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35 不意の遭遇

「アロン。魔物が全然襲ってこないんだが、何故だ?」

「……さてな。別に居ないって訳では無さそうなんだが……」


 前情報通りに確かにこの森の中には多くの魔物が生息している。

 少なくとも俺はそれらの気配を遠くに感じ取れているので、まず間違いない。


 にもかかわらず、いまだ襲撃が0とは確かに妙な話ではあった。


「なぁ? さっきから物騒な気配を放ち過ぎなんじゃないか、お前?」


 エルナが発する不機嫌オーラに魔物たちがビビっている。

 冗談のつもりだったその考えも、ここまで続くと案外ホントではないかと思えてくる。


「ふんっ、お前が無粋なことを言うからだろうが」

「……まあ俺も悪かった。少し言い過ぎたよ。お前は黙ってさえいれば、ちゃんと可憐な乙女だよ」

「黙っていれば……か。では口を開いたらどうなのだ? ん?」


 俺の言葉にまるで絆された気配もなく、エルナが詰め寄って来る。


「まあ……口煩い小娘ってところか?」

「はぁ、本当に無神経な奴だな、お前は……。誓約を結んだことを思わず後悔しそうになったぞ。まさかこんな男が私の――」

「そんなこと、俺に言われてもな。大体、勝手にやったのはお前だろう?」


 鬱陶しそうにそう反論しつつも、それ以上はあまり強くは言えずにいた。


 今の俺にとってエルナが得難い存在であるのは紛れもない事実であり、これ以上その気分を害することは本意ではなかったからだ。

 

 だから仕方なしにではあったが、ご機嫌取りの言葉を口に出そうとする。


「その、なんだ――」

「アロン、伏せろ!」


 だがその矢先に、エルナが声を上げた。

 強化された怪力により、俺の身体は地面へと押し倒される。


「ぐぁ!? な、何をす――」


 いきなりの奇襲に、俺は抗議の声をあげようとするが、エルナが口元に指を立てて制してくる。


「しっ! 静かにしろ。何者かがこちらへとやって来るようだぞ」


 言われて、俺はすぐさま思考を切り替える。


 静かに上体を起こし、エルナの視線と同じ方角へと意識を向ける。

 すると足元に転がる小枝を踏み抜き木々をかき分ける音が耳へと届けられる。


「どうも魔物ではないようだが……これはもしかして人間の足音なのか?」


 エルナの自信なさげな呟きに対し、俺は小声で頷いてやる。


「ああ、それも複数だな。しかしこの気配は……」


 冒険者のモノとは考えづらい。彼らならもっと気配を隠し、息を潜めて動くはず。

 悪路にもかかわらず堂々とした足取りと、遠くからでもありありを感じられる存在感は、明らかに強者のそれだ。

 加えて魔力や神聖力の発露も感じ取ることができ、厄介な相手であることが予想される。


「お前の右目で、正体は分からないか?」

「無理だ。直接見ないとあの力は使えないからな」


 エルナの疑問に、俺は目をしかめながら首を振る。


 ただでさえ十人並みの視力しか持たない俺だ。

 木々が複雑に入り組み視界が限られた森の中では、もっと近づかなければ視認は難しい。


『よし……ここからは念話に切り替えるぞ』


 俺たちの間に結ばれた誓約。

 それはエルナが被った一方的な不利益とは別に、違った恩恵を俺たちにもたらした。


 今の俺たちは、声に出さずとも意思疎通が可能となっていた。


 もっとも集中力を削がれる上、距離が離れるとすぐに使えなくなるなど欠陥があり、それほど便利なものではない。

 とはいえ、それでも今のような場面では十分役に立つ。


『万が一、交戦にでもなったら面倒だな。ここは安全策をとって、息を潜めてやり過ごすとしよう』


 相手はまず間違いなく複数だ。

 である以上、俺の右目の力は絶対ではない。


 今はまだこちらの存在に気付かれていない様子だが、これ以上下手に動けば話は別となる。

 なら余計なリスクは回避すべきだろう。


『了解した。お前の方こそ逸るなよ?』

『……自分の弱さは嫌という程理解している。無用な争いなど、こっちからゴメン被るさ』


 確かに人族は憎いが、別に今すぐ皆殺しなどと叫ぶ程の情熱は無い。

 大丈夫だ。ちゃんと復讐心の制御は出来ている。


『だったら良いのだがな……』


 何をそんなに心配している?

 そこまで俺は喧嘩っ早いように見えるのだろうか?


『それよりも、もうすぐ見えて来る頃だ。ここから絶対に動くなよ』


 エルナにも気配遮断の技術は指導していたが、まだ完璧には程遠い。


 それでも何もしなければ問題ないはずだが、余計な動きを見せればその限りではない。なので念押しの忠告をしておく。

 エルナは若干イラッとした表情を覗かせたが、何も言わずにただ頷いた。


 そうして呼吸を殺し待っていると、生い茂る木の葉の隙間から、人影が見えて来る。


『アズールブルーの騎士服……まさかインペリアルガードなのか?』

『インペリアルガード? 皇帝の近衛が何故こんな森の中にいる?』

『そんなの……俺が知る訳ないだろう』


 正体不明の悪寒が全身を支配する。

 胸の鼓動がドクドクと波打ち、呼吸が乱れそうになるのを必死で抑える。


 穏やかな笑みを浮かべた青年騎士を先頭に、張り詰めた表情で髪の長い美男子、憂い顔を浮かべた金髪の青年が続いていく。

 

『こんな何もない森に、インペリアルガードが3人も連れ立って訪れる理由はなんだ?』


 魔物の素材が得られる資源採取地にして帝都の北西を守る天然の壁。

 俺の認識ではただそれだけの土地だ。


 だがそんな俺の疑問は、3人からやや遅れて現れた男の姿を見た瞬間に全て吹き飛んだ。


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