第68話 裁判?腕の見せ所ですわね。
「罪人、ジュリア・ローゼン・ブラスターは前へ。」
厳かな雰囲気、大勢の聴衆が見つめる中、ジュリアはその足を1歩、また1歩と証言台へ進めていく。
周りを見れば、あぁ、成程と思ってしまうほど、ブラスター家の政敵の面々が勢ぞろいしている。まだジュリアが入廷して間もないのに、それもまだ罪状すら読み上げられてもいないのに、憤った聴衆たちは皆口を揃えて「この毒婦!」「死刑にしろ!」とヤジを飛ばしている。
正面から少し上を見上げれば、そこに並ぶ裁判官たちも、皆ジュリアに対して侮蔑の視線を向けている。
(あらあら。完全にアウェーですわね。わたくしの味方になりそうな方が御1人もいませんわ。しかも、裁判だというのに弁護人すら用意されていないなんて・・。よっぽどわたくしのことが目障りなのでしょうね。)
なんとしてでもジュリアを処刑したいという思いが法廷中に満ちている。ジュリアはこの空気の中、「薔薇妃を処刑しろ!」から「薔薇妃を後宮から追放しろ!」まで周りの気持ちを変えなければならない。そのためには何としてでも、この裁判の手綱を握らなければ。
「それでは検察官、罪状を読み上げろ。」
ジュリアが無事証言台に立つと、裁判長が検察側に向かってそう言った。
ローゼンタール王国の裁判は、裁判官、検察官、弁護人によって構成されている。そこへ罪人と証人が参加する形だ。そう、ここに立ち、裁判を受ける者は既に『罪人』なのだ。罪が確定しており、その罪に対しての処罰を決める場が裁判所である。よって、この裁判において、『無罪』という判決は存在しない。因みにこの裁判を受けるのは貴族のみとなる。聴衆も全て貴族。平民にとっては裁判という言葉すら知らないかもしれない。
裁判長に促され、検察官3人の中の1人がジュリアの前に立った。
「罪人、ジュリア・ローゼン・ブラスター。その罪状は『国宝窃盗罪』及び、『国家転覆罪』です。」
たったそれだけの言葉しか検察官は発していないのに、法廷が一気に騒がしくなり、先ほどまで野次を飛ばしていた聴衆たちからは今度は怒号が飛び交った。もちろん、言っている内容は野次の時と変わらない。
(あの方たち、序盤からこんなに飛ばして、疲れないのかしら。)
あまりにも異様な空気にジュリアはどこか他人事のようにこの法廷の空気を感じていた。
「では検察官。証拠を提示せよ。」
ジュリアがどうでもいい心配をしている内に、裁判長が検察へ向かって指示をしていた。
証拠を提示せよと指示された検察官は検察官席に残っていた2人が薔薇妃の間から出て来た国宝を持って来た。
「これは国宝が盗まれたという報告を受けた近衛兵が、兵部卿サリンジャー伯爵様の許可により薔薇妃の間に入り、寝室のベッドの下から発見したものです。その時には近衛兵たちは勿論、薔薇妃、薔薇妃付きの女官、そして陛下も同席されていらっしゃったのです。つまりそこにいた全員が証人なのです。」
ざわざわと相変わらず騒がしい法廷。裁判長が何度も静粛に!と叫ぶが一向に静かになる気配はない。
「続いて国家転覆罪についてですが、物的証拠はございません。ですが、この毒妃によって陛下が洗脳され、まだみぬ御子に王位を継がせようと画策なさっているのは宰相フランドール公爵様も周知の事実です。既に何人かの大臣には何らかの指示が下っているとか。ここで裁判長にお願い申し上げます。この法廷に大臣、並びに宰相フランドール様、そしてエドワード国王陛下をお招き下さい!」
検察官のその要請に裁判官だけでなく、周りの聴衆たちさえも息を飲んで驚いた。当然ジュリアも大胆な行動に出る裁判官に対して驚きが隠せない。
(大臣を呼ばれるのはまだわかりますわ。ですが、フランドール公爵様と、陛下まで出廷させるといいますの?!あの御二人がわたくしに不利になる証言をするわけがございませんのに・・。)
フランドール公爵というのはダミアンの事である。ダミアン・ローゼン・フランドール。公明正大な宰相として民から尊敬されている、エドワードの右腕だ。そしてエドワードの幼馴染でもある。そんな彼が、ジュリアの事を愛しているエドワードの望まぬことをするはずがない。もちろんエドワードにとってもおそらく今回の事は想定外であるはずなので、喜んで、ジュリアの窮地を救おうとするに違いない。そして何より、彼らはこの国の王と宰相なのだ。この状況をひっくり返すだけの力もある。
そんな2人をわざわざ呼ぶなんで、何を考えているのか、とここにいる誰もが不思議に思った。
だが、この場にいる誰よりもいち早く、検察官の思惑に気づいた人物がいた。そう、ジュリアだ。
(・・そういうことですのね。先ほど検察官は、陛下が洗脳されていると仰いましたわ。ここでわたくしを擁護する言葉を陛下が仰ったのなら、それは洗脳されているからだと、皆に陛下の洗脳状態を診せることになりますもの。確かに陛下のわたくしに対する奇行は洗脳によって頭がおかしくなっていると思われてもおかしくはありませんわ。更に、フランドール公爵様がわたくしを擁護する発言を為されば、フランドール様も洗脳されていると言い張られてしまう可能性もございますわ。それにより、陛下側の人間はわたくしを守ることが出来なくなる・・。それがあの方々の作戦ですのね。)
逆にジュリアに不利な発言をしてくれれば、それはそれで万々歳だ、ということになる。どっちに転んでもジュリアにとって悪手でしかない。
それを防ぐためにジュリアがここですべきことは1つ。
「お待ちくださいまし!裁判長様。」
高らかに、凛とした声で、ジュリアは発言した。
「・・罪人の発言を許可する。」
思ったよりこの裁判長は公正な判断を下すつもりらしい。最初の侮蔑の視線はジュリアの罪状と噂を聞いただけで浮かべた表情であって、ボークラーク家側の人間ではないようだ。もしボークラーク家側の人間であればジュリアの発言の許可など、こんなに簡単に下すわけがないのだから。
「ありがとうございます。では、わたくしからも少しお話させて頂きますわね。わたくしは―――」
裁判長にお礼を言い、発言をしようとしたが、野次のうるささにジュリアの言葉が遮られてしまう。
(仕方がありませんわね。あの方たちには少し黙っていてもらいましょうか。)
ジュリアが一瞬目を伏せ、そして瞼を開くと、ジュリアの中にある魔力を、誰もが感じ取れるように外にだし、法廷中を包み込んだ。もちろん、裁判官たちにを除いて。
そのあまりの大きさと、圧迫されているような空気に、誰しもが額に脂汗を浮かべて、がくがくと震えだした。その場から逃げ出したい!と思ったが、一度裁判が開廷されると、閉廷ないしは休廷まで誰も出入りすることは出来ない。だから彼らは黙って、その場で震えるしかないのだ。
宮廷が静まり返ったのが分かると、ジュリアは再び口を開いた。
「わたくしは陛下、並びに宰相様の出廷を望みませんわ。そもそもこのようなくだらないお祭りにお忙しい御二方の手を煩わせる必要などございませんもの。」
自分が死刑されるか否かの裁判をくだらないお祭りなどと言えるのはジュリア以外にいないのかもしれない。
「くだらないお祭り、に私たちも呼ばれているのだが?」
裁判長が少し不機嫌になった。
「それについては本当に申し訳ないと思っていますわ。ではわたくしがこの裁判をくだらないお祭りと称した理由を申し上げますわね。」
ジュリアの態度はどう見ても裁かれる側のものとは思えない程堂々としている。
「まず、先ほど検察の方が仰られていたわたくしの罪状ですが、どれも真実ではございませんわ。わたくしは検察官・近衛兵・そして兵部卿様がでっち上げられた嘘により、この場に立っているのに過ぎないのですから。」
先ほども説明したが、裁判にかけられるのは「罪」が確定した「罪人」だけであり、この裁判に「無罪」という判決はない。それなのに、ジュリアは今、「無罪」を主張したのだ。これにはジュリアの圧に気圧されて黙って聞いているしかなかった検察官側も猛抗議をしようと立ち上がろうとした。が、それも当然ジュリアが許すはずもなく、更に魔力の出力を上げて、検察官たちを黙らせた。
「でっち上げられた、と?だが薔薇妃の部屋から盗品が出て来たのは大勢が目撃していたことだ。」
ジュリアに圧を掛けられていない裁判長は周囲の様子がおかしいことに気づくこともなく、ジュリアに詰問する。
「えぇ。確かにわたくしの部屋の寝室のベッドの下から、正妃のティアラや神杖、魔石が出てきましたわ。ですが、よくお考えください。そのような大それたことを成すのに、隠し場所をわざわざ自室の寝室に選びますでしょうか?それよりももっと良い隠し場所がありますのに?裁判長様、わたくしは『移動する空間』を使えるのですよ。」
「なっ!?それは本当か?」
ジュリアの話に裁判長が思わず立ち上がり、食い入るようにジュリアを見つめている。
「えぇ。今はこの枷によってそちらを披露するわけにはまいりませんが、わたくし付きの女官にお尋ねいただければ分かる事ですわ。そうですね・・。大体この法廷くらいの大きさはあると思いますわよ?」
「なんだとっ!!?それほどまでに大きいのかっ!」
ますます裁判長の声が大きくなった。
因みにジュリアが言っている枷とは、ジュリアの腕にはめられた手枷のことで、牢屋と同じ反魔法が掛けられているので、常人から上級魔導師くらいの魔力を完全に封じることが出来る威力だ。もちろん、ジュリアが本気を出せばこれを外すくらい訳もないのだが、今はまだそれをするわけにないかない。
「わたくしが入宮した当初、わたくしの実家から身に余るほど豪華な家具が送り付けられていましたので、とりあえずそれらは全て『移動する空間』の中に収めましたわ。それらを収めてもなお、わたくしの『移動する空間』にはまだ余裕がございますもの。これほど便利で、誰にも見つからない場所があるというのに、何故盗まれた品々はわたくしの部屋から出て来たのでしょう?」
ジュリアの話を真実とするならば、確かにおかしい話だ。裁判官たちも互いに話し合い、どうすべきか迷っているようだ。
(ふふ。掴みは上々のようですわね。さてと、このまま流れをこちらにもっていきますわよ。)
十分に手ごたえを感じたジュリアは次の話をするために、パンと、手を叩いて再度自分へと注目を集めた。
更新が2日も出来ず、本当に申し訳ございませんでした。
この前からPCの調子がおかしく、上手く立ち上がらなかったりで、全く執筆が出来ていませんでした。
そろそろ買い替え時かなーとか思いつつも、まだその余裕はないので、なんとか頑張っていこうと思っています。
可能な限り、早い更新をするつもりではありますので、よろしくお願いします。




