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第67話 やっぱり元凶は?はい、あの人です。



 外は陽も沈み梟の声だけが聞こえてくる静かな夜。

 少しかび臭い牢の中で、ジュリアは目の前の人物と対峙していた。

 「どうして、ここにジュダル様がいらっしゃるのですか?」

 目の前の人物、大賢者ジュダルは、いつものどこか人を小馬鹿にしたような余裕の顔ではなく、ジュリアに初めて見せる冷たい目をしていた。

 「そろそろお前が俺に会いたいころだろうなと、思ってな。」

 口調は変わらないが、声に抑揚がなく、冷ややかな印象を受ける。

 「何故、そのようにお思いになったのですか?」

 いつもと違う様子のジュダルに、どう接したらよいか分からないジュリアは、ジュダルと少し距離をとりつつ、だがジュダルから視線を外さず、質問をした。

 「何故って、それはお前がよく分かっているはずだ。・・お前の部屋に宝を隠した犯人、誰か分かったんだろう?」

 「!!?」

 ジュダルの言葉に驚き、息を飲むジュリア。

 「・・で、では、やはり、ジュダル様なのですか?」

 ごくりと喉を鳴らし、ジュダルの返事を待つ。

 「あぁ。俺が宝物庫から宝を盗み出してお前の部屋に隠した。」

 そういうジュダルの表情は変わらず冷たいままだ。

 シノブの術で隠された宝を見つけるのは、倭の國の事を知っているジュダルならば可能だろう。隠した場所自体も、きっと姿を消したままシノブの事を見張っていたのだ。そして亜空間を渡り歩いて薔薇妃の間の寝室に忍び込み、ベッドの下に宝を隠した。薔薇妃の間の魔法陣が発動しないジュダルならばそれも可能だ。

「何故、何故貴方様がそのようなことを?」

 口が乾燥し、かすれた声で尋ねる。

 「何故も何も、お前の望んだことだろう?おそかれ早かれ、お前はこの状況を望んでいたはずだ。俺はそれを少し早めただけに過ぎない。」

 ジュリアの望みを叶えてやったんだと言っているように聞こえるが、とてもそうは思えない。

 ジュリアは目の前の人物が、よく知っているジュダルであるはずなのに、全く知らない人印思えて仕方がなかった。

 「確かに、わたくしはこうやって罪を発覚させ、後宮から追いだされることを望んでいましたわ。ですが、それは今ではないのです。わたくしの計画と今の状況では全く違いますわ。そもそも、今まで全くわたくしの前に姿を現さなかった貴方様がどうして、今、このタイミングでこのようなことをなさったのですか!一体今まで何を為さっていたのですか?!」

 ジュダルが姿を消していた間、その間に起きた事が今回ジュダルが事を起こした理由に繋がる気がする。何としても、そのことをジュダルの口から聞きだしたかったのだが・・・。

 「何故俺の行動を逐一お前に教えなければいけないんだ?そうすればお前は俺の子供を喜んで孕むのか?違うだろう?」

 「あ、当たり前ですわ!それとこれとは話が違いますものっ!!」

 そんなに高い対価を支払わなければならないのなら、別に知らなくてもいい!と憤るジュリア。

 「そもそも、今まで俺が無償でお前のために行動してきたことが間違いだったんだよ。どんなにお前の手助けをしても、お前が手に入るわけでもないもんな。」

 (わたくしの手助けをする前に、もっと早く直すべき個所があるのではありませんか?そもそもまともな思考回路をもつことから始めればよろしいのに。)

 緊張感のある状況なのに、なんだかジュダルへの怒りがふつふつとわいてくるジュリア。何故自分がジュダルを振り回しているかのように言われなければならないのか。確かにジュリアもジュダルをいいようにこき使ったことは認めるが、本当は近づくことすら許したくないのに、それを許す代わりにジュリアにとって得になる何かを寄越すのは至極当然ではないのか。それもジュダルにとっては至極簡単なものなのだから、安い方だ、と、どんどん頭の底から文句が湧き出てくる。

 「って、なんでお前俺がお前を見放したと言っているのに、許しを請うでもなくそんなに敵意をむき出しにしてんだよ。おかしいだろ?!」

 ジュダル的にはここはジュリアが折れて、ジュダルに頼み込んでこれからも自分を手伝ってほしいと言ってくるものだと思ったらしいが、当然そんなことを思うジュリアではない。

 ぷちっと、何かが切れる音がした。

 「何故、わたくしが、お頼みしてまでジュダル様のお力を借りねばならないのですか?歩くだけで災いを振りまいているような貴方様を?どうぞ、結構ですわ。わたくしを見放して頂いて一向に構いませんもの。ご自由に。あぁ、それと、今までジュダル様がどちらにおいででいらっしゃったのか、当てて見せましょうか?」

 今迄ジュリアが見せてきた中で最高レベルの嘲りの笑みをジュダルに見せる。

 「牡丹妃様・・アイリス・ボークラーク様の所と、そのお父上様であるボークラーク公爵様の所ではございませんか?」

 「なっ?!」

 先ほどまでジュダルの雰囲気に警戒し、若干の脅えを見せていたジュリアが、突然何かが吹っ切れたように強気な姿勢を見せる。

 「あらあら。そんなに分かりやすい反応をして頂きまして、ありがとうございます。このくらいのこと、ジュダル様に伺いませんでも、少し考えればわかりますわ。」

 あの兵士たちは探しながらその途中で国宝を見つけたのではなく、一直線に、まるでそこにそれがあることが分かるかのようにベッドに向かって真っすぐ歩いてきて、すぐに国宝を発見した。つまり、そこに必ずそれがあると知っていたのだ。

 おそらく、ジュダルが国宝を盗んだ後の流れとしてはこうだ。まず、第一発見者の女官だが、そのような者はいない。初めからあの近衛兵たちはボークラーク公爵の右腕となって働くサリンジャー伯爵の指示によって、あのタイミングで薔薇妃の間に押しかける計画だったのだ。そしてその計画をボークラーク公爵に持ちだしたのがジュダル。ジュダルはどのタイミングかまでは分からないが、今日この日にジュリアがシノブを使って国宝を隠す計画を立てていることを知り、それを利用してジュリアを後宮から追いだそうとボークラーク公爵に持ちかけた。ボークラーク公爵からの信頼を得ることなど、ジュダルの魔法をもってすればたやすいだろう。もしかしたらその前にアイリスに取り入ってそこから繋ぎを得たのかもしれないが。そして細かい指示をジュダルからボークラーク公爵へ、ボークラーク公爵からサリンジャー伯爵へサリンジャー伯爵から近衛兵の兵隊長へと伝わっていき、あの状況が出来上がったのだろう。

 問題はやはり、何故ジュダルがそのようなことをしたかについてだが。考えられる理由の1つは、ジュダルがジュリアではなく昔の薔薇妃の生まれ変わりかもしれないアイリスを自分の子供を孕む相手に選んだということ。最近闇の力の片鱗が見え隠れするアイリス。もしかしたらそれはジュダルの仕業かもしれなかった。アイリスに取り入るために邪魔になるジュリアを排除したかった。ジュリアがいればジュダルがアイリスに何かしたことを見破る可能性もあるからだ。だが、

 (ジュダル様は牡丹妃様の事をひどく嫌っておいででしたわ。途中で心変わりをなさった、とも考えられますが・・・。牡丹妃様の御顔は先の牡丹妃様にそっくりとのことですし。)

 考えられない事ではない。それでもジュリアは何か違和感を覚えた。

 このままジュダルに尋ねても先ほどあんな態度をとったジュリアに素直に教えてくれるわけがない。自分で考えるしかないのだが、材料が足りない。何か大事なピースが掛けているのだ。

 (とりあえず、ここでこのままジュダル様と対峙していても何の情報も得られそうにございませんし。少々不愉快に思えてきましたので、ご退場頂きましょう。)

 情報をくれない歩く破壊兵器にはもう用がないとばかりに、ジュリアの表情はジュダルがココに来た時に見せて来た冷ややかな表情よりも更に、周りが一瞬にして凍り付いてしまうほどの冷たい顔をした。

 「それで、いつまでここにいらっしゃるのですか?大賢者様。もうわたくしのことは見放されたのでしょう?早く愛しの牡丹妃様の所へ向かわれたらいかがです?あぁ、それとも?牡丹妃様からわたくしの命を奪って来いとでも言われましたか?」

 ジュリアのイヤミたっぷり発言にジュダルはあからさまにムッとなった。

 「俺だってこんなかび臭いところ、1秒だっていたくねーよ。せいぜい、処分が決まるまでの間の時間を楽しむんだな。お前には他の事を気にしている暇などないはずだからな。」

 それだけ言うと、ジュダルは闇に溶け込むように消えていった。

 ジュダルが消えたところを見つめながら。ジュリアはジュダルの最後の言葉が気になった。

 (わたくしに他の事を気にするな、というメッセージかしら?でも、何故?わたくしが気にすることと言えば今は牡丹妃様のことか・・それともシャーロット様?)

 気にするなと言われて素直に気にしないことなどジュリアに出来るわけがない。まずは、カリーナとセシリアの報告を待って、どう動くか決めようと思った。



 だが、ジュダルの言ったように、本当にジュリアが他の事を考える余裕などなくなってしまったのだ。それはジュダルと会った日の翌朝、突然ジュリアに告げられた。

 「罪人、ジュリア・ローゼン・ブラスター。本日正午、お前を最高裁判にかけることとなった。これより身柄を後宮から王宮の地下牢へと移す。」

 「なんですって?!今日、裁判があると、今仰いました?それはあまりにも急すぎではございませんか!」

 普通裁判というのは捕えらえてから数週間ほど準備期間がいる。訴えた側もそうだが、訴えられた側も自分の無実を証明する機会が与えられるからだ。確かに凶悪犯については1週間くらいで裁判が開かれることもあるが、捕えらえた日の翌日に裁判にかけられた前例などない。

 「ふん。当然のことだな。貴様が犯したのは国宝を盗み出すという大罪だ。お前は国家転覆罪の罪を犯したとの話もある。それらを全て明らかにするには十分な証拠がもう出そろっている。何より貴様の部屋から国宝が出て来たのだ。言い逃れのするための準備を与える必要などないだろう?」

 ジュリアにこのことを告げに来たのは司法官の1人だ。男だが、こういう場合男でも後宮に入る許可が下りる。

 そしてその司法官は明らかに、ジュリアに対して必要以上に敵意を抱いている。特段この男に何かした覚えなどないが、殺気をあからさまに放っているのだから、こんなに分かりやすい敵意はない。

 「前半の罪については理解していますが、後半の罪、国家転覆罪とはどういうことですか?国宝を盗み出すことは確かに大罪ですが、国家転覆罪はまた別の話でしょう!」

 謂れのない疑いを掛けられることは今迄にも多々あったが、国家転覆罪まで犯したと思われるようなことはした覚えがない。そもそも、国宝を盗んだうえ、そんな罪まで着せられたら死刑まっしぐらになるのだから、そんなへまをジュリアがやらかすわけがない。

 「はん!白々しい嘘を吐くな!貴様が陛下をそそのかし、シャーロット妃の子供を自分の養子にしたうえで、陛下を退位させ、実験を握ろうとしているのは明白なんだぞ!」

 「・・・・・・・・・・・は?」

 あまりのことに目が点になり、反応が遅れてしまったジュリア。

 (え?え?まさか?もしや?あの話の事ですの?!)

 ジュリアは後宮を出ていたあの日、ジュリア達の目の前でエドワードが語った計画の事を鮮明に思い出した。

 そして、ふるふるとこみ上げてきた怒りのせいで身体が震えだす。

 (なんで・・どうして・・わたくしのせいになっていますのー?!やっぱり陛下が元凶ではありませんか!!なんてことですの?!変態1号、2号はどこまでわたくしの足を引っ張ればよろしいんですの!!?)

 今更ながらに改めて、あの2人の厄介さに激しい頭痛がしたジュリアは勢いよくガシッと鉄格子を掴むと、そのジュリアのあまりの勢いと表情に腰を抜かした司法官へ向かって笑いかけた。

 「いいですわ。案内なさってくださいまし。こうなりましたら、わたくしも全力であの方々に立ち向かって見せますわ!」

 ここにきてようやく離別宣言をし、いつまでも腰を抜かしている司法官をさっさと案内するよう怒鳴り、堂々と牢屋から出て行った。



 

やっと主人公が本気を出してあの2人と対峙することを決めました。

まぁ、王様についてはきっと不可抗力だったのだろうと思いますが。


あ、ちなみにサブタイみて元凶は大賢者の方と思って、最後に王様だと思いなおされた方いらっしゃいますか?正解はどっちもですね。ですので正しいサブタイは「やっぱり元凶は?はい、あの2人です。」になりますね。数字が抜けていました(笑)

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