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「なぁ、俺のことを知っているか?」


 少し落ち着きを取り戻した俺は、サラティガへとそう尋ねる。


「……すまぬが見覚えはないな。もしや某に親でも殺されたか?」


 ある意味ではそうとも言える。


 ダミア村が滅んだ以上、俺の――フォルティスの両親はきっともうこの世にはいない。

 そしてその原因は、こいつらにある。


「俺はお前に……お前たちに、何もかもを奪われた男の成れの果てだよ」

「何もかも? さて、お主のような童子から何かを奪いとった覚えなどないのだがな……」


 口調こそ柔らかいが「お前なんかが奪う価値のあるモノなど持っているのか?」と言っているようにしか聞こえない。

 見下ろす奴の眼差しが、雄弁にそう物語っていた。


「知らないならば、その魂に刻め。俺の名はアロン。お前たちを殺し尽くす男の名前だ!」

「ふぅむ。威勢だけは良いが、力なき者の言葉になど誰も耳を傾けぬよ?」

「……言ってろ。すぐにそんな余裕、消え失せるさ」


 そう言って俺は、剣を構え一歩前へと進む。


「忠告しておこう。某は無意味な殺生は好まぬのでな。その先は死地だ。僅かでも踏み込めば、一切の容赦なく振るわれるぞ」


 今俺が立っている場所は、サラティガの間合いのギリギリ外。

 そこより先は奴の領域であり、今の俺ではきっと僅かの間しか生きてはいられないだろう。


 だがそれで十分だ。

 覚悟を決めた俺はその間合いへと踏み込む。


「……愚かな小僧よ」


 忠告を無視した俺へと、予告通りに大太刀が振るわれた。


 ありふれたただの横薙ぎさえも、奴が振るえば必殺の一撃へと変わる。


「くぅぅ」


 だが、その一撃を俺は剣で受け止めて見せた。


 勇者として、かつての仲間として奴の太刀筋は良く見知っていた。

 打ち合うのは無理でも、たた一太刀を凌ぐだけなら、今の俺にだって可能なのだ。


「……お主っ!?」


 奴の大太刀を受け止めた俺は、後ろへと飛んで衝撃を逸らす。

 そうして俺の身体は、奴の絶対圏から逃れ出た。


 凡人であるはずの俺が、剣神と謳われし男の剣を受け流した。


 その事実に対し奴は驚愕と称賛の表情を浮かべるが、その余裕は甘さだ。


 剣を振るった直後であり、しかも奴は俺に視線を奪われていた。

 それは決して小さくない隙だった。


「エルナ!」

「分かっているさ。ハァァァ!!」


 そこに乗じて合図の声を叫び、少女が呼応した。


 黒のドレスは血で真っ赤に染まっていたが、その動きには僅かな衰えさえも見当たらない。

 そのまま一瞬で距離を詰めて、懐へと潜り込んだ。


「ぐぬぅ!? 娘よ、何故まだ生きておる!?」


 思わぬ方向からの――しかも死人だと思っていた相手からの奇襲に対し、サラティガの脇腹が血に漏れる。

 期待よりも浅いが、しかし確かな手傷を負わせることが出来た。


 幸いにして、他の連中がこちらへとやってくる気配はなく、御業を使えないサラティガにとって、これは小さくないハンデとなってくれるはずだ。


「ふふっ、斬った手応えから私の死を確信していたか? 英雄、剣神などと大層な名で呼ばれている癖に、戦場で死体の確認を怠るとは……。思いの外ぬるい男のようだな」 

「何故傷がない!? まさか某が斬り損ねたとでもいうのか? 否! 断じて否! 気付かぬなど有り得ぬ! お主ら、何をした!」

「……さてな」


 俺は答えを濁しながら、エルナの近くに浮かぶ半透明の窓へと視線を向ける。


 ▽


 名前:エルナ

 種族:unknown

 Lv:59


 生命力:52825/55584(+54115)

 魔力:43012/43820(+43820)

 神聖力:37585/41300(+41300)

 RP:32655/63475(+61293)


 力:513(+490)

 体力:493(+466)

 知力:521(+490)

 信仰心:507(+472)

 敏捷:546(+507)

 器用:539(+496)

 運:519(+472)


 △


 サラティガに斬られ、多くの血を流し地に伏したあの時、確かにエルナは瀕死であった。


 だが俺がステータス操作を行い、失われつつあった生命力を補充したことで、その傷は修復された。

 流れ出た血さえもだ。


 その間エルナはずっと意識を保ちながら声を押し殺し、静かにチャンスを待っていた。


 彼女が完全に死んだモノと考えたサラティガの判断は順当ではあるが、しかし間違っていた。


 俺が持つ未知のギフトの力と、何よりエルナの演技力、精神力こそが、奴の勘違いを呼び込んだ。

 その結果が今のこの状況だ。


「どうした! その程度か、英雄よ」

「血は確かに流れておる。御業で治療した気配もなかった。なのに、なぜそのように平然としておられるのだ!」


 溜まった鬱憤をぶつけんとばかりに、ノリノリで剣を振るうエルナに対し、サラティガは防戦一方だ。

 だがそれは奴が心を乱していることが大きく響いており、実は2人の間には未だ埋めがたい溝が存在していた。


「(……ステータスオープン)」


 ▽


 名前:サラティガ

 種族:人族

 Lv:179


 生命力:81258/92667(-7845)

 魔力:0/0

 神聖力:0/0


 力:1289(-107)

 体力:1164(-53)

 知力:412

 信仰心:752

 敏捷:1271(-89)

 器用:1074(-54)

 運:251


 △


 確かな手傷を負わせてなお、両者のステータスには開きがある。

 限界まで強化した今のエルナでさえ、まだ届かない。


 サラティガに生じた動揺を突いて、こうして勘付かれることなくステータスを覗き見ることには成功した。

 だがこれ以上は危険だろう。

 ここで調子に乗り、ステータス操作にまで手を出せば、こちらの悪意に気付かれてしまう。


 平静さを取り戻したサラティガの実力ならば、エルナの攻撃を凌ぎながら俺を殺すことだって可能だ。

 そのことを思えば下手な冒険など、断じてすべきではない。


「(しかし……勝利を得るには、やはりもう一手必要だな。……賭けにはなるが、こちらはそう分は悪くないはずだ)」


 ここまで俺は多大な失態を演じた。


 だがそのミスをエルナがカバーしてくれた。

 なら今度は俺の番だ。


 未だこちらが不利なことに変わりなかったが、それでも俺は強がりの笑みを浮かべ、前を向く。


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