76 渦
2017.6.26 誤字修正 石田光成 → 石田三成 多数(指摘者 人工知能)
巨人光秀 → 巨人三成 二回(指摘者 人工知能)
なぜ?
石田三成は自問自答していた。自分が人望が無いのは心得ていた。特に福島正則等の武断派に好かれているとは到底思っていなかった。
だが、しかし、それでも俺は正しい!
「なぜ、皆解ってくれぬのだ。このままでは内府にいい様にされるだけだ。信長様が斬り開き太閤様が整えた太平の世が、彼の者に蹂躙されるのが、なぜ。解らぬのじゃ!」
「殿、島左近殿負傷のため本陣そばまで撤退。福島勢は勢いにのって攻めかけております。また、小早川勢の裏切りにより大谷勢壊滅。采配を如何に?」
石田三成は、握りしめた拳を震わすと叫んだ。
「おのれ、金吾め。臆病風を吹かせて松尾山に引き籠ったかた思わせて裏切りに牙を向けるとは。太閤様の恩を忘れたか。なんたる、不忠者よ!」
「ええい、ここは討って出る。槍を持て、馬を引け!」
近習どもが狼狽えるなか、突然俄かに、辺りが暗くなると急な雨が降り出した。
どがーん、稲光と轟音が耳を封じる。誰の目も雷光にしばしその視力を奪われた。
「ほっほお。三成、そんなに怒ると脳の血管がこと切れるぞ」
「おお、あなた様は。これは夢か?それともいつの間にか討ち取られたのか。ここにあなた様がおられるはずが・・・」
年老いた手が三成の頭をぽんと叩く。
「おお、殿。太閤様ぁ!」
「お主の力、借りるぞ。三成!」
「ははぁ」
秀吉の後ろに控えていた料理人が一礼すると、石田三成に近付いた。
「お主は、その恰好は?」
秀吉の後ろから現れたのは、アトワーレ家の料理長サブライ石田三成であった。
「ふふ、この時のためにお主の力を分けて、この地に隠していたのじゃ。今こそ、三成。完全な力を揮え、日本のためぞ!」
三成は、輿を左手に持ち長大な槍を振り回して周りいる東軍の兵を蹴散らしていった。輿には、瓢箪の旗刺し物が掲げられており中には誰か乗っているようだ。
輿を軽々と片手に持つ三成の背丈は5メートルを超えておりまさしく巨人となって東軍に襲い掛かる。
なんじゃ。さきほどまで戦況を余裕の表情で眺めていた家康は、遠眼鏡を落とした。
「これは、大変なことになってしもうた。どうしたものか、あの化け物に。おお、大砲があった。早う、大筒の用意じゃ。早うせねば、総崩れとなるぞ!」
巨人三成が福島勢を巨大な槍で蹂躙している頃、大谷勢を破った小早川秀秋はしばし、兵を休め戦況を見渡していた。
「く、なんだあの巨人は。聞いてないぞ!」
「それに、あの輿に乗っかってるのは秀吉の爺じゃないのか?なら、この戦どうあがいても西軍の勝しかありえねえ。く、くそがー」
どががーん、大砲の砲声が轟く。弾は狙い過たず巨人三成の頭へ向かっていく。だが、カーン。大砲の弾は巨人三成の槍によってはじき返された。
「しかたねえ、爺さんに頭下げに行くか」
「如何なさいますか。ジョージ君?」
「はあ、なんで。こうも意表をついて来るかね、あの秀吉さんは。もう、こうなったら作戦の練り直しだ。どうせ、この戦。西軍の勝利は確定だしな。だが、癪だからティーガー、一発あのデカブツに対戦車砲をぶち込んでやれ!」
「愛さー、マスター」
徹甲弾が巨人三成に襲い掛かるが、右手で払うと何事もなく本田勢に槍を振り回していた。
巨人光成と左手の輿を中心に東軍、西軍の軍勢が巨大な渦の様相を呈していた。
ジョージは、肩をすくめると戦場を後にした。