プロローグ
――――「ブラスター侯爵令嬢、ジュリア・ローゼン・ブラスター!!貴様の悪行もこれまでだ!!我が正義をもって貴様を断罪する!!」
その日、きらびやかな貴族たちの社交の場で、不釣り合いの怒号が響いた。怒号の主の男は後ろに可憐な少女をかばいながら、目の前の女、ジュリア・ローゼン・ブラスターを憎々しく睨みつけた。
シンと場が静まり、誰しもが固唾をのんで事のなりゆきを見つめている。
(そうよ、それでいいのよ!!いいかんじよ!!ガンガンいっちゃって!ライル!)
内心ほくそ笑みながら、しかしそれを一切表情に出さず、自分を睨みつける男に侮蔑のまなざしを送るのは、まさかのジュリア・ローゼン・ブラスター本人である。
本人が何故かわくわくと胸を躍らせているとは露ほども知らぬ男は腰に携えた剣を抜き、その切っ先をジュリアの喉元に突き付ける。
(あ、あら?この流れはもしかして・もしかすると・・わたくし・・・)
先ほどとは打って変わってわくわくしていた胸はドクドクと大きな音を立てて脈打っている。
「この期に及んでもその傲慢な振る舞い。もはや反省する気がないと見える。貴様が行ってきた数々の所業は万死に値する!!近衛兵よ!ただちにこやつを捕え、処刑せよ!!!」
突然の断罪の言葉に、静まり返っていた会場もやがてざわざわと騒ぎ始めた。
(まずいわ。わたくし、やりすぎてしまったようですわね・・。まさかここまで憎まれてしまうとは・・・。でも、ここで死ぬわけにはいきませんわ!!だって、わたくしにはまだ生きなければいけない理由があるんですもの!そうよ、こんなところで終わっては毒女たるわたくしの名が廃りますわ!!)
一瞬動揺を瞳に走らせてしまったジュリアだが、すぐに持ち直し、きらびやかな扇で口元を多い、目を細めて目の前の男を嘲ろうとした。―――――が、その時。
「おや?なんだかおもしろいことになっているようだね」
突如その場に響いた場違いのような軽やかな美声。誰しもが、何故、どうしてこの場にと言わんばかりの視線を声の主に送る。
(な、何故、あの御方がっっ??!)
それはジュリアにとっても例外ではなかった。