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いざそれぞれの戦いへ

 クルトス近くの鉱山。

 リムドはその鉱山に向かい、町から見えないよう裏手に回って比較的平坦な場所に着地した。暗闇に紛れたことで賢族には見つかっていないだろうが、念のため周囲を警戒する。

 どうやら、今のところは安全らしい。

 静かで、人の気配もない。星を見るには絶好のポイントですらあった。


 そこに、中身が詰まって膨れ上がった大きな麻袋を持った小柄な白竜が飛んできた。

 小さな竜とはいえ、着陸するだけのスペースが足りない。そのため先に荷物を下ろし、器用に結び目をほどいた白竜は空中で竜化を解除した。

 竜の全身が一瞬にして淡い光の粒子となり、その中心にいたメイド服の少女が山肌に降り立った。


「リムド様、大丈夫でしたか?! お怪我は……?」


 心配そうに駆け寄ったその少女・チーカは、リムドがこの世界で初めて遭遇した人物その人である。

 彼女もまた、討伐隊の一員であった。


「ああ、問題はない。ただやむを得ず竜化を解除してしまった。すぐにエーテルを補給したい」


「はい、すぐに用意しますので!」


 そう言ってチーカは、麻袋の中に上半身を突っ込んで食料を取り出し始める。

 袋の中には、他にも武器が入っていた。


 腰を下ろし、受け取った食料、主に肉類を中心にリムドは片っ端から平らげていく。

 体感で4割は使ったかと、リムドはエーテルの消耗具合を自己判断する。枯渇すれば倦怠感や空腹感が襲うが、今はまだその兆候はない。


 エーテル・レイは照射している時間に応じてエーテルを消耗し続ける。長々と撃ち続ければ、それだけエーテルを失う。

 そして竜化は、発動の際にのみエーテルを消費する。

 一度発動してしまえば、竜形態の維持にエーテルの消耗はない。ブレスやレイを放てば話は別だが、それさえしなければ永久に竜のままでいることもできる。

 ただ、竜化の際に消費するエーテル量が体感で二割ほどなので、人になり竜になりを繰り返していけば瞬く間にエーテルは底をつくのだ。


「あの人、もしかして四賢者の人だったんですかね……?」


「それは分からないが、空を飛ぶ竜の群れに1人で戦いを挑むとは、なんとも度胸がある奴だった。イドールといい、四賢者は戦闘狂ばかりなのかもな」


「過激派っていうぐらいですから、本当に過激なんですね……」


 話しつつ、リムドは急いで食事を進める。

 クルトスに到着した時点で一度エーテルの補給を行うのはあらかじめ決めていたことだが、竜化を解除してしまったので余分に回復する必要ができてしまう。


 言ってしまえば、リムドがヴェスティンに与えられた損害はそれだけであった。

 僅かにもらったダメージは、時間経過とともに回復し、パルシトンに到着する頃には完治しているだろう。

 ヴェスティンが他の竜を狙えば、もっと深刻な被害が出ていたかもしれない。何匹かの竜が撃ち落とされた可能性も十分にありえる。

 とはいえ、それは彼の性格上ありえないことであった。

 



 クルトスの空を、赤竜ヴァルゴと白竜アリルを主軸とした竜の軍勢が旋回していた。

 飛び回り町の隅々まで見るが、どうにも人の姿がない。

 賢族側からの攻撃もなく、どの建物も照明を落としていた。


 不気味なまでの静けさは竜たちに、クルトスは無人の町であるかのように思わせる。

 しかし、この町のどこかに竜族や狼族が捕らわれているのは確かだ。

 それを教えたのはヴァルゴの背中に乗るポルトンであり、その彼が不審だとばかりに口を開く。


「隊長さん、下手に降りない方がいい。きっと奴ら建物の中で待ち伏せしてやがるんだ。竜族の仲間を人質にとってるかもしれねえ」


 竜化すると人の言葉を話せなくなるので、ヴァルゴは頷いて返答とする。


 この町にいるのが敵のみなら、屋内に炎を流し込めば終わりだ。

 しかし救助を目的として来ている以上、無暗な攻撃は避けるべきである。


 そして屋内で戦うということは、空がないということ。

 さらに屋内は人の大きさに合わせて造られているため狭く、竜化すればかえって身動きが取れなくなる。

 これでは竜化も、空を飛べるという強みも封じられたに等しい。

 竜族にとって、明らかに不利であることは間違いがなかった。


 


 鉱山上空を警戒飛行する複数の竜を目印に、ポルトンを乗せたヴァルゴとアリルはリムドのもとにやって来た。部下は散開させ、クルトスから少し距離を取って待機させている。


「どうした、何か問題か?」


 リムドはちょうど食事を終えたところで、竜化を解除した2人に問う。


「奴ら、徹底的に外では戦わないつもりです。なのでその報告を兼ねて武器を取りに来たんですよ」


 ヴァルゴは、チーカが持参した麻袋を漁り、自分の得物である大剣を手に取った。敵が立てこもることも想定しており、こうして武器の用意と鎧の着用をしている。


「そうか。ヴァルゴ、アリル、任せたぞ。事が済んだら村に戻ってくれ。俺はパルシトンに行く」


「リムド様。先程の襲撃者も四賢者ならば、これであと2人、四賢者が残っているはずです。パルシトンに待ち構えている可能性も十分にありますので、どうかお気をつけください」


 アリルも自身の武器である槍を手に取り、リムドに進言した。

 その槍は十文字槍であり、白色の柄が特徴か。

 それなりの重量であるはずだが、軽々と扱っているのは竜族であり、訓練を重ねた副隊長だからだ。


「ああ。だがクルトスにいる可能性だってある。その時は頼んだぞ。じゃあ、また村でな」


 その場にいる者たちに挨拶し、リムドが出発しようとしたその時。


「な、なあ王様。やっぱり王様も一緒にクルトスを攻めるってのは駄目なのか? だってよ、その方が確実だろ?」


 おずおずと、ポルトンが呼び止める。この状況を彼なりに判断して、討伐隊の心配をしたようだ。


 そこに、ヴァルゴが割って入る。


「それは違うぜポルトン。言っただろ。これはオレたち竜族の、そして討伐隊のプライドをかけた戦いだ。リムド様に何もかも任せるなんざオレは御免なんだよ。それにリムド様はアルゴーシュと戦うんだ、余計な消耗は避けてもらわないといけねえ」


 怒鳴るのではなく、諭すように言うヴァルゴ。

 

「隊長さん、あんた、身の安全よりも自分のプライドが大事だってのかよ」


「そりゃそうだ。それに身の安全を求める奴は、こんな敵地のど真ん中に来て戦おうなんて考えねえよ。なあアリル?」


 にかっと笑うヴァルゴは同意を求め、アリルは力強く頷く。


「はい。ポルトンさん、あまり我々を見くびってもらっては困ります」


 隊長と副隊長が自信たっぷりに言うので、ポルトンは言い淀む。


「……まあ、そういうことだ。俺はヴァルゴとアリル、そして討伐隊の皆を信頼して任せた。それに俺が先にアルゴーシュを倒せば、それを知った過激派賢族たちは戦意を喪失するだろう。そうなれば、クルトスの戦いによる被害も抑えられるかもしれないしな」


 内心では、一切の心配をしていないわけではない。それは誰であってもそうだ。

 しかしそれを口にすることは、何よりも無礼である。それもまた、誰もが理解していた。


「よしチーカ、その袋を持ってきてくれ。ではリムド様、帰ったら酒を呑みましょう!」


「ああ。騒ぐ元気は残して戻れよ」


「……王様、アルゴーシュは強い。でもあんたならきっと勝てる! ……つっても、過激派賢族のオレが竜族を応援するのも変な話だけどな」


「お前はもう、友好派の賢族を名乗っていいさ」


 言葉を交わし、ヴァルゴは半竜化により背中に翼を広げその背中にしがみついたポルトンとともに飛び立っていった。


「じゃあ私も失礼します。リムド様、無事に戻ってきてくださいね」


「戻るさ。壊された城の再建や賢族との関係修復と、まだまだやるべき事は山積みだからな」


 冗談めかして言うと、メイド少女は無邪気に笑った。

 そうしてチーカも荷物を持って飛んでいく。中身が減って軽くなったので、竜化せずとも平気のようだ。 


「……お前も早く行かないと、みんな待ってるぞ」


 リムドは振り返り、アリルに言葉を投げ掛ける。

 向かい合って立つ二人。今は、竜一と茜だ。


「分かってる。だから、一言だけ」


 真っ直ぐ相手の目を見つめて。 


「……すっごく心配だけど、信じてるからね」


「心配なのはお互い様だろ。それと、信じてることもな」


 お互い満足したように頷き、笑う。

 そうしてアリルも、クルトスに向け半竜化し飛び去って行った。

 皆を見送ったリムドは、南東の空を見やる。


 ひとまず南の方角に飛べば、そのうちラド村とパルシトンを繋ぐ交易路が見えてくるはずだ。

 そこから道なりに東へ行けば迷わずパルシトンに着き、そこにはアルゴーシュがいる。

 いよいよ決戦の時が迫っていた。


 一旦半竜化して飛び立ったリムドは鉱山から離れ、さらにクルトスの街並みが遠くなっていくのを横目に捉える。

 視線を前へと向けたリムドの全身が黒い炎に包まれ、それが竜の形を成すように広がっていく。

 そして弾き飛ばすように、全身の炎が一斉に消失する。

 そこには、巨大な黒竜の姿があった。


 竜は単独、南東方面に向け加速する。

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