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2 生きる意味

本日更新1回目です。

 少し時間を遡る。

 これは前世の――勇者フォルティスとしての記憶に、俺がまだ目覚めたばかりの頃の話だ。



 復讐のため行動を開始した俺だったが、すぐにある事実に気付いてしまう。


「そうか……ギフトは全て失われたか……」


 死の間際、俺は秘術を使い転生を試みた。

 しかし途中で妨害を受けたせいか、それは不完全に終わってしまう。

 その結果が今だった。


「記憶が戻ったこと自体は喜ばしい話だが、これでは……」


 同年代と比べても小さくやせ細った自分の身体を見て、ただ首を振る。


 今の俺は平凡……いやむしろ貧弱とさえ言える存在だ。

 だが俺の復讐相手は三英雄と呼ばれる者たちは――そう甘い連中ではない。


「くそっ、どうすればいい!」


 後悔ばかりが募る。

 奴らの本性にもっと早く気付いてさえいれば……。


 かつての俺ならば、例え3人同時に敵に回しても――いや魔王のいない世界なら、全てを敵に回してでも勝利を得られたはずだ。


 だがそれももう過去の話であり、全てが遅きに失していた。

 自分の愚かさにただただ反吐が出る。


「落ち着け……。まずは状況の確認からだ」


 今も連中が英雄としてのうのうと生きていることは知っているが、その詳細までは分からない。

 奴らの置かれた状況次第では、今の俺でも殺すチャンスがあるかもしれない。


 そんな想いから始めた情報収集だが、結果として俺に新たな悲劇を告げてくる。


「ダミア村が……滅ぼされただと……?」


 それはフォルティスが生まれ育った村の名前だった。

 今俺がいる国よりも北西――大陸北部一帯を領するアルセリア王国、その辺境に存在した村だ。


 そこに暮らす両親や村人たちの姿が脳裏に過ぎる。


 勇者として名を上げ凱旋した俺を、両親や村の皆は変わらぬ笑顔で出迎えてくれた。


「おかえりなさい、フォルティス。元気そうで本当に良かったわ……!」

「おおっ、ホントデカくなったなぁ! 背はもう追い越されてしまったか……」


 母さんは少し涙ぐみながら、父さんはちょっと驚いた表情を浮かべ、でも2人とも嬉しそうに零す。


「色々と話は耳にしてるぜ。ったく、すげぇじゃねぇか!」

「兄ちゃん、マジかっけー!」

「フォルティス、お前はこの村の誇りだ」


 村の人たちも、みな温かい声を掛けてくれる。


「でもね、フォルティス。どうか無理だけはしないでね?」

「父さんも母さんも、お前が元気なのが一番なんだからな?」

「そうだぞ。疲れたらいつでも帰ってこい。ここはお前の故郷なんだから」

「母さん、父さん、みんな……」


 勇者としての名声なんかよりも、子の身体の安全を第一に案じてくれる、そんな優しい人達だった。


 そんな彼らは、今も元気にダミア村で暮らしているはず。

 そう思っていたのだが、しかし現実は違った。


「なんだそれは……。俺が裏切ったから、見せしめに滅ぼしただと? ははっ……」


 俺は知ってしまう。

 三英雄たちは俺を殺してその功績を奪い取っただけでなく、裏切り者の汚名を着せていた事実を。


「ははっ……。魔王と親交のあった俺は、土壇場で人族を裏切り敵となった………か。ふざけるなよ! 俺がどんな覚悟で魔王を――イエオネスの奴を殺したと思っているんだ!」


 舌を噛み切らんばかりの勢いで、俺はそう叫ぶ。


 確かにイエオネスと親しかったのは事実だ。

 一時期、師事していた事もあり、俺は彼を慕っていた。

 

 そういった関係もあり、魔王討伐隊への参加を渋ったのは事実ではある。だが――


「故郷を盾にして、脅してきたのはどこのどいつだ! クズどもがっ!」


 それを知った各国の首脳たちは、人質の存在を(ほの)めかして俺を魔王討伐隊へと無理やり参加させた。

 だから裏切れる余地なんてどこにも無かったのだ。なのに――


「そうか。そういうことか……。ははっ、理解したさ……」


 俺が裏切ったと言うなら、もうそれでいい。


 なら、その通りにしてやろうじゃないか!


「だったら俺は敵となろう。そして、この世界からお前たちを駆逐してやる!」


 俺の愛した人々は、もうこの世にはいない。

 あんな腐り切った連中に存続する価値など、もはや無い。いやこの俺が認めない。


「殺す。全員、殺してやる!」


 まずは三英雄を殺す。次は各国の王たちだ。

 邪魔をするなら、そいつらも全部殺してやる。


 今の俺には復讐すべき相手が多くいる。

 その存在こそが俺に生きる目的を――活力を与えてくれた。



 一番の原動力は復讐心だったが、それ以外の想いも存在した。


「魔王との――イエオネスとの約束を守らないといけないからな……」


 そう呟きながら、奴との戦いの記憶へと思いを馳せるていく――


「四元よ踊れ! フォースエレメンツ・セレスティアルバースト!」

「闇よ爆ぜろ! ブラックエクスプロージョン!」


 剣が魔法が、暴虐の嵐となって吹き荒れる。

 その余波で魔王城だった屋敷は跡形もなく破壊され、周囲の森も今はただの荒野と化していた。


「はぁ……はぁ……500越えの老人のくせにやりますねっ!」

「やれやれ、まったく可愛げのない弟子だこと。僕はやはり師匠としては二流だったようだね」


 自嘲気味に笑いながら、イエオネスがそう返して来る。


「いいや、貴方は一流でしたよ。だから僕はここまで強くなることが出来た」


 一方の僕もどこかスッキリとした表情を浮かべていたように思う。

 戦いで力を出し尽くしたせいか、全身を苛む疲労や痛みに反して、心は穏やかさを取り戻しつつあった。


「ふむ……アルテナの仇を取るのではなかったのかな?」

「殺したのは貴方じゃないんでしょう? 分かりますよ、そのくらい」


 こうして剣で語り合ったことで、彼が僕の知っていた頃のままであることが確信出来た。


 彼が自身や魔族そのものに限界を感じており、その終局を求めていたのは事実だ。

 けどだからと言って、そのために愛弟子であるアルテナを殺せるような人なんかじゃない。


「やれやれ、どうやらバレてしまったようだね。けどそれで戦いを止められると、少し困るのだけど……」

「やめませんよ。ここで全部終わらせます」


 きっと、それが弟子としての最後の恩返しとなる。


「フォルティス、僕はね、ちょっとばかり長く生き過ぎたんだよ。そんな僕の老いは、種族そのものの停滞に繋がっていた。……魔王の座を降りる日が来たという事なんだろうね」


 魔王の座から降りる。それは彼の死を意味していた。


 どのみちこうなった以上、もう彼の命運は長くはない。ここで僕たちを退けても、今度は人族側も軍を出して本気で動くだろう。 

 そうなれば数や繁殖力の面で圧倒的に劣る魔族側はジリ貧だ。


 何より魔族は優しすぎた。

 魔物相手ならいざ知らず、彼らは人間を殺すことを強く忌避していた。

 例えその結果、自らが滅びようともだ。


「その前に一つだけお願いがあるのだけれど、聞いてもらえるかな?」

「なんでしょうか? 彼らの身の安全なら、この僕が責任をもって保証しますよ」


 後方の――他の魔族たちへと視線を向ける。彼らは僕の仲間たちと対峙を続けていた。

 小競り合いは何度かあったようだが、今のところ大きな戦いには発展していないようだ。


「ありがとう。けどそれだけじゃなくてね――」


 そう言いながら、すっと僕の傍に近寄った彼が耳元で小さく囁いた。


「――――――――」


 その言葉にまず大いに驚き、それから良く内容を吟味してから口を開く。


「……その願い、たしかに受け取りました」


 師匠の最後の願い、それを果たすことを僕は誓った。

 勇者の名に懸けて。


「良かった。これで僕も安心して死ねるよ。もっとも君が僕より弱ければ、話はまた別となるけれどね」


 ニヤリと笑いながら、彼は剣を構え直す。

 願いを僕に託しつつも、戦いで手を抜く気など一切なさそうだ。


 そうではなくては。


「……言ってくれますね。弟子の成長に満足しながら逝くといいですよ!」


 そうして魔王との死闘は、更に激しさを増していく。



「そうだった。俺は託されたんだ、魔族の未来を。醜悪な人族が蔓延るこの世界は、優しい彼らにはあまりに生き辛い。だから俺がこの手で作り変えてやらないと!」


 この世界は人族の天下にある。大陸を統べる4大国の頂点は全て人族であり、他種族たちは虐げられている。魔王が死んだ今は、より顕著となっているはずだ。

 

 だからこそイエオネスは、俺に未来を託したのだ。

 しかし、その約束を果たせぬままに、フォルティスは死んだ。殺されてしまった。


「人族が頂点にいる限り、きっと悲劇は繰り返される。なら……」


 復讐と魔族の救済、それらの両立は十分に可能なはず。

 俺の中で、朧気ながら行動指針が形を為していく。


「さて、まずは何から手をつけたものか……」


 目標を得た途端、俺はやるべきことを山ほど抱えることとなった。


 三英雄や王たちへの復讐、生き残りの魔族たちの捜索。そして――

 どれもこれも成し遂げるには力が必要だ。

 

 そのために俺が最初に行ったのは、ギフトの確認だった。


 これまでの人生において、(アロン)は特別な力を持たないように思われた。

 だがギフトの中には、特定条件下でのみ効果を発揮するものも存在する。自身のギフトを知らないまま死んでいくことも、庶民にとっては実はありふれた話なのだ。

 

「何もない可能性の方が高くはあるが……。やはり確認はすべきだろうな」

 

 そんな訳でギフト鑑定を受けることにした俺は、この街唯一の教会へと出向く。


「これは……」


 担当の神父が、一枚の羊皮紙をジッと見つめながら困惑顔を浮かべていた。

 ギフトは持たない方が普通なので、この反応は何かしら持っていたという事なのだろう。


 しかしどうにも様子が変だった。


「……どうかしたんですか?」


 尋ねる声が鋭かったのか、あるいは単に目付きの悪さのせいか。

 神父がビクッと震えながらこちらを向く。


「え、ええ。実はあなたの持つギフトなのですが……」


 そう前置きしてから神父が、羊皮紙をこちらに見せてくる。


「……これは?」


 そこに書かれていたのは"status open"という文字だった。

 見知らぬ言語で記されており、全く意味が読み取れない。


「あの……なんて読むんですかね、これ?」


 俺には分からなくとも、専門家なら分かるはず。

 そう期待したが、どうも買い被りだったらしい。


「申し訳ありません。未知の言語で記されており、解読出来ないのです」


 そう告げる神父の声を受けて、俺は酷く落胆した。

 折角何らかのギフトを持つことが分かったのに、その正体が何か分からないのでは、高い金を支払った意味がないではないか。


 結局、神父が教会本部へと問い合わせるということで、その場はお開きとなった。


 ローゼム教会は神の代理人を自称し、古くからギフトの鑑定や管理を担ってきた組織だ。

 そのため多くの種類が存在するギフトに関する知識の蓄積があり、参照すれば何か分かるかもしれない。

 まあ淡い期待だが。


 羊皮紙を受け取り、肩を落としながら教会を後にした。


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