77 邂逅
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ば、化け物め!
本田忠勝は、恐怖した。大砲すらものともとしない巨人石田三成に、己が凌駕されると本能的に理解していた。だが、しかし、それでも大恩ある徳川家康を守る為には震える膝を強靭な意志の力で抑え込み槍を持って前へ、恐怖を撒き散らす巨人三成を目指して。
福島正則は、狂喜した。目の前の奇跡に。
「おお、殿が、太閤様が再び我らの元に姿を見せてくだされた。」
思わず、馬上から降りて主君に向けて礼をとる。
「おお、正則か?おみゃあにも、苦労かけるのう。この石頭のボンクラは名前のとおりで悪気はないのじゃ。のう、共に秀頼を助けてはくれぬか?」
「はい、殿の為なら」
「承知してくれるか、では兵を退き道を開けい!」
小早川秀秋は、呆れてしまった。知将で知られた石田三成が、今や日本一の荒武者として東軍を無双していた。
「秀吉の爺いめ、このような隠し球を持っているとは。大した歌舞伎ぷりよ。愉快じゃ、余りに面白うてな、涙が溢れておるは」
太閤様が、秀吉様が蘇られた。
三成が鬼のような戦働き、何を世迷いごとを。
「注進、福島正則、西軍に寝返りました」
「ご注進、藤堂高虎、寝返りました」
「殿、このままでは危のうございます。お逃げくだされ!」
「何を言う。戦はこれから。鉄砲隊で蹴散らせ!」
ターン、ターン!
西軍に向けられた鉄砲の弾はことごとく巨人三成が弾いてしまった。
「三成、そろそろ潮時じゃ。合体を解き本来の姿に戻るのじゃ」
「殿、それは出来ませぬ。此度の騒乱の原因である内府を葬らねば後に禍根を残すことになります。それにもう少し、暴れたい気分で血が収まりませぬ」
「左様か、なら好きにせい」
言うが早いか、秀吉は背丈五メートルはあろう巨人三成の左手に持つ輿から音もなく飛び降りた。
「余りに、無茶はするなよ。今は東軍でも明日からは豊臣のいや、日本の侍じゃ」
秀吉は、一人戦場を眺めていた。遠くで、巨人三成が東軍を蹴散らし、その後を東軍から寝返った豊臣恩顧の武将たちを取り込み膨れ上がった西軍が、東軍を押し包み殲滅して行く。
まるで、夢、幻のような不思議な光景だ。
「わしは、何をしておるのかのう。そこの者は如何に思うか?」
「流石は秀吉さんだ、俺の隠形を見破るとは」
「そちではない。その女子の麗しい香りが気付かせたのじゃ。おお、美しいのう名は何という。わしの側室に為らぬか?」
おい、おい。戦場でナンパとか流石筋金入りの女たらしだな。
斎酒が俺の背後から姿を表す、艶やかな長い黒髪の上にちょこんと三角帽子を乗せて、黒いマントは抜群のスタイルを強調していた。
「はい、西条斎酒と申します。太閤様にあらされましてはご健勝で何よりでございます。こちらの者は私のダーリンのジョージです」
「堅苦しい挨拶はいらぬが、ジョージとやら斎酒はお主の女か?」
「そうだ。俺は在る人に頼まれて秀吉さん、あんたを止めに来た」
「そうか、しかし美しいのう。おしいのう。そうじゃ、ジョージとやら十万石で召し抱えよう。どうじゃ、その女子を譲らぬか?」
俺は、握りこぶしに力を込めた。
「断る」
「ならば五十万石。うーむ百万石出そう、百万石じゃぞ!」
「くどい、断る」
「ふぉっほぉ。百万石でも惜しいと申すか、この女子が」
「ああ」
「気に入った、お主ジョージとか言うたの。わしの家来になれ、褒美も如何様にも。そうじゃの二百万石でどうじゃ?」
「だが、それも、断る。」
ああ、ジョージ君がそこまで私のことを大事に。
うぬー。此奴、まさか馬鹿なのか、金勘定もできぬ。いや、流石にそれは無いじゃろう。ならば、なぜ?
「ところで、お主はわしに何の用じゃ?」