番外編 薔薇妃様は毒女?いいえ、すっごくピュアだと思います!!
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本当にありがとうございます‼
公約通り番外編を投稿しました。
時系列的に言うと少し戻って|庭のお茶会【ガーデンサロン】の日の夜になりますね。
文字数少な目の小話です。
おつまみ程度に楽しんで頂けたら幸いです
後宮のある一室。薄暗い部屋の中に5人の女たちが固まってひそひそと話している。
「今日も御出でになられましたね。」
「よっぽど薔薇妃様のことをお気に召しているのだわ。」
「たしかに、薔薇妃様は女の私から見てもとてもとてもお美しいと思いますけど。」
「違うわ、陛下が薔薇妃様にご執心なのはそれだけではないはず!」
「な、なんなの、それは?」
「それはね・・・。」
ここは薔薇妃の間にある女官達の待機する部屋。25平米くらいの広さがあるそこには、簡易的なキッチンと、女官が休むためのベッドが2つある。その向かい合うベッドに腰掛け、円になってひそひそ話を続けるのはカエラ・ユーリ・パメラ・ルカ・ミランダの5人だ。
女官の仕事をしなくてもいいのか?と思われるかもしれないが、優秀な彼女たちは明るいうちなそのほとんどの業務を終え、エドワードが訪れる夜になると、ほとんど主人から呼び出されることもないためこのようにちょくちょく5人で話に花を咲かせているのだ。
「で、それはなんなのか、早く言ってよ、カエラ。」
パメラがカエラを急かす。
「やっぱり、そのテクニックとかですかね。」
ミランダがもじもじと照れくさそうに言う。
「それも違うわ。」
きっぱり否定するカエラに「じゃあなんなのよ!」と我慢できない様子のパメラである。
「皆は知らないかと思うけど、薔薇妃様ああ見えて、・・。」
ごくりとカエラを除いた4人が唾を飲み込んだ。
「かなり、純粋でいらっしゃるのよ。」
「知ってるわ。」
「知っています。」
「知っていましたよ?」
「え?!そうなんですか?」
上から順に、パメラ、ユーリ、ルカ、ミランダである。
「なぁんだ、皆気づいていたのね。」
がっかりとため息をつくカエラ。
「ちょ、ちょっと、みなさん、待って・・・。」
「気づくなっていう方が無理よ。」
「そうですね、だって薔薇妃様、この手の話をするとすぐに耳を赤くしますもの。まぁ、顔はいつもの妖艶魔女のままですが。」
「ちょっと、ユーリさん。薔薇妃様に失礼ですよ!魔女だなんて・・。まぁ、でもあの見た目であの初心な感じはギャップ萌ですよね。」
うんうんと頷く4人。ミランダだけが置き去りになっている。
「あの、本当なんですか?薔薇妃様が初心で純粋なんて。私今まで薔薇妃様の恐ろしいところしか目にしていないので、信じられないのですが・・・。」
あの時の事を思い出すだけで身震いすると、ミランダは心の中で呟いた。
「ミランダ、よくよく注視していれば分かるはずよ?何を考えているのかまでは分からないけど、あの鉄壁の笑顔が仮面だってことは。意地悪い顔の時も、多分仮面ね。」
「そうですよね。だって薔薇妃様、この前庭のお茶会の招待状を魔法で作っている時、子供みたいな顔してましたよ?自分で自分の魔法を喜ぶなんて、ホント可愛らしい御方ですね。」
くすくすと笑うルカ。
「私なんて、この前薔薇妃様が窓際で読書をされていた時、飛んできた小鳥を餌付けしようとして逃げられて落ち込んでいるのを見たわ!思わず笑いそうになって一旦下がってこの部屋に避難したわ。1人でその後爆笑したけど。」
今でも笑えるのか、腹を抱えるパメラ。
「私は薔薇妃様があのぼろきれのような男服をこっそりきて、鏡の前でポージングしているのを目撃しました。・・かなりの衝撃でしたよ、あれは。」
見たくなかったものを見た、とユーリはげんなりしていた。
「そ、そういえば、今日の庭のお茶会の時、突き飛ばされたシャーロット様を庭から近い休憩室に連れて行って、医女に診てもらうようにって言われました。幸い彼女にも御子にも何も問題はなかったようですけど、そのことを報告したらすごくホッとされた顔をなさいました。御子を授かっているシャーロット様に対してあまりいい思いをされていないと思って今まで薔薇妃様の前でシャーロット様の話は出さないようにしていたんですけど、取り越し苦労だったみたいですね。」
そういえば、シャーロットの事を黙っていたことはジュリアに隠し事をしないという約束を反故にしたことになるのだろうかと、ミランダは不安になった。自分の元雇い主のことについてではないからセーフだろうかと悶々と考える。
「みなさん、甘いですね。激甘よ!私のエピソードはそんなもんじゃございません。」
満を持してカエラの登場である。
「なんなのよ、勿体ぶって。」
パメラがじろりとカエラを見た。パメラだけではなく、4人の視線全部がカエラに注がれている。
「いい?よく聞きなさいよ?私はね、陛下が初めて御渡りになった翌朝の、薔薇妃様を見てしまったの。」
「ふうん。それが何なのよ。陛下が御渡りになった後の薔薇妃様位、今では何回も見ているわ。」
パメラが言うと、ちっちっちっちと口元で人差し指を振るカエラ。
「私の勘だと、陛下と薔薇妃様が情をお交わしになったのは最初の日だけね。だって反応がまるで違うもの!」
「え?!そうなの?まぁ、さすがに毎日とは思わなかったけれど・・・。じゃぁ、その間夜通しで何をしていらっしゃるのかしら。それも2人っきりで。ただ寝ていただけなら陛下が帰られた後あんな風に死んだように眠ったりしないわよね。」
陛下が帰った後は、ゾンビのような顔をしていそいそとベッドにもぐるジュリアを度々目撃していたパメラは(もちろんパメラだけでなく皆がその目撃者なのだが)、夜通しジュリアが起きているのだろうということは分かっていた。その理由は分からないが。
「そんなことはどうでもいいのよ。考えたって仕方ないし。教えてもいただけないし。私が言いたいのはね、初めての日の翌朝の薔薇妃様のあのピュアな反応よ!」
「ど、どんな感じだったのですか?」
「知りたいでーす!」
女官達の中で最年少、同い年のミランダとルカがわくわくしている。
「それはね・・・。陛下が愛おしそうに薔薇妃様の手の甲に口づけをしただけで、薔薇妃様は真赤になって顔を背けられたのよ。それに陛下は薔薇妃様が初めてだって仰っていたわ。それならあの反応も納得だけど、本当にかわいらしかったのよ?」
カエラの話に皆がきゃーっと黄色い悲鳴を上げている。
「しーっ!聞こえちゃうでしょ。みんな静かにして!」
皆を鎮めてから扉からちょこっと顔を出して、外の様子を伺う。特に何も起きていないようなので、すぐに扉を閉め、再び輪に入ってホッとするカエラ。
「もう、こんなことを話しているのがバレたら叱られてしまうでしょ。」
4人はカエラに素直に謝った。
「それにしても薔薇妃様って、案外迂闊よね。多分あれ、天然よ。ばれてないって思っているのね。」
しみじみとパメラが言うと、カエラ・ユーリの年長組も頷いた。
「本当に何であのような振る舞いをなさっているのか分かりませんけど、私たちは薔薇妃様から本当の事が伺えるまで、あのピュアなハートを守るように努めましょう!」
ぐっと意気込んで立ち上がるユーリ。それに続くように皆が立ち上がり円陣を組んだ。
この日、『薔薇妃様を温かく見守る会』が出来たことを、変態1号2号と格闘していたジュリアは知る由もなかった。




