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第38話 王妹のことを好きですか?生まれ変わっても大好きです‼



 「・・・どういう状況ですか、それは。」

 突然目の前の空間が裂けて、赤子を抱えたジュリアとエドワードが出て来たのを見て、一瞬思考が停止しかけたエリザベスが何とか我に返って尋ねた。

 「えぇ・・と、話せば長くなってしまうのですけれど・・。」

 もじもじしながらチラチラとエリザベスを見るジュリア。

 「そうゆうのは結構ですから、早く説明してください。」

 心なしか、どこか冷たい感じがするエリザベス。

 「は、はい。すみません。」

 何故か叱られている気分になり、しゅーんとなりながら、事と次第を説明した。

 


 「で、結局そんな危険を冒してまで得られた情報が、その謎の少年だけで、後は面倒事を呼びそうなその赤子っていう訳ですか。」

 (エリザベス様、随分辛辣ですわね。怖いです。)

 冷や汗がタラタラと流れてくる。それほどエリザベスが怖い。

 「で、でも、この元大巫女様が育てば、記憶を取り戻して、敵の情報を探ることも出来るかもしれませんわ。」

 「何年単位での話をされているのですか?」

 なんとか弁明をしようとしたが、もっともな反論をされてすぐに押し黙ってしまう。

 「ごめんなさい。」

 もう、それしか口から発することが出来なかった。そんなジュリアを見た後、エリザベスはグレンと視線を合わせ、はぁーっと息を吐いた。

 「・・ジュリア様、その赤子を抱かせて頂いても、よろしいでしょうか?」

 「へ?え、えぇ。もちろんですわ。」

 突然のエリザベスの申し出を断るわけもなくそっと赤子をエリザベスに渡した。

 「フフっ。とてもかわいらしいですね。どうでしょう、グレン様。この子を私達が養子として貰い受けるというのは。」

 「え?!」

 驚いているのはグレンではなくジュリアだ。

 「あぁ、それは良い考えだと思います。薔薇妃様、どうかこの子供を私どもの手で育てさせて頂いてはもらえませんでしょうか。」

 優しい微笑みのグレンからは、それを本気で言っていることが伝わってくる。

 「な、何故ですか?子供を育てるのにはそれ相応の責任が伴いますのよ?エリザベス様とグレン様はこれから夫婦となり、ご自身たちの子供も生まれることだって、十分ありますでしょう?それにエリザベス様だって、先ほど仰ったではありませんか。『面倒事を呼びそうなその赤子』だと。その見解についてはわたくしも間違いではないと思っていますわ。『闇の魔力』は制御ができない幼少の頃は周りの家族にその牙をむけることだってございますのよ?エリザベス様にそのような危険な目には遭ってほしくないのです。」 

 何とかエリザベス達を説得しようとするジュリアだが、エリザベスの瞳をみて、決意の強さを思い知る。

 「ジュリア様。子供が幸せに育つには何が必要だと思いますか?」

 優しく、芯のしっかりした声でエリザベスが問う。

 「それは・・・育てるに十分な環境と、教育ですか?」

 ジュリアの答えを聞き、エリザベスが悲しそうな顔をした。

 「確かに、それも必要になる事もあるでしょうが、一番は“愛情”だと思います。“愛”のない環境がいかに寂しいものか、ジュリア様が1番ご存じなのではありませんか?」

 ジュリアの育った環境は、裕福な家で、十分な教師も手配され、学べる環境もたくさんあった。

 (そうですわね。わたくしの成長に足らなかったものは、“愛”かもしれませんわね。あれだけ陛下に“愛”を囁かれてもなんとも思わないのは私の育った環境に問題が・・・・いいえ、それは違いますわ。どのような環境で育ったのであれ、アレは受け入れられませんもの。わたくしなぞよりあの御2人の方がよっぽど欠陥人間ですわ。どのように育てられたらあのような考えを持つようになるのかしら。まったくもって理解に苦しみますわ。)

 「ジュリア様。また違うことを考えていらっしゃいますね。」

 どんどん形相が変わっていくジュリアを見て、するどくツッコむエリザベス。

 「いいえっ?そんなことはありませんわ。」

 ぷるぷると首を振るジュリア。

 (これ以上エリザベス様の機嫌を損ねでもしたら、どのような目に遭わされるか・・・。)

 「それならいいのですが。話を戻しますが、私とグレン様であればこの子に十分な愛を注ぐとお約束します。といいますか、失礼ですけれど、大賢者様に子育ては無理があるのではありませんか?確かに魔法を学ぶ環境としては最高と思いますが、まずは、この子に人としてまっとうな環境を与えるべきではありませんか?それを何です、亜空間で育てるですって?何故そのような突拍子もない考えに至るのですか。」

 「うっ・・。」

 自分が名案と思っていたジュダルの子育て大作戦をバッサリと否定されてしまった。

 「そのような考えに至る前に、どうして私たちを頼って下さらないのですか。」

 (あ、陛下と同じような事を仰いましたわね。さすがは兄弟―――)

 「ジュリア様、何か失礼なことを考えていらっしゃいませんか?」

 「ひっ・・そ、そんなことありませんわ!気のせいです!」

 じろりとエリザベスに睨まれて、心臓が縮こまる。

 (何故、こうもわたくしの考えが伝わってしまうのかしら・・。さてはエリザベス様、ジュダル様のように人の心が読めるのでは・・・。)

 「読めませんよ、人の心なんて。」

 「きゃっ!!?どうして?」

 思わず飛び跳ねてしまった。

 「ジュリア様が分かりやすすぎるんです。これでも私、ジュリア様とは結構深い付き合いをしてきたと思っていますもの。ある程度ジュリア様が何を考えていらっしゃるかはわかります。」

 (わたくしはエリザベス様のお考えが分からないことの方が多いのですが。)

 「それはやはり人柄ではないでしょうか。ジュリア様は心を許されていらっしゃる方に対して、少し抜けてしまわれますもの。心の声、だだ漏れです。」

 もはや名人芸ぶりにジュリアの心の声と会話するエリザベス。

 「ま、参りましたわ。お願いですからもうわたくしのこころを読もうとはなさらないでくださいまし。わたくしこれでも人を惑わす魔性の女と言われていたのですから。この状況は恥ずかしすぎますわ。」

 表情1つで相手の自分に対する印象をコントロールしてきたジュリアが、ここまで振り回されるのはエリザベスだけだろう。必要以上に疲れてしまった。

 「そもそも、ジュリア様がお兄様と私が似ているなどと思わなければよかったことです。」

 (や、やっぱりバレてましたのね。)

 これではもうエリザベスの前で何も考え事が出来なくなってしまう。

 「申し訳ございません、もう余計なことは考えませんわ。」

 「何故私と似ていることを思ったことに謝る必要があるんだい?」

 突然口を挟んできたエドワードに、すっかりその時までエドワードの存在を忘れきっていたジュリアとエリザベスはドキッとした。

 「いいえ、別に、大した意味はございませんわ。」

 「そうです、お兄様は一旦黙っててください。」

 なんだか変な顔をしているが、とりあえずエリザベスの言うことを聞くことにしたエドワードは再び静かになる。

 「コホン。・・気を取り直しまして、ジュリア様、魔力のコントロールや、魔法についての教育に関しては、大賢者様を頼る、という考えで私も問題ないと思っています。その時は改めて、私どもの方から大賢者様にお頼みします。ですが、それまで、この子の自我が芽生えるまで、私達だけでこの子を育てさせて頂けませんか?私たちはそれなりに魔法に対して耐性がありますし、咄嗟の判断とかも出来るほうだと自負しております。もし私達に子供が生まれれば、等しくこの子も愛すると誓います。いいえ、既にもう私たちはこの子に愛情を覚えています。だって、こんなにもかわいらしいんですもの。」

 赤子を囲むエリザベスとグレンの空気は、幸せな家庭そのものであった。

 「どうか、面倒事を押し付けるなどと思わないで、私たちは望んでこの子の親になりたいのです。お願い、聞き入れて頂けませんか?」

 「私からも、お願いします、薔薇妃様。」

 夫婦揃って頭を下げる真摯な姿勢に、ついにジュリアは観念した。

 「分かりましたわ。そうですね、この子の今後を思ったら考えるまでもありませんわ。わたくしのほうこそ、どうかその子をよろしくお願いいたします。」

 ジュリアも深々と頭を下げて、最大限の礼をはらった。

 「あ、でもこれは受け取って下さいまし。」

 顔を上げたジュリアは『移動する空間(ストリーム・ポーチ)』から2つのダイヤモンドと金属を取り出した。

 「それは?」

 グレンが物珍しげに見ている。

 「少しお待ちくださいませ。」

 そう言ってジュリアが取り出したものに魔力を込めると、ジュリアの手から放たれた光り輝く魔力がダイヤモンドの中に吸い込まれていき、ダイヤモンドの中で弾けながら、ずっと光り続けている。再びジュリアが魔力を込めると、今度はそのダイヤモンドと金属が交わり、2つの指輪が出来上がった。

 「これを御2方とも肌身離さずつけてくださいまし。『光の魔力』を込めましたので、もしこの子の魔力が暴走しても『闇の魔力』に反する『光の魔力』がお2人を守りますわ。傷1つつけさせないとお約束いたします。万が一にも、けがをしたり、またご病気になられた際も、これがあればたちまち癒えることでしょう。さぁ、どうぞ。」

 そっと2人に差し出したが、同じように困った顔をする2人。

 「あのー、薔薇妃様?」

 「はい?」

 グレンが申し訳なさそうにジュリアに尋ねる。

 「薔薇妃様はこれがどのような物か自覚なさっていらっしゃいますか?」

 「は?・・えぇ。先ほど説明したと思いますが。」

 グレンの質問の意図が分からず、首を傾げる。

 「そういうことではありません。貴女様はこれが()()()()()価値があるものか、ご自覚なさっていらっしゃるのかという質問です。」

 「・・・はい?」

 ジュリアの反応に更に困った顔をするエリザベスとグレン。どうしたらいいか分からなくなったグレンに代わり、今度はエリザベスが口を開いた。

 「ジュリア様。もしかして、そちらの指にはめていらっしゃる魔石はご自身で作られたのですか?」

 「え?あぁ、これですか。はい、そうですわ。よく分かりましたわね。ちょっとボロを出しそうになったので、咄嗟にごまかすためにこの風の魔石を作ってしまったのですが。それが何か?」

 後宮に入って間もなく作ってしまった不可抗力のようなこの魔石の事を何故今、この場で問われるのかジュリアには分からない。ましてや何故これがそんなに頭を抱えるほどにエリザベスとグレンを悩ませているかなど、分かるはずもない。

 「ジュリア様、仮にも由緒正しい侯爵令嬢様でいらっしゃり、且つ、後宮の薔薇妃様ともあろう方がこの魔石の正当な価値をご存じでないのはいかがなものかと思いますよ?」

 「価値、ですか?まぁ、それなりに大きい宝石ですものね。結構な値段はしたと思いますが。」

 「そうではありません!」

 強く怒鳴られビクッとなってしまうジュリア。

 「ジュリア様の手にはめていらっしゃるソレ、国宝級のシロモノで、本来であれば王宮に納めてあるようなレベルの魔石なのですよ?」

 「へ?え?だって、これわたくしが作ったただの魔石ですわよ?わたくしとしては宝石としてのコストしかかかっていませんわ。」

 「ですから、宝石の価値ではなく、『魔石』としての価値が国宝級なんです。そのように大きな魔力が込められた魔石は滅多にありませんよ?そしてジュリア様が今作られた2つの指輪もそうです。」

 エリザベスがジュリアの手にある指輪を指した。

 「え?ですがこれはそんなに大きな宝石ではありませんけれど。」

 確かに、ジュリアのエメラルドと比べると小ぶりサイズだ。

 「サイズの問題ではありません。込められた魔力の大きさの問題です。しかも『光の魔力』なんて、つけているだけ教会に目をつけられてしまいかねません。王宮に献上せよと大臣たちが言ってくることもあるでしょうし。」

 「そんなことは・・・・あるのでしょうね。」

 否定しようとしたが、エリザベスの顔を見て、やめた。

 「ジュリア様のお気持ちはありがたいのですが、これを受け取れば無駄な争いが起きかねません。申し訳ないのですが、遠慮させて頂きます。」

 それはそうだ。自分たちの身を守るために、それを巡って争いがおきかねないものを受け取るわけにはいかないのだ。

 エリザベスに拒否され、しばらく落ち込んでいたジュリアだが、パッと何かをひらめき、ニコッと笑った。

 「それではこれが違う只の宝石に見えればよろしいんですよね。」

 そういうと、右手に乗せた指輪の上を左手で覆った。10秒ほどして左手を離すと、そこにあったのは、只のダイヤモンドの指輪が2つ。

 「これ・・は、ただの宝石に戻したのですか?」

 まじまじと指輪を見つめてグレンが尋ねた。

 「いいえ、これは紛れもなく、先ほどと全く同じ『光の魔力』を込めた魔石ですわ。ちょこっと細工をして只の宝石に見えるようにいたしましたが。」

 「ほほー、器用なことをするんだな。さすが俺の嫁。器用ついでに俺の子供も作らないか?」

 「子供なんて作りませんし、貴方様の嫁になった覚えもございませんし、何より勝手に会話に入ってこないでくださいまし!!大賢者様!」

 自然に現れ会話に参加してきたジュダルを皆が一斉に見た。

 「よ!お疲れさん。ちょっといない間になんかいろいろ起きたみてぇだな。」

 


 

大賢者、それはいつも突然に現れるものです!(笑)

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