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第66話 犯人?とりあえず、3回くらい死んでください。



 広い後宮の中には女官や側室達を捕えておく牢がある。あくまでも一時的に捕えておくための牢なので、あまり広くなく、牢の中は何もない。床と、鉄格子があるだけだ。

 その鉄格子にはもちろん魔法での脱獄を阻止するための(アンチ)魔法が掛けられている。ここでは処罰が決まっていない罪人を捕えておく場所で、処罰が決まれば、そのまま刑が執行されるか、追放されるか、後宮の外、あらゆる凶悪犯が捕まっている牢で一生を終えるか。ここに捕えられた者はすぐに別の場所に移動される上に、エドワードの王政になってからは1人もここに入れられた罪人はいないため、そしてもちろんこんなところを掃除するものなどいないため、随分と誇りがかぶっていた。

 そんな薄暗い牢に、場違いなド派手美女が1人、顎に手を当てて何かを考えながらウロウロしていた。

 ((アンチ)魔法が掛けられているこの場所まで、ウインド達の力が届きますでしょうか・・。なんとかして情報を掴みたいのですけれど・・・。)

 (アンチ)魔法と言っても、ジュリアが本気を出せばおそらくこの牢から脱獄することは可能だ。だが、ジュリアが今まで情報を受け取っていたのはウインド達の力である。ジュリアの見立てによると、おそらくこの牢屋に掛けられている(アンチ)魔法の威力はかなり高い。そう、ジュリアが()()を出して()()()()脱獄できるレベル。故にウインド達の力がこの(アンチ)魔法を超えるかどうか分からない。

 案の定、いつもなら素早く彼らに属するエレメントがジュリアに情報を運んでくるはずなのに、一向に情報が運ばれる様子がない。

 (情報を受け取れたとしても、もうしばらく後ですわね。では、今、ここで自分の頭の中だけで状況を整理しましょう。)

 ほこりを手で払い、その場にふわりと座り込み、顔を伏せてあの時の事を思い起こす。



   ――――*――――*――――*――――*――――*――――*――――



 突然の兵士たちの乱入からのジュリアの捕縛。そしてベッドの下から出て来たのはシノブが倉庫に置いてきたはずの国宝。あるはずのないものがジュリアの部屋から出て来た。

 どういうことなのか、状況を把握しようとしている間にジュリアは塀にまほうを封じる縄を掛けられながら、エドワードの方を見た。エドワードはどういうことなのか説明しろと、兵隊長に詰め寄っている。どうやらこのことはエドワードのあずかり知らない事だったらしい。

 ジュリアに罪状を突き付けた兵隊長の話によると、たまたま女官が倉庫から出る怪しい影を見て、その後をつけた所、薔薇妃の間に入っていったのを確認した。その後すぐに倉庫へ行くと、国宝が無くなっていたため女官長へ伝えようとしたが、女官長は席を外しており、一刻を争うと判断したその女官はその足で近衛兵の元へ行ったのだという。

 本来ならば後宮へ兵が足を踏み入れるのは国王もしくは宰相の許可がいる。報告を受けた兵隊長はすぐに後宮へ乗り込もうとしたが、国王であるエドワードは現在後宮におり、宰相ダミアンも現在立て込んでいる案件があり、姿が見えない。だが、国宝が盗まれるという大事件、しかもその犯人が今の後宮の最高権力者である薔薇妃ともなれば証拠を隠滅される前になんとしても早急に捕えなければいけないと判断した兵隊長は国王・宰相が不在の時に様々な許可を出すことが出来る兵部卿であるサリンジャー伯爵にその許可を願い出て、サリンジャー伯爵は兵が後宮へはいることに許可を出した。兵部卿とは軍部における最高権力者であり、軍関係の決定権は国王・宰相に次ぐ。つまり、近衛兵たちは法に則り後宮に入ってきたといえるのだ。

そしてその話を聞いていたジュリアは、この件の裏にいるのが誰なのか、分かった。

 (サリンジャー伯爵様はボークラーク公爵様の右腕と呼ばれる御方。いくらその権利があるからとはいえ、陛下がいらっしゃるこの状況で後宮に兵を送りこむという判断を1人でなさるはずがありませんわ。おそらくボークラーク公爵さまにお伺いを立てたか、あるいはそもそもこの騒動自体、ボークラーク公爵様のか牡丹妃様の意志によるものか。)

 アイリスが関わっているかもしれないことに、ジュリアは嫌な予感がよぎった。昔の薔薇妃、もしくは牡丹妃の生まれ変わりであるアイリスが、このようなことを起こしたのには何か他に目的があるのではないかと。まあ、起こしたも何もそもそもの発端はジュリアがシノブに依頼をして宝を隠したことにあるのだが。

 そうこうしている内に、ジュリアは兵たちに連行されそうになった。さすがに証拠が目の前にある状況で兵を止めることが出来ないエドワードはジュリアにないか言いたげな顔をしているが、それを確認する間もなくジュリアは薔薇妃の間から連れ出されてしまった。


 

 そして現在に至る。

 (そもそも、何故、わたくしの寝室のベッドの下に国宝があったのか。薔薇妃の間にはカエラ以外の女官全員を残しておりましたもの。彼女たちの目をかいくぐりこの部屋へ侵入して宝を隠した。ですが、薔薇妃の間にはわたくしに害意のある者に対して呪いが発動するようになっていますわ。わたくしに罪をきせようとする方がわたくしに対してい害意がないわけがございませんもの。その魔法陣が発動せず、侵入し、宝を隠せる方。加えて、シノブさん1度は隠した宝を見つけ出すことのできる実力を持つ人物・・・。まさかっ!!)

 ジュリアが知っている中でそのようなことが出来る唯一の人物が頭に思い浮かんだが、すぐに首を横に振って否定する。

 (いいえ。あの方であるはずがございませんわ。何よりそのようなことをなさる理由がございませんもの。わたくしがこうして捕まることであの方が得る利はございませんわ。・・でもならば、一体誰が・・。)

 頭に浮かんでは消えていくその人物の顔。出来ることなら今すぐにでもその人物の元へ行き、真相を確かめたいが、そんなことが出来る状況ではない。もどかしさを感じながらジュリアはその場に佇んでいた。



 どれくらい時間がたっただろうか。牢の外からパタパタと足音が聞こえてくる。

 「薔薇妃様!!どうしてこのようなことに!?」

 「そうだよ!こんなの作戦と違うじゃん!!」

 飛び込むように現れたのはカリーナとセシリアである。

 どうやらジュリアが捕まったことを知ると、慌ててこの牢がある棟へ駆けつけたのだそうだ。それでもここに来るまでこれだけ時間が掛かったのは、罪人であるジュリアに会わせるわけにはいかないと、見張りの近衛兵が彼女たちを通さなかったからだ。あの手この手で兵を説得しても、通じず。最終的にセシリアの発明品を持って、兵には眠ってもらったらしい。

 「な、なかなか大胆なことをされましたわね。その兵が目覚めたときの処理はどうなさるのですか?下手をすれば貴女方にまで害が及んでしまうのではございませんか?」

 「あ!それなら大丈夫。あの器具はねー。眠った前後の記憶が無くなっちゃう奴だから、僕たちが着た事さえ目を覚ました時には覚えていないはずだよ。」

 (な、なかなかえげつない道具をお持ちですわね。・・・わたくしにも作って下さらないかしら。)

 このような状況で結構本気でそんなことを考えているジュリア。

 「薔薇妃様!何を呑気に構えていらっしゃるのですか!後宮は既にこの話でもちきりなのですよ?大臣の中には即刻薔薇妃様を処刑せよと声を荒げている方もいらっしゃるとか。一体どうなさるおつもりなんですか!?」

 真にジュリアの事を心配しているのだろう。カリーナのその顔には不安と、怒りで複雑な表情が浮かんでいた。

 「そんなにご心配なさらなくても大丈夫ですわ。いざとなればどんな手を使ってでも逃げれますし。それよりわたくしはわたくしのことなどより、後宮の方が心配ですわ。わたくしがいない後宮で牡丹妃様が我が何をなさるのかが。」

 ジュリアのその言葉にカリーナとセシリアがハッとなった。

 「もしや、薔薇妃様の計画が狂ってしまった理由は牡丹妃様なのですか?」

 「確実とは言えませんけれども。」

 カリーナの問いに小さく頷いたジュリア。

 「藤妃様、百合妃様、お願いがございます。どうか、わたくしのいない間、シャーロット様のことを気を付けて見ていてくださいまし。」

 アイリスの標的はジュリアだけではない。現在国王の子供を唯一身ごもっているシャーロットも標的の1人のはずなのだ。ジュリアがいない後宮でアイリスがどのような手を使うか分からない今、シャーロットの身を案じることが最優先事項である。そもそも、ジュリアの後宮脱出作戦はシャーロットの出産が無事終わってからにするつもりだったので、それまではジュリアの方からもさりげなくシャーロットを守るつもりでいた。それが今、この牢屋の中で、ウインド達とも連携をとることが出来ない。カリーナ達のように強行突破をしてきてもいいと思うのだが、おそらく(アンチ)魔法はこの棟全体に掛けられているのだろう。彼らは入る事すらできない状態なのかもしれない。だから、今、ジュリアが頼みごとが出来るのはこの2人しかいないのだ。

 「必要があればシノブさんにも手伝ってもらって構いませんわ。なんとしても、シャーロット様に危害が及ばぬようにどうか、お願いいたします。」

 自分の方が今、大変な状況下にいるというのに、シャーロットの身を案じるジュリアを見て、カリーナ達が断れるわけがなかった。

 「分かりました。全力を尽くします。」

 「僕も、シャーロットに話して、彼女の住まいの周りにいろんな仕掛けを施しておくよー。」

 セシリアの言葉に、それは別の意味での被害者が出るのではないかと心配になったジュリアだが、とりあえず出来ることはなんでもしておきたいので、素直に頼むことにした。

 「そういえば、陛下とウインドはその後どうなさったかお分かりになりますか?」

 ジュリアが連れ出された後の彼らがどうしたのか知らないのでとりあえず聞いてみる。が、「ウインド」と言っただけで、何を思い出したのか、顔を真っ赤にして落ち着きがなくなってしまったカリーナから聞き出すことは難しそうだ。

 「陛下はー、薔薇妃様の女官に聞いたんだけど、薔薇妃様が連れ出されてすぐ、そのウインドって言う魔術師と一緒に後宮をでたらしいよー?」

 ウインドには会ったことがないため、どうしてカリーナがこんなにテンパっているか分からないセシリアが代わりに説明した。

 「そうですか・・。」

 (陛下が無駄に事を荒げなければよろしいのですが・・。)

 一抹の不安を覚え背筋が寒くなった。

 一通り話を終え、カリーナ達は帰っていった。


 1人、寂しい牢屋の中で、ジュリアは、カリーナ達が来る前に考えていたことを思い返していた。

 誰が薔薇妃の間の寝室のベッドの下に国宝を隠したのかということ。そしてその実行犯かもしれない人物の事。

 その時、牢の中に凍りつくような冷たい強い風が入ってきた。その風の強さに思わず腕で目を覆い、そして風が止んだのがわかるとその手をおろし、目を空けた。

 「あ、貴方様は・・・。」

 そこに、さっきまではいなかった人物が立っていた。ジュリアがこの牢屋で何度も何度も頭に思い浮かべた顔を持つ人物がいた。

 「・・・ジュダル様。」

 その力のないジュリアの声は響くことなく、牢屋の静けさに吸収されていった。


何度も何度も頭に思い浮かべた顔って、なんだか恋しているみたいですね(笑)


あ、投稿時間遅くなってすみません。寝てしまっていました。

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