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第40話 感動の再会?チェンジでお願いします!



 夜があけて、大巫女がいなくなったことで騒然としているヴァンデンブルグ大聖堂の聖職者たちは、余裕がないのかジュリア達をロクにお見送りもせず、慌ただしく追い出した。

 1日ぶりにカエラ達と顔を合わせたジュリアは何故か少しだけホッとした。

 (いつのまにか、いて当たり前と思っていたのかもしれませんわね。)

 カエラ達を少しずつ信頼し始めていたことに気づいたジュリア。


 セント・モリオール教会へ行くまでの道中、それは平和に過ぎて行った。懸念していた暗殺者が襲ってくるわけでもなく、ジュリアがひそかに楽しみにしていた山賊イベントや、魔物イベントがおきるわけでもなく、ただただ無事にセント・モリオール教会へたどり着いた。夜については行きの時のようにエドワードたちが外出するということはなく、ジュリアと共に過ごした。勿論、その間カエラ達が部屋から下がった隙を見て赤子の世話もしていた。

そして一行は遂にエリザベスとグレンの挙式をするセント・モリオール教会へたどり着き、隣の宿泊施設で一泊する。翌日は挙式のためにいろいろと準備があるため、早起きをする予定なので、ジュリア達もエリザベス達も早々に自室に戻り、早めの休息を取る。とはいってもジュリアは赤子の世話があるためほとんど寝ることは出来なかったが。


 明朝、まだ太陽が昇る前、カエラがジュリアを起こしに来た。

 「薔薇妃様、そろそろお支度をはじめさせて頂きたいのですが。」

 「えぇ、分かっていますわ。今から行きます。・・陛下、それではわたくしはお先に失礼させて頂きますわね。」

 まだベッドでゴロンとしているエドワードに声だけかけてジュリアはカエラと共に部屋を出た。何事も男性より女性の方が身支度に時間が掛かるものなので、一足先に教会へ行き、あてがわれた部屋で着替えだったり化粧だったりをしなければならない。

 

 (結局、噂の暗殺者の方は姿を現しませんでしたわね。)

 準備と言っても、ほとんど女官達にされるがままなので、ボーっとしながら考え事をする。

 帰りの道中や宿泊施設で、赤子に危害が加えられないよう細心の注意を払いながら、暗殺者の出方を窺っていたが、視線は感じるものの、遂に結婚式当日までその行為に及ばなかった。

 (倭の國出身と伺って、少しその術を見てみたかったのですが、今回はご縁がなかったということでしょうか。)

 暗殺者に対してご縁もなにもないと思うのだが。

 (それにしても亜空間は時間の流れが少し異なるようですわね。あの赤子の成長速度は少し異常ですもの。)

 ほんの数日しか経っていないのに、既に1歳くらいの大きさまで成長してしまった赤子の事を思い返す。夜の間は現実空間で育てているためそこまで顕著に表れていないが、それでもこのスピードは尋常ではない。24時間、ずっと亜空間の中にいたらもっと大きくなっていたことだろう。

 (これは早々にエリザベス様達にお預けした方がよろしいようですわね。このままでは亜空間で自我が芽生えて大賢者様からよからぬことを学びかねませんわ。)

 反面教師としてならまだいいが、ジュダルに憧れでもして、ジュダルのように育っていきでもしたらと思うと、ゾッとする。

 そんなことを考えていると、女官達の手によってあっという間にジュリアは女神のように美しく変身していた。

 「ご苦労様、さすがは皆さんですわね。上出来ですわ。」

 「いいえ、薔薇妃様の美しさがあってこそです。私達は薔薇妃様の美しさを際立たせられるよう、努力したまでです。」

 ジュリアの今回のドレスは主役はあくまでエリザベスなので、目立ちすぎないよう薄いブルーグレーの光沢のある綺麗な生地、胸元には控えめに小さいリボンがついている。髪はシニヨンで小さくまとめ、薔薇の生花をあしらっている。元々派手な顔立ちなので、化粧はそれを際立たせられる程度に薄目に。耳にはパールの飾りがゆらゆらと揺れている。胸元にはピジョンブラッドの首飾りが妖しくきらめいている。

 一見して夜会の時のような派手さはないが、気品あふれる知的な女神という形容がふさわしいようになっている。

 自分の仕上がりを鏡で確認して満足していたジュリアだが、部屋の外が騒がしいことに気づいた。

 「外が騒がしいようですわね。何かあったのかしら。」

 「見て参ります。」

 カエラがすかさず返事をして扉を開けようとした、が。

 『お待ちください!そのような勝手をされては困ります!!』

 『ええい、うるさい!!無礼だぞ!私を誰だと思っている!厳罰に処されたくなければそこをどけ!!』

 と扉の外からもめる声が聞こえてきたため、ジュリアはカエラを押しのけて自ら扉を開けた。

 「何事ですか?!このようなところで、はしたないとは思いませんの?!って、お父様?」

 扉の先には、ずんぐりむっくりうすらハゲのガマガエルのようなおっさん、もとい、ハロルド・ローゼン・ブラスター侯爵がいた。

 「おう、ジュリア・・いや、今はもう薔薇妃様か。元気にしているか?」

 「何故このようなところに・・・。貴方達、お騒がせさせたようで申し訳ないわね。父のことはわたくしにまかせて、もう持ち場に戻っていいですわ。ご苦労様です。」

 困惑していた衛兵を下がらせ、父を部屋に招き入れる。ついでに父の後ろでふんぞり返っていた母ミーシャ・ローゼン・ブラスター、長兄アーサー・ローゼン・ブラスター、次兄ザクシス・ローゼン・ブラスター、義妹マリー・ローゼン・ブラスター、義弟マリウス・ローゼン・ブラスターまで、家族勢ぞろいしていたので、全員を部屋へ入れた。

 (我が家族ながら恥というのを知らないのかしら。いくら家族とはいえ、許可なく後宮の側室に会うことは出来ないというのに・・・。)

 衛兵が彼らをジュリアの家族と分かっても部屋に通そうとしなかったのはそれ故である。側室になるというのは王室の一員になるということ。王室の一員に会うにはそれなりに手順を踏んで、各機関から許可をもらわなければならない。それをすっ飛ばして、ただ家族だからという理由でジュリアに無理やり会おうとしたのだから、『自分たちは無知で傲慢なアホ一家です』と公言して回っているようなものだ。

 「で、皆様お揃いで一体何しにいらっしゃったのですか?」

 カエラにとりあえずお茶だけでも出すように申し付け、家族にはソファに腰かけるよう促した。

 「いや、用ってほどのもんではないがな。滅多に会うことが出来なくなった愛娘が後宮から出ていると聞いてな。その美しい顔を見に来たんだよ。」

 下品な笑いを浮かべる父は娘から見ても非常に見苦しい程不細工だ。

 

 ブラスター家は代々家系的にあまり美しいとは言えない容姿をしている。だがそれでは政略結婚をするにも容姿の良さはかなりのポイントになってくるため、嫁の基準に美しさも入れており、歴代の侯爵夫人は結構美人が多い。それでも何故か生まれてくる子供はことごとくお世辞にも綺麗とは言い難い不細工ばかり。もはや呪いとしか言いようがない。ところが、たまに、本当にごくわずかの確率でジュリアのような絶世の美貌の持ち主が生まれる。そしてその代の子供たちは皆一様に美人ばかりとなる。因みに父であるハロルドは妻を迎える際、条件を財産と権力に重きを置いたため、ミーシャはそこまで美しくない。よくて人並みだ。髪も赤毛だし、そばかすだってある。スタイルも大してよくないし、貴族というよりは食堂のおばちゃんという方がピッタリな見た目だ。もっとも、自分では自分をきれいだと思っているらしく、必要以上に飾り付け、濃すぎる化粧をしているため、人並みから化け物に格上げになっている。アーサー、ザクシス、マリー、マリウスはジュリア程とはいかないが、それでも周りにいる貴族たちよりは断然彼らの方が美しく、そして4人とも皆よく似た顔立ちだ。言い忘れていたが、マリーとマリウスの母、ハロルドの妾は結構美人だ。その母譲りの綺麗な瑠璃色の髪の毛以外はマリーもマリウスも母に似ているところはないが。これもブラスター家独特の特徴で、不細工な血は親子の間でまるで双子のようにそっくりに現れるのに、美形の世代だと、その子たちは両親のどちら共に似ていない。それ故本当に血がつながっているのかと疑われがちだが、正真正銘彼らはブラスターの血が通っている。一応顔立ち以外の所、髪の色や瞳の色は両親と同じ色が現れるのようになっている。だが、唯一ジュリアだけはその髪色も、瞳の色も、顔立ちも、両親・兄弟どころか歴代のブラスター家を遡っても誰にも似ているところがない。


 「で、陛下はどちらにいらっしゃるんだ?」

 父の言葉を聞き、それが目的かと理解したジュリア。

 「陛下はこちらにはいらっしゃいませんわ。式場でお会いする予定ですので。」

 「な、なんだと?!それではせっかく陛下にお目通りねがえると思っていたのに、出来ないではないか!!」

 ダンっと机を叩き立ち上がるハロルド。

 (・・さては、お父様・・。)

 すっとジュリアのハロルドを見る目が冷ややかになる。

 「もしやお父様、招待状もないのにここまで来られたのですか?」

 ジュリアの言葉にギクッとハロルドの身体が撥ねる。他の家族は事情を知らなかったようで、一様にハロルドの反応に驚いている。

 「そうですわね、エリザベス様がわざわざそのような面倒臭いことをなさるわけがございませんでしたわね。」

 ハンッと鼻で笑う。

 「なんだと?!ジュリア!!父上に向かってなんだ、その口のきき方は?!」

 今度はハロルドの隣にいた長兄、アーサーが怒って立ち上がった。が、ジュリアの人を視線だけで殺せるのではないかというような恐ろしい目つきにすぐにびびってすとんと座る。

 「アーサー兄様こそ、一体誰に向かってそのような口を聞いていらっしゃるのですか?」

 「誰って・・・妹のジュリアだろう?」

 虚勢を張っているが、ジュリアにびびりまくって足ががくがく震えているのが分かる。

 (父が父なら、兄も兄ですわね。)

 思わずため息がこぼれる。

 「そうですわね。確かに血のつながり的には私のアーサー兄様は兄妹という間柄です。しかし、今のわたくしは国王陛下の側室、それも『薔薇妃』の称号を与えられた次期正妃とも言われる尊い存在なのですよ?既にその身分は次期侯爵家当主の貴方様よりもはるかに上なのです。口を慎むのはそちらではありませんか?それにわたくしに謁見するのは例え血のつながった家族と言えど許可なしに出来るものではありませんわ。それをあのような恥ずかしい振る舞いを為さって・・・。権力にしがみつくのは結構ですが、わたくしと関係のないところでやって下さいまし。いい迷惑ですわ。」

 今迄、彼らに対してジュリアがこんなに強気に出ることはなかった。だから彼らは皆怒るより前に目を丸くして驚いている。

 (今までは一応この家族の庇護下にありましたから大人しくしていましたが、その必要もありませんし。いくらわたくしがお父様を罵ろうと、わたくしをどうこうする権利は既にお父様たちにはありませんもの。それが出来るのは政府か国王だけですわ。)

 後宮という籠は、ジュリアをブラスター家という檻から抜け出させることが出来た。一応まだブラスター侯爵令嬢を名乗ってはいるが、ジュリアは王家に嫁いだ身なので、侯爵家の名前はただの飾り程にしか効果をもっていない。

 (どうせだから今の内に思う存分罵ろうかしら。後宮を追い出されて身分がはく奪され、冒険者ともなれば、もう関わり合いになる事もなくなる事でしょうし。)

 という考えは、あくまでジュリアのもくろみ通りに上手くいけばという話だが、見たくもない家族の顔を見る羽目になったジュリアはそこまで深く考えてはおらず、ただ鬱憤を晴らしたいという思いだけで口を開き、ブラスター家の無知さから始まり、兄2人の女に対しての節操のなさや、いくら見目は良くても頭の出来がかなり他の貴族たちとは違って悪い義妹と義弟への説教と、彼ら全員の散財癖、悪知恵だけは働くが肝心なところでやっぱり馬鹿が出るから出世できないなどとボロクソに罵った。勿論、ある程度オブラートに包んでいったつもりだが、効果は抜群だったようで、最初にジュリアの方が身分は上と分からせた上で罵ったので、反論することも出来ず、彼らは皆来た時とは別人のように小さくなり早くこの場から逃れたい気持ちで一杯になったのだった。




ちょっと気分転換にブラスター家出してみました。

でも長男と父以外のセリフをカットしてます(笑)


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