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8 忍耐の時

本日更新7回目です。

続きは明日となります。

 ロイたち4人に四方を囲まれた俺は、完全に逃げ場を失っていた。


「このまま君を殺すのは簡単さ。けどそれだと、ちょっと簡単過ぎてつまらない。だからさ、君にもチャンスをあげようと思うんだ」


 緊迫する雰囲気の中、ロイがそんな提案を持ちかけてくる。


「チャンス、ね」

「そう。君がギフトの力を使おうとしない限りは、僕一人で相手をしてあげよう。なに、君にとっても良い話だろう?」


 ギフトさえ使われなければ、俺なんか一人で十分という訳か。


 随分な自信ではあるが、あながち過信とも言えないのが、またムカつく話だ。

 残念な事に、ロイはそれだけの実力を有している。


「それはそれはご親切にどうも。では、一つお相手願おうか」


 俺は右手だけで剣を構え、ロイと相対する。

 他の3人からは視線を完全に外し、奴だけを鋭く見据える。


「ふふっ、いつでも掛かって来るといいよ」


 ロイもまた剣を構え、そう手招きをする。


「ふんっ、ではいくぞ!」


 そんな掛け声と共に一歩踏み出し、ロイの下へと駆け出す。


 ――そんな素振りをして見せる。


 直後、後方から放たれた殺気を察知し、振り返りざまに剣を振るった。


 キィィン! そんな金属同士の衝突音が響く。

 背後から放たれた矢を撃ち落とした音だ。


「1対1を提案したそばから、もう反故(ほご)か。ホントいい性格をしているよ、お前たちはさ」


 俺は心底呆れた声でそう呟く。


 何故、こんな連中に僅かでも気を許してしまったのか。

 バカな自分に嫌気がさす。


「おいおい……。なんだよ、その超反応はよぉ。まさかこれも読んでたってのか?」


 この対応は流石に予想外だったらしく、ラスターが若干不満げにそう漏らす。


「当たり前だろう? 今更どうしてお前たちの言葉を信用出来る?」

「あははっ。これは僕らの失態だね。てっきりもっと君はショックを受けてるモノかとばかり思ってたよ」

「はっ! そいつは残念だったな」


 ロイの言葉にぞんざいに応えつつも、俺は視線を左右へと動かす。


「……? よそ見はよくないな。僕らの方をちゃんと見ておかないと死ぬよ?」

「お前らが他に伏兵を隠してないか、少し探っていただけさ」

「やれやれホントに慎重なんだね。君、もしかして歳を誤魔化してないかい?」


 半分当たりだが、しかしそれをわざわざ教えてやる理由もない。


「単にお前らがガキ過ぎるだけだろうが……」

「ははっ、これは手厳しい言葉だね。でも、僕らの想定以上に君が手強かったのもまた事実だ。そこはちゃんと反省するとしようかな?」

「ふんっ、もう勝ったつもりか……」


 ホントにムカつく連中だ。完全にこの俺を格下扱いだ。

 何より、それを許してしまう今の弱い自分に苛立ってしまう。


「ねぇ、ロイちゃん~。この子どうするの~?」

「収穫の時期を見誤ったのは少し残念ではあるね。でも、ここまで来たらもう殺すしかないさ」

「え~。ちょっと勿体なくない~?」

「んなこと言ってもよ。ここでコイツを逃したら、今度こそ俺たちお尋ね者だぜ?」


 今度こそ、か……。

 なるほど、こいつら常習犯なのか。


 また一段と連中のゲス度が跳ね上がったな。

 何が何でもこいつらはここで殺しておくべき相手だと、改めて確信する。


「そうですね。ヒルダの気持ちも理解はできますが、ここは我慢すべき場面です。また別の街でじっくりと新しい獲物を探せば良いのですよ」

「ぶぅ……。分かったぁ」

 

 一応神官の端くれらしいトーラスが、そんな宥めの声を発する。

 それを受けて、ヒルダが拗ねたように呟きながら下を向いた。


「じゃあ私が()る~」


 そうして再び彼女が顔を上げた時、緩そうな女の顔は消失していた。

 生き血をすする魔女の表情が、そこには浮かんでいた。


「そういう訳だからねぇ。アロンちゃん、死んでねっ?」


 トロ臭い喋りから一転、ドスの聞いた低い声でそう告げて来る。

 そんな彼女の左手には、蒼くきらめく氷の魔力が集まっていた。


「くっ、いきなりだな!」

氷河波濤(グレイシャルサージ)


 俺の抗議に耳を貸す事もなく、ヒルダが魔法を発動する。


 空気中の水分が次々と凍り、多数の小さな氷が生み出されていく。

 それらが次々と結合を果たし、いくつかの氷塊となって俺をすりつぶさんと鳴動を始めた。


 これ程の魔法をいとも簡単に扱って見せる。

 ステータスを覗いて分かっていた事だが、ヒルダはやはり一流の魔導師らしい。

 

「……速度はそこまでだが、効果範囲の広さが厄介だな」


 直径30cm程度の氷塊が、付かず離れずの距離感を保ちながら列をなし、面となって押し寄せて来る。

 それは途方もない圧力だった。


 命の危機を告げる警鐘が、頭の中で高らかに鳴り響く。


「(さて、どう動くべきか……?)」


 ただ避けるだけなら、実はそれほど難しくはない。

 だが下手にその効果範囲外へと逃れようとした場合、動く方向が限定されてしまい、どうしても次の一手が読まれやすくなる。


 他の連中からの追撃などを考慮すれば、ちょっとした軽挙妄動こそが命取りへと繋がりかねない。

 ここは奴らの裏をかく必要があった。


「舐めるなよっ」


 だから俺は敢えて別の選択をする。


 右手だけで剣を構え、そして迎撃姿勢を取る。


「はぁっ!」


 面を貫くセオリーは、やはり一点突破だ。

 見た目はどうでも、小柄な俺の身体へとぶつかる軌道の氷塊は数個だけ。


 それらを弾き飛ばし、安全圏を確保する。

 そのように剣を振るった。


 ズドドドドドォォォン!!


 直後、後方から氷塊が地面へと激突する音がいくつも聞こえてくる。

 思惑通りに氷の軍団は俺を避けて過ぎ去ってくれたようだ。


 だが警鐘はまだ鳴り止まない。


「――アロンちゃんならそう動くって。私信じてたんだぁ~」

「っ!?」


 裏をかいたはずが、ヒルダの表情にまるで動揺の色はなかった。

 そこには嫌らしい薄ら笑いが浮かんでいた。


 どうやら俺は選択を誤ったらしい。

 警鐘の音量が更に増していく。 


火焔嵐流(ブレイズストーム)

 

 続いて今度はヒルダの右手から荒れ狂う炎が放たれた。

 うねりをあげた炎は、俺を食い尽くさんと荒ぶる。


 先程とはまた異なる性質の魔法だ。

 それは単に氷と炎の違いに留まらない。

 遥かに高速で、しかも実体が不明確な炎をいなすのは、今の俺の腕ではまず不可能だ。


「くそっ」


 こんなの回避一択しかない。

 即決即断で横へと飛んだことで、辛うじて難を逃れる事が出来た。


 回避の選択、それ自体は正しかったと言える。

 現に進路上の草木は焼き尽くされて、焦げた土が露わとなっている。

 離れていても伝わるその熱気に、込められた威力の凄まじさを改めて実感する。

 下手に受けようとしていれば、間違いなく死んでいただろう。


 危地を逃れたはずの俺だったが、それでも警鐘が鳴り止む気配はない。


「うんうん。アロンちゃんなら、それも避けてくれるって信じてたよぉ」


 そう言うヒルダの視線が、俺ではなくその後方へと向けられている事に気付く。


「まさかっ!?」


 振り返れば、ついさっき俺が立っていた場所には、轟々と燃え盛る炎の柱が誕生していた。

 その炎は、自然にはまず有り得ない形状をしていた。

 いまだヒルダの制御下にある事の証だった。


「これで終わりだよぉ。炎と氷の狂嵐フレアアンドアイス・ボルテクス


 ヒルダのそんな言葉と共に、炎柱が螺旋を描き始めた。

 その勢いはドンドンと加速し、それは嵐と化していく。


 炎嵐はそのまま周囲へと大きく広がり、地面へと転がった氷塊を次々と巻き上げていく。

 本来ならば高熱によって溶けるはずの氷塊は、何故かその形を維持していた。


「複合魔法まで扱えるのかっ!?」


 高位の魔導師は、時に相反する性質を持つ存在同士を、混在させることも出来る。

 自然には有り得ない現象を起こす。魔法の魔法たる所以(ゆえん)の一つだった。


 ヒルダが放った2発の魔法は、全てこの複合魔法への布石だったらしい。

 今更ながらにその事実に気付いた俺は、自分の迂闊さを呪うしか出来ない。


「くそっ」


 迫りくるその脅威の魔法に対し、もはや為す術などなかった。

 俺自身には。


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