80 流転
太閤秀吉の説得は、難航を極めることだろう。それは、そうだろう。死して尚、我が子可愛さに時空転移を成し遂げるその妄執は如何ばかりか?
普通の親なら、絶対俺の説得を聞き入れることはないだろう。
もし、このまま秀吉さんが関ヶ原の戦いに介入せず東軍勝利となっていればそのすぐ先には我が子秀頼の死と豊臣家の滅亡であることは時間を遡った秀吉さんには痛いほどわかっているはずだ。
だが、俺にはあの人との約束がある。ここで、俺が引くことはそう遠くない未来の人類滅亡計画にサインするのと同じことだからだ。
「佐吉は、良い家臣であった。わしの我がままに付き合わせてしもうた。この秀吉、もはや運から見放されておうというのか?」
秀吉は、肩を落とし自ら首を切り落とした三成の亡骸を見つめ続けた。
「大事なもんを失くしたのは、何も太閤さんあんただけじゃないんだぜ。それになあ、人には持って生まれた星って奴がある。それを幾つも入れ替えるなんて、あんた何様だ!」
「お主には、解らぬ。我が子秀頼を愛する親の心を理解するには若過ぎるじゃろう」
俺は、ぶん殴ってやろうと拳に力を込めた。
「じゃがな、お主の周りにいる女子達を大事にせいよ。この時代、美しい女子は皆不幸になる。それは、力ある者が美しい女子に惹かれ恋い焦がれ、奪い合うからじゃ。お市様も、不幸せに成ってしもうた」
俺は、握った拳を振り下ろせなくなった。
「まあ、あんたなりにやって来たんだろうな。だが、このままじゃ一人、二人が不幸になる所じゃないんだぞ!」
俺は、分からず屋をぶん殴る代わりにマントのポケットから一枚のカードを取り出した。ある人から貰った真黒なカードだ。俺は、わずかに魔力をカードに通わせると秀吉さんに見せた。
「こっ、これは。お主、これをどこで手に入れたのじゃ?このような、途方もないものを一体どうやって?」
「だから、さっきからある人の言伝を伝えに来たと言っただろう。このカードも、そのある人に貰ったんだよ。俺は、このカードで『勝手御免』を許されている。この日本でな」
俺の手に握られたカードは、魔力を通すことによって、文字が現れる。『御免』の文字が真黒なカードに浮かび上がるのだ。
「ま、まさか?お主にその勝手御免の免状を許した者とは?だが、そんなはずはあるまい。わしの気持ちを一番理解しているはずの男が。わしの邪魔をするはずがあるまい!」
「やっと、意識をそこに持って来れるようになったか。そのとおり、俺にこの勝手御免を許した男は外ならぬ、あんただよ、秀吉さん!」
やはりそうかという顔と、半身半疑な表情が数秒おきに入れ替わる。
あと、少しか?
「じゃあ、心して聞きなよ。あの人の言葉を。あの人というのは、あんたも気づいた通り、太閤秀吉。そう、あんただよ。ただし、四00年程未来の秀吉さんからだけどな」
「なんじゃと?しかし、そのような不思議なカードはそうそうあるものではあるまい。ならば聞くしかあるまい。未来の太閤秀吉の寝言、聞かせて貰おうか?」
俺は、できる限り秀吉さんがソフ・トランディングできる様ように簡単に、ことの顛末を説明した。
「なるほど、我が未来の秀吉は、大層な戦利品を幾つも蓄えているのか。そして、我が関ヶ原の戦いに勝てば、四百年後の我ら日本の民が、絶滅の憂き目に逢うのじゃな!」
「そのとおりだ。だから、家康は生してこの戦いは無かったことにしよう」
俺は、さりげなくこれからの方針を提案してみた。




