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11 奴隷商

本日更新3回目です。

続きはまた明日となります。

 銀鬼と金鬼、2体の強力なオーガを仕留めた事で得た報奨金や、加えてロイたちから略奪した金品などにより、俺の懐は大いに潤う事となった。

 処置が早かったお蔭か、毒を受けた左腕も大事にはならず、想像よりも安い治療費で済んだ。

 まあそれでも十分ぼったくりだけどな。似非聖職者どもめ……。


「冒険者稼業はもうやめだな。流石に少し目立ち過ぎた……」


 当座の資金としてはもう十分だ。ここらが潮時だろう。

 それに、もともと長く続ける気など無かったのだ。単に貧民街育ちで素性が不確かな俺でも、手っ取り早く稼げる方法だったからその場凌ぎにやっていた過ぎない。


「もうすぐこの街ともさよなら、か」


 ここパルミアの街は"カルナの森"の存在のお蔭で、帝国の端っこという立地の割には発展を遂げていたが、所詮は数ある田舎都市の一つに過ぎず出来ることは限られる。

 それでは俺の復讐は果たせない。


「しかし……思ったよりも感慨が湧かないものだな」


 もうすぐ故郷を去るのだというのに、自分でも意外なほどに感情に動きはない。


「まあ……だがそれも当然のことなのかもしれないな」


 両親には捨てられ、友と呼べる者もいない。

 唯一親しくしていたロイたちにも、あっさりと裏切られてしまった。


 まあその報いは十分食らわせてやったので、今更引き摺る話でもないのだが、やはり良い思い出とは言い難い。なのでここから去ること自体に躊躇いがある訳ではないのだが、残念ながら先行きに不安は多い。


「どれだけ強がろうと、今の俺は一人では無力だ。それは認めないと、な」


 現実の厳しさを強く噛み締める、


 右目に宿る力は絶大だが、数の暴力にはどうしたって弱くなる。

 ロイたちの襲撃だって、偶々近くにいた金鬼を利用することでなんとか凌げたが、あんな真似そう何度も繰り返し出来ることではない。

 それにセリューのような勘の良い相手にも、やはり心許ない。


「帝都までの道中、何かトラブルがあれば……。正直、対処できるか不安が残るな……」


 特に今の俺は貧弱な見た目をしており、一人旅では妙な連中に目を付けられる懸念も大きい。


「やはり仲間が必要だな。それも裏切らない仲間が……」


 もし仲間がいれば、そいつを強化し守って貰えばいいのだ。

 全くのど素人では困るが、多少の心得さえ持つ奴なら、俺の右目で即座に一級級の戦力へと早変わりだ。


「一番の問題はどうやってそんな相手を見つけるか、だな……」


 ロイたちの一件で、俺は人族の愚かさを再認識した。

 だから仲間を選ぶなら、その候補はやはり人族以外となるが――


「人族以外だって、果たしてどこまで信用できるものか……」


 魔族は別枠として、他の種族について俺はあまり良く知らない。


 だがその人となりを見て判断、なんて事はもう俺には出来ない。

 いや、してはならないとさえ考えている。


 自身の人を見る目の無さというものを、嫌というほど痛感していた。


「感情で判断してはダメだ。もっと確かな根拠が無ければ、また同じ事の繰り返しとなる」


 感情による判断は目を曇らせる。

 ただ理性でもって、裏切られないと判断出来るだけの材料が必要だ。


「となると……やはり奴隷しかないのか?」


 契約でその行動を縛れるため、現状では一番マシな案だと思える。

 しかし、どうにも気乗りしない。


「いや、手段を選ぶべきでないな。一度、見に行ってみるとするか……」


 嫌悪感を振り切り、奴隷商の下へと向かう決意をする。


 ◆


 商業地区の裏路地の奥まった場所に、その店はひっそりと佇んでいた。


 見た目はちょっと小奇麗な普通の建物だが、人を――奴隷を売る店だけあってか、やはりどこか陰鬱な雰囲気を漂わせている。

 まあ近くにある他の店も、趣味の悪い装飾品や怪しげな薬なんかを並べていたりと、似たり寄ったりではあるのだが。


「これはこれは……おいっ! ここは貴様のような薄汚いガキが来ていい店じゃないぞ!」


 扉を開けて店の中へと踏み入ると、男の歓迎の声が響いたが、それもすぐに罵声へと変わる。


「お前がここの店主か? まあ早合点するな。金ならちゃんとあるさ」


 この反応は予想していたので、すぐに金貨の詰まった袋を見せてやる。

 その効果は劇的だった。


「っ!? これは失礼しました」


 明らかに見下した表情から一転、両手を重ねてこねながら、卑屈な笑みを向けて来る。


 この変わりに身の早さ、流石は商人といった所か。

 特に奴隷商は、扱う品が品だけに得られる利益も大きいのだが、その分成ること自体が難しい。

 安定して奴隷を仕入れるには、裏社会にも表社会にも相応のコネが必要となるからな。 


 この店主、一見冴えない小太りの中年男性にしか見えないが、商人としては恐らく一流なのだろう。


 男に誘われ、店の奥の客室へと案内される。

 やはり儲かっているのか、外の簡素な見た目とは打って変わり、高そうな調度品がそこには並んでいた。


「それでお客様。本日はどのような商品をお探しで?」

「その前に一つ尋ねたい。この店は人族以外の奴隷は扱っているのか?」

「……申し訳ございません。生憎と当店に在庫は……」

「そうか……」


 在庫か。完全にモノ扱いなんだだな。

 まったく反吐が出る話だが、それを買いに来た俺もきっと同類だ。


 まあいいさ。

 目的のため、俺はもう善良であることを諦めている。

 なら今更躊躇する話でもない。


「(予想はしていたが、魔族は居ないか……)」 


 居たなら話は早かったが、やはり現実とはままならないモノだ。


「俺が欲しているのは……そう、護衛用の奴隷だ」

「なるほどなるほど、してご予算はいかほどで……」

「そうだな――」


 そうして詳しい条件をすり合わせた後、店主の男が候補の者たちを5人程連れて来る。

 いずれも金属の首輪をつけられ自由を奪われた男たちだ。

 とはいえ、それなり丁重に扱われている様子だ。特にやせ細ってもいないし、服もボロだが悪臭はない。


「この男は実戦経験こそありませんが、御覧の通りに身体が大きく……」

「この者は高名な剣士に一時期師事していたこともあるそうで……」


 店主が連れてきた奴隷たちを一人一人紹介するが、その光景を俺は冷めた目で見つめていた。


「(こいつらはダメだな。論外だ)」


 帝都までの短い付き合いだと考え戦闘能力ばかりを重視したが、それが仇となった形だ。


「へへぇ、坊ちゃん。あっしはきっと役に立ちますぜぇ……」

「いやいや、俺を買ってくれよ! こん中じゃ一番使えるぞ?」


 媚びるような愛想笑いを向けて来るが、その心中など容易に見透かせる。


「(ふんっ、ガキだからと舐めているな。不愉快な話だ……)」


 確かに今の俺は成人男性とは思えない貧相な見た目をしている。

 そんな俺を与しやすい相手だと、連中は見下しているのだ。


「(やれやれ。これでは契約があるからと安心出来そうもないな)」


 隙あらば寝首を掻いて逃げ出してやる。

 濁り切った奴らの瞳は、雄弁にそう物語っていた。


「なぁ、こいつらなんだが、奴隷に落ちた理由はなんだ?」

「……全員、犯罪者にございます」

「やはりそうか……」


 奴隷の身分に落ちる理由は主に2つ。借金奴隷と犯罪奴隷だ。

 前者の多くは農村の出身で、親兄弟から口減らしついでに売られることが多いらしい。

 対して後者は重罪を犯した者たちだ。情状酌量の有無はともかくとして、概ね本人に大きな落ち度の有る連中ばかりとなる。


「残念なことにお客様の要望を満たせそうな借金奴隷はおりませんでして……」

「そうか……まあそうだろうな」


 借金奴隷は比較的従順な者が多いとされる一方で、戦闘には向かないともされる。


 緊急時ならともかく、平時から武器を振るうには適性やら覚悟やらが必要とされる。

 武器を握ったからとて、誰もが勇敢に戦える訳ではないのだ。


 これでは、わざわざ気分を悪くしてまで、こんな所まで出向いた意味もなかったな……。


 そう肩を落とした。


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