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22 盗賊狩り

 ジルニトラ出会った時にはどうなるかと思ったが、結果としては順調に行程を消化できている。


 素直に認めがたくはあるが、やはりエルナを同行させているのは大きい。


 そのお蔭かあれ以降、特に大きなトラブルには見舞われていない。


「消えた!?」

「な、なんだこのむす――ぐはっ!?」


 より正確に述べるなら、盗賊なんかの襲撃自体は何度もあった。


 まあ、貧相で目つきの悪いチビガキと、中身はともかく儚なげな見た目をした少女の2人旅だ。傍から見れば、さぞ美味しい獲物に映るのだろう。

 もっとも、それらはこちらも織り込み済みの話だ。


「くそ……こんなガキ相手にっ……」

「ち、ちくしょう……なんで……」


 今も俺達を襲おうと取り囲んだ盗賊たちへとエルナが逆襲し、血華が咲き乱れていた。


 右目でステータスを強化されたエルナの速さは圧倒的だ。

 誰も一人としてその姿を捉えられないまま、半透明の刃で首を掻き斬られ無残に死んでいく。


「お、俺達が悪かった! だから、たすけ――」


 リーダーらしき男が、今更のようにそんな命乞いの言葉を漏らすが、言われた少女は表情を微動だにしないまま、その胸に刃を突き立てる。


「ひっ!? ぐえっ……」


 全てが終わり、夕暮れの街道には元の静けさが戻る。


 血に塗れた大地を一瞥してから、少女がようやく口を開く。


「終わったぞ、アロン」

「ああ、分かっている」


 周囲の安全確認をしてから、俺は隠れていた木の上からゆっくりと飛び降りた。


 この程度の盗賊相手、今の俺でも十分戦えはするのだが、これはエルナを鍛えるための戦いだ。

 だからこそ敢えて隙を晒し、盗賊どもの襲撃を許していたのだ。


 あの程度の連中に取り囲まれるようなミスはしないさ。


「まったく……。か弱い乙女一人に戦わせおいて、自分は高みの見物か?」

「無駄口を叩くな。それよりもまだ剣が大振り過ぎる。もっとコンパクトに動け」

「やれやれ……細かい奴だな」


 苦笑しながら少女が抗議をしてくるが、俺は取り合わない。

 無意味だからな。


 実際、右目によって強化されたエルナは強い。

 そこらの盗賊など、まるで寄せ付けない程に。


 ▽


 名前:エルナ

 種族:unknown

 Lv:56


 生命力:50698/51606(+50322)

 魔力:41489/41580(+41580)

 神聖力:38295/39200(+39200)

 RP:36985/58684(+56764)


 力:482(+459)

 体力:469(+442)

 知力:496(+465)

 信仰心:483(+448)

 敏捷:515(+476)

 器用:513(+470)

 運:495(+448)


 △


 ステータスを見れば分かる通り、強化されたエルナは高い身体能力を誇る。

 単純なステータスだけで判断すれば、多分ロイたちよりも強いほどだ。


 その一方で、戦いそのものに関してはまだ初級者の域を出ていなかった。

 だがそれではダメなのだ。


 スペック任せの戦いでは、どうしたって限界が存在する。

 今のままでは三英雄どもと真っ向から戦えば十中八九負ける。


 これでもずぶの素人だった最初と比べれば随分と進歩したのだが、まだ足りない。

 もっと戦闘経験を積む必要がある。盗賊共はその為の練習台という訳だ。


「お前は、俺の復讐への協力を約束したはずだ。ならその達成に全力を尽くせ。それとも俺を見捨てて、諸共に死ぬか?」

「いいや、ちゃんと言う事は聞いてやるよ。私だってまだ死にたくはないのだからな。それに……戦いの技を磨くのも案外楽しいモノだ」


 手に持つ剣を振るい、付着した血を拭いながらエルナがそう言う。


 半透明の刀身は散々人の血を吸ったというのに、僅かな刃こぼれさえ見当たらない。

 エルナが自ら生み出した剣だが、中々に優れた武器のようだ。


「ふんっ、だったら余計な口を開くな」

「……神経質な奴だ。お喋りに興じるくらいの余裕は持った方がいい。でないと足元を救われるぞ?」

「くっ……!」


 焦りは判断を鈍らせ、人を弱くする。


 そんなことなど十分に承知しているはずの俺だが、それでも時折逸る心に冷静さを欠いてしまう。

 そんな自分自身へと忸怩たる思いを抱かずにはいられない。


 唇を強く噛み締め黙る俺へと、エルナが少し呆れの色を帯びた表情を向けて来る。


「まったく……何をそう焦っている? お前も私もまだ若い。時間は味方だぞ?」


 フォルティスが死んでから15年以上の月日が経過しており、復讐相手たる三英雄たちも相応の年齢となっている。肉体の全盛期は既に過ぎ去っており、このまま時が経つ程に劣化し、その打倒は容易くなる。


 それは確かに事実だが……


「かもしれない。だがこうしている今も魔族たちは苦しんでいる。そのことを思うとな……」


 どうしたって平静ではいられない。


「……そうだな。だがそれを今考えたところで無益な話だろう? 今は私を――そして自分を強くすることだけに集中しろ」

「ああ……分かっているさ」


 まったく情けない話だ。こんな年若い少女に諭されるとは。


「なぁ、そう言えばお前、歳はいくつなんだ?」


 容姿だけで判断すれば、どう見たって今の俺と同世代かそれ以下だが、人族ではない以上、意外に年を食っているなんて可能性も有り得る。


「やれやれ、本当にデリカシーに欠ける男だな。だがまあいい、別に隠す事でもないからな。答えてやるさ。……とはいえ、私自身も正確に覚えている訳ではないのだがな。……たしかもうすぐ15くらいだったか?」

「……やはり俺よりも年下なのか」


 それはフォルティスの記憶を抜きに考えても同じことだ。

 俺が頼りないのか、彼女が大人びているのか。どっちにしろ情けないことに変わりはないが。


 もっと俺は強くならないといけない。でなければ復讐など果たせはしない。

 改めてそう心に誓う。


 ◆


 また街道の石畳が真っ赤に染まる。

 エルナが殺した盗賊たちの血の色だ。


「やれやれ……。こいつらは一体どこから湧いて出て来るのだろうな?」


 道中、盗賊どもの襲撃は断続的にあった。


 敢えて他の商隊なんかと離れて行動しているせいもあるだろう。

 連中に横の連携など皆無らしく、何度返り討ちにしても、入れ食い状態は継続した。


「さぁな。しかし大分動きが様になってきたな」

「ふふっ、もっと褒めてくれて構わないんだぞ、アロン?」

「……余り調子に乗るんじゃない」


 言葉ではそう言いつつも、実際にエルナの成長は思っていた以上に早かった。

 剣を振るう度に自分自身を斬りかねないような有様だった最初を思えば、いっそ恐怖すら感じるほどに。


「なぁ、エルナ。お前の親は……?」

「前にも言ったが、私自身も知らないぞ?」

「そうか……。お前が人族でない以上、その親も別の種族なんだろうが……」

「さぁな。どうでもいい話だ」


 エルナは自身の出自についてまるで気にしていない様子だが、俺としてはやはり気になってしまう。


「それよりも前を見ろ。そろそろだぞ」


 そう言ってエルナが前方を指差した。

 その先を見つめれば、古びた石壁が並んでいるのが映る。


 あれが本日の宿泊予定地であるルミネの街だろう。


「いよいよ、か……」


 ルミネの街から帝都ガストリアまで、徒歩でおよそ3日ほど。

 目的地までもう目と鼻の先と言っていい。


「……首を洗って待っていろよ、サラティガ!」


 宿敵の傍まで迫ったことを改めて実感し、俺の胸の鼓動は否応なく高まっていく。 


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