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第7話 女官が脅える?シナリオ通りの展開です。



 しばらくして、マリアが戻ってきた。手には麻の袋を手にして。

 「それは何かしら?」

 マリアの手に持っていた財布くらいの麻の袋をジュリアは不思議そうに見た。

 「は、はい、これは歴代の女官長たちから受け継がれてきた魔道具のひとつで・・。」

 そう言われてみた麻の袋にはそれに不釣り合いな透明な宝石がついていた。

 マリアが袋を広げて座り込み、スザンナの遺体の足を掴むと、するするとそのまま麻の袋の中に押し込んでいった。やがて袋はその何倍もの大きさのスザンナの遺体をまるっと飲み込むと、もとの大きさと変わらないままマリアの手に収まった。

 「あら。『移動する空間(ストリーム・ポーチ)』と同じ原理ね。そんな便利な物をお持ちだったの。」

 おそらく、過去こういうことは何度もあり、それに対応していたのが歴代の女官長なのだろう。

 大変だなあと思いつつも、素直にマリアに感謝した。

 マリアにここはもういいからと部屋を去るように言い、マリアとスザンナの遺体がなくなった部屋には、未だ戸惑いを隠せない女官4人とジュリアがその沈黙を守っていた。


 「少し、いいかしら。」

 沈黙を破ったのは、ジュリアである。

 (さすがに説明しないと、ね。)

 この状況を「何も気にしないで、忘れて」というには無理がある。というか、このままだと彼女たちの業務に差支えてしまう。

 「貴女達、とても驚いたでしょう。突然スザンナがあのようなことになって。」

 悲しい、という感情を声色に乗せてジュリアは話す。

 「わたくしも、もちろん驚きました。直前まで元気に、話して、歩いていた1人の人間が、一瞬のうちにこと切れてしまうなんて、信じられなかったわ。」

 ジュリアの言葉に、恐怖が心を満たし、溢れ出たのか、ユーリが涙をポロポロと流している。

 「あ、あの、ジュリア様。一体何がおきているのでしょうか。私には何が何だかさっぱり分からないのです!」

 よほど脅えていたのだろう、声が震えている。そしてそれは他の3人も同じだった。

 「マリア様に少しお話を伺ったのですけれど、スザンナは懐に毒が塗られたナイフを忍ばせていたそうよ。」 

 「なっ??!」

 衝撃の事実に4人とも同じリアクションをする。

 「あまり考えたくはないのだけれど、おそらくスザンナはわたくしを弑そうとしてこの部屋にやってきた。そして緊張のあまり自らの不注意でその毒の刃に触れ、命を落としてしまったそうよ。」

 まだ、この4人にこの部屋の秘密を話すには早い。そう思い、ジュリアは4人に嘘をつくことにした。

 「マリア様の調べではその毒は魔法によって強化され、その刃で傷をつければ瞬く間にその相手の命を奪えるほどのもの。そして通常の毒死とは異なり、苦しまずその痕跡を残すこともない。」

 こういえばあの死にかたでも4人を納得させることが出来る。

 「わたくしの意志ではないにせよ、この部屋で死人が出たという事実は後宮に混乱をもたらしかねないわ。だからマリア様に事を内々に治めるよう、お願いしたのよ。」

 既に病人1人が出ている薔薇妃の部屋から死人なんて出たら、呪われているかもしくは薔薇妃が何か悪いことをしていると言われてしまう。別に汚名ぐらい全然かまわないのだが、まだそれには早すぎると、ジュリアは事を荒立てることなく、この件を収めることを望んだ。

 (それに、あの2人を遣わせた人物がまだ特定できていませんし。刺客を送り込まれてもピンピンしているわたくしと、その刺客が行方知れずになったら向こうから尻尾を出すかもしれませんしね。)

 ジュリアの説明にやっとホッとしたのか、4人は落ち着きを取り戻し、通常の業務に戻っていった。

 

 「ところで、その後ミランダの様子はどうなのかしら?」

 いそいそと部屋の掃除をしているルカに声を掛けた。

 ルカはすぐに手を止め、ジュリアの方を向く。

 「それが、未だ芳しくないようで、意識を失ったまま、目を開けないのです。」

 仲間の病状に、本来であれば看病したいのであろうが、それが出来ないもどかしさもあるのだろう、ルカの顔には影があった。

 「そう、それは心配ね。わたくし、お見舞いに行くわ。」

 「へ?」

 何を言っているのだろう、この人はと言わんばかりに目を大きく開けて見つめるルカ。

 「そうと決まれば善は急げ、よ!ルカ、お供して下さる?」

 いそいそと立ち上がり部屋を出ようとする。

 「お、お待ちください!何の病気か分からぬのです!!そんな者のところに主である薔薇妃様をお連れするわけにはいきません!!それに女官達が休む場所はご側室たちが訪れるような場所ではありません!」

 必死で止めようとするルカをジュリアはやんわりとほほ笑んで、ポンとルカの頭に手を置いた。

 「わたくしこれでも、かなり強い魔法使いですのよ?自分の女官が何日も臥せっているなんて、心配でたまらないのですわ。もしわたくしに何とかできるのであれば、是非ミランダを助けたいと思うのは当然でしょう?それにこれが有れば・・」

 そう言ってジュリアはスッと左手の親指を差し出した。

 「『癒しの風(キュアライザー)』も使えますしね。ある程度の病気なら任せなさい!」

 自信たっぷりに言うと観念したのか、ルカはペコリ頭を下げ、「ありがとうございます。」と礼を述べた。



   ――――*――――*――――*――――*――――*――――*――――*――――



 「ごきげんよう、皆様。ミランダの様子はどうかしら?」

 この場に不釣り合いな高貴な声が響き、その場にいた女官達は皆固まってしまった。

 「ば、薔薇妃様!!何故このようなところに?!」

 仮にも後宮、それも女官とはいえ貴族の令嬢たちが過ごす場所なのだからある程度清潔な空間は保ってはいるものの、側室たちの部屋のように豪華とは言えず、ある程度必要なものがあるというだけの殺風景な部屋に、場違いなきらびやかなドレスを着た側室筆頭が来たのだから、女官達が驚くのも無理はない。

 「何故と言われましても、わたくしの女官の具合を見に来ただけですわ。」

 微笑みを絶やさないジュリアを何故か恐怖のまなざしで見る女官達。

 (大方、自分たちを見張りに来ているとでも思っているのでしょうね。)

 事、後宮に置いてもジュリアの悪評は絶大なる効果を発揮している。カエラ達もそうだったが、女官たちはジュリアを魔王か何かと勘違いしているのではないかというくらいに脅えており、ジュリアの顔を見れば、その場で固まってしまうほどだ。

 (まぁ、わたくしの評判が、『金の亡者』、『男を誑かす魔女』、『汚い手で好き勝手に生きている』、『邪魔になる者を躊躇いなく殺す』くらいですものね。その大半はライラ嬢いじめで出来た副産物なんですけどね。)

 「さぁ、ルカ。わたくしをミランダの元に案内して頂戴。」

 ルカは驚いている同僚に無理もないと思いつつ、ジュリアを女官室の最奥の部屋に案内した。

 

 「っ?!!」

 ベッドに横たわるミランダが視界に入り、ジュリアは目を見張った。

 「な、たった1週間で人間がこんなになってしまったの?!」

 ジュリアに『こんな』と言われたミランダは、1週間前までどちらかと言えば肉付きがよく、顔には優しい笑みを浮かべている朗らかな人物であったが、そこにいたのは痩せ細り皮と骨だけのミイラのような土気色の顔色をしたかろうじて息をしているミランダだった。

 (殺意がなくてもこれでは死んでしまうでしょう!!)

 思ったよりもあの魔法陣の効果が絶大すぎて、ジュリアは頭が痛くなった。

 「・・ルカ、少しミランダと2人っきりにしてもらえないかしら。」

 振り返らず、視線をミランダに向けたまま、背後に控える少女に聞いた。

 「え、えぇ、それは構いませんが、・・・ですが、なにゆえ・・。」

 それ以上の問いがルカの口から出ることはなかった。何故なら説明するのが諸々めんどくさくなったジュリアがルカの意識を乗っ取り、そのまま回れ右をさせて部屋から追い出したからである。

 (ふふ、これぞ『闇の力』の真骨頂!!『洗脳(マインドコントロール)』と『傀儡(マリオネット)』ね!あまり使うとなんか人として大事なナニカを失いそうでほとんど使ってきませんでしたけど、この2つを併用すると人を思いのままに操り、しかも意識を戻した後は都合よく記憶が改ざんされるという超超便利魔法!!未熟者が扱うと対象者の人格破壊しちゃうから危険でもありますが。でもわたくしは未熟者ではありませんし。これでルカが部屋の外に出て意識を取り戻してもルカはわたくしにお願いされてなんとなく言うことを聞いた、程度にしか思わないわ!)

 我ながらあっぱれ!言わんばかりに自分をほめたたえるジュリア。

 だが目の前のミランダの荒い呼吸が耳に入り、すぐ平常モードに切り替える。

 「さぁ、『闇』の次は『光』ね。得意分野だわ。」

 ジュリアが目を閉じて瞳に魔力を込めて再び目を開けると、ミランダの身体には『魔力の蔦』が絡まっており、その蔦にある無数の棘によって、ミランダの身体から血ではなく生命力が零れ落ちていた。

 「薔薇妃の間の呪いね、見たまんまですわ。でもこれなら簡単に解除できそうですわ。」

 構造を理解し、ジュリアがミランダに向かってフウッと息を吹きかけると、ミランダの身体に纏わりついていた蔦が音もなく燃え上がり、しかしその炎はミランダを焦がすことなく、蔦だけが塵と化した。

 続いて、少し楽そうな表情になったミランダの口元に手を掲げると、ジュリアの手のひらから眩い光が発せられ、それはそのままミランダの口に吸い込まれていった。すると先ほどまで骨と皮だけだったミランダがみるみる元の肉付きの良い身体になり、やがてその顔には少しだけ赤みが戻った。

 「う・・・。」

 睫の揺れと同時にミランダの口から音が漏れる。

 「気が付かれました?」

 「こ、こは・・・・・・ひっ!!?」

 まだぼんやりとした瞳が心配そうに自分の顔を覗き込む人物が誰か特定した瞬間、恐怖の色を灯した。

 「あらあら、どうしたの?そんな脅えたウサギのような顔をして。」

 ジュリアはこれでも結構本気で心配してあげているのだが、当の本人はただただ、目の前の人物が腹のすかせた魔物に見えるらしく、ボロボロと涙をこぼしながら、震えている。

 「そんなに脅えたら失礼とは思わないのかしら。別に取って食おうとしているわけではなくてよ?それにせっかく頬に赤みが戻ったと思ったらすぐそんな蒼い顔をして。ほら、早く落ち着きなさい。」

 脅える子を諭す母のように、ジュリアは精一杯優しく言った。

 「で、ですが、薔薇妃様は、お怒りなのではないのですか?」

 かすれた声で問う。

 「怒り?それは何に対してです?ミランダ、貴女は一体()()()に脅えているのです?」

 『罪』とはっきりジュリアが明言してやっと、ミランダは自分が失言したことに気づいた。

 ミランダは自分が今までひどい状況だったことはなんとなく自覚していて、それにここが薔薇妃の間ではなく、女官室であることは一目見たら明らかで、そんなところにわざわざ薔薇妃が来ているのだから、それは自分が働かない事への叱責ではないという訳ではないことは分かり切っていることだ。それなのにジュリアが『怒っている』と思ってしまったのはミランダ自身に何かジュリアに対して後ろめたいことがあると告白しているようなものだった。

 「あの・・それは、その。わ、私が何日も業務を休み、薔薇妃様へご迷惑をおかけしたことにお怒りではないのかと・・・。」

 そんなことでジュリアが怒ってここに来たわけではないということは百も承知していたが、これ以外にミランダに上手い言い訳は思いつかなかった。

 ジュリアは一瞬キョトンとしたがすぐにフッと微笑んでミランダの頭をポンポンと軽くたたいた。

 「馬鹿ねぇ。そんなことで貴女を怒るわけありませんわ。だって・・」

 そのまますっとミランダの耳元に口を寄せた。

 「そんなことで怒るわたくしが、わたくしに何かよくないことをしようとした貴女をわたくしが生かしておくと思って?」

 ゾッと戦慄が走ったミランダの瞳にはもう、絶望しか映っていない。

 「あ、ああぁ、わ、私っっ」

 恐怖のあまり動悸で息も絶え絶えになりながらも言葉を紡ぐミランダ。それを憐れなモノとして侮蔑のめで見るジュリアは、どこからどう見てもこれから人を殺めます気満々に見える。

 「なあに?あ、因みに騒いでも無駄ですわよ。この部屋の音は一切外に漏れないよう細工していますもの。それとも、命乞いかしら。」

 クスクスと笑うジュリアの姿ははまさに悪徳貴族そのもの。

 「どうか、どうか、い、命だけは・・っ」

 涙ながらに懇願する姿を見たジュリアは、自分の演技力も中々捨てたものではないなと思う。

 「あら、本当に命乞いなのね。いいわよ?元々殺すつもりなんてありませんし。でもねぇ。」

 ニイッとジュリアの口角が上がる。

 「タダでとは言いませんよね?」

 悪魔のように笑うジュリアに、ミランダはただ「は、はい、勿論です、薔薇妃様の命に従います。」と返事をするしかなった。

 

気づけば、ブックマークが200件を超えており、喜んでおります。もっともっと精進します。

ところでジュリアの蔦を見破ぶるために目に魔力を集中させた行為と、常任には見えないミランダに纏わりついていた蔦は、某長期休載中の少年漫画の凝と隠みたいなものです。えぇ、大好きなんです、その漫画。

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