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86 転機

 ばん、誰かがテーブルを叩いた。

「いや、やっぱりそんなの承服できないよ。秀吉様が三年以内に死ななければならないなんて。そんなんじゃ、納得行かないわ。もう一度過去の改変に挑むべきだわ!」


「調査班、加藤よ。次元跳躍機の準備して!大至急よ」

 茶阿さんが、カエル柄のスーツでまくし立てている。


「落ち着け、茶阿。お主の気持ちはうれしい。だが、次に歴史改変に挑んでこれ以上良くなる保証があるのか?お主は、それに人類の未来を賭けろと言うのか?」

 秀吉さんは、茶阿の肩を抱いて頭をぽんぽん撫ぜている。


「そんなの、可笑しいじゃないですか。秀吉様は、いままで日本ひのもとのいえ、地球の未来のために苦しい戦いをしてきたじゃありませんか。その報いが、これではあんまりです。酷すぎます!」

 ふふ、嬉しいのう。ここまで愛されておるのか。


「茶阿よ、この老いぼれのために泣いてくれるのか。優しい娘じゃ。だが、既にワシは一度死んでしもうた身。それをあれから、四百年以上も永らえておる。十分だと思わぬか?それに、お主も報告会で立派に務めを果たしこう告げたではないか。秀吉は後二年半のうちに死なねばならぬ宿命じゃと」


 嫌よ、愛する人をこんなシミュレーションとか計算だとかで死なせるもんですか。

「なら、もう一度過去に戻って、それがだめならシミュレーションで秀吉様が死なずとも良い未来を探してみましょう。まだ、二年半も残っていますよ、我々には時間があります!」


 必死に食い下がる茶阿に、秀吉さんは優しい目で許した。

「ならば、気の済むまでシミュレーションの使用許可を与える。だが、結果がどうなろうと気をしっかり持つと、約束できるか茶阿?」

「ええ、必ずより良い未来をこの手に!」

 茶阿は握り締めた拳を突き上げた。


 しかし、妙だな。なぜ、あんなに仲が良かったティーガーがテスタの死について一言も触れないんだ?

「ティーガー、無理しなくてもいいぞ。悲しい時は泣いたっていいんだぞ」

「マスタ、どうしたの?それは秀吉様が二〇二〇年までに死なねばならないと言ってもあの方は二度目の人生を既に四百年以上過ごし、日本の代表として輝かしい実績も名声も勝ち得たから悲しむ必要なんか、論理的にあり得ない」


「いや、そうじゃなくて。秀吉さんのことじゃなく。巨人三成に殺られたテスタのことだよ」

「マスタ、誰のことを言ってるの?また新しい女、でもテスタなんて聞いたこともないけど」

 義眼を光らせて不審そうに俺を見つめた。


 え?俺は訳が分からなくなって丁度通りかかった玲子ちゃんに聞いてみた。

「玲子ちゃん、テスタのことは残念だったなあ。俺がもう少し三成の企みに気づいていたら」

「えーと、ジョージ君。誰のことを言っているの?テスタって、調査メンバーのことかな?私と面識ある人なの?」

 西城斎酒ゆきは幽霊でも見てるような怪訝そうな顔でいた。

「いや、悪い。勘違いかな。ちょっと、ネコを探してくる」

「ああ、ネコさんのところなら私も行くわ」


「な、なんで?なぜ、毎回西軍が勝つのよ?もう、百回もシミュレーションを繰り返したけどその悉くが西軍の勝利って、どんだけ家康弱いのよ!」

 茶阿がパネルを力なく叩いた。


「ふう、徳川の末裔としては不甲斐ないわね。それだけ、秀吉さんの力が突出しているのね。ネコさん、いるかしら?」


「斎酒、それにマスタお揃いで。関ヶ原はどうやっても西軍が勝ってしまう、無理ゲーのようですね。唯一、今回マスタがやってのけた戦いは無かった、単なる演習に過ぎないが真に唯一の西軍が勝たない結果ですね。巷じゃ、こういうのはクソゲーなんでしょうね」 ネコが俺の足首に頭わ擦り付けながら言った。


「ところで、ネコ。テスタのことは覚えているか?」

「いいえ、マスタ。それは、調査用のプログラムのことですか?それともベータテストを専門にやるチーム?」


「それより、マスタ。今回の時間旅行では、どんな裏技を使ったんですか?何回シミュレートしても東軍の本陣は壊滅、徳川戦死で西軍勝利になってしまうんですが?」


「ああ、それは小林〇だよ、トレッキーで検索して見な」

 そうか、あの時。関ヶ原での奇跡は、テスタが命懸けで次元干渉を書き換えていたんだな。自分の存在をかき消してまで。


「あ、なんかジョージ君が優しい目してる。好きよその表情」

 斎酒は、ライバルの死にも手を緩めず己をアピールしていた。



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