4. 最悪な目覚め
「ぺちゃ」
何か湿ったものが頬を撫でる感触で、俺は意識を覚醒させた。
例えるならばその感触は……雑巾。表面がザラザラしていて、俺のすべすべお肌には刺激が強すぎる。
もしかして、本当に雑巾でもこすりつけられたのだろうか? その「何か」が触れたところは濡れてしまってスースーする。気持ちが悪い。
でも俺は目を開けないでいた。何故ならば、俺の頭の下にある枕の様なものが、女性の太ももみたいな感触だったからだ。ふにゅふにゅ〜、ぽわぽわ〜って感じだ。
まあ、どうせ膝枕されたことないお前らには分からんだろ!
俺もないがな。
とにかく、俺は綺麗なお姉さんに膝枕してもらう妄想に浸りたいのである。故に目は開けない。
「起きぬな」
妄想が、お姉さんに耳かきをして貰うところまで差し掛かったとき、俺の耳に低いイケメンボイスが届いた。誰だろうか。妄想の邪魔をしないでくれたまえ。
「そだねー。俺の『必殺!垢嘗めの術!』でも起きなかったねー」
今度は少し可愛らしい男子の声だ。なるほど、理解した。この2人は俺を起こそうとしているんだな。
しかし、垢嘗めの術って何だろう。必殺って、起こそうとしてんのに殺しちゃあかんやろ。
「なんかさー、この人間の纏う法力の所為かなー、舌がピリピリ痺れるんだけどー」
可愛い声が不満そうに言った。
舌……? 俺の法力って舌を痺れさせるのか? 何その薬の副作用みたいな効果。初耳だわ。
「はあ。我もこれの頭が乗ってるところが痺れてきた。やはり法力は恐ろしい」
イケボが溜息を吐く。待って、もしかして俺、こいつに膝枕されてんの?
うわー……。
でも感触が女性ならば問題ない。妄想には充分だ。
俺は再び綺麗なお姉さんを想像し直そうとした。
ライトブラウンのふわふわボブでえ、唇は桜色でえ、大きな目は薄い茶色お。やべっ、ちょー可愛い。
「起きないならもう一回舐めてみようか?」
可愛い声がイケボに向かって提案した。
ん、もう一回舐めるって何?
もう一回ってことは……もう既に舐められたってこと?
いつだ!? いつ俺は舐められた!?
ハッ! もしや俺の頬を湿らせているこの液体は……!?
その答えに思い当たった瞬間、俺はバチッと音でも出そうな勢いで目を開けた。
俺のつぶらな瞳に映ったのは、俺のすべすべお肌を舐めんとする真っ赤な舌。
そしてその大きな舌の持ち主である醜い化け物の姿だった。
「ぎゃああああああ!」
その断末魔の叫びが自分の出したものだと気付く前に、俺の意識は底なしの闇へと沈んで行った。
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趣味で書いている連載ですが、多くの人に楽しんでもらいたいので、改善点等を知りたいと思っております。絶賛感想募集中です。