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第10話 後宮の秘密?暇つぶしにどんどん解明していきます。



 少し頭を冷やしたいから一人にしてくれと、そう言って部屋を出た主が中々戻らず、探しに行こうかと扉に手を掛けようとしたカエラはガチャリと音が鳴って開いた扉の先にいた人物を見て、ほっとした。

 「薔薇妃様、少しお戻りが遅すぎます!」

 「あら、良いじゃない。それにそんなに長くはかからなかったと思うのだけれども。」

 悪びれもせず無邪気に笑う主は、自分が持っていたイメージとは少し違うのではないかと、カエラは困惑していた。

 「薔薇妃様!そんなことよりも早くお話を伺いたいのですが!!」

 そう声がかかって初めてカエラはジュリアの後ろにいる人物に気づいた。

 「女官長様!!どうされたのです?」

 青い顔をしたマリアが荒い息を吐きながらジュリアを睨んでいる。

 「あぁ、忘れていましたわ。どうぞこちらへ。――――カエラ、お茶を用意して頂戴。」

 ジュリアはマリアを連れて寝室へ入っていった。

 何かあったのかしらと、不思議に思いつつもカエラは主に言われた通りにお茶を用意して寝室へ運んだ。



 

   ――――*――――*――――*――――*――――*――――*――――*――――



 「あれはどういうことですか!」

 カエラが退出するのを確認し、お茶には手を付けずマリアが厳しい表情でジュリアに詰め寄る。

 「あれ、とはなんのことかしら。」

 香りのよい紅茶を啜りながら楽しそうにしているジュリア。

 「とぼけないでくださいまし!何故、後宮の柱に施された魔法陣が全て発動しているのかと伺っているのです!」

 (あら、そちらの方のことでしたの。)

 訂正しておくが、ジュリアはマリアの最初の質問の答えを決してとぼけたわけではなかった。マリアが聞いている質問の意図が、()()()()を示しているか分からず、マリアの反応を伺っていたのだ。

 「そんなことを言われましても・・。わたくし、ほんのちょこっと柱に触れて魔力を流し込んだだけですのよ?別に何か起こそうと思ってしたわけではありませんわ。そう、好奇心です!ちょっと、どうなるのかなぁと思って好奇心でやってみただけですわ。」

 子供のいたずらのような理由を話すジュリアに呆れたのか、マリアはため息をつき、腰を落として椅子に座り込んだ。

 「ホンットに、当代薔薇妃様は規格外すぎます・・。」

 問題児に頭を悩ます教師のような気持ちになり、マリアは無性にむなしくなった。

 「それにしても、アレは綺麗な魔法でしたわね。皆様にお見せできなかったのが残念ですけど。ところで、マリア様は何故あの魔法陣が発動したことをご存知でしたの?」

 うっとりと先ほど起きたことを思い出しながら、ふと疑問が生じた。

 「ご側室方や女官達は知らない事ですが、女官長だけの秘密の部屋がありまして、実はそこには後宮のどれかの魔法陣が作動すると光が灯る水晶がいくつもあるんです。作動した魔法陣に対して1つの水晶があって、あぁ、先日の薔薇妃の間の時も1つの水晶が赤く光りました。それから気を付けてみるようにはしていたんですけど・・・。」

 再びはぁーっと深いため息をつくと、恨みがましい視線をジュリアに向ける。

 「まさか、あんなにたくさんの水晶が一気に光り出すなんて、思いませんでしたよ。一体、どうしたらあんな芸当ができるんです?!」

 マリアの御叱りを受け、ジュリアは少しまずかったかなーと小さくなった。



 ジュリアがアイリスの元を去った後、せっかく1人なのだからと気になっていた柱に描かれていた呪文の解明をしようと意気揚々と柱の方へ向かって行った。

 

 「わたくしの勘だと、これもあの扉と同じ、魔力を注ぐことで発動する魔法陣のはず。」

 青色に描かれた文字を前に腕組みをして呟く。

 「うーん、あの扉の魔法陣の効果を思うと、あまり手出しし内容がいいとは思うのですけれど・・。でも、やっぱり気になりますわ!」

 少し怖気づきもしたが、ここで躊躇えば冒険者たる資格を失ってしまうわ!とばかりに決意を新たに柱の文字に手を当てた。

 「『汝、求めるのならば与えよ。さすれば叶わん。』―――えぇ、与えましょう。私の魔力を!」

 ジュリアは文字を当てている手に『水』の魔力を込めた。

 すると扉の時と同様、ジュリアがふれたところから青い光が文字をなぞり、やがてまぶしい光が全てを覆うと、そこから青い光がはじけ飛んだ。

 『やぁ。当代薔薇妃。めずらしいね、薔薇妃が僕を解放するなんて。』

 光から幼い声が発せられた。

 「あ・・あなたは、妖精ですの?」

 光をようく目を凝らしてみると、そこには耳の尖った青い大きな目の小さい小鳥くらいの少年が青い光を纏って飛んでいた。背中には透き通る羽がある。

 『そうだよ。僕は水の妖精さ。それもこの、ローゼンタール王国を守護する一族のね。』

 誇らしげに話す妖精は愉しそうにくるくるとジュリアの周りを飛び回っている。

 「へぇ。すごいわ。それなら他の柱もきっと・・。」

 楽しくなってきたジュリアは他の色で文字が描かれている柱に次々触れていき、それぞれの色に見合った属性の魔力を込めていった。柱はあっという間にそれぞれの文字の色の光に包まれ、水の妖精の時と同様にその柱からそれぞれの色の光が飛び出してきた。

 『うわぁ!すごいや!この時代の薔薇妃は4属性も持っているの?!』

 1人でくるくる飛んでいた水の妖精は飛び出してきた他の光を見て、顔を綻ばせていた。

 『やぁ、アクア!何年振りだろうね!』

 少し、ずんぐりむっくりな見た目の茶色い髪の妖精はおそらく土の妖精。

 『本当に、まさか我らが一堂に会する日が再び来るなんて・・。』

 薄い黄緑色の長い髪をした中性的な妖精は多分風の妖精。

 『あぁ、驚いたよ。それもそれぞれの称号付き側室が協力したわけではなく、薔薇妃だけで我らを解放するとは。』

 燃えるような短い髪に男らしい体つきの妖精は、火の妖精に違いない。

 因みに全員手のひらサイズである。

 「妖精の皆様、お初にお目にかかりますわ。わたくし、薔薇妃のジュリアと申します。こんな素敵な方たちと出会えて幸せですわ。」

 妖精は滅多に人に姿を見せない。勿論ジュリアも彼らにあったことがない。冒険者を夢見るジュリアにとって妖精の存在とは夢物語に出てくる幻の存在であり、まさか後宮で彼らに遭遇するなんて夢にも思っていなかった。

 『うわぁぁ、すっごい綺麗な人だねぇ、今回の薔薇妃って。あ、僕ストーン。よろしくねぇ』

 ジュリアの目の前でプカプカ浮いているのは土の妖精。

 『このように我らがそろう機会を作って下さり、ありがとうございます。私はウィンドです。よろしくお願いいたします。』

 ストーンの後ろで丁寧に挨拶をしたのは風の妖精。

 『ちょっと待て。薔薇妃と言えば俺だろ?俺の見た所、この薔薇妃、扉に認められているようだし。俺、フレイム。薔薇妃と俺は切っても切れない縁になると思うぜ?』

 2人の前にずいっと出て来たのが火の妖精。

 『そして僕がアクア!キミと出会った最初の妖精だよ!つまりキミの初体験は僕さ!』

 きゃっきゃと笑いながら3人の周りをくるくる回っているのが水の妖精。

 「そう、みなさん、これからよろしくお願いしますわ。」

 ジュリアがこころからの笑顔を見せると、妖精たちは気分を良くしたのか、4人でこそこそ話し合って、

アクアが『僕たちから薔薇妃にプレゼントだよ!』と言うと、4人とも天高く飛び上がり、やがてそれは大きな光となって弾けた。 

 「まぁっ!なんてきれいなの!」

 頭上から色とりどりの光の粒がひらひらと花びらのように舞い散り、幻想的な光景を創り出していた。

 そしてどこからともなく4人の妖精たちが再び姿を現すと、

 『私たちは常に薔薇妃の側にいます。御用があれば口に出しても、心の中でも構いませんので、お呼びください。姿を現しますので。まぁ、用がなくても突然姿を現してしまうかもしれませんがそれは・・。』

 ウインドの説明に続くように4人が揃ってジュリアの顔の前に浮かび、

 『『『『妖精だから』』』』と声を揃えて笑った。

 4人の笑顔につられて「えぇ、勿論、承知しました。」とクスクス笑ってしまった。

 

 『あぁ、それと・・・。』

 そろそろ部屋に戻らなければとジュリアが帰ろうとすると、既に姿を消した3人とは別にウインドだけがジュリアのもとに飛んできて、少し真面目な顔をした。 

 『我ら妖精はこの後宮に存在するすべてのエレメントに干渉できます。だから後宮のすべてを把握することが出来るのです。』

 まるで死角なし、音声付の防犯カメラのような存在にジュリアは喜びを覚えた。

 『ですので、薔薇妃様に1つ忠告しておきますが。』

 ずいずいっとジュリアの顔面に近づいてくる。

 『くれぐれも、【大賢者の罠】には気を付けてくださいね』

 とだけ話し、ウインドも他の3人と同様に姿を消していった。


アクセス数がどんどん伸びて、ブックマーク数も700件を超え、ありがたいことにご感想まで頂いて、めちゃくちゃ喜んでいます。


さて、やっと出てきました!人外!妖精!そして最後の分かりやすいフラグ!速攻で回収しにいきますよ!

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