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エピローグ02 祝勝会


「来やがったな! 巨人JJ! 正義の鉄槌を受けろ!」


 JJの周りに小さな男の子たちが集まり、攻撃を開始する。叩く者、押して倒そうとする者、様々だ。

 しばらく抵抗していたJJは次第に押し倒されていく。


「ぐおー、このJJ様がこんな奴らに~」


 喉を掻きむしり、断末魔を上げて倒れていく。JJは今日もサービス精神旺盛だ。

 そこにシェーラがのしのしと入っていき、子供たちを宙に放り投げてはキャッチを繰り返す。

 投げられた子供たちはキャッキャと歓喜の叫び声を上げている。


「クッ、魔神シェーラは強い。まだ今の俺たちじゃ勝てねえ。伝説の武器を探すぞー」


 リーダー格の男の子の号令で子供たちは蜘蛛の子を散らすように走っていく。

 シェーラが追いかけるそぶりを見せると、子供たちはキャーキャーと楽しそうに悲鳴を上げる。



 オウルシティ旧市街。整備された新市街、すなわち現在の居住地区に大勢の人がここから移住し、100年以上が経つ。残っているのは貧しい者や、移動したがらない偏屈者。後から入ってくるのは、やはり貧しい者、もしくは訳ありの者。

 そのため治安も悪く、清掃も行き届いてはいない。廃屋に近い建物や持ち主不明な建物なども並ぶ。地べたに座り込んでいる者もたまに見かける。

 ここはそんな旧市街の外れ、旧市街の中では大きな土地と比較的しっかりした建物をもつ孤児院。といっても正規の孤児院は『豊穣の神』の神殿が運営し、居住地区にある。


 つまりここは国として正規に迎えられない訳ありの子のための孤児院。自他国問わず政争に敗れた者の子や犯罪者の子など。そんな子供たちを盗賊ギルドが管理し、別人として新たな生を与えている。

 子供たちは盗賊ギルドの所属になり、成人したら規定の額をギルドに納める必要がある。それまでは形式上盗賊ギルドの所有物ということになる。

 あくまで形式上であり物のように扱われることは当然ない。むしろ成人してから十分収入が得られるようしっかりと教育される。

 それに盗賊ギルドの所有物ならば、恐れて手を出す者がいようはずもない。子供たちを守るために必要な措置でもあるのだ。


 孤児院の玄関で子供たちの歓迎を受けた私たちは正面の食堂へ入る。現在11人の子供たちが暮らす孤児院の食堂は広く、大きなテーブルが置かれている。調理場もすぐそばにある。

 そこで祝勝会用の大量の鶏肉と日持ちする燻製肉、その他野菜や果物などをティナちゃんに渡した。そう、祝勝会が今日なのはティナちゃんの手が空いてるのが今日だけだったかららしい。


「うわ、多いわね。ロズ(ねえ)にも手伝ってもらわないと」


 ロズ姐さんは元は娼館で働いていた中年の女性で、引退した今はこの孤児院の院長をしている。辞めたきっかけになった大きな傷痕が顔に残っているが、それが別種の美しさを感じさせる。あと決してオバサンと呼ぶことは許されない。


 ティナちゃんがロズ姐さんを呼びに行っている間に、私たちは報酬の分配をすることに。JJは大きなテーブルに銀貨袋を乗せる。


「報酬は一人銀貨300枚、残りは経費と共有財産ということでいいかな?」


「あれだけ危険な仕事でも2か月分の生活費にしかならないんだから、冒険者の命は軽いもんだな」


 私が銀貨を分けると、ロイゼルは素早く銀貨をしまってそう言った。言葉に反して仕事をやり遂げた満足感が表情に表れている。

 実際ロイゼルの働きは素晴らしかった。私はロイゼルと視線を交わしパチンとハイタッチ。


「私は報酬はいらないわよ。役に立てなかったし」


 ティントは下を向き、顔をそむける。長い睫毛がひくひくと揺れている。

 しまった! ティントがいじけてしまった。

 ティントがぷりぷりと怒っている姿は愛らしく見ていたいが、落ち込む姿は見たくない。


「そういう訳にはいかない。それにティントのくれた情報は役に立ったよ。そのおかげで作戦を立てられたんだから」


 私は無表情のティントの頬をふにふにとほぐす。JJとシェーラも、そうだぞティントのおかげだ、とフォローする。

 ティントは無反応を貫くが、そこに可愛らしい天使の声が響く。


「てぃんとぉ、いるのぉ?」


 私たちが振り返ると、二人のリボンを付けた小さな女の子が食堂の入り口から顔を覗き込ませている。不安そうな顔をしていた二人は、ティントを見つけると花が咲き開くように満面の笑顔に変わる。


「てぃんとだー!」


 おそろいの服を着た二人はティント目掛けて弾むように飛び込んでくる。

 少しくせのある薄茶色の髪に垂れ目の子がラヴィーヌ、長い金髪にいたずらっぽい目をした子がテーレ。二人は確かもうすぐ5才になる。血は繋がっていないが、ここで暮らす子供たちは皆兄弟だ。

 二人はティントに抱きつき、顔をぐりぐりと押し付ける。


「てぃんと、お花、かわいいね」


 ラヴィーヌはティントの髪の白い花飾りを指さす。

 ティントも二人に抱きつかれ、本来の純粋な笑顔が浮かんでいる。


「ありがとう、二人のおリボンも可愛いわよ」

「あのね、これ昨日ね」「昨日ね、ろいぜるがね」「ろいぜるが作ってくれたの―」「くれたの!」


 ラヴィーヌとテーレは話したかったようで勢い込んで言う。

 ティントは「よかったねー」と二人を撫でている。

 二人のおかげでティントの機嫌も直ったようだ。


 そこにティナちゃんとロズ姐さんがスタスタとやって来た。

 額から右目を掠め、顎にまで抜ける深い傷痕を残すロズ姐さんは「よっ」と軽く手を挙げ挨拶する。私たちも「こんにちは」と挨拶を返す。


「燻製肉と菓子類はお土産かい? ありがたく貰っておくよ。料理は作ってやるから子供たちの面倒を見ておいてくれ。ロイゼルは料理を手伝いな」


 ロズ姐さんは物は受け取ってくれるが、お金は受け取ってくれない。盗賊ギルド以外の資金が入ってしまうと色々面倒らしい。

 ロズ姐さんとティナちゃんとロイゼルの3人は、土産の品を手早くしまうと、テンポよく調理を始める。

 3人とも運動に向いた良い体をしている。ロゼ姐さんは体型を維持する努力を怠ってないようだ。


 私たちも働かないとな。

 ティントはここでラヴィーヌとテーレの相手を続けるようだ。

 私とJJとシェーラが食堂から出ると、待ち構えていた子供たちに囲まれる。


「L、絵本読んで―」「JJ、お歌うたって」「L、ここの勉強教えてほしいんだけど」「JJ、一緒に踊ろー」「今だ! シェーラを伝説の武器で攻撃しろ!」「L、剣を教えてくれ」「JJ、お絵かきしよー」「ギャー! シェーラに伝説の武器を奪われるー! この世の終わりだー!」


 ロズ姐さんに相手をしてもらえと言われたのであろう。子供たちの実に賑やかなこと。元気があってよろしい。

 シェーラは伝説の武器こと木の枝を掴み、枝を持つ子供をぶら下げて庭へと向かう。「ファビを助けろー」と二人の元気な男の子も後を付いていく。

 JJも頼んできた子供たちを連れて2階へと上がっていく。


「はい、小さい子から順番にね」


 私が笑顔で言うと年長の子たちは「はい」と言い素直に従う。

 私は絵本を取りに2階へ上がる。すると子供たちは一緒に付いてきた。

 一番大きな子供部屋ではJJが歌を歌い、踊りながら絵を描いていた。器用な奴だ。子供たちも一緒に笑顔で腰をふりふり歌ったり踊ったりしている。

 どの本にしようかな、と私が本棚を眺めていると、「これ読んで」と絵本を持ってくる。“やまのかいじゅう”と書いてある。昔読んだことがあるような、どんな話だったかな。

 私は絵本をぱらりと開く。


「“やまのかいじゅう”ビュオーウ、よるにひびくあのおとは、やまのかいじゅうのこえなんだって。なんだかちょっぴりこわいな…………」




 子供たちと思い切り遊んで火照った体を、夜風がやさしくなで、冷ましていく。祝勝会は実に楽しかった。子供たちは大好きな鳥の揚げ物がずらりと並び、大喜びだった。皆のうれしそうな顔が見れてとても幸せだ。

 祝勝会を終えると、小さな子供たちを寝かしつけ、私は外に出た。ティントは子供たちと一緒に眠ってしまった。無理に起こすこともないだろう。


 今日も月が綺麗だ。月の魔力は魔神も魅了する。毒も含んだ美しさ。

 私は月と星をもっと眺めたくて、庭に腰掛ける。濃い草の匂いがする。手に触れる草の感触が心地よく、私はそれを軽く握る。


「珍しく(はかな)げな雰囲気だしてるな。景色に溶け込んでるじゃん。自己主張の擬人化のくせに」


 ロイゼルは外に出て来るなり悪態をつく。失礼な奴だ。情緒がないな。

 だが、ちょうどいい。話したいことがあった。


「やまのかいじゅうは自分の居場所を探してるんだってさ」


 私の視線は月を捉えたまま。風に混ぜるように無造作に呟く。


「どうした? 自分の居場所を見失って、探しに行きたい?」


 ロイゼルは小馬鹿にしたような態度に、ちょっと不思議がる様子を添えて、私の横に座り足を伸ばす。


「逆だよ! 私の居場所は世界全てだ! だから世界中を巡らないと!」


 私は力強く()える。ロイゼルと視線を交わしニヒヒと笑う。ロイゼルも腹を抱えて、高い声でアハハと笑う。


「そうだよな。Lが周りの景色なんかに染まるわけがない。自分が在って、そのあとに世界が在るってな。でも儚げな雰囲気の方が男にはモテるぜ」


 モテるかなんてどーでもいい。私は世界を()るのだ。欲深な女だからな。

 ロイゼル、君はどうなんだい?


「ついてくるか?」


「――僕はここが好きだ」


 ロイゼルは笑いを止めると、孤児院に視線を向け、それから周囲を見渡す。その目には深い愛情がある。


「けどここは子供の城、成人したら出ていく場所さ。皆とパーティーを組む時から決めてる、毒を食らわば皿まで、ってね」


 仲間を毒呼ばわりは酷いものだ。ロイゼルらしい。

 私は「よし!」と言って立ち上がり、服に付いた土を払う。

 中に戻ろうと歩き出すと、ロイゼルが声を掛けたので振り返る。


「あと、ついてくるかは質問として間違ってるぜ。先頭を行くのは僕だからね。Lを先に行かせたら罠に掛かり放題だ!」


 ロイゼルは再び声を出して笑うと、私を追い抜き、孤児院の中へと走り込んだ。



6/28 これで第一話は終了です。書き溜めた分がなくなったので一週間ほど書き溜めたいと思います。


追記 7/12(金)より連載を再開します。

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