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第25話 念願の外出?一生戻りたくありません。



 時が過ぎるのはあっという間で、遂にエリザベスの挙式のための行幸の出発の日が訪れた。

 ジュリアに随行する女官は、カエラ、ユーリ、ルカの3人。パメラとミランダは後宮に残り、主人がいなくなる間の薔薇妃の間を管理することとなる。

 (後宮(ここ)を離れている間、わたくしはミランダからも、ウインドたちからも後宮の様子を知らされることが出来ない。)

 ウインド達妖精にはジュリアのいない間不測の事態が起きないよう、徹底した見張りと、万が一の際には自己判断で動くことを指示してある。本当はジュダルに連絡係を頼みたかったが、何故かここ最近姿を見せず、遂に頼むことが出来なかった。

 (全く、必要のないときには無駄に姿を現していましたのに、必要な時は出てこないなんて、穀潰しの塊のような方ですわね。まぁ、いいですわ。借りなんて作りますと、後で面倒なことになりかねませんし。)

 結局エドワードもジュリアに会いに来ることはなく、ジュリアはこの日までの1週間、1人の時間を堪能していた。カリーナの脅しのおかげかは知らないが、シャーロットへの暗殺行為などもなくなり、ジュリアが嫌がらせのふりをしてそれを排除する必要もなくなり、この1週間は本当に平和だったと言える。

 もちろん、ジュリア自身も、カリーナの事があるため、しばらくは様子見ということでシャーロットへの干渉を一切していない。エドワードの名前を語った贈り物についても、エリザベスの挙式の準備が忙しいという尤もらしい理由を与えれば誰も不思議に思うことはない。

 出発の日の前日、ジュリアは妖精たちに称号付き側室達の現在の様子を確認した。彼らの話によると、藤妃はたまに百合妃の元を訪れて他愛のない話をするくらいで特に表立った動きはなく、百合妃についてもいつものように発明と称してはいろんな実験に勤しみ、女官達を困らせている。蘭妃は朝はジュリアと共に稽古を、それ以降は自室で筋トレをするなど、完全に脳筋の過ごし方だそうだ。ただ1点、気になるとすれば、牡丹妃だ。

 『普段は取り巻きの側室達と無駄話ばっかりしているけど、たまに僕らでも30分くらい姿を見つけられない時があるんだよ。そんなはずはないのにね。どうしてかな。まぁ、そんなに長い時間じゃないからあんまり気にしなくてもいいのかな。』

 とアクアから聞いており、ジュリアは少し警戒していた。

 (アクア達に探せないということは妖精たちの範疇外、別空間にいっている可能性がありますわね。でも空間を作り出す魔法は基本闇属性。あの方はたしか風属性と土属性。それはわたくしの目の力を使って確認したから確かな情報のはずですわよね。となると考えられますのは、闇属性をもつ者が彼女に加担しているという可能性。この場合1番怪しいのはここ最近姿を見せず、けれども自由に後宮に出入りしている大賢者様・・・。いいえ、そんなはずありませんわね。ジュダル様の牡丹妃様への感情って関わりたくない程の嫌悪という印象でしたから、手を貸すことなどしませんでしょう。・・・では一体誰が?そもそもわたくしとジュダル様以外で『闇の魔力』をもつ者がこの国にいるのかしら。)

 考えても考えても答えにたどり着かない・・。1週間後宮を開けるタイミングで、こんなことになるなんてと、不安を覚える。本当にこのままこの後宮を空けてよいのかと。今までは後宮に出たくて仕方がなかったが、ジュリアは何よりも後手に回ることが大嫌いで、常に主導権を握っていたいと思っている。だから自分の知らないところで後宮入りが決まったことも、シャーロットの妊娠を知らなかったことも誰よりそんなに平和ボケしていた自分が許せなかった。そして今回はそれ以上に何か、嫌な予感がしている。後宮の事にしても、エドワードにしても。言い知れない不安と、不快感を感じながら、それでも今更この行幸に不参加はありえない。ただ行くことしか出来ない自分が不甲斐無かった。

 (考えても仕方がありませんわ。今はただ状況を注意深く観察するしかありませんもの。それも1週間の間は出来ませんが、今出来ることはすべてしました。大丈夫よ。わたくしなら何があっても何とかして見せますわ!)

 決意を新たに、ジュリアはカエラ達と共に馬車に乗り込み、後宮をあとにした。



 馬車に乗って驚いたことはエドワードとは同じ馬車ではなかったということ。てっきり当然のように同じ馬車に乗ってくると思っていたので、拍子抜けである。

 (もしや、本当に陛下はわたくしへの興味を失ってしまったのかしら。それならそれで結構ですけれど。むしろ、歓迎しますが。)

 そんな夢のような話だったらもろ手を挙げて喜ぶに違いないと、自分の中で確信する。

 「それで、目的地まではどのくらいかかりますの?」

 「2日半ほどです。」

 「2日半もですか。わたくしてっきり移動魔法使いの方でもお呼びになるかと思いましたのに。」

 移動魔法使いとは、風属性の魔法使いで、風を使って乗り物や馬のスピードを格段に上げることが出来る。もちろん自分自身を浮遊させることも出来る。個人個人の能力差にもよるが、移動魔法使いの力があれば1週間かかる距離も3日で付くと言われている。

 「それが、今回のように王宮の公式行事での移動は移動魔法を使ってはならないとなっているそうです。移動魔法は完全に安全とは言い切れませんし、これだけの人数を移動させるのに十分な人材もいませんし。」

 なるほど、とジュリアは納得した。だからこんなに長い日程になっているのかと。行きで2日半掛かり、1日かけて清めの儀式を行う。その後2日かけてセント・モリオール教会に行き(セント・モリオール教会は王宮や後宮よりもブレス山の近くにある)、翌日エリザベスの挙式があるというところだろう。

 (そもそもこんな大行列でいかなければ移動魔法も使えたでしょうに。これだから効率よりも見栄を重視する人種の方々は困りますわ。あ、勿論エリザベス様の事ではなく、その周りの方々の事ですが。)

 なんせメインのエリザベスとグレン、国王夫妻(仮)のエドワードとジュリアに対して馬車が50台にもなるのだから、とんだ交通妨害だ。

 (それにざっと警護の騎士と王宮魔法使いを見ましたが・・・本当にアレは精鋭達ですの?騎士なら圧倒的に蘭妃様の方が強そうですし、王宮魔法使いに至っては話になりませんわ。これ、もし大賢者様の遺産がなく、隣国と戦争になったり、魔族が本気で進行してきたら負けるのではないかしら・・。そういえば、魔族と言えば名ばかりの勇者、ライル様は今頃どうなさっているのかしら。確かわたくしがまだ婚約者だったころに聞いた話では、あの婚約破棄から2ヶ月後くらいに魔王が支配する常闇の国へ向けて出発する予定だったはず。色々あったにせよ、もう出発されていてもおかしくはない頃ですわね。)

 勇者と言っても同じ『光の魔力』の使い手なら今のエドワードの方が強いだろうし、『闇の魔力』を持つジュダルには足元にも及ばないだろう。もちろん、全属性を持つジュリアにも。むしろよくあれだけの実力で勇者が名乗れたなと、不思議に思うが、それだけ『光の魔力』がめずらしいということである。『闇の魔力』を持つ魔族に対抗できるのは『光の魔力』をもつ者だけなのだから。それも女であれば大概が癒しとか防御関係の魔法しか使えず、攻撃系の光魔法を使えるのは男だけと相場が決まっていた(ジュリアは規格外なので除外してほしい)。

 (あの程度の使い手ならきっと、入り口辺りで死ぬか、逃げ出していますわね。もうっ!わたくしが男であったなら喜んで変わりますのに。)

 性別を変えることだけは、ジュリアにもできないので、それは諦める。



 そうこうしている内に、日も暮れ、1日目に宿泊する宿に着いた。当たり前だが、冒険者とかが泊まるような薄汚れた宿ではなく、宿泊するには侯爵以上の身分と限定され、創りは貴族も顔負けの豪華さである。部屋数自体はあまり多くはないが、その1部屋1部屋が後宮の称号付きの側室の部屋くらいある。それぞれの部屋には露天風呂がついており、勿論すぐ隣に御付きの者が待機する小部屋まであるのだから、さすがのジュリアもびっくりである。

 「・・・なんという無駄なのかしら。」

 ぽそりと呟くその声は誰にも聞かれることはなかった。

 宿に入ると、上品な執事が出迎えた。特に身分などを確認することもなく(当たり前だが)ジュリア達を奥へと通した。

 「国王ご夫妻様は最上級の黄金の間へ、エリザベス内親王様とラージラス公爵様は銀の間へお通しさせて頂きます。」

 エドワードと同室、ということが分かり、さすがに表情には出さなかったが、内心ゲッとしたのを、少し離れたエリザベスが感じ取って、「申し訳ございません」と視線を送ってきた。ジュリアはそれに対し、「気になさらないで」と視線を返してそのまま執事に導かれるまま黄金の間へと向かって行った。

 だが、馬車から出て来た時も、宿に入ったときも、こうして案内されている瞬間でさえ、エドワードの姿がない。

 (そもそも、陛下は本当にこの行幸に参加していらっしゃるのかしら。どなたか陛下を見た方はいないか、探ってみるべきですわね。)

 さすがに不審に思ったジュリアはカエラに指示し、エドワードが今どこにいるか探ることにした。

 カエラが戻るまでの間は暇なので、後宮から持ち出した『薔薇日記』を読むことにした。以前から愛読しているこの本だが、中々の超大作で実は全部で10部作もあり、今はちょうど8本目を呼んでいるところである。

 とまあ、『薔薇日記』のことはさておき、2時間ほどたった頃、カエラが黄金の間へ戻ってきた。

 「それで、どうでしたか?陛下はどちらにいらっしゃるのかしら?」

 呼んでいた本を閉じ、カエラを向かいの椅子に座らせる。

 「それが・・・陛下は薔薇妃様達が宿へ入った後、1人馬車を降りられ、街の方へ姿を消した、とのことでした。」

 「まさか、お1人で?」

 「いいえ。1人だけ、陛下に付き添われた方がいらっしゃるようなんですが、ただ・・・。」

 煮え切らない様子のカエラに、ジュリアは視線で早く言うように催促した。

 「すみません。あの、周りにいた護衛の騎士たちによると、陛下は「護衛はこのもの1人で十分だ、私のことはいいから宿の警備に徹底してくれ、明け方までには戻る」と仰って、他の騎士の同行を許されなかったようなんですが、よくよく考えたら、陛下に付き添われた方なんですけど、王宮魔法使いの中にも、騎士団の中にも所属されていないらしく、誰もその者が何者なのか、知らないとのことでした。」

 ジュリアは1つの考えに思い当たり、ため息をついた。

 「もしかして、その付き添いの者というのは、黒ずくめではありませんでしたか?」

 ジュリアの問いにカエラは「えっ?」と驚き、すぐに「はい」と返事をした。

 「確かに騎士たちの話ではそのようでしたが、何故ご存じなのですか?」

 カエラの質問に答えることなく、ジュリアは頭を抱え込んだ。

 (どうしてあの2人がいっしょにいますの?!それもわたくしに内緒でこそこそと。絶対によくないことを企んでいるに違いありませんわ!)

 元々2人でジュリアを取り合っていたため、ジュリアはそれぞれに対し、対抗策を講じることが出来たが、これがあの百戦錬磨と名高いエドモンド・ローゼンタールの転生者とその相棒の最凶最悪の大賢者(最凶最悪は敵国の評価である)ジュダルがタッグを組んだとなれば、元々のポテンシャルは高いジュリアでもその経験値の差によって、手こずるどころか、負けてしまうだろう。

 (どうしたらいいの?ここはやっぱり何らかの理由をつけて、後宮へ戻るべきかしら。あそこなら一応ウインド達もいますし、何とかなるかもしれませんわ。・・・でも、エリザベス様を悲しませるようなことはしたくありませんし・・・・。それに、まだ2人の企みがわたくしに関することとは決まっていませんわ!・・十中八九わたくしのことでしょうけど。ああ!もう嫌ですわ!薔薇妃となってから上手くいかない事ばかり!あの魔法もまだ成功にたどり着いてはいませんし、わたくし、どうすれば・・・!)

 心の中で大パニック!爆発しそう!なジュリアだが、それをカエラ達に悟られるわけにもいかず、顔はニコニコマネキンのまま、頭は脳内会議で、大論争を繰り広げる、という器用な芸当を披露していた。

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