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第39話 凄腕の暗殺者?いいえ、うっかり八兵衛です。



 突然現れたジュダルはちょうど効力が切れてポンと音を立てて消えた偽薔薇妃を見たあと、嬉しそうにジュリアを見た。

 「何、お前、人体錬成なんかしたの?すげえな、あのレベルまで錬成するなんて。」

 偽薔薇妃を一目見て、人体錬成を気づいたジュダルはさすがは大賢者。まぁ、それもそうだ。何故なら人体錬成の殆どの知識をジュリアはジュダルの魔導書(グリモワール)から得ていたのだから。

 「えぇ、ジュダル様のおかげでかなり完成に近いところまでできましたわ。」

 「お前、マジやばいな。俺だって諦めたくらいなのに。で、どうやったんだ?」

 わくわくと目を輝かせている。

 「ジュダル様には無理だと思いますわ。そもそも素質がございませんもの。」

 「なんだと?!」

 ついけんか腰になってしまったジュリアだが、嘘は言っていない。

 「怒らないでくださいまし。ジュダル様の研究で足らなかったものがあるのです。それは、『光の魔力』ですわ。『闇の魔力』と『光の魔力』を上手く融合させませんと、人体錬成を行うことなどできないのです。ジュダル様は『光の魔力』はお持ちではございませんでしょう?ですから素質がないと申したのですわ。」

 まぁ、それを言ってしまうと、『闇の魔力』も『光の魔力』も持っていない錬成術師たちの努力は全て無駄だったということになるのだが。

 「なんだー、そっかー。そうだったとは。くそっ!!余計な時間を使っちまったようだな。」

 心底悔しそうにするジュダル。

 「そうでもありませんわ。少なくともジュダル様のその時間のおかげでわたくしは大いに助かりましたもの。お礼申し上げますわ。」

 「そういえば、お前が俺に集めさせてたものもよく考えれば人体錬成の材料かー。いや、考えもしなかったな。」

 ぽりぽりと頭を掻いて、ふとエリザベスを見たジュダル。否、正しくはエリザベスが抱いている赤子を見た。

 「それ、もしかして大巫女の魂が入っている人体錬成で創った子供か?」

 「「「!!」」」

 ジュリア、エリザベス、グレンが驚いた。

 「ほほーう。そういう芸当も出来るのか。やっぱ出来るようになりてぇなー。人体錬成。すげぇ便利じゃん。」

 皆の反応などお構いなしに赤子をいろんな角度から観察している。

 「何故、お分かりになったです?ジュダル様。」

 まるで見ていたかのように赤子の存在を的確に答えたジュダルにジュリアが尋ねた。

 「んなもん、コイツの左目みたらわかっちまったよ。魂やら精神やら俺の得意分野だしな。お前たちがもし、別の入れ物に入ったとしても、俺になら分かるぜ?」

 (なぜでしょうか。嫌な気持ちにしかならないのは。)

 魂レベルで自分たちを判断していると言われて、背筋が寒くなるジュリア。

 「ところで、ジュダル様。お頼みしていました案件はどうなりましたか?」

 とりあえず、ジュダルからの報告を聞くことにしたジュリアはエリザベス達に椅子に腰かけるように良い、ジュダルが出て来たことで何故か拗ねだしたエドワードも含め、5人で円を囲むように座った。

 「それで、薔薇妃が危険な目に遭っていたにも関わらず、暗殺者のところなんかに行っていたお前は、何かとてつもなく有用な情報をもちろん、掴んできたんだろうな?」

 「お兄様、違います。ジュリア様は危険な目に遭ったのではなく、危険な目に()()()()()()のですよ。」

 エリザベスの厳しい訂正に小さくなるジュリア。

 「おいおい、随分言われるようになったな、ジュリア。まぁ、俺様を厄介払いなんてするからそう言うことになるんだよ。」

 「それは正解だ。お前なんて近くにいない方がいいだろう?」

 「お兄様、それでは先ほど暗殺者の所にいた大賢者様を非難したことと矛盾しています。」

 「そうだぞ!お前は何がいいてぇんだよ?!お前こそコイツに出し抜かれて大事な時にそばにいなかったくせに。まぁ、そばにいたとしてもお前じゃ役にたたねぇか。」

 「お前よりはましだ。お前は役に立つどころか、厄介ごとしか生まないくせに。」

 一向に話が進まない。若干置いてきぼりになったジュリアとグレンの視線が合い、何故かお互いペコリと頭を下げてしまった。

 「・・ジュリア様、グレン様、勝手にフェードアウトしないでください。」

 すかさずエリザベスの注意が入り、背筋を伸ばす2人。

 「お兄様も大賢者様も、脱線しないでください。さぁ、大賢者様、肝心の暗殺者の話をどうぞ。」

 どうやらこの話の進行役はエリザベスがするようだ。

 「へいへいっと。お前たちに張り付いていた暗殺者だがな、ちぃーっと珍しい国の出だったぜ?どこだと思う?」

 「もったいぶらずに早く話せ。」

 「ったく、いちいちつまんねー野郎だな。エドもどき。」

 いつの間にかエドワードの相性が『エドモンドもどき』から『エドもどき』に変わっている。

 (あれでは『エド』の部分が『エドワード』様なのか『エドモンド』様なのか分かりませんわね。)

 どうでもいいことを考えてしまうジュリア。もちろん、エリザベスが直後に睨んできたのだから慌てて話に集中する。

 「知らん奴もいるかもしれんが、アイツは『倭の國(ヤマトノクニ)』出身だ。」

 「何っ?!あの謎の島国のことか?」

 「東の方にあるというあの国ですか?」

 「魔法以外に『カガク』という謎の技が発達していると言われている国のことですね。」

 「そして、誰もあの国から無事に出てこれた者はいないという、伝説レベルの国ですわね。」

 「お!さすがにお前たちレベルだとある程度知っているか。」

 因みに、上からエドワード、グレン、エリザベス、ジュリアの順で返している。

 「まぁ、誰も無事に出てこれていないのならそんな話すら出回ってこないと思うが、それで何故お前はその暗殺者が倭の國出身だと分かったんだ?その暗殺者が馬鹿丁寧に『自分は倭の國出身です』とでも言ったのか?」

 「そんなはずはないでしょう、エドワード様。そんな間抜けな暗殺者などいるはずがありませんわ。」

 くすくすと笑うジュリア。

 「いや、そのまさかだが。」

 「は?」

 笑うのをやめ、ポカンと口を開けるジュリア。エリザベスもグレンも同様驚いて口を開けている。

 「いやー、まぁ大体使っている技とか道具とか見ればうっすらあの国かも?と思ったんだが、ちょっとカマかけて、『お前、もしやあの国出身か?』って聞いたら、『何で倭の國の者だと分かった?!』って簡単にばらしちまったんだよな。アイツあれで大丈夫かね。」

 なんとも間抜けな暗殺者である。

 「まー、そもそも俺、あの国行ったことあるし。ってか、この国にあるあの国に関する文献って俺が残したもんだし。大体聞かんでもわかったがな。」

 「そ、そうなのですか?やはりすごいですね、大賢者様は。」

 単純に感動するグレンだが、ジュリアとエリザベスの反応は違う。

 「それだけの力を持ちながら、やることがセクハラ行為・・・。」

 「どれだけすばらしくても、人格がアレな方はちょっと・・・。」

 ボソッと悪口を言うエリザベスとジュリアだが、それを聞き逃すジュダルではない。

 「「きゃっ」」

 突然2人の肩に何か乗っかったようにずしりと重みを感じ、沈み込んでしまうジュリアとエリザベス。

 ジュリアが自分の肩に目をやると、『コォォォォッ』と謎の音を立てている悪霊のようなものが肩に乗っかっていた。エリザベスも同様だ。すぐさま浄化魔法で自分と、エリザベスの肩に乗っかっているモノを祓う。

 「ジュダル様!なんてことをするのです!!アレをそのまま放置したら呪い殺されてしまうではないですか!御戯れもほどほどになさってくださいまし!」

 ジュリアだからこそ簡単に祓えたが、『光の魔力』を持たないエリザベスだけではどうすることも出来ないような存在を乗せるなんて、普通の神経を持ち合わせた人間のすることではない。まぁ、ジュダルは普通の神経など持ち合わせてはいないが。

 「はっ。すごい俺様を敬わないお前らが悪い。」

 「貴様、よくも私の薔薇妃にそのようなことを!!」

 「そうです!エリザベス様はか弱い御方なんですよ?呪い等受けたらすぐに弱ってしまいます!!なんてことをするんですか!」

 エドワードとグレンからも非難を浴び、うるさそうに耳を塞ぐジュダル。

 「ったく、ぎゃーぎゃー喚くな!エドもどき、ジュリアはお前のもんじゃなく、俺のもんだ!それに、グレンも、エリザベスはそんなにか弱くない。むしろ、悪霊をタコ殴りにするレベルに凶悪だ。お前、騙されてるぞ?」

 「わたくしはジュダル様のものでもエドワード様のものでもございませんわ!」

 「いくら私でも悪霊は殴れません!」

 今度は女性陣2人からの反撃だ。

 何故だか一向に話が進まず、脱線ばかりするので、エリザベスが、とりあえずジュダルの話を皆最後まで黙って聞くことと、ジュダルには余計なことは言わず、ちゃんと話を進めるようくぎを刺した。

 「じゃ、話を続けるけど、あの国はな、あそこにたどり着いた余所者があの国から出ようとすると、忘却の魔法のような術を使って、余所者の記憶を消すんだ。だから誰もあの国の事を覚えていない。んで、俺もあの国に行ってその術を掛けられそうになったけど、そこは俺様だし。上手く術にかかったふりをして、記憶は消されないまま出て来たわけだ。だけどあまり正確な情報を広めると、俺様の身も危うくなるから、おとぎ話程度に、そしてその著者が誰か分からない様に文献を残したんだよ。だからあの国の事はよく知っているし、そしてアイツは俺の記憶の中にあるあの国のものと同じ武器を持っていたからあの国出身だって気づいたんだよ。で、次にアイツの目的だけど、やっぱりジュリア、お前みたいだぞ。」

 「わたくしですか?」

 つい自分の名前が出て口を開いてしまった。

 「そうだ。依頼主はえーっと、・・・やべ、名前忘れた。どっかの子爵だか男爵だか、とにかく何かの大臣だったと思うけど、そいつが何か依頼したらしい。あ、これはさすがにそいつの口から聞いたんでなくて、心の中を覗いたんだよ。お偉いさんに依頼されてお前を殺そうとしていることをな。」

 結局その暗殺者がアホだろうが間抜けだろうが、自分から話さなくてもジュダルには全て筒抜けなのだから、これほど理不尽なことはないだろう。

 「もちろん、そんな暗殺者は排除してきたんだろうな?」

 とりあえずジュダルの話が一旦終わりそうだったので、エドワードが聞いた。

 「いんや?面白そうだから、放置だ。あと残り少ない日程でアイツがいつ手ぇ出してくるか楽しみじゃねぇか。」

 (その標的のわたくしにとっては楽しみな訳がございませんけど。)

 恨み言を言いたくなるが、あくまでジュリアがジュダルに依頼したのは情報を集めることであって、排除することを求めたわけではないため、グッと我慢する。ついでに怒り出したエドワードも宥めてあげた。

 


 暗殺者についての話も終わり、赤子の事についても一通りジュダルに説明をし、一旦はこの結婚式の行幸が終わるまで周りに説明が出来ないため、亜空間の中でジュダルが一時的に面倒を見ることになり、エリザベスとグレンはしぶしぶジュダルに赤子を渡した。

 「くれぐれも、丁寧に扱ってくださいね。」

 「悪いことはこの子の目に触れないようにしてください。」

 エリザベスとグレンそれぞれからのお願いを「はいはい」と聞き流してそそくさと赤子と共に亜空間へ籠っていったジュダル。

 名残惜しそうにしていたエリザベス達だが、もう陽が落ちて大分経ち、そろそろ夜が明けてきそうな時間になりそうだったので、自分たちの部屋に戻るとジュリアに告げ扉を開けた。

 「あ。ちょっとお待ちくださいまし。これをお忘れですわ。」

 そう言ってジュリアは先ほど2人のために創った指輪を渡した。

 「いつ渡せるか分かりませんので、もう今の内から受け取って下さいまし。くれぐれもこれを外さないように、心がけてくださいね。」

 ニッコリと笑い、エリザベスとグレンも今度はそれを素直に受け取り、礼を述べて部屋を出て行った。

 

 ジュダルもエリザベスも、グレンもいなくなった部屋で、エドワードと2人きり。

 「やっと2人きりになれたね、薔薇妃。」

 ゾクッと一気に寒気がするジュリア。

 「そ、そうですわね。エドワード様、お疲れでしょうから、少しでもお休みになられた方がよろしいのではないですか?」

 「そうだね、一緒に休もうか、薔薇妃。」

 ジュリアの腕をグイッと引っ張り、ベッドに倒れ込む。

 「わ、わたくしは平気ですわ。陛下だけでお休みくださいまし。」

 なんとかエドワードの腕から逃れようとするがやはりびくともしない。

 「せっかくの2人きりの時間だ。そのような気遣いは不要だよ。」

 耳元でささやかれて吐き気をもよおす。

 「ちょーっと待った!そうはいかねぇぜ?」

 ひょこっと現れたのはたった今姿を消したばかりのジュダルと赤子。

 「なんだ、お前。赤子の世話で忙しいんだろ?早く亜空間に戻れよ。」

 せっかくのジュリアとの2人きりの時間を邪魔されて不機嫌MAXのエドワード。

 「よぉーく考えたら、別に他のヤツラの目がねぇんなら夜はお前らの子供の面倒見てもいいんじゃねぇかって、思って再登場したまでよ。案の定、俺がいない隙にエドもどきがジュリアに手ぇ出そうとしてたしな。油断ならねぇぜ、まったく。」

 すたすたとジュリア達の元へ歩き、ジュリアの腕に赤子を置いた。

 「てことで、夜の間はお前が面倒見ろよな。昼は俺が亜空間でみててやるから。」

 エドワードと2人きりで過ごさなくてよくなる、願ってもない提案に、ジュリアは満面の笑みで「喜んでお引き受けしますわ。」と答えた。

 

 

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