俺の職業は…閑話
お待たせ致しました。
執筆を再開出来るようになりました。
スローペースで執筆をしていきます。
……カチャ……トントン……ジャージャー……
朝の音が聞こえて来る。
いつも通りの朝の音だ。
もうすぐいつも通りの声が聞こえて来るはずだ。
「ハーイ、みんな、お寝坊さんのパパを起こして来てくれる?」「「「ハーイ!」」」「アーブ!」
廊下をトタトタと小さな足音達が近づいて来るのが聞こえる。
いつもの通りの毎日の始まりだ。
いつも通りにもうすぐ俺は子供達の掛け声で目を醒ます。
もうすぐ俺のいつもの通りの毎日の朝の始まりだ。
俺のいつも通りの幸せな朝の…
突然凄まじい突き上げるような衝撃がベッドに寝ていた俺の全身を突き抜ける。
ベッドルームの壁や天井が激しく歪む。
まるで全ての方向から圧縮され潰されていくように。
一瞬の静けさに包まれた数秒後に凄まじく激しい破壊音が耳に響く。
俺の意識は、記憶は途切れる。
大勢の声と木材を切断する機械音と断続的な破壊音が聞こえて来る。
「ピピッ!ピピッ!ピピッ!」「該当家屋内に複数の生体生命反応確認!家屋内に要救助者数名の生存を確認!早急に救助活動を開始せよ!緊急災害警報を近隣の全ての通信可能な携帯端末に送信せよ!」「はっ!緊急災害警報発信開始します!」「ピロピロ~ン♪ピロピロ~ン♪ピロピロ~ン♪」「携帯端末の着信音確認!守谷さん!守谷さん!声が聞こえますか!返事をして下さい!」「ピロピロ~ン♪ピロピロ~ン♪ピロピロ~ン♪」「守谷さん!聞こえますか!」「女性を発見!救助を開始します!」「っ!廊下の瓦礫の下に女児を発見!救助を開始します!」「女児を更に発見!っく!意識がありません!救助を開始します!っ!更に女児を…女児を発見!頭部からの出血を目視にて確認!更に要救助者が存在している模様!足元の瓦礫を慎重に除去せよ!」「「「「はいっ!」」」」「克さーん!克さーん!奥さんと娘さん達は皆…皆見付かったよー!助けてもらえたよー!」「克っさーん!克っさーん!何処だー!」「守谷さーん!何処だー!」「克哉さーん!お願いだから何でもいいから音を!声を出してー!」
救助隊らしき人達の緊張感のある声や何かの機械音とあちこちからスマホや携帯ゲーム機の着信音と瓦礫を動かす音と聞き覚えのある数名の男女の声が聞こえて来る。
今は朝のはずだ。
俺は瞼を開けているはずだ。
俺は今…瞬きをしているはずだ。
だが目の前は真っ暗闇だ。
全身にのし掛かる重圧感。
腕も動かせない。
足も動かせない。
胸を強く圧迫されていて声が出せない。
呼吸も儘ならない。
「子供達を…妻を…俺より…妻や…子供…達を…先に…」
力の無い掠れた声を喉から絞り出す。
「っ!微かな男性の声を確認!」「守谷さん!奥さんと子供さん達は救助、搬送されました!守谷さんもう一度声を出して下さい!」「…良かった…俺はここに…」
俺は少し動かせた腕を瓦礫の隙間に差し込む。
「発見!男性の腕を目視にて確認!確認しました!」「慎重に瓦礫の除去を開始する!」
何が起きたのか解らない。
しかし今の俺には何が起きていたのかは理解していた。
このあと妻が子供達が、弟夫婦の家族達が、妹夫婦の家族達が、父や母が誰がどうなっていったのかを俺は知ってる。
これはあの日の朝の記憶の再現の夢。
不意に身体ごと意識が後ろに吸い込まれるような感覚に襲われる。
俺はもうすぐ目を醒ます。
いつもの様に皆と笑顔で朝の挨拶をする為に。
彼らだけでも滅び行くこの狂った世界から救い出す為に。
勇者は目覚めようとしている!
ようすをみまもる←