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ルミナの訪問から半月が過ぎた頃、偵察に出ていたダグラスが一旦戻ってきた。陽が沈みきってから音もなく帰還したダグラスと、情報を共有する。


「捕虜がいる場所は、まだ一箇所しか突き止められなかった。でも武器はとりあえず三人分、手に入れたぜ。ユストが煩いから、正規の方法で入手したんだ。文句を言うなよ」

「ありがとう」

「でも、いつまでもそうできる訳じゃねぇぞ」

「わかっている」

「ならいいけどよ。お前の方はどうだった?異常無しか?」

「いや…ルミナ姫がここへ来た」

「はあ!?」


やはりダグラスも仰天させられ、信じられないという顔で、ユストの話を聞いていた。


「本当に馬鹿な姫サマなんだな。ま、俺達にはありがたい話だけどさ。ユスト、せっかく気に入られたんだ。自分の色気を生かして上手いこと情報を引き出してこいよ」

「色気…?」

「お前の顔がお気に召したんだろ?そういうのは存分に発揮しないとな」

「私には不向きだと思うが…それに、あの日は偶々機嫌が良かっただけで、次も同じようにいくとは限らない」

「不向きとか言ってる場合かよ。女を陥落させて内情を吐かせるのは、大昔からの常套手段…もごっ」

「ダグラス様!ユスト様に変なことを吹き込まないでください!」


オルナンに前触れもなく口を塞がれたダグラスは、お前は保護者かと心の中で毒づいた。そもそも、ユスト達の方がオルナンより年上である。


「…色気云々はよくわからないが、私とて悟られない程度に探るつもりでいる」

「お前に惚れさせれば一発…ふがっ」

「でも、姫君から国王陛下にバレてしまう危険もあるのでは…?」


憎まれているとも知らずにのこのこやって来て、城の秘密をぺらぺらと喋ってしまう愚直な姫だ。意図せずに、ユストとの会話の内容を誰かに話してしまう可能性は大いにあった。


「そうだな。慎重に慎重を期さなければならないだろう」

「まあお前が隙を見せる訳ねぇか。悪いけど、明日一日はちょっと休ませてもらうぜ。ベッドが恋しくてな」

「それがいい。その間に私も街に出てみようと思う」


ユストが留守にしている間は、ダグラスに影武者となってもらう。この屋敷には常に二人が残り、出掛ける者は単独で、というのが彼らの取り決めだった。


「本来なら僕もお伴すべきですが…どうか無事に帰って来てくださいね」

「たかが半日でヘマするようなら、この先やっていけねぇぜ」

「もう!ダグラス様は黙っていてください!」


ダグラスの言う通り、こんな所で躓くようでは、国を覆す計画を大成させる事など夢のまた夢だ。ユストは気を引き締めて、明日の準備を進めるのだった。




翌朝、ユストは早くに屋敷を出発した。夕刻までに戻れるよう、辿る経路は昨夜のうちに検討してある。これもダグラスが都の街路を、簡略的ではあるが地図にしてくれたおかげだ。

見張りの目を掻い潜って獣道に入り、難なく街へと下りたユストは、旅人を装って市場を歩いていた。


(…帝国ほど、荒んではいないか)


城下の都だからか、活気もあるし、人々の顔も暗くはない。

祖国であるアスンクリト帝国では、道が物乞いをする人間で溢れかえっていた。その多くが子供か老人だった。男性は言わずもがな、働けるのならば女性までもが鉱山に行かされ、劣悪な環境下での労働を課せられている。一度、働きに出れば何週間も家を留守にしなければならず、残された子供達だけで食事を整えるのは厳しい。しかも食糧事情は日に日に悪化するばかり。餓死寸前まで痩せ細った子供を目にするのは、胸が潰れそうなほど痛く、辛いものだった。


(こうしている間にも、帝国の民は苦しんでいる。だが…まだ動く時ではない)


動けぬ自分が、ユストは憎らしかった。ぎりっと歯噛みしてでも、今は耐えるしかない。


「旅のお人、一つどうだい?採れたての青リンゴさね」

「…ああ、貰おうか」


俯き加減で歩き進めていたユストを、露店の女主人が呼び止めた。気さくな店主に釣られてユストも僅かに笑いながら、銅貨を差し出して林檎を受け取った。少しだけだが、この国の貨幣は持ち合わせがある。ユストの父が隠し持つようにと渡してくれたのだ。


「はいよ、まいどあり」

「ここは賑やかだな」

「国王陛下のお膝元だから、地方に比べればねぇ。これでも税金が吊り上がったせいで生活は苦しいもんさ」


テル・アゼカ王国の税収制度は大きく分けて二つ。国王に納める『王税』と、各々が暮らす土地の領主に納める『地税』だ。王税は一律だが、地税に関しては各地の領主に采配が委ねられている。王税を上回る金額でなければ良いとの規定がなされており、領主は必要に応じて徴収する金額を変更できるのだ。

しかし近年、王税が引き上げられたのを契機に、地税を上げる貴族が続出し、民達は働けども働けども、給金を搾り取られてしまっている。甘い蜜を吸っているのは貴族達だけで、その最たる者がバサノス王である。


「…まだ行ってはいないが、やはり都から離れるほど状況は酷いのか」

「あたしも風の噂で聞く程度だけどね。相当らしいよ。今年は不作かもって囁かれているし。ここだけの話、けっこう過激な連中も出てきているんだ。だから旅をするなら気をつけなよ」

「そうか…ありがとう」


それはユスト達にとって好都合だった。国王に対抗するには、数で圧倒するしかないからだ。怒りの大きさに比例して、ユスト達の計画に乗る者の数も増えるだろう。

女主人と別れてからもユストは市場を巡り、それとなく国王への反感の度合いを探って回った。そうして気付いた事がある。

両陛下について聞けば、たちどころに不満が噴出し、王太子の散財も話題にのぼるが、奇妙なことにルミナの名前は一度も耳にしなかったのだ。

怪訝に思ったユストは、話の流れの中で彼女の名を出してみた。しかしながら民達は皆、首を捻るばかりであった。


「ルミナ姫かぁ…式典には一切出てこないから、病弱なんじゃないかって思ってる」

「兄君である王太子様は嫌ってほど知ってるけどね。あの方の豪遊は凄いよ。まったく、賭博好きにはロクなのがいないね」

「どうせ城でぬくぬく暮らしてんだろ。ま、悪評が立たないよう大人しくしてるんなら、それでもいいがな」


終いには「そういえばいたっけ?」と、存在を忘れている者まで出てきた。


(どういう事だ。ルミナ姫は『我儘姫』と忌み嫌われているはず。アスンクリト帝国にまで、悪名が届いていたのが良い証拠だ)


ユストは実際に王城で彼女の振る舞いを見聞きし、その呼び名に納得させられたというのに、民達のこの反応は違和感しか覚えない。

公務なんかしたくないと、駄々でもこねて一切合切、拒否し続けているのだろうか。王族の参加が義務付けられている式典でも、そんな我儘が通るのか。

いずれにせよ、腑に落ちなかった。


浅はかだとしか思っていなかった、屈託無く笑う姫の底が急に見えなくなり、ユストは言い知れぬ不安を感じたのだった。

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