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5 迷い

本日更新4回目です。

 冒険者となってから俺が挙げた成果は卓越していた。


 強力な魔物を次々と討伐し、この街の冒険者ギルド期待のルーキー。

 今の俺はまさにそんな扱いとなりつつあった。


 だがそんな名声など、別に俺は必要とはしていない。

 俺が魔物を狩るのは、資金稼ぎとギフトの鍛錬のためだ。全ては復讐を果たすための、ただの下積みに過ぎない。


「おい、見ろよあのルーキー。なんか今日も大物狩ってやがったみたいだぜ?」

「はぁ、たった一人でどうやってんだかな。ったく、まだガキのくせして、嫌な目つきしやがってよぉ」


 貧民街育ちの俺の体格は、お世辞にも良いとは言い難い。

 チビで肉付きも悪く、かといって魔法や御業が使える訳でもない。


 そんな俺がたった一人で強い魔物を狩っている事実を、連中は不気味がっているのだ。


 まあ、ああやって遠巻きに見ている奴らは別にどうでもいい。

 本当に厄介なのは――


 などと考えていた矢先、絵に描いたようなガラの悪い連中が俺へと近寄って来る。


「坊主……おいたはあんま良くねぇぜ? 悪いこたぁ言わねぇ。何をやってるか素直に喋んな」


 中心に立つリーダーらしき大男が、自慢の筋肉を見せつけるようにして脅してくる。


 多分俺がどんな方法で狩りをしているのか、その秘密を知りたいのだろう。


 これまでも俺を尾行し、その秘密を暴こうとした連中は何人もいた。

 もっともそいつらは全部、撒いてやったがな。


 埒が明かないので、こうして直接行動へと出たということなのだろう。

 短絡的な連中だ。だから三流なんだよ。


「すまない。そこをどいてくれないか?」


 無視してギルドを出ようとすると、荒くれ共が行く手を塞いできた。


 はぁ、面倒だな。少し黙らせるか?

 俺がギフトを発動しようとしたその間際、横合いから制止の声が飛んで来る。


「やめたまえ。その子が怖がってるじゃないか」

「そうよ。大の大人が寄ってたかって……情けないわよー」


 そこにいたのは男3、女1で構成された若い冒険者の一団だった。

 ここ最近はギルドに良く顔を出している俺だが、初めて見る連中だ。多分、余所者なのだろう。


 彼らはそのまま親切心むき出しで、俺たちの間へと割って入る。

 そして視線を鋭くぶつけ合う。


 だが若く容姿もよく整った連中と、素行の悪い荒くれ共。

 場の雰囲気は、荒くれ共こそが悪だと断じていた。


「ちっ、くそがっ……!」


 その状況に居心地の悪さを感じたのか。

 ぶつくさと悪態を吐きながら、荒くれ共がすごすごと退散していく。


「助かりました、では」


 別に助けてもらう必要もなかったのだが、まあ手間が省けたのは事実ではある。

 なので、そう軽く頭を下げてから、俺はすぐにこの場を立ち去ろうとする。


「あ、少し待ってくれないかな?」


 だが先頭に立つ優男が、そう呼び止めてきた。


「……まだ何か?」


 今の俺には、やるべきことが山積みだ。

 だから、相手をしている暇はないのだが……。


「なぁ、君はこの辺の子なんだろう? もし良ければ、さ。この街を案内してくれないかな?」

「あー……。悪いが他を当たってくれないか?」

「もう、そんなイジワル言わないでよ~。もちろんご飯くらい奢ってあげるわよ~?」


 隣に立つ無駄に胸のデカい女が、蕩けた声でそう呟く。

 高そうなローブを身に着けている辺り、恐らく魔導師なのだろう。


 魔導師は希少な存在だ。

 多くの魔族が死に絶えた今は、特にそうなる。


 その一事だけでも、連中が優秀な冒険者パーティである事は見て取れる。


「不要だ。ではこれで失礼する」


 まあだからと言って、わざわざ関わる理由など俺にはない。

 連中を無視して、俺はギルドを後にした。


 ◆


 だが、その後も連中は何かと理由をつけて、俺に付き纏ってきた。

 始めは無視を決め込んだ俺だったが、そのしつこさと強引さに負け、渋々ながらに何度か食事を共にする機会があった。


「一人であの森で狩りをするなんて危険だよ。もうやめるべきだ、アロン君」


 塩を振って煮込んだだけの鶏肉を淡々と貪る俺に対し、心配そうにそう告げてくる。


 この男の名はロイ。連中のリーダー格であり、いつも笑みを絶やさない優男だ。

 容姿端麗で、街の女たちから黄色い声を投げ掛けられている姿を、何度か見かけたことがある。


 こっそりと彼のステータスを覗いてみたが、見た目に違わず中々に優秀な剣士のようだった。

 あのセリューとかいう男程ではないにしろ、この街に限ればトップクラスの実力者であることは疑いようもない。


「そうよ~。親御さんも心配するわよ~?」


 そんなロイの言葉に追随したのは、ヒルダという女性だ。


 見た目通り、やはり彼女は魔導師だった。

 ステータスを見てもちゃんと魔力を有していた以上、決してハッタリなどではない。


 彼女は凹凸の激しい体つきで、無駄に男どもの注目を集める存在だ。

 ちょっとタレ目で緩い雰囲気を漂わせているのが、余計にそれを加速させていた。


「親はいない。俺を捨ててどこかに消えたよ」


 ぶっきらぼうにそう告げると、ヒルダがハッと目を丸く見開き、それから悲しみの表情を浮かべる。


「そう……たった一人で苦労してたのね。いいわ、お姉さんがずっと面倒見てあげるわよ~」


 そう言ってヒルダが、瞳に涙を浮かべながら俺に抱き付いてきた。


「お、おい、やめろっ! 放せっ!」


 振り払おうとするが、思ったよりも力が強く中々離れてはくれない。


「またヒルダはそうやって……アロン君が困ってますよ」


 呆れ顔を浮かべ、ヒルダを止めてくれたのは眼鏡をかけた男――トーラスだ。

 彼は神聖力を有した本物の神官だ。


 魔導師程ではないが、こちらもそこそこ珍しい存在ではある。

 神官の大半はローゼム教会に所属しており、危険な冒険者になりたがる奴は少ないからだ。


「えー、そんな事ないでしょー? ねぇ、アロンちゃん?」

「いや……ホントにやめてくれ」


 大抵の男ならば彼女の柔らかな肉体に包まれれば嬉しいのだろうが、生憎と俺は違う。違うのだ。

 だからホント離してくれ。


「ったくよー。お前もさ、もうちょい明るい顔をしろよなー! ガキのうちからそんなんじゃ、人生楽しくないだろう? もっと笑おうぜ! なっ?」


 ツンツン赤毛の男が無理やり俺の肩に組み付きながら、そう陽気に笑いかけてくる。


 こいつの名はラスター。

 弓と短剣を操り、周囲の監視やトラップの扱いに長けたシーフだ。


 その癖この妙に明るい感じは、いかがなものか?


 いや、そう言えばアルテナも……。

 彼女の――死んだ恋人のことを思い出して、また陰鬱な気持ちが募っていく。


「……別に楽しく生きる必要なんかない。ただ強くなれれば俺は……」


 不意に感情が暴走し、つい口が滑ってしまう。


「おおっ、やっとでマトモに反応返してくれたなぁ、おい」


 そんな俺の言葉に対し、何故か嬉しそうに笑うラスター。


 はぁ、コイツラを相手にすると、どうにも調子が狂ってしまうな。


 ◆


 俺にはこいつらと関わっている暇など無い。

 そう思いつつも、ロイたちと食事を一緒に摂る頻度は徐々に増えていた。


 いや……それは単に彼らがメシを奢ってくれるからであり、いわば資金節約の為だ。

 そう自分に言い訳しつつも、やはりどこかで拠り所を求めていたのかもしれない。


 何年も一人で生きてきた俺は、多分人の温もりに飢えていたのだと思う。


「ねぇ、アロン君。僕たちは明日、森に狩りにいくんだけど、良ければ一緒にどうだい?」

「……遠慮しておくよ。一人でいい」


 その誘いの言葉に、一瞬だけだが逡巡してしまう。


 これだけ何度も奢られ心配されれば、俺だって理解はしている。

 狩りの秘密を暴くため、つけ回してくるような連中とは、違うことを。


 そもそもロイたちほどの実力者に、俺の秘密を求める理由などない。

 別にそんなモノに頼らなくとも、彼らは俺以上の成果を挙げているのだから。


「ったく、相変わらずつれない奴だなぁ。お前はよぉ」

「……すまない。だが俺は……」

「別に謝んなくていいさー。……ただな、あんま無理だけはするなよ? なんかお前をつけ回してる連中、多いみたいだしな」


 ラスターの俺の身を案じる言葉に、一瞬だけ頬が緩んでしまう。


 それを自覚し、少しずつ笑みを取り戻している今の自分に嫌気が差す。

 人族を信じないと決意した端から、もうこれだ。

 

 なんて俺は弱い人間なのだろう。


「(でもコイツラなら……もしかすると……)」


 全てを打ち明ければ……いや、ロイたちもまた人族なのだ。

 なら俺にとってはやはり敵だ。


 彼らへと少しずつ心を寄せつつも、そんな決意が棘となり、俺は最後の一線を中々超えれずにいた。


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