41 最初の復讐
今俺の目の前では、胸から血をダラダラと流した男が地べたに這いつくばっている。
「サラティガ。今からお前を殺す」
このまま放っておいてもおそらく死ぬだろうが、奴の仲間が助けに来る可能性はゼロではない。
なら確実に止めを刺すべきだ。
そうして奴へと剣を向ける。
「ぐぅぅっ、小僧、某が何をしたというのだ……」
「ふんっ、何をしただと? 分からないか? ……まあ分からないだろうな。まさか地獄の底から蘇ってくるなんて思わないよなぁ?」
「な、何を言っている……?」
俺が――フォルティスが転生し復活するなんて、やはり予想もしていなかったようだ。
「まあいい教えてやる。なぜご自慢の秘剣がああもあっさり凌がれたのか。単純な話だよ。俺も使えたのだからな、あの技は」
「ば、馬鹿な! あれは某にだけ許された至高の剣技! お主のような凡愚に扱えるはずがなかろう!」
「そうだな。今の俺にはもう使えない。だが嘘をいうなよ。何がお前だけに許された、だ。お前以外にも扱える人間はいただろう? なぁ?」
「なぜそれを知って……。ま、まさか!?」
「そうさ。魔王との激闘の果てに疲労困憊だったところを3人がかりで不意打ちして殺したのは誰だ? 言ってみろ!」
「ふぉ、フォルティス……まさか生きて……いや有り得ぬ! あの時奴は間違いなく死んでおった! 遺体もガンダールめが確実に処分したはずだ! 何よりお主などとは似ても似つかぬ!」
「ああ確かに一度は死んださ。けどな俺は生まれ変わった。お前たちに復讐を果たすためにな!」
「なんと……」
はは、随分と驚いた顔をしているな。
だがそうでなくては困る。
自分がしでかした罪の重さをちゃんと理解した上で死んでもらわないとな。
「なぁ、サラティガ。今は剣神だとか名乗っているそうだな?」
「……」
「でもお前さ。最後の方、ずっと俺に負けっぱなしだったよな? 腕もあれから全然上達していないし……いやむしろ鈍ったんじゃないか? それで良くそんな恥知らずな真似、出来たよなぁ?」
「そ、某は……」
「なぁ? 俺を殺し掠め取った英雄の座は気持ちよかったか? 周囲からちやほやされて崇められてそれで満足か?」
「……」
「お前が嫉妬していることは、フォルティスだって気付いていたよ。必死の想いで完成させた秘剣を、初見で防がれて、挙句にすぐに再現されたら、そりゃ傷つくよな。ははっ、分かるよ」
俺に――フォルティスに悪気はなく、ただサラティガを対等だとみなしていたからの行動ではあった。
とはいえ、それが奴の自尊心を傷つけたこともまた事実であり、ただ自分が殺されるだけならば、まだ納得も出来た。
だが――
「でもなぁ! なんでアルテナまで殺した! あいつに罪なんてなかったはずだ! 答えろ!」
「そ、それはマムクートの奴めが……」
「マムクート? あいつがどうした?」
フォルティスが死ぬ間際、奴らがアルテナを殺した犯人であることも判明した。
ただその詳細を知る前に俺は死んでしまったため、動機については何も分からない。
「アロン! 何者かがこちらへとやってきている! 急げ!」
だがそれを問いただす前に邪魔が入ってしまう。
「ちっ、聞きたいことはまだ沢山あったが、もういい」
「ま、待て……。やめ――」
「死ね」
サラティガが命乞いの言葉を口にしようとしたが、俺は無視してその首を刎ねた。
会話の裏側で奴のステータスを下げていたこともあり、それは呆気なく終わった。
「早くしろ、アロン!」
「ああ分かっている」
サラティガの生命力の数値が0になり、目の前から窓が消えていく。
これで奴は確実に死んだ。
それを確認してから、すぐさまこの場を去ろうとする。
そんな俺たちの背後から声が聞こえて来る。
「これは……サラティガ殿!? クリス、治療を頼めるかい?」
「あ、ああ。やってみるが……」
「サラティガ程の男がこのような……。一体何があったというのだ? むっ、あの者たちか! 奴らを逃がすな、アシュリー!」
「はっ!」
どうやらサラティガと共に行動していたインペリアルガードの連中のようだ。
あまりに奴の戻りが遅いため、心配して見に来たのだろう。
だが少しばかり遅かったな。
視界の悪い森の中だ。もう追いつける距離じゃない。
「おっと、逃がしはしないよ?」
――のはずが、何故か俺たちの行く手を遮る者がいた。
アズールブルーの騎士服を纏い、大鎌を構えた優男だ。
優し気な笑みを浮かべているもののその眼光は鋭く、簡単には逃してくれそうもない。
「なるほど、転移魔法の使い手か。流石はインペリアルガードというべきか?」
「サラティガ殿をやったは君たちなのかな?」
「もし……そうだと言ったら?」
「逃がす訳にはいかないね」
まあだろうな。
『エルナ、あれをやれ』
『いいのか?』
『やむを得ない。3人がかりだと、こちらに勝ち目はない』
切り札のステータスの固定化はもう使ってしまった。
あれはかなり脳みそを酷使させられる。お蔭で頭痛が鳴り止まず、これ以上長期の戦闘には、ちょっと耐えられそうもない。
何より復讐はもう果たしたのだ。
ならば今日はこれで満足すべきだ。
「月光よ来たれ!」
エルナが手を空へとかざす。
すると眩い光が彼方から降り注いだ。
「くっ!」
突然の閃光に大鎌の男が目をしかめる。
その隙をつき、俺たちは今度こそこの場から脱出を果たした。