああ、お前の回りに撒き散らされたモノを見れば一目瞭然だ。お前は隷属されている到来者達にもある魔法力も能力もストレージも到来者を喰らって手に入れた肉体も全て失った。お前は元の世界での力だけしか残っていない。まだ殺るか?俺は続けても良いぞ。俺は一太刀も抜いていないからな。」
するとガメルは手近な人の腕を拾うと被り付き喰らい始めた。
俺はガメルの最後の晩餐を見届ける。
ガメルが到来者を喰らう事はもはや無駄な足掻きでしかない。
幼い頃にこの世界にさらわれ成長してきたリュート大佐。
成人でこの世界にさらわれ生きてきたガメル。
リュート君とガメルの体格差は余りにも違い過ぎた。
ガメルは転移後そのままいやさらに筋肉量は大きくなっている。
記憶映像の初めのガメルと今のガメルでは筋肉は倍増している。
ガメルのこの肉体維持が出来ている理由。
それはガメルが到来者達を食べていたからだ。
ストレージに入れておけば鮮度が保てる。
肉量の多い部位を選びストレージに入れて保存していたようだ。
幾ら到来者を集めても足りない筈だ。
ガメルは人の腕に被り付き次々と喰らっていく。
夢中で喰らい俺との闘いも忘れているかの様に喰らい続ける。
無駄な事をするガメルを哀れみの眼差しで俺は見下す。
ジケメダの生命力、リザメルの到来者の装備を纏う程の異常な怪力と肉体の強靭さ。
ガメルと同じく到来者を喰らい力を増長させている。
だがそういった者への落とし穴は必ずある。
リザメル、アイツはケイに任せておく。
「野良勇者め!喰らえ!!」
「遅い!」
リザメルは飛び蹴りをするがケイに躱されその勢いのまま右足が壁に突き刺さり足が壁から抜けず腕を振り回しているがケイには掠りもしない。
「くそぅ!足が抜けぬ!」
リザメルは太股まで深くめり込んだ右足を壁から抜こうと必死に足掻いていた。
喰い終わりガメルが腹を擦りながら立ち上がり右腕で口を拭いニヤリと嗤う。
「食人鬼め。そんなに喰らう事が楽しいのか?満足したか?」
「ガハハハハハ!食人鬼?違うな。神に供物として捧げ供物を分け与えていただき神の力を獲るのだ!加護?要らぬわ!既に我は人を超えた存在!そんなモノなど無くとも貴様などに遅れはとらぬ!我にはもとより武技がある!喰らった勇者達が血肉となった強靭な肉体がある!喰らった勇者どもの持ち込んだ武器が我にはあるのだ!ガハハハハハ!!行くぞ執行者とやら。我が槍の錆びにしてその血肉を喰らって殺るわ!」
「馬鹿めそれを食人鬼と言うんだ。武器を拾え食人鬼ガメル!」
「貴様に言われるまでもないわ!邪魔だ!オオ!これだ!」
ガメルは床に散らばったモノの下の槍の中からゲームなどに出て来るナイトランスと言われるモノを拾い上げると演舞の様に振り回し槍のバランスの感触を確かめているようだ。
大きく振り回しガメルの回りにあったストレージから出てきたものを弾き撒き散らし更に床も抉っている。
「いくぞ!執行者ァァァア!!」
「来い!」
俺は背中の長めの太い木剣でガメルの突いて来た槍を凪払う。
乾いた音をあげ木剣に亀裂が走る。
「ガハハハハハ!!木剣でよく凌いだな!!だが木剣は木剣でしかない!そらそらそら!!我が技を凌いで見せろ!!執行者ァァァア!ストームスティンガー!!」
ガメルは高速で槍を何度も突き出して襲いかかって来る。
俺も二刀流に木剣を持ち構え何とかガメルの攻撃を捌き凌ぐが木剣は耐えきれず次々と折れていく。
(くッ、木剣では到来者の武器には耐えられないか!新たな木剣に持ち代えねば!)
ガメルの嵐の様な攻撃が止まったあと俺の木剣は最後の二本になっていた。
「貴様の本気を見せて貰った。次は俺の本気を見せて殺る!」
「見せてみよ!執行者ぁあ!!」
俺は後ろに飛び退き一端ガメルから距離を取る。
(フム、あれがガメルの本気という事か。ではワタシも本気を見せよう!キャスト・オフ!!)
俺は身体の縄を解いて後ろポケットに装備していたトウモロコシを抜き二本の木剣と一緒にストレージに入れ代わりに一振の刀をストレージから取り出し左腰のベルトに鞘を挿し入れ位置を調整する。
鞘位置が気持ち少し高い。
デニムパンツを少し下げベルトを閉め直す。
柄も持ちやすい良い位置になった。
「お前の力を借りるぞ。黒穴!!」
俺は吸魔刀と恐れられていた刀を手入れしていた。
造りと形は日本刀と酷似していた。
材質が違うのか加護なのか鞘にも柄糸にも刀身にも風化は見られず美しい刀だった。
銘は黒穴と彫られていたが刀匠の名前と製造年などは彫られていなかった。
ずっと俺のストレージで眠っていて貰いたかったがそうは行かない相手のようだ。
「本気で行く。死ぬ事を後悔するなよ?ガメル!!」
半腰を落としガメルの目を眼光鋭く見据えやや右前傾姿勢で俺は右手を柄に添える。
「ガハハハハハ!我の槍よりも細く短い得物など我には届かぬわ!だが使えそうな得物のようだ。我が貰ってやるとしよう。喰える形は残して殺る。喰らえ!ファスト・ストライクゥ!」
ガメルの丸太の様に太い左腕で渾身の膂力で突き出される槍。
(フム、確かに鋭く正確で速い突き。ワタシの顔面の中央を狙い突き抜こうと迫る。自分の強さに絶対的な自信があり初撃から一撃必殺の攻撃名を叫ぶ。それは対面での命を奪い刈り獲る戦場でやるものではない。お前の技は見せ物の闘技に過ぎない!)
大きく右に素早く移動し躱す。
するとガメルの槍から収束された衝撃波が一直線に玉座を破壊し更に後ろの垂れ幕の小部屋奥の壁に穴を穿つ。
外の風が吹き込む程の。
「ガハハハハハ!!よく避けたな!受け止めれば貴様にも風穴が開いておったのだがな!」
「今のそよ風も小手調べか?」
俺は柄に手を添えたままガメルに聞く。
みるみるうちにガメルのこめかみに太い青筋が浮かび上がる。
「ふん!単なる虚仮威しよ!これならば避けきれまい!!ヴォーパル・スティンガァー!!」
ガメルの攻撃で一番の威力と速度の突きが襲い迫る。
ガメルの狙いは先程と同じく俺の頭だ。
狙いが解れば対処は可能。
迫り来るガメルの槍を躱し俺の間合いに入った瞬間に抜刀しそのままガメル胴体を横一閃で斬り抜く。
斬った手応えを微かに感じた。
斬魔丸斬れ味は俺の思った以上に恐ろしく鋭過ぎた。
技の流れのままガメルの後方に移動した俺はガメルの背中に瞬時に向き直り斬魔丸を上段に構え縦一閃に斬り下ろす。
刀身に付いた血脂を数枚重ねた和紙で拭いその紙を床に捨て斬魔丸の刀身を左手で掴んだ鞘に静かにゆっくりと納刀する。
微かに響いた鯉口と鍔の金属音に気付いたガメルが声を出す。
「なっ!いつの間に後ろ…」
振り向こうとしたガメルの身体が縦横四つに斬り分かれ濡れた音を立てて床に崩れ落ちる。
俺はストレージに斬魔丸を入れて代わりに新しい木剣を二本取り出し左腰のベルトの隙間に挿し入れる。
「まさか!ガメルが負けるなど!そんな馬鹿なー!うぅッググッガメル…ググッアグアグッ!ングッ、ググッ、ングッアグッググッググッ、ググッ、ズズズズッングッ」
壁から足をようやく引き抜けたリザメルはケイとの闘いを放り出し叫び声あげガメルの亡骸に走りより上に覆い被さる。
するとジケメダが首を横に振り槍を叩いて必死に何かを訴え様としているが張り付いたマスクの取り方が解らないので取り敢えず頷いておく。
するとジケメダは眼を見開き大きく何度も頷いている。
リザメルを指差し腕を前で交差している。
大体ジケメダの伝えたい事はリザメルの行動なのだろう。
なので俺は適当に頷いておく。
「任せろ。キリッ」
何故かジケメダは涙目になっていた。
しばらくするとリザメルは俯いたまま立ち上がる。
「フハハハハハハハハ!余が泣いているとでも思ったのであろう?勇者ごときの死に涙など流すものか間抜けな勇者どもめ!勇者など余らにはただの糧に過ぎぬ!フハハハハ、恐ろしいであろう?フハハハハ!!」
嗤いながら顔をあげたリザメル皇帝の口の回りは赤黒く染まっていた。
どうやら喰らっていたようだ。
ガメルを。
「いや全然。なぁアラヤさん。」
「むしろ想定内だなケイ。」
「ああ、そうだな。」
俺と黄金に輝くケイは横にならび頷き合う。
猿芝居を何度も見ているので見慣れている。
まだまだ帝国編は続きます。どうしますか?
読むのに疲れる
飽きてくる
鍬を持つ
マスクを着ける
外に出る
人の庭を耕す。
耕す。
耕す。
その家の人が見ている。
それでも耕す。
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