第62話 大事な役目?不安です。
翌日から、ジュリア達は早速行動に移した。
まずは女官達の中でも特におしゃべり好きと名高いセシリアの女官、グレイスにセシリアがそれとなくジュリアの話をする。ジュリアからの頼みにより、いくら信頼のおける女官であっても真実は話さないようにとなっていたので、噂の元となる女官にも、ジュリア達が噂にしてほしい内容だけを伝えることにしている。話の仕方としてはこうだ。
「最近、薔薇妃様が元気ないみたいなんだよね。なんか実家と縁を切ったらしくて。」
初日はこれだけを伝えるだけにとどめておいた。
次の日、ゴシップ好きのその女官は既に数人に昨日の話をしていたようで、何人かにはジュリアの噂が出回っていた。今回の作戦的には好ましいことだが、女官として彼女の在り方は良いものかと思ってしまう。
更に次の日になると、結構な範囲まで噂が広まっていた。カリーナも自分の女官から「薔薇妃様ご実家と疎遠になっていらっしゃるようですけれど、大丈夫なのですか?」と質問されたらしい。
いい感じに噂が出回っているため、グレイスに第二の情報を与えることにする。
「そういえば、この前カリーナが薔薇妃様に一緒にドレスを新調しようって誘ってたけど、薔薇妃様断ってたなー。昔はしていた大きな宝石とかもここ最近見かけないし。もしかしたらお金に困っているのかも。」
完全にセシリアの憶測としか思えないこの話も、尾ひれまでついて2日後にはほとんどの女官が知ることになる。その女官達から側室へ伝わるときには、「薔薇妃は最近お金に困っている、百合妃や藤妃に援助をお願いしているが断られたらしい。」というものになっていた。
そして、噂を完全に信用できるものとするため、カリーナ側からも噂を広めることにした。
「薔薇妃様は最近お金の話しかなさらないですね。よっぽどおつらいのでしょう。ご不満ばかりくちにされているんですもの。」
とカリーナが自分の女官にポツリともらす。その女官とは、カリーナにセシリアが広めた噂話を持って来た女官である。
すると、今度はグレイスの時と違った噂の広がり方をした。カリーナ付きの女官は「誰にも言わないでね。」というお決まりの文句を付け加えたうえで、仲のいい別の部屋の女官にこの話をした。彼女が話したのはこの女官1人だけなのだが、「誰にも言わないでね。」と言われると誰かに言いたくなるのが女官達の性みたいなもので、この女官は別の女官2人に話を伝えた。そうやってちょっとずつちょっとずつ噂が広がっていったのだ。それもグレイスの時よりもはるかに信憑性のある噂として。
こうして2つの噂が自然と合わさって、1週間も経つと「どうやら薔薇妃は浪費癖がひどく、実家の金を使い込みすぎて実家に縁を切られ、金に困っているらしい。藤妃や百合妃に金を用立ててもらいたいとまで言ったらしい。」という噂が後宮全体に広がっていった。
こうなると、黙っていないのが薔薇妃付き女官達だ。
セシリアやカリーナとジュリアが付き合うようになってからは、すっかり薔薇妃付き女官ハブ状態も治まり、以前のように情報がある程度入ってくるようになったため、当然彼女たちにもその情報は入ってきた。
「薔薇妃様!何故このようなありもしない噂を放っておくのですか!」
とユーリが激怒していた。そもそもジュリアは金になど困っておらず、それどころか後宮入りする前に今までジュリアに送られてきた数多くの貢物を売り払っていたため、ジュリアの資金は潤沢にあった。そのせいで若干金銭感覚がおかしく、自分の目的のためなら相手のいい値を出すくらい気前がいいので、それをそばで見ていた女官達はジュリアが金に困っているなどという根も葉もない噂をそのまま鵜呑みにするわけがないのだ。しかも、同じ称号付きの側室に金をせびるなど、貴族としてあるまじき行為をしているという恥ずかしい噂が出回っているのだから、彼女たちが怒るのももっともだ。
「考えがあってやっていることですもの。許容できないとは思いますが、しばらく黙って見過ごしてはいただけませんか?」
とジュリアが彼女たちを説得し、薔薇妃の間から噂を否定する言葉が出ることはなかった。
「そろそろドレスを新調したり、宝石をたくさん身に着けたりし始めた方がよろしいですわね。それと同時に宝物庫の宝も隠しましょう。」
ある程度噂が確立して、ジュリアの貧乏説が女官や側室達の間で確かなものとして認識し始められていたので、次の段階に移るとする。実際、女官達に流した話だけでは信憑性が低いため、ジュリア自身がアクセサリーを一切身に着けず、いつも同じドレスで、しかもあまり良いドレスとは言えないものを着て女官や他の側室達の前に現れたりして、噂を真実として信じ込ませるように仕立て上げたのだ。
「羽振りを良くするのはいつでもできると思いますが、宝物庫への侵入と宝を隠すのはいつ、だれがするのですか?」
この作戦において、一番難しいところである。誰がその役目を担うのかが大事になってくるのだが。
「わたくしがした方が1番確実なのですが、もし刑が重くなりそうなときはアリバイを作っておいた方がよろしいですものね。・・あまり気は進みませんが、シノブさんにお願いしようかしら。」
「え?俺?」
突然蚊帳の中にインしたシノブは、セシリアとの魔法講義を中断し、ジュリアのそばに寄ってきた。
取り残されたセシリアが少し膨れているように見えるのは気のせいではないだろう。
「わたくしが出来る限り警備の者たちの目を逸らしますので、その間に宝物庫に忍び込み、宝物庫内に誰にも分からぬように宝を隠してほしいですわ。可能ですか?」
子供の宝隠しのように簡単な任務ではないので、それ相応の能力が必要になる。この中でジュリア以外にそれを成すことが出来るとしたら、未知の術を会得しているシノブ以外にいないだろう。ジュダルがいれば、話しは別だが。
「うーん。一応【隠匿】って術があるけど・・。隠したい物にかぶせると、周りと同化して隠された物が見えなくなる特殊な光学迷彩っていう技術で作った布と、“気”を使って、触っても分からない様にする術なんだけどさー。その隠したい宝ってどんくらいの大きさ?」
シノブに言われてカリーナと目を合わせたジュリア。
「そうですわね・・。そう言えば何を盗むのかまでは具体的に決めていませんでしたわ。とりあえず先日お話した、正妃のティアラと神杖と国宝の魔石を数点でよろしいかしら。魔石ならばわたくしの指にはめているこの石と同じくらいの大きさですし、一番大きい神杖でも長さ1.5メートルくらいの物ですわ。」
一応カリーナの同意も得て、隠す物をシノブに伝えた。
「ふむ。そっか。そんくらいなら大丈夫か。よし、俺に任せな!」
どうどうと言い切るシノブに若干不安を覚えるジュリア。
(別に隠すことにおいてはシノブさんに任せても何も問題はないと思いますわ。ですが、ご自身が隠れながら事を成すというのがちょっと・・。)
これはかなりフォローがいるだろうなと、思わずため息がこぼれるジュリア。カリーナとセシリアの2人は何でジュリアがこんなに不安そうなのかは知らない。
「では警備の者たちの目をそらすのはどうなさるんですか?」
ジュリアの様子はさておいて、とりあえず話を進めるカリーナ。気を取り直してジュリアの顔に笑みが戻る。
「藤妃様、2日後には何があるか、お忘れですか?」
「!!」
ジュリアの言葉にカリーナは思わずハッとなった。
「リケーネを後宮に招き入れて、復活させる日、ですね。」
カリーナの揺れ動く瞳を見て、ジュリアはしっかりと頷いた。
「その日、わたくしの知り合いの魔術師が陛下と共に後宮入りします。加えて、藤妃様のご親族が大きな荷を持って、後宮入りするため、多くの女官達が駆り出されますわ。それは即ち、その時が宝物庫へ忍び込む絶好のチャンス、ですわ。」
基本男子禁制の後宮において、後宮の入り口以外の後宮内の警備は女官達が行う。そんな後宮で国王が来るとなれば、第一優先で守るべきは国王となる。そのため、普段は守りが厳しい宝物庫も若干手薄になる。後宮を守るメインの手練れの女官達は国王の護衛に回るため、宝物庫を守るのはいくら忍ぶことが苦手なシノブでも十分に気配を気取られることなく、忍び込めるだろう。更にカリーナの家族も後宮へ入るため、後宮の目はその2点に送られることになる。
「さすがは、薔薇妃様ですね。私の依頼もしっかりご自身の目的のために利用なさるなんて・・。あ、良い意味で、ですよ?素直に尊敬しているんです。」
取り方によっては、悪知恵が働くと聞こえる為、すぐに訂正したカリーナ。
「えぇ、褒め言葉として、受け取っておきますわ。さすがに宝物庫の宝を隠すことまで女官長様に協力を仰ぐわけにはいきませんもの。これが1番良いタイミングだと思いましたの。」
「はいはーい!じゃぁ、僕は何をしていればいいの?」
少し離れた所で手を上げて会話に参加してきたセシリア。
「もちろん、百合妃様にもお願いしたい役目がございます。この後宮の中でシノブさんに気づく方がいらっしゃるとしましたら、それは蘭妃様くらいでしょう。ですので、百合妃様には蘭妃様の目を逸らさせて頂きたいですわ。」
この後宮でジュリアに次いで気配を読み取ることに長けているのはクリスティアナだ。彼女を目を逸らさなければ安心はできないと、念には念を入れるため、セシリアにその役目を頼んだ。
「りょーかい!シノブの助けになるんなら、喜んで手伝うよ!」
最近はシノブへの好意を隠すことが無くなったセシリアが堂々とそう言い放った。
「では決行は2日後。リケーネ様への施しは万が一薔薇妃の間の魔法陣によって藤妃様のご家族様に害を及ぼされないよう、藤妃の間の寝室で行いますわ。シノブさんはわたくしの合図を持って宝物庫への侵入、及び、国宝を隠してくださいまし。百合妃様は早朝訓練を行っている蘭妃様に朝から張り付いて、出来るだけ蘭妃の間のあるスペースから蘭妃様が出ない様になさってください。藤妃様はそのままご家族様とご一緒にリケーネ様の処置が終わるまで隣の部屋でお過ごしくださいまし。」
ジュリアの1人1人への指示を皆が頷いて聞き、その日は解散した。
土日でパソコンが動かなくなってしまい、ストックがあった土曜日は投稿することが出来たのですが、日曜日はストックもなく、投稿できませんでした。すみませんでした。
今日よりパソコンが復活したため、毎日更新頑張ります!
物語も佳境に差し掛かっているので、楽しみにしておいてください!




